長寿の宿根草「アガパンサス」【オージーガーデニングのすすめ】
30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了された遠藤昭さん。帰国後は、オーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、神奈川県の自宅の庭で100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストでも数々の受賞歴があり、60㎡の庭づくりの経験は25年になるという遠藤さんに、日本の庭で育てがいがある注目の植物を解説していただきます。
20年育てて分かる宿根草の醍醐味「アガパンサス」
例年、梅雨時の鬱陶しい季節に爽やかで明るいブルーの花を咲かせてくれるアガパンサス=Agapanthus。我が家で最も長寿の宿根草で、鉢植えで20年以上になる。冬に寒肥を与える程度で、ほぼ放置状態だが、丈夫で長もちで美人(イケメン?)! 20年の歳月でこのように立派な大株に成長する喜びを味わえるのは、宿根草の中でもアガパンサスならではの醍醐味である。
開花の時期は朝も涼しく、そよ風が吹き心地がよい。庭に出るとアガパンサスが目の覚めるようなブルーのラッパ状の花を咲かせ、高らかに快活なメロディーを響かせてくれる。この澄んだブルーはイヤな事を全て洗い流して清らかにしてくれる、そして元気を与えてくれる活気のあるブルーだ。我が家の宿根草の王様のような存在に成長した大株のアガパンサスだが、元はといえば、500円程度で購入した小さな株だった。アガパンサスの苗を買ったのは、確か庭づくりを始めたばかりの1996年だった。
何故、アガパンサスを育てようと思ったかというと、メルボルン駐在中に、郊外から毎朝シティーに車で通っていたのだが、途中の道路の分離帯に幅数メートルで距離にして数百メートルもアガパンサスの植え込みが続く道があった。その清楚な青が、オーストラリアの空にも負けないくらい澄み切った青色で、毎年、夏にはその圧倒的な風景に感動したのを覚えている。当時は、この花もオーストラリアの花だと思っていたが、帰国して初めて、南アフリカの花であることを知った。
今、庭で育てているそれぞれの花に思い出があり、こうして見事に花を咲かせてくれる度に、当時のさまざまなシーンが蘇ってくるのだ。花は視覚で感じさせてくれる美しさ以上に、100倍も楽しい思い出を運んでくれる。当時の写真はないが、10年くらい前に千葉・幕張で見たアガパンサスも素敵だった。
そして、もう一つ、アガパンサスの僕の思い出は、それはもう17年も前だけれど、園芸初心者の僕は、軽い気持ちで地元の園芸店のコンテナガーデンコンテストに応募した。そしてラッキーなことに、グランプリを受賞して3万円の商品券をいただいた。初めてつくったコンテナガーデンが、このアガパンサスとカシワバアジサイとネグンドカエデだった。それぞれが今、庭で大きく育っている。その後、気をよくしてさまざまなガーデニングコンテストに応募し、ほとんど入賞を果たすことができた。そしてガーデニングの深みに嵌っていったのだ! このアガパンサスがなかったら、そして、あのコンテストがなかったら、僕はきっとガーデニングにのめり込むこともなく、今こうして、園芸を仕事にすることもなかったかも知れない。
そして2004年には40本余りの花穂が咲き揃った。これは鉢植えなのだ。2004年は他の木々がまだ小さかっただけに、アガパンサスが目立つ。鉢植えなので開花時期以外は庭の隅に押しやられているが、それでも毎年、健気に咲く。直径60㎝ほどの素焼き鉢に植わっているが、手入れといえば、毎年1月に寒肥として鶏糞を与えている程度だ。
2005年には、同じ時期に買ったベアグラスの苗と成長を競うようにそれぞれ大きくなった。2006年には同じ南アフリカ繋がりのプロテアの花が咲いて共演をした。
そして2008年は、テレビ取材の予定もあり、アガパンサスの最高の表現を目指して、葉色の調和や花色のアクセントを添えて、庭というキャンバスに描いてみた。渾身の力と魂を集中して……とそれなりにガーデニングを頑張った記憶がある。自宅2階のベランダから見ると、アガパンサスはまるで花火のようだ。本当に美しい。朝、雨戸を開ける瞬間って、まず予測する景色があって、次の瞬間に現実の景色が飛び込んでくる。そして、この季節は実際の景色が予測を大幅に上回って、ブルーに輝くアガパンサスが一層豪華な光景として飛び込んでくる。アガパンサスが咲く季節は、お陰で毎朝元気なスタートができる。
7月上旬、蕾が開花し、花火のように満開の最盛期を経て、やがて種子へと日々変化してゆく姿に毎年生命力を強く感じる。新しい子孫を残す生命が、このサヤの中に宿りつつあると思うと不思議だ。やはり生命ってドラマチックだ。
花には育ててきた人の思いが蓄積されていて、美しさの向こうには育てた人にしか判らない大切な思いがある。そんな思いを、花は美しさとともにさまざまなエネルギーにして返してくれる。そのエネルギーは凄いチカラを持っていて、人の心を癒やし、鋭気を与えてくれる。歳とともに、庭のさまざまな植物の存在が逞しく力強く感じられる。庭には主の思いや努力がいっぱい詰まっていて、人生を映す。そんな面白さを20年間にわたって教えてくれたのは、アガパンサスである。
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Credit
写真&文/遠藤 昭
「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー。
30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)。
ブログ「Alex’s Garden Party」http://blog.livedoor.jp/alexgarden/
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