素晴らしき我が友! モッコウバラの思い出

植物の中でも一際華やかで、魅力的な品種が多いバラの開花シーズンはもうすぐ。バラの中でも、いち早く開花するキモッコウバラは、「長年一緒に過ごしてきた友のような存在」と語るのは、神奈川の自宅の庭で25年以上ガーデニングを楽しむベテランガーデナーの遠藤昭さん。モッコウバラとの出合いから、開花シーズンの思い出を振り返りながら、人生を共にできるバラを愛でる楽しさを教えていただきます。
目次
丈夫で長持ちのバラ、モッコウバラ

毎年、ゴールデンウィーク頃に見頃を迎え、バラなのに棘がなく、常緑の葉を持つのがモッコウバラ。小さな八重の花が重なり合うように咲く姿は豪華でもあり可憐でもある。
一般にバラというと、病害虫とか「育てるのが難しい」というイメージだが、このモッコウバラは育てやすく、丈夫で長持ちなので、ガーデニング初心者にもぴったりだ。
育て方については、園芸研究家の矢澤秀成さんが監修する『モッコウバラの育て方。コツとお手入れ、植え替えや寄せ植えを一挙紹介します』で、完璧なレポートがまとまっているので、ここでは、モッコウバラとの長い付き合いで感じた魅力についてレポートします。
四半世紀を共にしたモッコウバラ

僕はかれこれ、ガーデニングを25年近く趣味として自宅で楽しみ、そして10年間はプロとして親しんできたが、最も付き合いの長い植物の一つがモッコウバラだ。改めて振り返ってみると、モッコウバラとは25年近く付き合ったことになる。そして、必ず年に一度は花を咲かせ、僕を幸せな気分にして元気付けてくれた。25年間も毎年一度は会う友人なんて、なかなかいないもの。ちょうどモッコウバラの季節なので、友人以上に親しい関係の我が家のモッコウバラの思い出を綴ってみたいと思う。
モッコウバラとの運命の出合い!

僕が、初めてモッコウバラと出合った日のことは、今でも鮮明に覚えている。今の住まいへ1995年のゴールデンウィークに引っ越してきて、その直後の「母の日」に、近所の園芸店にカーネーションを見に行った。その時、開花中の可憐で小さな黄色い八重咲きの花をいっぱい咲かせている鉢植えに目が行った。当時の僕は、まだガーデニング初心者だったし、モッコウバラも今ほど一般的ではなかった。僕はその花を初めて見たし、それがキモッコウバラであることも、その時、初めて知った。

店の主人が、「このバラは棘がなく、常緑で、これからの庭づくりには最適で、これから必ず人気が出る、“モダンな植物”」であることを熱く説明してくれた。母の日のプレゼントにはカーネーションよりも「コレだ!」と直感した。これなら毎年咲いてくれるので、毎年、プレゼントを買わなくてすむではないか! 大体毎年、母の日に買ったカーネーションの鉢植えはすぐに枯れてしまうことを、その時、すでに学習していたのだ。そして迷わず、僕はカーネーションの代わりに、このキモッコウバラを連れ帰ったのである。あの時、買った後も、店主は「花が終わったら骨粉などをお礼肥に与え、剪定も一般のバラとは異なる時期で、花後にするとよい」と教えてくれた。
持ち帰ったモッコウバラの鉢植えを、開花中は部屋の中で楽しんだが、花後に地植えにした。それからすくすく育ち、隣家との壁際にアーチを立てて絡ませた。
モッコウバラが咲く思い出写真

今、写真が残っているのは、鉢植えを買ってから10年経過した2005年からである。ちょうど、僕がガーデニングにのめり込み始めた頃である。その後、10年くらいは、モッコウバラの咲く風景が楽しみで、毎年、4月下旬から5月上旬にかけて、たくさんの写真を撮った。今回、そんな思い出の写真の中でも、最も「思い出に浸ってしまう」写真が、愛犬メルだ。

愛犬メルは、もう10年以上も前に星になってしまったが、モッコウバラのカチューシャを乗せた写真は、今でもピアノの上に飾ってある。花が美しいのは、思い出があるからだといわれるが、モッコウバラを見ると、愛犬メルを思い出すのだ。

愛犬は歴代何匹かいるのだが、メルは最も僕を慕ってくれて、元気のいい犬だった。毎朝、クタクタになるほど一緒に走ったことも思い出す。

古いデジタルカメラなので、写真はイマイチだが、これが10年目のモッコウバラだ。だいぶ大きく成長しているが、奥にはまだ、隣家との境にあるフェンスが見える。
雑誌に掲載された、お気に入りの一枚

これは僕が撮った、モッコウバラが映る代表的な写真だ。2007年の景色だが、手前にブルー系のロベリアの鉢を並べ、左横にホスタ‘寒河江’の大鉢をアクセントに置いてみた。じつはこの写真は、翌2008年のNHKテキスト『趣味の園芸』5月号「モッコウバラ特集」に掲載されたもの。右に咲くピンクの花は、オーストラリア原産のピティロディア‘フェアリーピンク’だ。

もう13年も前の写真だが、こうして改めて見ると、当時流行のコニファー‘ゴールドクレスト’があったりして、思わず笑ってしまう。
年々大きくなり庭の景色が変わる

2008年になると、支柱だけでは支えきれなくなり、枝を絡ませるためにフェンスを設置したことが分かる。前年まであったベンチは移動し、大鉢が登場。年ごとに大分、雰囲気が変わるものだ。

さらに1年が経過し、株のボリュームが出てきた。花数も増えて存在感が増してきた。

2009年にはジャスミンの花も寄り添い咲いて、かなりジャングル状態に。庭は足の踏み場もないほどに鉢がいっぱい。

2010年は暑い年で、4月18日には早くもつぼみが膨らんでいた。こんなつぼみのモッコウバラも可愛い。
栽培15年が経ち、生育は衰えず見事に開花

2011年には溢れんばかりのボリューム。モッコウバラも16年目ともなると豪華だ。

我が家は公道から3mほど高台にあるのだが、道行く人たちからも、「見事ですね~」と褒められる。

2012年になり、この年は純白の牡丹とのツーショットが残っていた。モッコウバラと牡丹は毎年、ほぼ同じ時期に開花する。大輪の牡丹と小花をたくさん咲かせるモッコウバラは対照的で、こんな写真の構図は、お互いを引き立てる。この年は、なかなかの圧巻だ。

お隣さんも開花中はきれいな景色の出現に喜んでくれていたが、花後は汚いので、すぐに剪定をするように心がけていた。地植えにして15年以上、毎年、よく伸びてかなり暴れるようになったので、花後は思い切ってバッサリ切り詰めていた。
モッコウバラから後継者へバトンタッチ

2013年は、とても忙しい年だった。
植物園の相談員をやりながら、自営の庭づくりの仕事も手がけ、まさしく「紺屋の白袴」状態で、自分の庭は荒れ放題?

それにしても、1年前に、あれほど切り詰めたのに、こんなにボリュームいっぱい! そろそろ、狭い我が家で育てるのには限界を感じ始めた。

写真の記録は、なんと2014年の、少々荒れた姿が最後になった。その後、2~3年は、何とか世話をしたのだが、とうとう一昨年には形も乱れ、手に負えなくなり、伐採して新しいバラを植えた。
モッコウバラが教えてくれたこと
振り返ってみると、かれこれ25年近くモッコウバラと人生を共にしたことになる。あの1995年の母の日に一目惚れした時は、まさかこんなに長い付き合いになるとは思っていなかった。

最後に、以前モッコウバラが植わっていた場所の直近の様子です。地中にはモッコウバラの根が残っているため、同じ場所にはバラを植えることができなかった。なので、少し位置を左にずらして、妻が好きな最近人気の‘ブラン・ピエール・ド・ロンサール’を植えた。

間もなく開花して、モッコウバラとはまた異なった美しい景色を作り出してくれることだろう。そしてまた、新しい未来が繰り広げられるはずだ。

僕にとって、庭の思い出は、決してモッコウバラに限らない。我が家のさまざまな植物それぞれに長い思い出がある。結局は、「庭は人生を映すものだな」と、この歳にして感じている。明日の自分はどうなるか判らないけれど、出来ることは、今日という日を大切に生きること。花たちは、力いっぱい愛でてあげると、必ず、僕らにエネルギーと明るい未来を与えてくれる。25年間、人生を共に歩んだモッコウバラが、教えてくれたことだ。
Credit
写真&文/遠藤 昭
「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー。
30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)。
ブログ「Alex’s Garden Party」http://blog.livedoor.jp/alexgarden/
新着記事
-
ガーデン&ショップ
都立公園を新たな花の魅力で彩る「第3回 東京パークガーデンアワード」都立砧公園 【1月の様子】
新しい発想を生かした花壇デザインを競うコンテストとして注目されている「東京パークガーデンアワード」。第3回コンテストが、都立砧公園(東京都世田谷区)を舞台に、いよいよスタートしました。2024年12月には、…
-
宿根草・多年草
豪華に咲く!人気の宿根草「ラナンキュラス・ラックス」2025年おすすめ品種ベスト5選PR
春の訪れを告げる植物の中でも、近年ガーデンに欠かせない花としてファンが急増中の「ラナンキュラス・ラックス」。咲き進むにつれさまざまな表情を見せてくれて、一度育てると誰しもが虜になる魅力的な花ですが、…
-
アレンジ
【春の花】ヒヤシンスはスッと垂直に活けるのがおすすめ! スクエアガラスのベースにスタイリッシュにアレ…
春の訪れを感じさせてくれる花といえば、チューリップやヒヤシンス(ヒアシンス)などの球根花! 本格的な春の到来はまだ少し先の話でも、フラワーショップには一足先にカラフルな春の花が並んでいます。明るいブル…