「南天のど飴」という咳止めでおなじみのナンテン(南天)。艶やかな赤い実が特徴で、お正月にも欠かせない花材ですが、南天の木は育てられるのかと疑問を抱く人も少なくないのではないでしょうか。じつは、ナンテンは古くから日本の庭木として人気があり、品種も多くあります。今回は、日本で広く愛されてきたナンテンの特徴や育て方、品種などについてご紹介しましょう。
目次
ナンテンはどんな花が咲くの?
ナンテンは日本人にとって馴染み深い存在。晩秋から初冬にかけて真っ赤な美しい実を付け、めでたい縁起物としてお正月にも欠かせない花材です。また名前の音が「難を転ずる」に通じることから縁起木として珍重され、江戸時代になると火災除けとしても植えられるようになり、さらに魔除けとしても多くの家に植えられるようになったそうです。
ところで、実の印象が強いナンテンですが、どんな花が咲くのかご存じでしょうか? ナンテンは、古くから日本で親しまれ、栽培されてきた樹木ということもあり、意外にも手がかからず、育てやすい植物です。今回は、ナンテンの花や開花時期、花言葉、特徴や育て方などについてご紹介します。
ナンテンの特徴
ナンテン(Nandina domestica)はメギ科の常緑低木で、中国や日本が原産です。自然界では3mほどにまで成長します。ナンテンという名前は漢名の「南天燭」または「南天竹」に由来し、日本では「南天」と呼ばれるようになりました。ナンテンが訛ってナビテンやナルテンなどと呼ばれることもあります。
ナンテンは、梅雨時から夏にかけて、黄色い花粉が目立つ小さな白い花を咲かせます。この花粉は昆虫により運ばれます。秋が深まるにつれて次第に紅葉する葉も美しく、冬になると、ナンテンの一番の特徴でもある真っ赤な実を付けます。
ナンテンの花言葉
ナンテンは、白い花を咲かせた後に赤い実を付けるため、時の移りにつれて愛情が高まっているように見えるということから、「私の愛は増すばかり」というロマンチックな花言葉を持っています。じつはナンテンには、赤い実だけでなく、白い実の種類もあり、それぞれの花言葉は次の通り。
・赤い実:幸せ・私の愛は増すばかり・よき家庭
・白い実:深すぎる愛・機知に富む・募る愛
どちらも素敵な意味の花言葉を持っていますね。
ちなみにナンテンは、英語では「sacred bamboo」や「heavenly bamboo」などと呼ばれます。西洋ではナンテンに、どこか神聖なイメージがあったのでしょうか?
ナンテンの開花時期や見頃
ナンテンの開花時期は、6~7月頃。しかし、一般的にナンテンは、開花した花を楽しむというよりも、赤い実や紅葉期の葉色の変化を楽しむため、見頃は、紅葉が美しい10月頃や、実を付ける11~2月頃とされています。ナンテンの実は、生け花や切り花としてお正月飾りにもよく用いられているので、冬になると店頭でもよく見かけますね。
ナンテンの実や葉にはどのような特徴があるのか
さて、私たちの暮らしにも馴染み深いナンテンですが、その実や葉の意外な効用をご存じでしょうか? ここでは、ナンテンの実は食べられるのか、葉や実にはどのような特徴があるのかなどについてご紹介します。
ナンテンの実は毒性があるため安易に口にすると危険
ナンテンの実は野鳥の好物で、鳥が食べている姿を見かけることもありますが、じつは微量ですが有毒成分が含まれており、人間が安易に実や葉を口にすると危険です。ナンテンの実の有毒成分は、アルカロイド系のドメスチンやナンテニンなど。大量に摂取すると知覚や運動神経の麻痺などを起こす可能性がありますので、口にしないよう注意しましょう。一方、ナンテンの葉の部分は、アルカロイドのナンジニンが含まれ、大脳や呼吸中枢の興奮、後に麻痺などを起こす可能性があります。
ナンテンの実は咳止めなどの薬としても
ナンテンの実には咳止めの効果があります。ナンテニン(o-メチルドメスチシン)を多く含むナンテンの実は、「南天実」という名で、古来より鎮咳の生薬として知られていました。のどの調子が悪いときに、「南天のど飴」を口にしたことがある方も多いのではないでしょうか。ナンテンの実に含まれるナンテニンには以下のような効果があります。
【南天の実に含まれるナンテニンの効果】
・気管平滑筋を拡張し、咳を鎮める
・咳中枢の興奮を抑え、咳を鎮める
・殺菌作用により、菌による気道の炎症を抑える
・鎮痛作用により、のどの痛みを和らげる
ナンテンの葉には殺菌や防腐効果がある
先述の通り、ナンテンの葉には、じつは殺菌や防腐効果があります。葉に含まれるアルカロイドのナンジニンは、有毒成分でもありますが、葉に含まれる量はごく微量のため、殺菌や腐食防止に効果があるのです。ナンテンの葉をお弁当などに入れると、彩りを添えるだけではなく、その殺菌や防腐効果を活用することができます。赤飯などの上にナンテンの葉を乗せることも多いのは、こんな理由もあったんですね。ただし、口にはしないように注意しましょう。
ナンテンの育て方
ナンテンは日本でも古くから栽培されていたように、日本の気候風土に適した、栽培しやすい樹木です。育てる際の適切な栽培環境を選んでやれば、ほとんど手をかけなくても育ってくれます。ここでは、ナンテンの栽培に適した環境や、水やり、肥料、害虫対策など、ナンテンの育て方の基本をご紹介します。
ナンテンの栽培環境
ナンテンを栽培する際には、午前中の光が当たるような半日陰の場所を選ぶとよいでしょう。強い西日の当たる場所は嫌います。半日陰を好み、耐陰性もありますが、あまり日当たりが悪いと実付きが悪くなります。花は咲くのに実が付かないな、と思ったら、日当たりが悪くないかを今一度確認してみましょう。
土質は特に選びませんが、通気性や水はけがよく、適度な湿度を保つ土を好みます。
ナンテンの水やりや肥料
ナンテンを庭植えにした場合、基本的に水やりは必要ありません。夏場に何日も乾燥が続くようであれば水をやりましょう。鉢植えの場合は、表面の土が乾いたらたっぷりと水をやります。夏場は水切れに注意しましょう。
肥料はさほど必要としませんが、花付きや実付きをよくするためには、冬に鶏ふんなどの有機質肥料と、緩効性の化成肥料を混合したものを施すとよいでしょう。鉢植えの場合は、植え替え時にカリやリン酸を多めに含む肥料を用土に混ぜておきます。
ナンテンの病気と害虫
ナンテンは丈夫で育てやすい樹木で、病害虫の被害を心配する必要はほとんどありません。発症しやすい病気には、モザイク病、葉枯病、すす病などがあります。モザイク病は、葉が縮れてモザイク状になるもの、すす病は、カイガラムシにともなって発生します。
ナンテンにつく害虫としては、カイガラムシやハマキムシなどが一般的です。初夏から秋にかけてはカイガラムシが発生することがあります。ハマキムシは、成葉に発生するが被害は少ないので、あまり気にしなくてもよいでしょう。
ナンテンの実が付かない時は
ナンテンを育てたら、やはり真っ赤な実を楽しみたいもの。ナンテンの実が付かないなと思ったら、次のような点を確認してみましょう。
・日当たり
先述の通り、ナンテンは日当たりが悪いと実付きが悪くなることがあります。栽培している場所に光が十分に当たっているか確認してみましょう。
・雨
ナンテンの花が咲く6~7月頃はちょうど梅雨時で、雨が多い時期に当たります。雨が直接当たる場所に植えてあると、花粉が流されるために受粉しにくくなり、実付きが悪くなることがあります。軒下など、直接雨の当たらない場所で管理するか、どうしても実付きをよくしたい場合は、雨の日はビニール袋を掛けるなどして雨避けするとよいでしょう。
・剪定時期
受粉した花を剪定してしまった場合、当然ながら実は付きません。ナンテンの花が咲く6~7月頃から実が付く冬にかけては剪定を避け、実を楽しんだ後の2~3月頃に剪定すると、せっかくの花を落としてしまうことを避けられます。また、一度実を付けたナンテンの枝は、その後3年は実を付けないといわれるので、剪定を兼ねて実のなった枝は収穫してしまうのもいいですね。新梢にも花を付けないので、切り戻しをする際は、すべての枝を切り戻してしまわないようにするとよいでしょう。ただし、強剪定して小さくする場合は、長い枝を残さないようにして、すべての枝を同じように切り詰めます。
・受粉木
ナンテンは1株でも実を付けますが、近くに異なる品種のナンテンを植えると、より実付きがよくなります。1本だけ育てているけれど実が付かないという方は、もう1本違う種類のナンテンを近くに植えてみるのもいいですね。また、花粉を媒介する昆虫が十分に生息していないために、受粉が行われず実が付かないこともあります。その場合は、殺虫剤の使用をやめて虫を呼ぶようにするのも一つの方法です。
・生育状況
ナンテンの生育がよすぎると、かえって実付きが悪くなることがあります。生育は旺盛で花も咲くけれど実が付かないという人は、肥料を控えてみるとよいかもしれません。
ナンテンの植え付け方法と増やし方
さて、ナンテンを育てるには、苗を購入して栽培をスタートするのが一般的です。ナンテンの植え付け方法と増やし方についてご紹介します。
植え付け方法
ナンテンの植え付け適期は3~4月頃。通気性や水はけがよく、適度な湿度を保つ土に植え付けます。庭植えにする際には、事前に腐葉土などの有機物を土によく混ぜておくとよいでしょう。鉢植えの場合は、苗よりも一回り大きい鉢に、鉢底石、土、苗の順番に植え付けます。植え付けが完了したら、水をたっぷり与えましょう。鉢植えは、2~3年に1回の割合で植え替えをするとよいでしょう。
増やし方
ナンテンを増やしたいときには、次のような方法があります。
・種まき:植物の増やし方として一般的な種まき。ナンテンの場合は、乾かすと発芽率が下がるため、晩秋にタネをとって皮をむき、すぐに播くとよいでしょう。
・挿し木:挿し穂と呼ばれる枝を切り取り、それを土に根付かせて新しい株を作る挿し木。挿し木をする場合は、3月の中~下旬、または9月下旬頃に枝を取り、肥料分を含まない清潔な用土に挿して発根を待ちましょう。切り口に発根剤を塗ってもよいでしょう。
珍しい品種の場合は、接ぎ木をして増やしておくのも一つの方法です。
ナンテンの品種は?
ナンテンといえば、赤い実を付けるものがイメージされますが、じつはいくつもの品種があります。主に縁起物として、園芸用の品種が長年にわたって改良されてきました。その結果、多くの種類が作られ、現在では30種類以上の南天が楽しまれています。ちなみに日本や中国を原産地とするナンテンは、1712年にケンペルによってヨーロッパにも紹介されています。欧米でもガーデン素材として利用されることもあり、野生化してしまった株が赤い実をたわわに実らせているのを目にすることもあります。
代表的なナンテンの品種
数多くあるナンテンの品種の中から、代表的なものについていくつかご紹介しましょう。
・キンシナンテン(錦糸南天):一般的なナンテンに比べ、葉が糸のように細いのが特徴。成長が遅く樹高も低い。
・シロナンテン(白南天):シロミ(白実)ナンテンとも。果実は熟しても赤くならず、また葉も紅葉しない。やや黄色を帯びた白色の品種。
・オタフクナンテン(お多福南天):樹高が低くグラウンドカバーに利用されることが多い。矮性のナンテンはほとんど花や実は付かないが、四季によって紅葉する葉が特徴。とても丈夫で枯れにくい。
・イカダナンテン(筏南天):葉柄が組み合わさって、筏(いかだ)のように見える。
・オリヅルナンテン(折鶴南天):通常の南天よりも真っ赤に紅葉する。柄が曲がったり、葉がよれたりする珍しい品種。葉が密集し、まるで折り鶴のように見えるため、折鶴南天と名付けられた。
・フジナンテン(藤南天):黄色の実を付ける品種で、実が熟れると薄紫色になる。
縁起がよくて育てやすいナンテンは初心者にもおすすめ!
ナンテンは昔からある庭木で、食用にこそなりませんが、縁起がよい木といわれたり、魔除けになったりと、とても有益な植物とされてきました。また、咳止めや殺菌効果も持ち、のど飴などに利用されています。日本の気候風土にも合っているため育てやすく、ガーデニング初心者にもおすすめです。鉢植えでも栽培することができるので、一株育てていると、お正月の飾りにも使えて便利ですね。
今回ご紹介したナンテン以外にも、育てやすくて魅力的な花木はたくさんあります。これからも、ガーデニングについての情報を、ぜひ「Garden Story」でチェックしてみてくださいね。
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Credit
写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
参考:
「常磐薬品 南天のど飴」https://nodoame.jp/index.htm
「みんなの趣味の園芸」https://www.shuminoengei.jp
『園芸Q&A 庭木・花木・果樹 346のトラブル解決法』(妻鹿加年雄・重田利夫著、家の光協会刊)
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