精油(エッセンシャルオイル)の価格は同じ種類、同じ容量であっても、大きな開きがある場合があります。もちろん、栽培方法や産地などによる違いもありますが、ラベンダーの場合、少し気をつけておきたいことがあります。価格の違いは何なのか、分かりやすく解説しましょう。

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ラベンダーの主要な系統とは?

ラベンダー畑
aniana/Shutterstock.com

安眠やリラックスなどの効果があることで人気のラベンダーオイル。愛用している方も少なくないと思いますが、日常的に使うならちょっとでも価格の安いものを、と思いがちです。実際、ネットなどで調べてみると、同じラベンダーのオイルでも、かなり価格に違いがあります。私は北海道のラベンダーオイルを愛用していますが、試しにネットで価格の安いものを買ってみたところ、その中身が「ラバンジン」であることが分かり、なるほど、とその安さに合点がいきました。ラバンジンもラベンダーの一種ですので、そのオイルをラベンダーオイルといっても間違いではありません。けれども、ラベンダーとラバンジンの間には、かなりの違いがあります。どこがどう違うのか?

まずは、ラベンダーには以下の3つの主要な系統があることを覚えておきましょう。

(1)トゥルー・ラベンダー

トゥルー・ラベンダー
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トゥルー・ラベンダーは学名「ラヴァンデュラ・アングスティフォリア」、または「ラバンデュラ・オフィキナリス」。アングスティフォリアとはラテン語で「小さな葉の」という意味、オフィキナリスとは「薬用の」という意味です。英名は「トゥルー・ラベンダー」、仏名は「ラバンド・ヴレ」。いずれも「本当のラベンダー」という意味です。この系統は、数あるラベンダーのエッセンシャルオイルの中でも最もよい香りとされ、現在でも香水や化粧品の重要な原料の一つとなっています。

また、「オフィキナリス」という学名が示すように、かつては薬用としても珍重されました。トゥルー・ラベンダーのエッセンシャルオイルに強い抗菌力と抗ウイルス性の働きがあることは、今日では医学的にも確かめられています。アロマテラピーに使用されるのも、このオイルです。

(2)スパイク・ラベンダー

スパイク・ラベンダー
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スパイク・ラベンダーは、学名「ラヴァンデュラ・スピカ」、または「ラヴァンデュラ・ラティフォリア」。ラティフォリアとはラテン語で「大きな葉の」という意味で、草姿がトゥルー・ラベンダーとは異なることを示しています。

花穂はトゥルー・ラベンダーよりも長く、主枝の下方に2本の小さな花茎ができ、その先端にも花穂をつけるのが特徴。

スパイク・ラベンダーのエッセンシャルオイルは、カンファー(樟脳)のような臭いが強く、しかもアルコールにも溶けにくいため、香水や化粧品には利用できません。従って、栽培もオイルの生産も行われていません。

(3)ラバンジン

ラバンジン
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トゥルー・ラベンダーとスパイク・ラベンダーの自然交雑種が「ラバンジン」です。つまり、ミツバチなどがトゥルー・ラベンダーとスパイク・ラベンダーの花粉を花から花へと運んだことにより、自然に交雑が起きて誕生したハイブリッド種が「ラバンジン」なのです。従って、ラバンジンにはトゥルー・ラベンダーに近い性質を持つものや、スパイク・ラベンダーに近いもの、またその中間の性質を持つものなどがあります。

ラバンジンはスパイク・ラベンダーの性質を受け継いでいるため、どの種類も主枝の下方で分枝し、そこにも小さな花穂ができます。従って、その分枝があるかないかが、トゥルー・ラベンダーとラバンジンを見分けるときのポイントとなります。

ラベンダーは野生の植物だった!!

ラベンダー
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ラベンダーは、もともと野生の植物で、トゥルー・ラベンダーもスパイク・ラベンダーも、乾燥した冷涼な気候の高原や山岳丘陵地帯に自生していました。

フランスのある作家は、1920年代のアフガニスタンでラベンダーの大草原を見て感激したことを、晩年近くになって出版した自伝の中に記しています。

今から80年ほど前には、サハラ砂漠中央部のアハガール台地で「ラヴァンデュラ・コロノピフォリア」と「ラヴァンデュラ・アンテナーエ」という古いラベンダーの生き残りが発見されました。このことから、サハラが砂漠化する以前は北アフリカのほぼ全域が野生のラベンダーの大草原に覆われていたのではないかと推定している学者もいます。

自然交雑はどこで起きた?

トゥルー・ラベンダーは耐寒性が非常に強く、標高600m以上の場所で繁殖し、高い所では標高1,400m前後の高山地帯にも自生していました。一方、スパイク・ラベンダーは標高600m以下の丘陵地の南斜面などに自生していましたが、そこにも野生のトゥルー・ラベンダーが繁茂していました。そのため、ミツバチなどの活動によって交雑が起き、トゥルー・ラベンダーとスパイク・ラベンダーの性質を併せ持つハイブリッド種「ラバンジン」が誕生したのです。

ラバンジン「発見」!!

ラバンジン

ラベンダーの原産地の一つである南仏プロヴァンス地方では、農民たちが野生のラベンダーを刈り集め、エッセンシャルオイルを生産していましたが、彼らは野生種の中にひときわ大きなラベンダーがあることに早くから気がついていました。

人々はそれを「でっかいラベンダー」「太っちょラベンダー」などと呼び、さらにバゲットよりも短くて太いパン、バタールにちなんで「バタール・ラベンダー」とも呼んでいました。それがまさに「ラバンジン」だったのです。

ラバンジンの特徴とは?

ラバンジンはラベンダーよりも生育がはるかに旺盛で、非常な大株に育ちます。そして気象条件にも土壌の条件にも、強い適応力を持っています。また、大株になるためエッセンシャルオイルの収油量がきわめて多い(トゥルー・ラベンダーの10倍!)のも大きな特徴の一つです。また、トゥルーラベンダーにはほとんどない、カンファー(樟脳)臭が含まれており、少し刺激的でシャープな香りです。逆にトゥルー・ラベンダーの香りの主要な香気成分であるリナロールなどの含有量が少ないため、トゥルー・ラベンダーのオイルのような甘く強い芳香は持っていません。ラバンジンはハイブリッド種なので、花が咲いても種子をつくることができません。従って、繁殖は挿し木増殖によって行われています。

ラバンジンにはどんな種類があるの?

ラバンジンの主な種類は次の4つです。

ラバンジン
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(1)ラバンジン・アブリアル

エッセンシャルオイルの収油量が非常に多い品種。南仏プロヴァンス地方では1930年代から盛んに栽培されました。名称は、このラバンジンを品種として固定した農学者アブリアル教授にちなんでいます。

(2)ラバンジン・シュペール

トゥルー・ラベンダーに近い性質を持つ品種。プロヴァンス地方では一時は「アブリアル」をしのぐ勢いで栽培されましたが、現在は他のラバンジンに取って代わられ、エッセンシャルオイルの生産量も減少しています。

(3)ラバンジン・グロッソ

南仏プロヴァンス地方ヴォークリューズ県在住のグロッソ氏によって育種が行われ、品種として固定された種類。強健で、エッセンシャルオイルの収油量も多いため、プロヴァンス地方では1970年代半ばに劇的に栽培面積が増えました。現在、日本の宿根草専門店などで販売されているのも、ほとんどがこの「グロッソ」です。

(4)ラバンジン・オルディネール

ラバンジン栽培の初期に主流となっていた品種。オルディネールとは、フランス語で「普通の」「ありふれた」という意味です。日本でこのラバンジンを見かけることはまずありません。

気になるオイルのお値段は?

ラベンダーオイル
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トゥルー・ラベンダーは収油率が低いため、エッセンシャルオイルの価格はどうしても高くなります。現在は50ml入りボトル、4,000~5,000円といったところが平均的な価格でしょう。それに対し、ラバンジンは収油量が非常に多いので、エッセンシャルオイルはきわめて安価です。

ただし、前述したようにトゥルー・ラベンダーのオイルのような甘く爽やかな香りは期待できません。ラバンジンにはトゥルー・ラベンダーにはないカンファーという成分が含まれているため、リラクゼーションよりはリフレッシュというイメージで使うとよいでしょう。使い道に応じて、また2つを比較してみて好みのほうを選ぶとよいでしょう。

Credit

文/岡崎英生(文筆家・園芸家)
早稲田大学文学部フランス文学科卒業。編集者から漫画の原作者、文筆家へ。1996年より長野県松本市内四賀地区にあるクラインガルテン(滞在型市民農園)に通い、この地域に古くから伝わる有機栽培法を学びながら畑づくりを楽しむ。ラベンダーにも造詣が深く、著書に『芳香の大地 ラベンダーと北海道』(ラベンダークラブ刊)、訳書に『ラベンダーとラバンジン』(クリスティアーヌ・ムニエ著、フレグランスジャーナル社刊)など。

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