秋、賑わいを見せる菊花展。会場に足を踏み入れた途端、色とりどりに咲く、丹精込めて育てられたキクの見事さに見惚れてしまいますよね。そこで出会う、クラシックな花形でありながら洋花のムードをまとう華やかなキクが、近年の切り花では増えています。優雅にカールした花びらや、ダリアのように艶やかな花色。洗練されたキクの魅力を、多彩な品種、扱い方のポイントなどと一緒に詳しく紹介しましょう。
目次
キクって、どんな花か知っていますか?
まず、基本的なことについて知っておきましょう。
キクの基本データ
学名:Chrysanthemum morifolium
科名:キク科
属名:キク属
原産地:中国
和名:菊(キク)、家菊(イエギク)
英名:Mum、Florist’s chrysanthemum
開花期:9~11月
切り花の出回り時期:オールシーズン
花色:赤、ピンク、黄、オレンジ、白、紫、緑、茶、複色
花もち:2~3週間
花言葉:高貴、高潔、思慮深い
縁起がいいキクのルーツと、その歴史
奈良時代に薬草として中国から渡来してきた、キク。その花には、邪気を祓い、長寿をもたらすパワーがあるとされていました。9月9日の「重陽の節句」をご存じですか。
もともとは中国の習わしで、奇数は縁起のよい数で、偶数はその逆と考えられていました。暦のなかで奇数が重なる日は、偶数(陰)になるため、めでたいけれど悪いことにも転じやすいとの考えから、お祝いとともに厄祓いの意味を込めて、季節の植物から生命力をもらい、邪気を祓う行事が行われていたようです。それが、五節句の由来です。そのなかでもいちばん大きな奇数(陽)が重なる9月9日を「重陽の節句」と呼び、キクの香りを移した菊酒を飲んで邪気を祓い、長寿を願う風習があったよう。そんな中国由来の行事が、日本では平安時代ごろに貴族の宮中行事として取り入れられました。時代とともに庶民にも広がり、江戸時代には五節句のひとつとなって親しまれました。
旧暦の9月9日は、新暦の10月半ばのころで、キクがもっとも美しい時季でもあります。また、実りの季節でもあり、秋の収穫祭とあわせて祝うようにもなったようです。
日本でキクの園芸が盛んになったのは、18世紀の江戸時代のこと。江戸をはじめ、長野と岐阜にまたがる美濃地域、伊勢、京都、熊本など、各地域で独自に発展し、観賞用のキクとして多くの品種が作出されました。それらを「古典菊」と総称しています。
キクは18世紀には、中国からヨーロッパにも渡っていましたが、あまり関心をもたれてはいませんでした。ところが、19世紀後半に、日本の古典菊がヨーロッパに紹介されるやいなや、一気に人気に火がつきます。特にイギリスを中心に、キクの栽培が盛んになり、品種改良が進みました。
現在、洋ギクとか、クラシックマムなどと呼ばれている華やかさが人気の大輪ギクは、70%がオランダ生まれ! 驚きですよね。ドラマチックな色や花びらなのに、どこか和風の趣があるのは、「古典菊」をもとに改良された品種だからなんです。いわば、日本に逆輸入されたキクといえます。後ほど紹介する品種は、いずれも艶やかな洋ギクです。お楽しみに!
キクは、日本で生産される切り花ナンバー1!
国内での切り花生産量がもっとも多い花は、キクです。農林水産省の平成29年度の統計によると、切り花の全出荷量は約37億400万本で、そのうちキクは15億400万本。じつにおよそ4割がキクなのです。仏花としてのニーズが、需要を下支えしているといえますが、最近流行っている大輪で華やかな洋ギクの貢献によって、フラワーアレンジでも欠かせない存在になりつつあります。
ダリアと見紛うほどの大輪で、色が多彩に揃う洋ギクなどの栽培をいち早く取り入れたのは、日本一のキクの産地といわれる、愛知県渥美半島に位置する田原市のJA愛知みなみ。シルキーガールやトムピアーズなどの大輪ギクを育種し、‟クラシックマム”の名で生産したのも、この地域の生産者さんです。日照時間が短くなると花芽をつけるキクの性質を利用し、夜間に電気で照らし続ける「電照栽培」が有名。こうした開花調整により、私たちは1年を通して良質なキクを楽しむことができるのです。最近では、大輪の輪ギクを満開にした状態で出荷する“フルブルームマム”の栽培も始まっています。
さらに、岐阜県高山市の標高700m超えという高冷地を生かし、豪華な大輪ギクを中心に生産しているのが、飛騨クラシックマム。朝夕と日中の気温差が10℃以上あるため、ここで育ったキクは発色がよく、色鮮やかなのが特徴です。花は大輪なのに、茎は細く、しなやかなのも魅力のひとつ。満開の状態がひと月以上楽しめるよう、管理・栽培も徹底しています。出荷は8~12月限定。特に、9~11月は輪が大きいそうです。
平安時代から行われていたとされる、9月9日の重陽の節句。その日、平安時代の宮中では、「菊の着せ綿」が行われていました。前日からキクの花に真綿を被せておき、爽やかな香りが移った真綿を顔に当てて、若さと健康を願ったとか。キクの香りには、それほどに効力があると信じられていたようです。すがすがしい香りには、浄化のパワーを感じますね。
そんなキクの香りに、なんと甘い香りを放つ品種が誕生しました。セイスピースという品種の、キクとは思えない甘い香りを、ぜひ試してみてください。
キクを長く楽しむためのポイントとは?
2~3週間もつキクだけに、花の状態だけで鮮度の良し悪しを判別するのはちょっと難しいもの。見極めポイントはふたつ。葉と、花びらの裏を見るとチェックできますよ。
葉がしんなりしているキクは避けて
葉に張りがなく、だらりと下がっているキクは、日にちが経過し、鮮度が落ちているサインです。葉にも水が行き渡って、パリッと勢いよく、横に張っていれば、管理が行き届いた新鮮なキクです。
キクは、花の裏側から傷み始めます
キクはゆっくりと開花するため、最初に開いた外側の花びらから劣化していきます。花びらの裏側から花を眺め、色褪せ、しなびたところがある花はおすすめしません。裏側もきれいな花を選ぶと長く楽しめます。
キクは長もちする花とはいえ、飾るときのひと工夫で、もっと長く美しく味わえます。素敵に楽しむための4つのコツを紹介しましょう。
コツ1.水揚げはハサミを使わず、手で折ります
水を張ったバケツなどに茎を沈め、手で一気に折る「水折り」がおすすめです。茎の断面がささくれることで、吸水面が広がり、水あげがよくなるからです。キクは金属を嫌う花ではありますが、吸水性スポンジに挿す場合は、ハサミなどでカットするほうが扱いやすいです。
コツ2.余分な葉は、つけ根からきれいに取って
長くもつとはいえ、キクの葉が水に浸かると、水が腐りやすくなり、バクテリアが発生する原因にも。水に浸かる葉は、すべて取り除きましょう。また、キクは葉が多く、蒸れやすいです。不要な葉を取り除くことで、花の美しさが引き立ちます。葉を取るときは、茎のつけ根から手でやさしくもぎ取るのがポイント。茎に残った凹凸もハサミの先で、丁寧にカットすると見栄えが美しいですよ。
コツ3.水は器に深めに入れて飾りましょう
キクは水の吸い上げ量が多い花です。水切れを起こさないよう、たっぷりと水を入れた器に飾ってあげましょう。そして、1日1回を目安に、こまめに水替えすると、さらに花もちがよくなります。水替えの際には、器を水洗いし、茎のぬめりも洗い流すとよいでしょう。
コツ4.傷んだ外側の花びらを、カットします
ダリアのように大輪のキクは、品種によっては咲き進むと、外側の花びらが垂れてきて形が崩れてしまうことがあります。下がった花びらをつけ根部分からハサミで切り取り、形を整えてあげると、美しい花の形が長くキープできます。
華やかな大輪ギク、31品種を一挙紹介
近年、主流となっているのは、ダリアと見紛うほどに華やかで大輪のキクです。どこかに和のイメージもたたえつつ、ファッショナブルに進化した品種を紹介しましょう。
赤紫、ピンク系の品種
ひと口に赤紫系といっても、深い赤があれば、青みを帯びた色も。微妙な色合いの素敵さをぜひ、感じてみてください。さらに、花びらの形にも注目を! くるんと優雅にカールしたり、踊っているように不規則に翻ったりする花びらがあり、見応えがあります。
プリティリオ
レオン
ロマンチックガール
ヘリテージ
パンテオン
ビターチョコ
ボンビーニ
雅
このか
マーブル
グロリア
カンナ
ピアニッシモ
ピーチフロマージュ
ブラックナイト
アプリコット色、茶系の品種
シックで、おしゃれな雰囲気を感じさせてくれる、ニュアンスのある色をもつ品種ばかり。花の形は輪ギクなのに、洋のテイストを強く感じるのは、色のおかげといいたくなるほどのエレガントさです。満開に咲き誇る姿は、1本だけでも存在感は十分です。
ジュピター
ハーベスト
エポック
ビーナスオレンジ
シルキーガール
ハリケーン
ココア
秋色シャムロック
トムピアーズ
グリーン系の品種
ほかの花にはあまりない、鮮やかな緑色。爽やかで、すがすがしい印象を与えてくれます。色の濃淡で、表情もさまざまです。グリーンとも好相性。
ゼンブラライム
グリーンシャムロック
アナスタシアグリーン
ポンポン咲きの品種
花びらがみっしりと集まって、半球形や球形になる咲き方です。1本の茎に花が1輪咲く「1輪咲き」と、枝分かれして複数の花が咲く「スプレータイプ」があり、花の大きさも大小さまざま。キクのなかでも、格段にもちがよいのはこの咲き方といわれています。
ジェニーオレンジ
ジェニーピンク
ゴールデンピンポン
グリーンベリー
花・川守由利子、ズッキー(鈴木雅人、田中貴花子) 撮影・中込孝嘉 構成と文・山本裕美
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