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庭でダイナミックオーナメンタルに育てたい耐寒性アガベ 概要編

庭でダイナミックオーナメンタルに育てたい耐寒性アガベ 概要編

昨今流行中の「珍奇植物」の流れを受けて、俄然注目度が高まっている多肉植物の一種、アガベ。選び方や植え場所などのコツを押さえれば、地域によってはローメンテでアガベを育てることができます。ここでは、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんが、本当に知りたいアガベの栽培情報を解説します。

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庭でダイナミックオーナメンタルに育ててみたい耐寒性アガベ

カリフォルニアスタイルの住まいやライフスタイルへの関心の高まりや、昨今のいわゆる「珍奇植物」ブームの流れを受けて、俄然注目度が高まっているオーナメンタルプランツ、アガベ。人気のチタノタ種など、鉢植えでコレクションしている方も多いですよね。

アガベ
Radachynskyi Serhii/Shutterstock.com

また、洋書やSNSなどで上写真のように巨大なアガベ成株を大胆に使った、オーナメンタルでアーキテキュラル(建築的)な海外での植栽を見て、アガベの庭植えにチャレンジしたいと思っている方も多いことでしょう。

品種選びや植え場所など、ちょっとしたコツを押さえれば、日本でも(寒冷地、冬に降雪の多い地域を除く)、庭植えかつローメンテでアガベを育てることができます。しかし、いざアガベの育て方について調べても海外のサイトや文献が多かったり、日本ではネット販売などで品種は多く紹介されていても、育て方の情報が少なかったりして、庭植えの最初の一歩が踏み出しにくいのも事実ではないでしょうか。「実際に日本でアガベを屋外雨ざらしにして栽培ができるのか?」とか、「耐寒性は大丈夫? 水やりはどのくらい?」とか「ガーデニング初心者でも育てられる?」など、本当に知りたいアガベの栽培情報は意外と少ないんですよね。

アガベ

上の写真は、小苗から数年かけて屋外栽培で大きく育て上げたアガベが、主役級の存在感を発揮している乙庭店頭植栽事例です。

今回から数回に分けて、これまで実際に植栽案件や店頭植栽でいろいろなアガベを植えて育ててきた経験や実績も踏まえて、「乙庭版、日本でアガベを庭植えで楽しむ方法」をお伝えします。今回は概要編をご紹介し、今後、コーディネートの仕方や日本で庭植えできる耐寒性アガベを紹介する予定です。

アガベ

オーナメンタルプランツを使ったドライガーデンやセミトロピカル植栽、はたまた宿根草植栽とアガベの融合など、新しい植栽フロンティアに踏み込みたい園芸家の方々へ、ヒントや勇気になれたら幸いです。

アガベのプロフィールをおさらいしてみましょう

アガベは、メキシコからアメリカ南西部の乾燥地域を中心に、中南米や西インド諸島などに約300種が分布するキジカクシ科の植物です。

アガベ
アメリカ アリゾナ州でのアガベ自生風景。Francisco Blanco/Shutterstock.com

「センチュリープラント(century plant)」という英名でも知られるように、じっくりと長年かけて貫禄のある大株に生育します。最後に、高さ数メートルにもなる花茎を伸ばして壮大に開花。子株や種子などの形で子孫を残して、本体は枯れてその一生を閉じます。

アガベ・サルミアナ(Agave salmiana)の花
アガベ・サルミアナ(Agave salmiana)の花。滅多にお目にかかれない貴重な光景。Keitma/Shutterstock.com

上の写真に見られるように、まさに「建築的」なスケールの開花風景は庭の一大イベントになりますよね。種類や生育環境にもよりますが、「センチュリープラント」とはいえ、アガベは100年に一度しか開花しないわけではなく、実際は数十年程度のライフサイクルと考えてよいでしょう。

血糖値が上がりにくいことから健康やダイエット面で注目されているアガベシロップもアガベの樹液を原料に作られています。Pat_Hastings/Shutterstock.com

またアガベは、園芸や観賞用だけでなく、縄やラグマットの原料として広く利用されるサイザル麻やアガベシロップ、テキーラなどの原料として、人間の生活や文化にも深く、長く関わり合ってきました。

テキーラの原料となるアガベ・テキラナ(Agave tequilana)
テキーラの原料となるアガベ・テキラナ(Agave tequilana)の収穫風景。T photography/Shutterstock.com

日本では1960~70年代、昭和のサボテン・多肉植物ブームの頃から、アオノリュウゼツラン(Agave americana)や「雷神」の名で知られるポタトルム(Agave potatorum)などが愛好家の間で少しずつ栽培普及していきました。

アガベ・ポタトルム系
アガベ・ポタトルム系統の斑入り品種 ‘吉祥冠’ (Agave potatorum ‘Kissho Kan’)。葉芸を愛でる日本古典園芸の感覚ともマッチして珍重されました(※耐寒性は弱く庭植えは不可)。Nikolay Kurzenko/Shutterstock.com

昭和期のサボテン・多肉植物の栽培スタイルとしては、温室やフレームなどで、しっかり保護して大切に育てるのが主流。

インターネットもオンラインショプもない時代、アガベも今よりも格段に珍しくて入手困難、栽培情報も少なく、よほど勝手知ったる栽培通か、逆に栽培放棄でもしない限り、冬の間、屋外にアガベを放置するということはなかったでしょう。

しかし、今日でも昭和の雰囲気漂う民家の庭などで、年季の入った大株のアオノリュウゼツランや柱サボテンなどの庭植え個体を目にすることがあります。

アガベ
1st-ArtZone/Shutterstock.com

上の写真は屋外でほぼ野生化したアオノリュウゼンツランの斑入り品種、アガベ・アメリカーナ ‘マルギナータ’ (Agave americana ‘Marginata’)。海外での事例写真ですが、日本でもこのような感じで生えているリュウゼツランを見たことのある方は多いと思います。これらは、おそらく昭和期のサボテン・多肉ブームの成れの果てなのかもしれません。しかし一方で、冬寒く夏は高温多湿となる日本の環境でもアガベが露地栽培できるという頼もしい実証例でもあり、21世紀の植栽を考える私たちにも大きな示唆を与えてくれます。古くから続く日本の園芸史の思わぬ成果ともいえますね。

アガベの庭植え。育て方のコツ

アガベを日本で庭植えする際の最大のコツは何かというと、植える以前の話になってしまいますが、ズバリ「品種」と「植え場所」選びに尽きます。

人気の高いチタノタやポタトルムなど、耐寒性が弱く、日本では屋外越冬できないアガベもあるので、まず植える前に品種特性をよく下調べしましょう。

アガベ・チタノタ(Agave titanota)
白い豪棘やイカツいシルエットで人気の高いアガベ・チタノタ(Agave titanota)。耐寒性が弱く日本では屋外越冬が難しいので要注意です。COULANGES/Shutterstock.com

耐寒性があるといわれているアガベでも、品種や発根の状態によっても耐寒性の強度に幅がありますし、地域や植え場所によっても最低気温や霜・寒風の影響には違いがありますから、まずは自分の庭の環境やスペースをよく観察し、大丈夫そうな品種を選んで始めるとよいでしょう。

アガベ
アガベ・トルンカータ(Agave parryi ssp. truncta)乙庭でも植栽案件でよく使用する美麗種。anystock/Shutterstock.com

もっと具体的にいうなら、アガベ・パリィ(Agave parryi)やアガベ・オバティフォリア(Agave ovatifolia)などは、耐寒性やその他の性質も強く、姿もきれいにまとまりやすいため、「アガベ庭植え入門種」としておすすめです。

アガベ・オバティフォリア
乙庭店頭植栽のアガベ・オバティフォリア。小苗から屋外で育て7~8年程度経過した状態。

アガベは、砂漠的な乾燥地原産のものが多いので、日当たり・水はけ・風通しのよい場所に植えましょう。雨に当たる場所であれば、根付いて以降はさほど水やりに注意しなくても大丈夫です。むしろ乾燥気味をキープできるほうが引き締まった株になります。「湿った土壌で凍るような低温が続く」環境では特に冬傷みしやすくなります。逆に乾燥には強いので、地植えであれば、晩秋から冬の間は積極的には水やりせず、なるべく乾燥気味に保ってあげるとよいでしょう。

アガベ
jen mccormack/Shutterstock.com

関東地方平野部など、冬の降雪量や回数が少ない地域であれば、上の写真のように雪に埋もれたとしても、早いうちに雪を払い落としてあげればさほど問題ありません。しかし、雪に埋もれっぱなしのまま放置したり、昼間も土壌の凍結が溶けないような地域では、庭植えではなく鉢植えで保護して育てる方が安全でしょう。乾燥に強く水やりを忘れてもすぐに枯れてしまうような心配がほとんどないので、むしろローメンテで、毎日の水やりなどこまめな手入れができない多忙な方でも育てやすいでしょう。近くに植える植物も、冬季にマメに水やりしなくてもよい乾燥地系の植物を選んでいくと、見た目の雰囲気も管理の手間も自ずとまとまりやすく、一挙両得です。

アガベガーデン
アガベをはじめ、乾燥に強い植物を集めた耐乾燥植栽の海外事例。7500jacks/Shutterstock.com

アガベは最終的には大きく、とても重く育ち、鋭い棘もありますから、大株になってからの移植は、作業としては一苦労です。

アガベの苗

上の写真は2009年に私の庭に小苗で植栽したアガベです。その後、一度植え場所を変えていますが、この小さな苗が成長し、2016年に撮影した姿が下の写真です。

アガベ

一般的にアガベは生育がとても遅いといわれていますが、じわじわと大きく育っていくので気が遠くなるような遅さでもなく「樹木のような」成長スピードと捉えるとよいでしょう。

気がつくと植え替えできないような大きさに育っていることもありますから、小さい苗からスタートする場合も、大きくなった時のことを考え、周囲のスペースに余裕を持って植えるのがもちろん賢明です。しかし小苗だと、どうしても周囲がスカスカになってしまい、隙間風が気になりますよね。そんな場合は、上の写真(2009年当初)のように、植え替えしやすい植物で周囲の空きを補いながらアガベを育成し、アガベの成長に合わせて周囲の植物を移植していくと、将来的に大きなアガベを植え替える大仕事を回避することができます。

アガベの苗
qSPOoKYp/Shutterstock.com

アガベは、関東平野部辺りだと暖かさが増してくる5月頃に新しい根が出て生育が一気に加速するので、地植えにするタイミングは春が最適期。秋までによく根を張らせ、晩秋から水やり回数を減らして土壌を乾燥気味にして冬に備えるようにすると、品種本来の耐寒性を発揮できます。根の張っていない輸入株を秋冬に手に入れた場合は、最初は鉢植えにして強い寒さにさらさないで保護して越冬し、春に植えるようにすると安全です。

次回は植栽で差をつけるアガベのコーディネートのコツについて解説します。

「リスクを取る勇気がなければ、何も達成しない人生になるだろう」
(モハメド・アリ プロボクサー 1942 – 2016)

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