大きく開く艶やかな顔立ち、濃厚な香りも漂わせ、すらりとした茎に咲く印象的なユリ。大きめの花束やアレンジにしたいとき、発表会や展示会、ショップオープンのお祝い花、冠婚葬祭にも欠かせない花材ですね。しかも、夏になると全国各地でユリ園がオープンし、野山に出かけると野生のユリに出合えることもあります。花屋さんの店先から、野の花まで、いろいろなシチュエーションで出合えるユリ。どんな種類や品種があるのか、確かめてみましょう。また、花材としての選び方、扱い方もチェックします。
目次
ユリってどんな花?
すらりとした茎に、つんと横を向いたり、上を向いたりして咲く大輪。まずは、ユリについて、基本的なことを知っておきましょう。
ユリの基本データ
学名:Lilium
科名:ユリ科
属名:ユリ属
原産地:北半球の亜熱帯~亜寒帯
和名:百合(ユリ)
英名:Lily
開花期:5~8月
花色:赤、ピンク、オレンジ、黄、白、緑、茶、複色
花言葉:威厳、純潔、無垢
ユリの原種は北半球に約100種類が分布します。そのうち15種が日本に自生。ヤマユリ、ササユリ、オトメユリ、テッポウユリなど、美しい花が多いことが世界に知られています。
ヨーロッパにも十数種の原種が分布し、代表的なニワシロユリは、別名マドンナリリーと呼ばれ、キリスト教の宗教絵画によく登場しました(のちに、日本のテッポウユリがマドンナリリーの名を冠されることになります)。白ユリは聖母マリアの純潔の象徴として描かれてきました。
日本では、ユリは本来、初夏~夏にかけて咲く球根の花。そのため、オトメユリ、ササユリなどの原種は、自然開花する夏のいっときだけ切り花用の花材として出回ります。いっぽう、夏以外にも出回るのは、品種改良された園芸品種。花色も種類も豊富です。
花のつくり
ひときわ大きな花を咲かせるユリ。はっきりしている花のつくりを、確かめてみましょう。
花
花びらは6枚あるように見えますが、外側にある3枚はがくで、外花被と呼びます。内側の3枚が本来の花びらで、内花被です。花は上向き、横向き、下向きがあります。
中央にはめしべは1本、その周りに雄しべが6本。雄しべの先にある葯のなかから、花粉が出ます。
1本に複数花がつくものは、下から上へ、または外側から内側へ咲き進みます。
花びらは厚みがあり、しっかりしていますが、傷がつきやすいので扱いには注意しましょう。
葉
葉は互生、または輪生します。
茎
真っすぐに伸びます。しっかりしていますが、折れやすいので扱いには注意が必要です。
ユリを購入するとき、扱うときの注意点
開花したユリを購入すると、花粉を取り除いてあります。花粉は花びらを汚すため、つぼみが開いたら、その都度取り除きましょう。洋服についてもと落ちにくいので、注意が必要ですね。
ユリは本来夏に咲く花なので、初夏に近づくと出回る品種の数、量ともに多くなり、価格的にも手に取りやすくなります。一般的な花の持ちが悪くなる夏場に花もちがいいため、特に夏のあしらいに重宝します。ただし、暑い場所は早く咲き進むので、長く楽しむことを考えると、やはり涼しい場所に飾った方がいいですね。また、寒い時期に飾ると、夏ほどの花もちは望めません。
つぼみの状態で出回ることもあるので、開花したときの花色を確認してから購入するといいでしょう。色づいたつぼみはほとんど咲きますが、色づく前の緑色の堅く閉じたつぼみは開きません。咲くつぼみに栄養を回すために、いける前に摘んでおくといいですね。
葉の処理は、水に浸かって水を汚すものは取り除きます。花の近くにつく葉も取り除いてあげると、花がはっきりして引き立ちます。
日本は野生ユリの宝庫、そのユリたちがたどった道のり
今やさまざまな花色や種類の園芸品種が揃うユリ。堂々と咲く花は、豪華なアレンジに欠かせませんが、かつてユリは日本の野山の風景に溶け込んで咲いていた、野性味漂う花でした。日本の野生ユリが歩んできた道をたどってみましょう。
江戸末期、日本の野生ユリがヨーロッパへ
世界にユリの原種は約100種ありますが、15種類が日本の自生種です。しかも、日本は美しい野生ユリの宝庫。ヤマユリ、カノコユリ、オトメユリ、ササユリ、テッポウユリなど、野生種とは思えない美しさです。
古くは『古事記』『日本書紀』にも登場し、奈良時代には歌にも多く詠まれました。園芸が大流行した江戸時代には、園芸品種のスカシユリが百数十品種も誕生。ユリは日本人に愛されてきました。
そんなユリを江戸時代の末期、アジサイなどの植物と一緒にヨーロッパに持ち帰ったのが、かのドイツ人医師シーボルトでした。カノコユリ、テッポウユリ、スカシユリなどの球根が海を渡りました。チューリップの球根1球が高級邸宅の価格に匹敵した、17世紀前半のチューリップ狂時代には及びませんが、カノコユリは宝石のルビーに例えられ、同じ重さの銀と同等の価格で取引されたとか。 ‟日本のユリは際立って美しい”と言われ、人気を呼びました。
日本の経済を支えたヤマユリ、テッポウユリ
江戸末期には、早くも外国人商館によるユリの球根貿易が始まります。横浜や静岡周辺の山で採取されたヤマユリ、ササユリ、オニユリなどが、横浜港から輸出されました。
明治に入ると日本人による貿易会社が誕生。ユリを描いた海外向けのカタログを制作し、種類豊富な日本のユリを紹介しました。明治時代の末、輸出球根の筆頭はヤマユリからテッポウユリに代わり1937年にピークを迎えます。全種類で4千万球以上を輸出し、世界のユリ需要の90%を日本のユリが占めたほど。ユリは生糸に迫る外貨獲得の花形になり、“ユリで軍艦を造った”といわれるほど日本の経済力、国力に影響を及ぼす存在となりました。
品種改良のもとになった日本の野生ユリ
日本の野生種で品種改良
ヨーロッパに分布していた十数種のユリのうち、聖母マリアの純潔の象徴だったニワシロユリ、別名マドンナリリーさえ、日本のテッポウユリに取って代わられます。アメリカでも、日本のテッポウユリがイースターリリーと称されるようになるのです。
ヨーロッパで代表的なユリ、ニワシロユリの園芸品種。
こうして日本の美しいユリが世界を席巻。やがて日本の原種は品種改良に使われていくわけです。
19世紀後半から、中国のユリを加え、育種が始まります。日本のヤマユリとカノコユリを交配し、1864年にはオリエンタルハイブリッド第1号が誕生。品種改良は近縁の種同士でないと難しいため、結局ヨーロッパのユリは使われず、アジアのユリ同士が親に選ばれ、品種改良が進んでいくことになりました。
日本の原種ユリの種類と特徴、見分け方
日本の原種のなかには、初夏~夏のそれぞれ開花時期に、希少ですが切り花で出回るものもあります。日本の代表的な原種ユリの特徴をご紹介しましょう。
オリエンタルユリ(O)
アジアンテックユリ(A)
ロンギフローラムユリ(L)
日本の原種は以上の3系統に分けられます。
オリエンタルユリ(O)
本州原産のユリ。大輪で反り返った花びら、長いしべが特徴。うつむいて咲くエレガントな雰囲気。花色は白~ピンクで、芳香があります。
ヤマユリ
白い花びらに黄色の筋と赤い斑点が入る大輪。強い芳香があります。
ササユリ
色はピンク~白。名前は葉の形が笹に似ていることに由来。
カノコユリ
花色は紅、ピンク、白。鹿の子絞りのような斑点模様と、反り返る花形が特徴。
オトメユリ
別名ヒメサユリ。横向きに咲く可憐な花はピンク~白。山形、福島、新潟に自生。
アジアンティックユリ(A)
反り返るように花びらが開き、黄色、オレンジ系が中心。香りはありません。
エゾスカシユリ
花名は花びらの間から向こうが見える花形に由来。北海道、中国、樺太などに自生。
ヒメユリ
朱色の小輪で、上を向いて開花。黄色いキヒメユリもあります。
オニユリ
花色は朱赤で、暗紫色の斑点があります。花びらが反り返り、下を向いて咲きます。1本にたくさんの花がつきます。
ロンギフローラムユリ(L)
テッポウユリ、タカサゴユリなど。筒形またはラッパ形の純白の花。
テッポウユリ
沖縄県・伊江島の海岸線付近に咲く野生のテッポウユリ。協力:沖縄県伊江村
横向きや斜め上に向く純白の花。奄美、沖縄地方に自生。やさしい芳香が特徴。
画像一覧つき! ユリの系統と人気の園芸品種
現在、オランダを中心にアメリカ、ニュージーランド、日本などで品種改良が進むユリ。それらは交配に使ったユリの系統と、その組み合わせで分類されています。1970年代後半に登場したカサブランカは、ユリを和から洋へイメージチェンジさせた画期的な大輪でした。以来変わらず人気を誇り、今でもカサブランカと品種名で呼ばれる唯一のユリです。
ユリの園芸品種のうち、切り花がよく出回るのはおもにつぎの5系統。花屋さんによく出回る系統なので、出合ったらぜひ、手に取ってみてください。
オリエンタルハイブリッド(OH)
アジアンティックハイブリッド(AH)
ロンギフローラムハイブリッド(LH)
ロンギフローラム・アジアンティックハイブリッド(LA)
オリエンタル・トランペットハイブリッド(OT)
オリエンタルハイブリッド(OH)
オリエンタルユリ(O)同士を交配した品種。大輪で香りが強いものが多く、花色はおもに白、ピンク。ここ10年でボリュームのある八重咲き品種が出回るようになりました。
マルコポーロ
長く愛されている品種。弁端にフリルが入り、淡いピンクの花びらには赤い斑点があります。上を向いて咲く大輪。
イザベラ
ピンクの花びらには赤い斑点があるイザベラ。花びらはしっかりしていてよく開いて咲き、とても豪華。
シアラ
濃いピンク色の迫力がある八重咲き。
アジアンティックハイブリッド(AH)
アジアンティックユリ(A)同士を交配した品種。小ぶりで花色も品種も豊富。香りはありません。花店ではスカシと呼ばれています。
ランディーニ
赤黒いシックな花色の代表的な品種。長く親しまれています。
ロンギフローラムハイブリッド(LH)
テッポウユリや台湾のタカサゴユリを交配した品種。上品な花形、やさしい芳香は冠婚葬祭でもっともよく使われます。
自生地、沖縄県伊江島のリリーフィールド公園のテッポウユリ(ジョージア)。4月末~5月初旬、毎年伊江島ゆり祭りが開催されます。協力:沖縄県国頭群伊江村
ロンギフローラム・アジアンティックハイブリッド(LA)
アジアンティックハイブリッドとロンギフローラムハイブリッドを交配した品種。花は大きめで花色が多彩。今この系統がもっと多く出回っています。
クーリエ
白または淡いクリーム色に、焦げ茶色の葯がシックなクーリエ。上を向いて咲きます。
オリエンタル・トランペットハイブリッド(OT)
ヤマユリと中国のリーガルリリー(トランペットユリ)を交配した品種。大輪で、オリエンタルハイブリッドにない黄色系が多い。
リーガルリリー
トランペット系に分類される中国の原種。美しい花形と栽培しやすさで、交配の親に使われました。
コンカドール
大輪のコンカドールは、中心は明るいレモンイエロー~黄色。弁端は白くなるグラデーション。雌しべも雄しべも黒っぽい。
イエローウィン
クリアな黄色のイエローウィン。大輪ですが、つぼみからの開花が早いのが特徴。数輪ずつつぼみはつきます。
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