庭でダイナミックオーナメンタルに育ててみたい耐寒性アガベ コーディネート編
昨今流行中の「珍奇植物」の流れを受けて、俄然注目度が高まっている多肉植物の一種、アガベ。選び方や植え場所などのコツを押さえれば、地域によってはローメンテでアガベを育てることができます。ここでは、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんが、本当に知りたいアガベのコーディネートのコツを解説します。
目次
庭植えでダイナミックに育ててみたい耐寒性アガベ。コーディネートのコツ
前回記事「概要編」に引き続き、今回は、アガベを庭植えする際のコーディネートについて解説します。
大きく育ったアガベは、とてもダイナミックでオーナメンタル(装飾的)、そしてどっしりと硬質な形状もあいまって、アーキテクチュラル(建築的)な魅力も漂わせます。
建築物の前に植わっていても、その建物にも引けを取らないシンボルツリーのような存在感を発揮してくれます。
樹木に代わる植栽の新たなシンボリックプランツとして、アガベにも積極的に挑戦してみたいですよね。
ここでは、過去の実例なども含めて「乙庭流」のアガベ植栽のコーディネートのポイントやその考え方などをご紹介します。
結論からいうと、以下で述べるコーディネート論は「あなたらしいコーディネートができればそれが一番」ということで、そのまま使える手引き書のような内容ではないかもしれません。しかし、アガベだけでなく植栽全般にも応用できる植栽コーディネート思考法ですし、最終的に自他共に心満たされる植栽が行き着くところは「オリジナル」の境地です。なので、本記事でも独創性を表現するという観点から自論を述べたいと思います。遠回りなようでいて、これが一番最短で効果的な方法でしょう。
ここに挙げる実例などを手がかりや参考にしていただき、自由な発想・創意工夫に溢れた、アガベのある庭づくりの一助となれば幸いです。
Point0
「他人のコピーを目指さない」着地点はオリジナルの境地を目指しましょう
たとえば、雑誌の真似をして選んだ服装で街を歩いていて、コーディネート丸カブりの人と出くわしたりすると、ちょっと気マズいですよね。
それと一緒で、たとえ見た目がカッコいい植栽でも、実は他所のお庭と内容が丸カブりだったりすると、結構、気恥ずかしいものです。
手がかりやヒントとして、いろいろな実例や資料を参照することは、その植物を知るためにとても大切なことです。しかし、あくまでそれは「情報素材でしかない」と認識しましょう。素材をいかに料理するかが腕の見せ所なのですから。最初はある程度、上級者を真似てみるのも成長への道ですが、どこかしらに自分らしい味付けを施すことで、植栽がより「自分のもの」になると思いませんか?
もちろん私も、自分と植物の好みが近い国内外の園芸家のSNSサイトや数々の洋書などから大いに刺激を受けて自身の植栽を考える手がかりにしたりしますが、決して最終着地点は人真似にならないように心がけています。
参考にしていた植栽と同じようなものができると、なんとなく安心はできますが、見る人が見れば「〇〇さんの真似だな」「あの本に載っていたな」と分かってしまいます。それではあまり嬉しくないですよね。
植栽は、植える者の価値観やメッセージを自由に反映できるもの。一人ひとりの人格や人生が異なるように、それぞれの植栽も違って当然なのです。
上写真は、ケルシス(=アメリカハナズオウ )‘フォレストパンジー’ や スピラエア(=シモツケ)‘ゴールドフレーム’ など、カラーリーフ落葉樹の鮮やかな新緑や宿根草の植栽の中で異彩を放つアガベ・パリィ・トルンカータ(Agave parry ssp. trunncata)。このような植栽はカラーリーフプランツも宿根草も多肉植物も分け隔てなく自由に庭に植えてきた、私らしく・私にしかできない発想だと思います。
というわけで、コーディネート成功のコツ以前のコツは、「他人のコピーを目指さない」こと。
組み合わせた植物同士が居心地よく育つように、植え場所に配慮すること以外は、植物のコーディネートに絶対のルールはありません。
同じ食材を同じレシピで調理してしまうと、オリジナルの域には入れません。それは単なる「コピー」です。真面目な人ほど、お手本を忠実に再現しようとしてしまう傾向があるのですが、植栽に関していうと、「忠実な再現 ≒ パクリ」なので注意が必要です。同じ素材を使っても、オリジナルの味付けや工夫を加えて、最終的には自分らしい植栽になることを目標にしましょう。
Point1
コレクション展示みたいにならないように。ボキャブラリー豊富な植栽を心がける
海外からの輸入者も増え、近年では、以前は入手困難だったレア種のアガベもいろいろ手に入るようになりました。アガベの珍しい原種や、葉や棘に芸のある品種など、各種それぞれ特徴があり、どれもワイルドでカッコいいので、いったんアガベの魅力に取り憑かれてしまうと、あれもこれもと買い集めてコレクターになってしまいがちです。
しかし、アガベや、アガベと似た雰囲気のユッカばかりを庭に植えても、見本展示会のようになってしまいます。植栽的に見ると、多様性や意外な発見が少なく、ボキャブラリーにも乏しく、よい風景にはなりにくいのです。
スイーツビュッフェでケーキを存分に食べて「もうしばらくケーキはいいや」と食傷してしまうのと同じで、同種の植物をこれでもかと見せられると、一つ一つの違いを味わう集中力も低下してしまいます。
また、コレクターズアイテムは皆が同様に揃えてくるので、構成メンバーはどんぐりの背比べになりやすいですし、アガベに詳しくない人が見れば「似たようなのがいっぱい植わってる」ということにもなりかねません。
上写真はサボテンのコレクションの例です。それぞれ種類やタイプが違って、コレクションとしての価値はあるとしても、植栽として見た場合、この在り方はエキストラがいっぱいいるような状態で、ドラマチックな展開はないですよね。
たとえば料理も、コースや懐石スタイルの和食でいただくと、展開やバラエティがありつつ、料理人の世界観で一品ごとに役割が与えられていて飽きませんよね。確立された味覚観賞のもてなし・作法といえるでしょう。
上写真では、スタイリッシュな住宅に、割栗石を荒々しく敷き詰め、巨大に成長するアガベ・サルミアナ・フェロックス(Agave salmiana var. ferox) やジャノメマツ、グラスなどを点々と植え、 少ない要素でも、さまざまな植栽ボキャブラリーとドラマチックな展開、空間性を感じさせる植栽風景を作っています。ちなみに、大きな砂利に見立てたワイルドな割栗石敷きのスタイルは私が2012年から使ってきた手法なのですが、最近ではいろんなところで見かけるようになってしまいましたね。
植栽として庭植えでアガベを魅せる場合も、コレクション自慢で終始しないよう、少しだけ「観る者側の視点」を意識してみるとよいでしょう。植物を植える予定の場所に置いてから、いったん引いて第三者の視点で見てみるだけでも、自分の植栽を客観視できますよ。
Point2
植栽で差をつける。アガベが「何とともにあるか」をコーディネートする
では、コレクション植栽にならないようにするためには「具体的にどうすればいいの?」という話に進みます。植栽は植物の組み合わせでできているものなので、「何が」あるかと同時に、「何と」「どんな並びで」あるかが決め手になってきます。差が付くのはここなんですね。
前述のように、アガベ好き同士であれば、アガベがカブるのは必定。「アガベ以外に何があるか」にフォーカスして独創性を発揮することで差別化が図りやすくなります。
上写真はアガベ ‘シルバーサーファー’とジャノメマツ、リューカデンドロンを試作コーディネートしたもの。これなら意図的に真似されない限り、カブる可能性はほぼ皆無でしょう!
組み合わせる植物の選び方ですが、極論してしまえば、「アガベ以外で自分が好きな植物」、且つ「アガベと生育環境が合う植物」を、できる限り自由な発想で組み合わせるのがよいでしょう。
例えば、私の場合、アガベとマンフレダの交配種であるマンガべは、2000年あたりの発表当初から個人輸入し続けているくらい、自分にとって思い入れの深い植物です。そして、園芸家としてはカラーリーフプランツ、セミトロピカルな植物、オーナメンタルグラスを好んで扱ってきました。そんな「人となり」を表現するため、アガベとマンガべをセットで使って「自分の流儀」を示し、そこにカラフルだったり熱帯的な葉、グラスの柔らかい線などを加えて植栽を構成することが多いです。
より戦略的にいうなら、「他の人がアガベと合わせていない植物」を選んでいけば、その組み合わせの「オリジネーター」になれます。2番手以降ではなく、1番! 誇れることですよね。
独創的な発想で植栽できれば、その時点で唯一無二の植栽になりますし、人の真似や流行に流されず「自分らしさ」を全うする果敢さと行動力自体が、すでにカッコいいのです。そして、趣味ですから、ひたすら自分が素直に楽しいと思える道を行くのが正解でしょう。
もし仮に、でき上がった植栽を「正直カッコよくない」と思ったなら、他人に見せたりSNSに投稿しなければよいだけの話。少しずつでも気に入るように調整を加えて、自分が思い描く理想形に近づけていけばいいのです。趣味の庭植栽で失敗したって、所詮は「小さなこと」じゃないですか?
不完全なこの世界の中で完璧を求めすぎることのほうが前進の妨げになります。人真似で保守するよりも、実験者・開拓者であるほうが、人生エキサイティングでしょう。
Point3
文脈とバランスにも配慮して、深みと洗練を
そして、より確信的に植栽に「深み」や「洗練」を与える場合、キーワードになってくるのが「文脈」と「バランス」。言い換えるなら「ストーリー」と「見た目」ですね
植物の組み合わせから何かしらのストーリーが読み取れれば、言葉でのコミュニケーションのように意思が伝わりますよね。観る者にとっても、植栽の見た目だけでなく「ストーリー」が読み取れれば、よりうれしいものです。
上写真は、アガベ・パリィ・トルンカータに、トロピカル感漂うエンセテ・マウレリーやニューサイラン、そしてコンクリート打ちっ放しの建物の質感を組み合わせた乙庭店頭植栽。メキシコの砂漠風景でもなく、トロピカルリゾートガーデンでもない、ジャンルの垣根を取り払った、坩堝(るつぼ)のような世界観。「多様であるからこそ世界は面白い」ということが表現できていると思います。
文脈を考える手がかりは、まず「自分は何を表現したいのか」。つまりコンセプトですね。
植栽のコンセプトを考えていくと、映画だったら「恋愛もの」か「冒険もの」かでキャスティングが異なるように、植物選びも無数の選択肢の中から相当絞り込むことができます。
例えば「何処の国でもない幻想的な砂漠風景をつくりたい」とか「日本人にしかできないアガベの植え方を世界の人に発信したい」とか。まずは漠然とでも主題を決めてみましょう。
上写真は、比較的一般にも出回っているアオノリュウゼツラン(Agave americana) に、チリの高山地帯原産のブロメリア、プヤ・コエルレア(Puya coerulea)の稀少な大株を組み合わせた植栽例。
前者の「何処の国でもない幻想的な砂漠風景をつくりたい」というコンセプトであれば、このような語法も考えられるでしょう。マンガべなどの個性派珍種やプロテアやバンクシアなどの南半球原産種なども不思議な多国籍感を演出できるボキャブラリーですね。
後者の「日本人にしかできないアガベの植え方を世界の人に発信したい」というコンセプトであれば、日本人にとっては外来語であるアガベに、あえて日本語の、ジャノメマツや雲龍カラタチや赤葉ツツジなど日本伝統の「葉芸」「枝芸」品種を合わせる語り口を使う、というように。
文脈から考えていくと、自ずと一貫性やストーリー性が植栽に生まれ、コーディネートも整っていきます。
では、最後にバランスの話、言い換えれば「見た目」「ツカミ」の話です。人間も初対面の相手の印象を、会って0.5秒程度で90%以上判断してしまうといわれています。植栽も人間と同様、なんだかんだいっても、パッと見のキャッチーな印象やインパクトはとても大事。相手に「もっとよく知りたい」と思わせるような見た目も大事なんですね。
記事冒頭でも登場した上写真のアガベ・フランゾシニィも、この一株があることで、まず植栽に目がとまります。そこから、「背景にある妖艶なあの花は何?」とか、「変わったユーフォルビアがあるな」とか、周辺の植物へも関心が広がっていきますよね。
植物の形や質感に気が配られていてバランスよく組み合わされていれば、まずは第一印象の見た目は確実によくなります。見た目がよければ、観る側にも受け入れられやすいですし、より多くの人に、より注意深く見てもらえます。ということは、つまり結果として植栽の文脈まで読んでもらえるという好循環が生まれます。
特にアガベは、他の植物にはあまり類を見ない、低くぼってりどっしりとした重量感や荒々しい豪棘、地面に大きな花が咲いたかのような整ったロゼット姿やパウダーブルーの美しい葉色など、とても独特で圧倒的な個性があります。とにかく「そこにいるだけで目立つ」お得なキャラクターですから、ここぞ! という場所に主役として使いましょう。ぜひ、アガベをキャッチーに魅せるポイントを押さえておきたいですね。
アガベは低く、花のように整った造形なので、植栽全体を引いて見たときに、片胸元のコサージュのように印象的に映るように配するとよいでしょう。大きさのバランスとしては、背景に樹木など大きいものがある植栽の手前側、植栽のど真ん中を外してオフセットした位置に植えると、さりげなく整いやすいです。逆に植栽のど真ん中や左右対称に同じものを配すると、様式性を強く感じさせるフォーマルな表現となります。
また、アガベは「硬く」「鋭く」「重い」テクスチャーなので、それと対照的なものを選んで合わせると、コントラストでお互いを引き立て合う植栽効果が得られます。
線が細くてエアリーなグラス類や、葉数が多くゴチャついて見えやすいグレビレアなどのオージープランツ、細かい要素が多くて視点が定まりにくい宿根草植栽などにアガベを加えることで、ともすると散漫になりがちな植栽がぐっと引き締まり、アガベにもしっかり視線が集まって絶好のフォーカルポイントになります。
アガベと相性のよい植物。参考過去記事
本連載「ACID NATURE 乙庭Style」の過去記事でも、アガベと相性のよい植物をこれまで数多くご紹介してきました。アガベと組み合わせる植物のヒントとして、これらの記事もぜひ参考になさってください。
●懐かしカッコいい! 耐寒性のアロエはいかが?【乙庭Styleの植物1】
●夏~秋庭の主役に! セミトロピカルな巨大葉プランツ5選【乙庭Styleの植物2】
●新感覚なドライガーデン素材! ベスコルネリアをご存じですか?【乙庭Styleの植物5】
●冬の庭でも活躍する技アリ素材、和を感じるカラーリーフ常緑樹 10選【乙庭Styleの植物6】
●春から初夏の庭へ。バラと開花期が合うオージープランツの楽しみ方 品種編【乙庭Styleの植物16】
●ドライガーデンで目を引く珍素材! マンガべをご存知ですか? 品種編【乙庭Styleの植物19】
では、次回にて日本でも庭植え栽培が可能なアガベを乙庭セレクトでご紹介します。
「日本人は均一性を欲する。大多数がやっていることが神聖であり、同時に脅迫である」
(司馬遼太郎 作家・評論家 1923-1996)
Credit
写真&文 / 太田敦雄 - 「ACID NATURE 乙庭」代表 -
おおた・あつお/園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。
NHK『趣味の園芸』講師。(一社)ジャパンガーデンデザイナーズ協会(JAG)正会員デザイナー。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「太田敦雄」公式ブログ https://note.com/acid_nature_0220
プロフィール写真/田中雅也
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