艶やかな大輪の花を咲かせるボタン(牡丹)は、古代から文学や美術の世界に影響を与えてきました。つけられた花言葉も、その圧倒的な存在感がインスピレーションの源だったことがうかがえます。一方で西洋の花言葉は、豪華さとは別の魅力を象徴するものです。この記事では、ボタン(牡丹)の代表的な花言葉とともに、花名の由来や外国名などを紹介します。
ボタン(牡丹)の花言葉について知りたい!
植物に象徴的な意味をもたせる風習は太古の昔からあったようですが、現在のような花言葉の文化は17世紀のトルコが起源で、19世紀の西ヨーロッパで体系化されたとするのが定説になっています。日本における花言葉は、ヨーロッパの花言葉を土台にしたものと、独自につくられたものがありますが、いずれも、花の姿形だけではなく、その植物にまつわる伝説や風習などにも着想を得て考えられています。
ボタン(牡丹)の花言葉を紹介する前に、まずはボタンという植物について簡単に説明します。
ボタン(牡丹)の基本データ
学名:Paeonia suffruticosa
科名:ボタン科
属名:ボタン属
原産地:中国北西部
和名:牡丹(ボタン)
英名:Tree peony
開花期:4〜5月
花色:赤、ピンク、黄、オレンジ、白、紫、複色(絞り咲き含む)
発芽時期:2〜4月ごろ(翌年の花芽形成開始時期:5〜7月ごろ)
生育適期:通年(高温多湿には弱い)
ボタン(牡丹)は中国原産の樹木で、1〜2世紀には根皮が薬用に使われていたことが中国最古の薬物書からわかっています。その後、中国では5世紀ごろ、7〜8世紀に薬用として伝わった日本でも(遣唐使や空海が持ち帰ったともいわれます)、花の美しさに関心が集まり、観賞されるようになりました。
そんなボタン(牡丹)の花言葉は、
「風格あるふるまい」
「王者の風格」
ボタン(牡丹)の花の抜群の存在感や、雅やかな魅力にぴったりですね。しかし、古代から芸術家たちの創作意欲を刺激したボタン(牡丹)は、いわば“ミューズ”的存在の花なのに、“女神”や“女王”ではなく“王者”なのはなぜでしょう? 次の項では花名の由来や意味から、花言葉の成り立ちを考えてみたいと思います。
ボタン(牡丹)の花名や花言葉の由来は?
「ボタン(牡丹)」という和名は、中国の花名「牡丹」をそのまま使ったものです。ボタン(牡丹)と同じころに日本に伝わった漢音(中国北方系の読み方)では、「牡」は「ボウ」と発音するため、当時は日本でも「ぼうたん」と呼ばれていました。響きがなんだか可愛らしいですね。今でも俳句や短歌などの世界では、「ぼうたん」は健在です。
一方、現在の中国では、共通語で「ムゥー(↓)ダァン(↑)」という発音で呼ばれています。日本と中国でずいぶん違っていますね。
それでは、そもそも中国における花名「牡丹」の由来はどういったものでしょうか。実はまだ、決定的な根拠のある説はありません。赤色を意味する「丹」は、原種の花の濃い赤紫色からきていると考えられていますが、雄(オス)を意味する「牡」の解釈がいろいろで、どれも少しこじつけっぽく思えます。名付けた人はボタン(牡丹)の姿形や生態に、何らかの男性的なものを感じたのでしょうか。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と、女性の美しさを形容することわざにも使われているくらいですから、日本ではボタン(牡丹)を女性的な花ととらえている方が多いと思います。そうしたなか、「王者の風格」という雄々しい花言葉が与えられたのは、「牡」の字に引っ張られた可能性もありそうです。
あるいは、唐時代の呼び名「花王」「百花王」から派生したのかもしれません。これらの呼称は、宮廷の庭を飾る園芸植物の中でボタン(牡丹)がもっとも愛され、尊ばれたことから生まれました。宮廷に招かれた詩人たちは、皇帝ではなく、その妃を「花王」にたとえていますから、「花王」の「王」は“キング”ではなく“王者(チャンピオン、覇者)”の意味なのでしょう。花言葉とマッチしますね。
ボタン(牡丹)の花言葉には他にも、前項で紹介した「風格あるふるまい」を始め、「富貴」「高貴」「壮麗」などがあります。これらは、絹のような花びらが幾重にも重なる優雅でふくよかな花姿や、隋の煬帝や唐の玄宗皇帝らに愛されたという逸話にちなんでいます。
明治30年代にシャクヤクの台木を用いた接ぎ木方法が確立する以前は、ボタン(牡丹)の苗木はかなり高価で、上流階級や富裕層しか楽しめなかったそうです。「富貴」や「高貴」の背後には、そうした園芸事情も見え隠れしますね。
なお、ボタン(牡丹)には花の色ごとの花言葉はありません。妖艶な雰囲気を漂わせる濃い紫色のボタンも、清々しい純白のボタンも同じです。
花言葉は、業界団体や新品種の開発者が考えたり、メーカーが公募で決めるなどの方法でつくられます。ボタン(牡丹)の新品種は次々に作出されているので、将来はボタンの花言葉がもっとバラエティに富んでいるかもしれません。
ボタン(牡丹)の英語名と、海外での花言葉
ボタン(牡丹)の英名は「Tree peony(ツリーピオニー)」です。同じボタン科のシャクヤクは「Chinese peony(チャイニーズピオニー)」で、正式にはちゃんと区別されているのですが、日常的な場面ではボタン科(Paeoniaceae)の植物は、「Peony(ピオニー)」の総称で呼ばれることが多いです。
「ピオニー」という名前の由来については2つの有名な説があります。ひとつは、医薬を司る神ペオン(Paeon)説。もうひとつは、美しい妖精パエオニア(Paeonia)説。どちらもギリシャ神話の登場人物です。
ペオンの物語は、彼が不思議な植物を求めてオリンポスの山に行くところから始まります。全知全能の神ゼウスの子を身ごもった女神に出会い、その植物の根が陣痛を和らげることを教わったペオンは、冥界の王ハデスが戦いで負った傷をその薬草で治してやります。他の負傷した神々も同じように治療しますが、師である医神より優れた存在となったために、師に嫉妬されてしまいます。結末は2パターンあり、その後ペオンは師に殺され、恩人の死を悲しむハデスによってその薬草に変えられたとするバージョンと、殺されそうになったところをゼウスによって美しい花に変えられたとするバージョンがあります。
パエオニアの物語も、「高木は風に折らる」系のストーリーです。妖精パエオニアは誰もが振り返る美貌で、男性の神たちを虜にしていました。なかでも、オリンポス十二神の一人であるアポロンにも可愛いがられていたことが、美の女神アフロディテの機嫌を損ね、姿を花に変えられてしまいました。
ペオン、あるいはパエオニアが生まれ変わった花として、ボタン科の植物に「ピオニー」の名がつけられたとされています。
そのピオニーの西洋での花言葉は、
「compassion(思いやり)」
「bashfulness(恥じらい、はにかみ)」
「思いやり」は、ペオンやパエオニアがただ闇に葬られたのではなく、花に変えられたことと通じ合う気がします。彼らの運命を思うと、「恥じらい」にも、どこか教訓的な意味合いを感じますね。
「恥じらい」「はにかみ」の由来としてよく紹介されるものには、花の中央を隠すようなボタン(牡丹)の咲き方が恥ずかしがっているように見えたからとするものと、アジア原産の花に西欧人のアジア人観を反映させたというものがあります。皆さんの感覚にしっくりくるのはどちらでしょうか?
人々がボタン(牡丹)から受ける印象は、東洋と西洋でずいぶん違うことがわかりました。花の豪華さばかりに目を奪われがちですが、ボタンは私たちが知る以上に多彩な魅力を秘めているんですね。
Credit
構成と文・橋 真奈美
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