昨今流行中の「珍奇植物」の流れを受けて、俄然注目度が高まっている多肉植物の一種、アガベ。品種の選び方や植え場所などのコツを押さえれば、地域によってはローメンテで育てることもできます。ここでは、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんが選ぶ、日本の気候下でも育てやすいアガベのおすすめ品種を12種ご紹介します。
目次
庭植えでダイナミックに育ててみたい、耐寒性アガベ
おすすめ品種をご紹介
これまで、「概要編」、「コーディネート編」の2回に渡って解説してきた『庭でダイナミックオーナメンタルに育ててみたい耐寒性アガベ』シリーズ。今回は完結編! 日本の気候下(※)でも、庭植えで宿根草やオージープランツなどと組み合わせて楽しめるアガベの具体的な品種をご紹介します。
※本記事では、概ね関東平野部以南、冬季の最低気温-5℃程度を基準にしています。品種によって耐寒度や性質も異なりますが、総じて寒冷地や冬の降水量(降雪量)の多い地域での庭植えには不向きです。

アガベの地上部の大きさや成長スピードは、根を張れる土の量にも大きく関係してきます。鉢植えだと成長がとてもゆっくりだったり、ある程度の大きさでストップすることも多いですが、地植えされたアガベは、根付くとジワジワと成長し、日本の気候下でも本来の完成形の大きさまで成長します。
順調に生育すると、数年でかなり貫禄のあるボリュームになりますよ。

アガベは、樹木や人間のように時間をかけて漸進的に大きさを増していく長いライフサイクルのため、1年のサイクルで発芽・生育し、花が咲いて地上部が枯れる宿根草と比べて、「成長が激遅っ!」と敬遠される向きもあるかもしれません。
しかし、私たちも年末になると「1年なんてアッという間だな」と思いませんか? それと同じで、他の植物と並行してアガベを育てていると、数年なんて意外とアッという間に過ぎてしまいます。ふと気がつけば、小苗で植えたアガベが「もうこんなに大きくなってる!」と思えることでしょう。
栽培に気が遠くなるほどの年数はかかりません
苗から育てても楽しいですよ
今回ご紹介する品種の中でも、やや珍しいものに関しては、小さめの苗で少し流通がある程度か、あるいはちょっと大きく育った個体でもレアとしてとても高価になるものもあります。

ある程度見応えのある株に成長するまでの「数年」という生育期間を長いと見るか否か。そこは、個人の価値観に委ねられるところですが、園芸には「育てる楽しみ」もありますので、ぜひ、成長の過程も愛でながら、苗からの栽培にもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

開花まで数十年かかり、最後に盛大に咲いて枯れることから「センチュリープランツ」の異名も持つアガベではありますが、ある程度の大株に育てるのには100年どころか10年もかからないので、どうぞご安心を。
それでは、「ACID NATURE 乙庭」おすすめの、耐寒性アガベをご紹介します。
セレクト1
アガベ ‘シルバーサーファー’
1990年代、メキシコ、タマウリパス州の高地で採種された、アガベ・アメリカーナの亜種プロトアメリカーナ (Agave americana ssp. protoamericana) と、アガベ・アスペリマ (Agave asperrima)の交配種から選抜された美麗な品種です。

豪壮に育つ姿のカッコよさと、白灰水色のとても美しい葉色を兼ね備えた主役級の逸品。強健なアメリカーナ種(アオノリュウゼツラン)の血筋も受け継ぎ、耐寒性その他の性質も強く、成長も早めで育てやすいです。庭でシンボリックに使う大型種としておすすめです。
■ 学 名:Agave x protamericana ‘Silver Surfer’
■ 草 丈:1.5m(葉)~6m(花茎)程度
セレクト2
アガベ・アメリカーナ ‘マルギナータ’
昭和期から比較的普及しているアメリカーナ種のクリーム色がかった外覆輪品種です。

基本種のアメリカーナ同様に寒さにも強く、アガベの中では成長も早く育てやすい品種です。パウダリーな青緑地とクリームイエローの覆輪斑とのコントラストも美しく、アガベ特有のワイルドさの中にもエレガントさや装飾性を感じさせます。

オーナメンタルな大型カラーリーフプランツとして存在感抜群! 庭の絶好のフォーカルポイントになります。
■ 学 名:Agave americana ‘Marginata’
■ 草 丈:1.2m(葉)~6m(花茎)程度
セレクト3
アガベ・フランゾシニィ
アガベの中でも特に白みが強いといわれているパウダリーな青白い葉と、葉だけでも草丈2m以上になるアーキテクチュラル(建築的)なダイナミックさが魅力の超大型種です。

まさに「庭でダイナミックに育ててみたい」アガベの代表格ともいえるでしょう。前出のアガベ ‘シルバーサーファー’ よりも葉が細長く、外側に反り返る傾向があります。
アメリカーナ種よりは若干耐寒性が弱く、関東北部くらいの寒さ(冬季最低気温-5℃程度)だと葉先が少し傷んだりします。温暖地でスペースのある庭向けの種です。
■ 学 名:Agave franzosinii
■ 草 丈:2.5m(葉)~6m(花茎)程度
セレクト4
アガベ・サルミアナ・フェロックス ‘グリーンゴブレット’
幅広で深緑色の葉、そして豪快な草姿が特徴的な大型種、アガベ・サルミアナの変種フェロックスの、よりコンパクトで姿が美しくまとまりやすい品種です。

フェロックスは草丈2m近くになる大型種で、生育も旺盛なため、地植えとなるとぐんぐん大きく育ってかなり場所を取りますが、本種 ‘グリーンゴブレット’ は、その矮性種で大きくなりすぎないため、個人邸の庭でも導入しやすいでしょう。

上写真は、基本種のフェロックス。最終的に直径3m超えにもなり、大きく育ちすぎて、広い庭でないと持て余してしまう大物です。
一方、矮性種の ‘グリーンゴブレット’ は、ほどよい大きさで仕上がりつつ、深緑の葉色や、成長するにつれて葉先が上~やや内巻きになって、横から見るとゴブレット(聖杯)状に見える特有の草姿など、フェロックスの観賞価値をとてもよい形で受け継いでいます。
■ 学 名:Agave salmiana var. ferox ‘Green Goblet’
■ 草 丈:1m(葉)~5m(花茎)程度
セレクト5
アガベ・パリィ・トルンカータ
とても白みの強い灰水色の葉色、ずんぐりと丸みを帯びた草姿が美しい、アガベ・パリィの中でも特に人気の高い変種です。

アガベ・パリィは、日本でも昭和期から趣味家の間で愛好されてきました。パリィ種と一口にいってもいくつかの変種や品種がありますが、全体的に耐寒性も強く、丸みを帯びてキュッとまとまった姿から、アガベの入門種としても取り入れやすい種です。上写真手前の鮮やかな紅葉は、宿根草植栽にもしばしば取り入れられる小低木、スピラエア(=シモツケ)‘ゴールドフレーム’。この例のようにアガベの強健種と冬季落葉性のガーデニング素材を組み合わせてみるのも一興ですね。

本種トルンカータは、メキシコ、デュランゴ州の限られた地域を起源とする変種。パリィの中でも特に葉が広く短く、よりずんぐりと丸みを帯びたどっしりした草姿で、植栽の中でも素晴らしい存在感を発揮してくれます。
■ 学 名:Agave parryi var. truncata
■ 草 丈:60cm(葉)~4m(花茎)程度
セレクト6
アガベ・オバティフォリア
1980年代、メキシコ北東部のヌエボ・レオン州シエラ・ランパゾスからアメリカに持ち帰られた個体によって世に知られるようになり、2002年に命名された原種です。

20世紀末まで世界的には知られていなかった種なので、園芸史から見ると21世紀を感じさせるニュープランツといえますね。前出のパリィと共通して、とても白みの強い灰水色の美しい葉色を持ち、幅広く短い葉で、ずんぐりどっしりとした草姿を形成しますが、パリィよりも角張ったいかついシルエットで、パリィとはまた異なる存在感と観賞価値を発揮してくれます。

別名ホエールズタン(Whale’s tangue = クジラの舌)アガベとも呼ばれるように、成熟した株の葉の表面に現れる、なんとなく巨大な舌を連想させるようなゆるい縦皺も特徴的で、植栽の中でとてもよく目立ちます。耐寒性も強く育てやすい、アガベ入門者にも本格派の方にもおすすめの種です。
■ 学 名:Agave ovatifolia
■ 草 丈:60cm(葉)~5m(花茎)程度
セレクト7
アガベ ‘フアステカジャイアント’
前出のオバティフォリア種の系統を受け継ぐ、メキシコ北東部のヌエボ・レオン州フアステカ峡谷で発見された、完成時の草丈が1.5m程度に育つ大型種です。

世に知られるようになった2010年頃には、オバティフォリアの大型タイプと紹介されていましたが、今日では、オバティフォリアとジェントリィ(Agave gentryi)との交配種とする説が有力です。本種 ‘フアステカジャイアント’ は、オバティフォリアとは葉色が大きく異なり、複雑なニュアンスのある深い灰青緑色となります。世界的にも数が少なくレアな品種であるのはもちろんのこと、オバティフォリアの血を感じさせるずんぐりいかつい草姿で、高さ1.5mにまで成長する品種は他にはなく、その点においても差別化が図れるでしょう。新しく紹介された品種なので、一般の園芸家で大きく育て上げている人もまだまだ少なく、世界的に見ても栽培先駆者になれます。夢とロマンを感じさせる品種ですね。オバティフォリア同様、寒さにも強く育てやすいです。
■ 学 名:Agave ‘Huasteca Giant’
■ 草 丈:1.5m(葉)~5m(花茎)程度
セレクト8
アガベ・モンタナ
メキシコ北東部のタマウリパス州、ヌエボ・レオン州の標高2,600m以上の高地だけに自生が見られる原種です。

オバティフォリアと同様、比較的新しく知られるようになった種で、1996年に学名記載されました。パリィやオバティフォリアに近いずんぐりとしたボリューム感で、深い青緑~深緑を帯びた葉色、葉縁にベージュ~紫褐色のマージンが入り、鉤爪状の、いかつい棘が並びます。

やや高山性の性質があり、他のアガベと比較して耐寒性は強めですが、夏の高温多湿が少し苦手といわれています。とはいえ、夏の蒸し暑さに敏感な山野草ほどの気難しさではなく、水はけのよい土壌で栽培すれば、関東平野部の夏の酷暑も特に問題なく越せます。どちらかというと夏に涼しい地域向けと捉えておくとよいでしょう。
■ 学 名:Agave montana
■ 草 丈:1m(葉)~5m(花茎)程度
セレクト9
アガベ・パラサナ
メキシコ北部のコアウイラ州の標高1,500~2,400m程度の高地に自生する、比較的小型の原種です。

別名「キャベッジヘッドアガベ(Cabbage head Agave)」と呼ばれるように、立ち葉に近い形で葉が重なり、とても丸みのあるコンパクトなロゼットを形成します。葉はパウダリーな灰緑~灰水色となり、丸みを帯びた草姿とも相まって、とても美しい種です。生育が緩慢で仕上がりもコンパクトなことから、狭い庭やベランダガーデン、寄せ鉢植栽などの見どころとしてもよいでしょう。特に丸みの強い品種 ‘グローブ’ や、とても美しい外覆輪斑入品種 ‘インプレッショニスト’ など、園芸品種もいくつか紹介されています。

原種・園芸品種ともに流通量は少なく、やや手に入りにくい種の一つです。
■ 学 名:Agave parrasana
■ 草 丈:30-40cm(葉)~4m(花茎)程度
セレクト10
アガベ ‘屈原の舞扇’
灰水色の葉に、赤~赤褐色を帯びた鉤爪状の棘がよく目立つ、ちょっと毒々しく妖艶な雰囲気が魅力的な美麗品種です。

日本の多肉園芸趣味家の間で昭和期から知られる起源不詳の品種ですが、アメリカ南部のアリゾナ州やテキサス州周辺に多く見られるアガベ・パルメリの一種と見る説もあります。末広がりの赤棘は、葉を縁取るようにつながることもあり、美しいパウダーブルーの葉色と赤い棘とのコントラストで、独特の存在感を発揮します。

日本の栽培環境にも合って育てやすく、大きくなりすぎずサイズ感や流通価格もお手頃で、屋外栽培入門種としてもおすすめです。
■ 学 名:Agave ‘Kutsugen-no-Maiougi’
■ 草 丈:50cm(葉)~4m(花茎)程度
セレクト11
アガベ ‘シャークスキン’
深い青緑色の肉厚の葉で葉縁に棘がなく、「粘土を彫刻刀で削り出したよう」な彫塑的な葉姿となる個性的な品種です。

アガベ・ニッケルシアエ(Agave nickelsiae)とアガべ・アスペリマ(Agave asperrima)の自然交配種といわれています。非常に葉が肉厚なため、葉の裏側に、展開する前に外側に重なっていた葉の形状が残り、それが本種特有の削り出したような形状を作り出します。寒さにも強く、大きくなりすぎず育てやすい品種です。葉縁には棘はなく、葉先にのみ棘があります。

本種の外斑入り品種であるアガベ ‘シャークバイト’( Agave ‘Shark Bite’)も、より装飾的な植栽効果があり、面白いですよ。
■ 学 名:Agave ‘Sharkskin’
■ 草 丈:90cm(葉)~5m(花茎)程度
セレクト12
アガベ・ブラクテオサ
葉縁の棘がなく、アガベというよりも少しティランジアの仲間を思わせるような外巻きカール気味の葉姿が装飾的で、ちょっと異色な雰囲気を持つ小型原種です。

メキシコ北東部のコアウィア州やヌエボレオン州辺りを原産とし、現地では崖岩の隙間などに着生するように自生しています。最大でもロゼット径60cm程度とあまり大きくならず、葉縁の棘もないので、小さな庭やコンテナ植栽、人が近くを通るような場所にも安全で、導入しやすい種です。

明緑の葉色や細い外巻きカール気味の葉が他のアガベとは趣を異にし、むしろパイナップル科の植物のような、ちょっとトロピカルな雰囲気を漂わせます。鉢や花壇の際などに植えると、人工物の直線的な縁ラインを隠し、装飾的な植栽効果を発揮してくれます。

厳しい冬の寒さで葉先が傷むことがあります。耐寒性の強いパリィ種などに比べると若干耐寒性が劣るので、どちらかというと暖地向けの素材です。北風を避けられる南向きの暖かい場所、乾燥気味を保てる土壌で管理するとよいでしょう。
■ 学 名:Agave bracteosa
■ 草 丈:40cm(葉)~1.6m(花茎)程度

「近道を探そうとしないこと。
価値のあるよいことはみんな、時間も手間もかかるものです。」(ターシャ・テューダー 絵本作家・園芸家 1915 – 2008)
Credit
写真&文 / 太田敦雄 - 「ACID NATURE 乙庭」代表 -

おおた・あつお/園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。
NHK『趣味の園芸』講師。(一社)ジャパンガーデンデザイナーズ協会(JAG)正会員デザイナー。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「太田敦雄」公式ブログ https://note.com/acid_nature_0220
プロフィール写真/田中雅也
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