プリムラの育て方。コツとお手入れ、植え替えや寄せ植えを一挙紹介します

初秋から春先にかけての花の少ない時期に、カラフルで愛らしい花を咲かせ、花壇や鉢植え、寄せ植えに欠かせない花として古くから親しまれるプリムラ。名前(Primula)の語源は、ラテン語の「primus」で、「最初」という意味があります。春の訪れとともに、ほかの植物よりいち早く開花することから、この名前がついたといわれています。プリムラの育て方を、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
プリムラを育てる前に知っておきたいこと
プリムラは耐寒性に優れ、初心者でも比較的育てやすい花です。
プリムラの基本データ
学名:Primula
科名:サクラソウ科
属名:サクラソウ属
原産地:欧州からアジアにかけた広範囲
和名:桜草(サクラソウ、またはセイヨウサクラソウ)
英名:Primrose
開花期:11~4月※品種により若干異なる
花色:赤、ピンク、白、黄、オレンジ、青、紫、複色
発芽適温:15~20℃
生育適温:15~20℃
初秋の9月ごろからさまざまな品種の苗が園芸店に並び、年末ごろには多くの品種が一斉に出回ります。まずは苗から育ててみましょう。種から育てる場合は、品種によって若干異なりますが、その多くが5~6月に種まきを行います。
種類を知ると、選び方がわかります
プリムラは、パンジーやビオラに引けを取らないほど、カラフルな色彩が揃っています。花形もひと重咲き、八重咲き、フリル咲き、サクラの花弁のような形まで多彩。草姿は、株元から太い主茎を伸ばし、その先端にいくつもの花をつける「ポリアンサ(クキ立ち)」タイプと、根元からたくさんの花茎を伸ばし、先端にひとつだけ花を咲かせる「アコーリス」タイプの2種類に分かれます。
プリムラは古くから品種改良が進められ、じつにたくさんの園芸品種が誕生しています。現在、日本で販売されているプリムラの主な品種は、大きく分けて5つです。ヨーロッパ原種をもとにした「ジュリアン」と「ポリアンサ」、アジア原産種をもとにした「マラコイデス」、「シネンシス」、「オブコニカ」です。
プリムラ・ジュリアン
コーカサス原産のジュリエと、ポリアンサ系との交配種がジュリアン系統です。ジュリアンは花色も花形も豊富で、ポリアンサ系統に比べ株がコンパクトなことから、寄せ植えなどの花壇用材料に適しています。苗の出荷の最盛期は10月半ばですが、最近では品種改良により育成された極早生品種が9月中下旬ごろから店頭に並び始めます。
プリムラ・ポリアンサ
現在、品種改良を重ねたポリアンサの原種となっているのは、エラチオール、べリス、ブルガリスの3種類です。ジュリアンに比べ、花も葉もひと回りほど大きく、花弁に厚みがあり、花もちがいいのが特徴です。花色も非常に豊富です。ひと重咲きのほかに、華やかな八重咲きやフリル咲きもあります。12月上旬ごろ、苗が店頭に並びますが、近年は出荷時期が11月上旬に早まりつつあります。
プリムラ・マラコイデス
マラコイデスは中国原産種で、和名でケショウザクラとも呼ばれています。小粒の小さい花がたくさん開花するのが特徴です。苗は12月ごろに店頭に並び始めます。耐寒性が強く、冬から春に開花します。一方で夏の暑さや日本の湿気に弱いことから、一年草として扱います。種は採取しておきましょう。
プリムラ・シネンシス
中国原産種のシネンシスは、葉の裏側が赤味を帯びた銅葉となるのが特徴です。白花のステラ系、赤花や橙花、青紫花などが咲くフィンブリアタ系があります。冬の寒さにも夏の暑さにも非常に強く、育てやすいプリムラです。
プリムラ・オブコニカ
オブコニカはガクの形がすり鉢状になることから、その名前は「円錐形」という意味です。和名の「トキワザクラ」とも呼ばれています。ほかのプリムラよりもやや大きめなのが特徴。オブコニカの花や葉はプリミンというアルカロイドを分泌し、皮膚がかぶれることもあるので注意してください。最近では、プリミンの分泌を抑えた品種も出回っています。
苗に付いているラベルを参考にして、好みの花姿のプリムラを選びましょう。
※以下の育て方、お手入れ、水やり、肥料の施し方などについては、一般的に流通している「ジュリアン」、「ポリアンサ」、「マラコイデス」を中心に紹介します。「オブコニカ」の育て方等は「マラコイデス」に準じるので、これを参考にしてください。
プリムラを育てるときに必要な準備は?
プリムラの苗を購入したら、なるべく早く植え替えることが大事なポイントです。購入後、長期間そのままにしておくと、根がポット内いっぱいに広がり、水切れがおきやすくなります。また、薄いポットは冬の寒さが根に直接当たるため、根に障害がおきたり、苗が弱りやすくなったりします。植え替えの際には、根をやさしくねじるように、ポットから苗を取り出します。
育てるときは、以下のものを前もって用意しましょう。
・プリムラの苗
・ポットより、ひと回り大きいサイズの鉢またはプランター ※花壇に直接植えるのも可
・土(市販の培養土または赤玉土が7:腐葉土が3の割合がベター)
素焼き鉢を使用する場合は、網で鉢底をふさぎ、その上に鉢底石を敷いておきます。初秋に植え替える場合は、根を軽くほぐしましょう。晩秋から冬に植え替える場合は、根を崩さずにそのまま植え替えます。
適した土作りが、育てるコツの第一歩
土は植物の生育を大きく左右します。そのため、適した土作りが、プリムラを上手に育てる第一歩になります。プリムラの栽培には、水もちのよい土が向いています。苗を購入後、鉢またはプランターに移し替える際、あらかじめブレンドした土を用意しておきましょう。混ぜる割合は下記を参考にしてください。
・赤玉土(小粒)が6、腐葉土が3、酸度調整済みピートモスが1
赤玉土はふるいにかけて、みじんを取り除いておきます。腐葉土は手で揉むなどして、細かく砕いておくと、ほかの土と混合しやすくなります。
庭植えの場合は、庭土を20㎝ほど掘り返し、根くずや石を取り除き、3~4割程度の腐葉土をすき込んでおきましょう。
プリムラの育て方にはポイントがあります
プリムラの育て方には、種から育てる方法と、市販の苗を購入して育てる方法があります。植物栽培に慣れていない方、プリムラを育てるのが初めて…という方は、まずは苗から育て始めましょう。
プリムラは戸外で栽培するのに適した園芸植物です。なかでも「ジュリアン」や「ポリアンサ」は耐寒性に強く、雪が多い場所でも育ちます。ただし、雪が少なく凍結するような地域では、凍結と融解を繰り返すことで枯れてしまうことも。冷え込みが厳しい日は、室内に取り込むなどの対策が必要です。やむを得ず室内で栽培する場合は、陽の当たる明るい窓辺などに置きましょう。
プリムラの育て方~株から始める~
プリムラの苗の選び方
初秋の9月ごろから年末にかけて、じつに多種多様な品種の苗が園芸店に並びます。苗にはそれぞれ開花イメージの写真ラベルがついていることが多いので、好みの花姿で選んでみましょう。プリムラの苗を選ぶポイントは、以下の5点です。
①葉色
葉色の薄いものは、肥料切れの可能性があります。葉色が濃く、色鮮やかなものを選びます。
②つぼみ
小さいものから大きいものまで、つぼみがたくさんついている苗を選びましょう。判断しにくい場合は、指でそっと株元を開いて、つぼみの数を確認します。
③下葉
茎の付け根や根元近くについている下葉をチェックしましょう。下葉が枯れている苗は肥料不足、苗が弱っている、病気にかかっていることがあります。下葉が枯れていない苗を選びます。
④葉先
葉先が枯れている苗は、いちど水切れをした可能性があるので避けましょう。また、葉先が黄色くなっているものも肥料切れの恐れがあります。
⑤根元
根元がぐらぐらしているものは、根元から病気が入り、腐ってしまうことがあります。根元がしっかりとしたよい株を選びます。
プリムラの育て方~種から始める~
プリムラの種まき時期
「ジュリアン」、「ポリアンサ」の種まき時期は、通常5~6月、但し暖地では9~10月でも可能です。暑さが苦手な「マラコイデス」は9~10月が適しています。
発芽しやすくさせるコツ
プリムラの種は、発芽するまで乾燥させないよう注意しましょう。種をまく前に受け皿に水を張り、水を吸わせます。
プリムラの種まき方法
ビニールポットの底に鉢底網を敷き、土を入れます。種まき用の土は、下記を参考に配合してください。
・市販の播種用土または酸度調整済みピートモス1、赤玉土小粒1
水を張った大きめの受け皿にビニールポットを置き、土が水を吸い上げるのを待ちます。続いて、1ポットあたり5~6粒の種を土の上にばらまきます。発芽には光が必要なので、種の上に土をかぶせる必要はありません。最後に土の表面が乾燥するのを防ぐため、新聞紙などで覆って輪ゴムで固定し、明るい場所で管理します。夏場を越す場合は、できるだけ涼しい場所で管理しましょう。
丈夫に育てるための、植え替え時期と方法
無事に夏を越したプリムラの株は、少し涼しくなり始める彼岸花が咲く頃に植え替えを行います。鉢やプランターは、ひと回り大きなサイズを用意してください。
種まきを5~6月に行った場合、9月中下旬ごろには苗が大きくなり、植え替えの時期を迎えます。ビニールポットから鉢やプランター、庭に移し替えましょう。
冬を越すプリムラは寒さに順化させます
店頭に並んでいるプリムラの苗の多くは、温かいハウスで温度を上げて育てられています。購入後、いきなり戸外で栽培すると、葉がしおれたり葉先が焼けたり、という現象が起こる場合があります。「順化」という作業を行うことで、これらを防ぐことができます。「順化」とは、生物が異なる土地に移された場合に、その気候条件に適応、または気候条件の変動に次第に適応させるという意味です。
購入後、昼間は戸外の寒風の当たらない場所に置き、夜間は室内の玄関などに置きます。寒い日は室内の明るい場所に移動します。これを10日間ほど続け、徐々に寒さに慣らしていきましょう。
プリムラと仲よくなる、日々のお手入れ
プリムラの水やりのタイミング
「ジュリアン」、「ポリアンサ」の鉢植えの場合は、鉢土の表面が乾いたら、暖かい日の午前中を選んで水をたっぷり与えます。「マラコイデス」の鉢植えは、水を入れた大きめの容器に鉢の底面を付け、下から吸い上げる方法で行います。上から与える場合は霧吹きなどを使います。
庭植えの場合、基本的に水やりは必要ないですが、晴天が続いて乾燥するようであれば水やりしてください。このとき、花や葉に水がかからないよう、先の細い水差しで株元に水を与えるようにしてください。
冷え込みが続く真冬には、やや乾かし気味に管理する必要があります。
プリムラの肥料の施し方
「ジュリアン」、「ポリアンサ」の鉢植えは、葉の色が薄くなったり、花の数が減ってきたりしたら、規定濃度の液体肥料または適量の緩効性化成肥料を施します。「マラコイデス」の鉢植えは、規定濃度を2倍に薄めた液体肥料を週に1回、施すようにします。庭植えの場合は、適量の緩効性化成肥料を使います。
プリムラの花が咲いたら…
花つきをよくするためにも、花が咲いたあとは、こまめに花がら摘みを行います。摘み方は、咲き終わった花の茎の付け根からハサミを入れ、花がらを切り取ります。手で引っ張ると、株が浮いて根を傷つける恐れがあるので、必ずハサミを使いましょう。枯れ葉も同様に、こまめに取り除きます。
プリムラの増やし方が知りたい!
プリムラは種まき、株分けで増やすことができます。
種まきは通常5~6月に行い、発芽した苗はビニールポットに植え、夏場はできるだけ涼しい場所で管理します。育った苗は9月中下旬ごろに鉢やプランター、庭に植え替えます。
無事に夏越しした株は、株分けで増やせます。ひと回り大きくなった株を鉢から根ごと抜き取り、軽く根鉢をくずして土を落とします。株元をしっかりと持ち、手でふたつに引き分けていきます。細かく分けすぎると生育が遅れる場合があるので、株の大きさや芽が付いているかどうかを確認したうえで行いましょう。
毎日の観察が、病気や害虫を防ぐコツです
暖かい時期に入り、気温が上がるとアブラムシやヨトウムシなどの害虫が発生しやすくなります。害虫を発見したら、こまめに駆除することが大切です。ひどい場合は、市販の薬剤を株元に散布し、防除しましょう。高温乾燥が続くと、ハダニが発生することがあるので、防止策として霧吹きで葉の表と裏に水をかけるようにしましょう。ナメクジの発生にも注意しましょう。
害虫以外に考えられるプリムラの病気は、主に以下の2つです。
軟腐病
高温多湿の時期に、植物に発生するメジャーな病気のひとつです。発病すると急にしおれはじめ、地面と接するクキや葉などが腐ります。腐った部分はドロドロになり、独特の異臭を放つようになります。発病後、回復させることが難しいため、発見したら素早く抜き取って処分します。予防法としては、枯れた下葉をまめに取り除き、通気性を保つことです。日々の除草も軟腐病を防いでくれます。雨による泥の跳ね返りを防ぐため、ビニールなどでマルチングを行いましょう。
灰色かび病
高温多湿の時期に、灰色のカビに侵され、腐敗する病気です。開花後の花弁が株内に落ちている場合、発病の可能性が考えられます。予防法は、こまめな換気と枯れ葉や花がら摘み、除草を行うことです。
プリムラと相性のよい寄せ植えの植物
さまざまな品種、色、花形をもつプリムラは、多種多様な寄せ植えが楽しめる花です。「ジュリアン」と「ポリアンサ」は花の位置が低いため、プリムラより背の低い素材を選ぶのがポイントです。使いやすい素材は、「シュガーバイン」、「ハツユキカズラ」、「ワイヤープランツ」、「プミラ」などのグリーンです。カラフルなプリムラの花を引き立てるのはもちろん、葉に入った斑のコントラストが白や黄色のプリムラにも良く合います。これらをプリムラの株と株の間に挟み、鉢やコンテナから這わせるように垂らすと、寄せ植えに動きが出ます。
プリムラは蒸れに弱いので、寄せ植えにする場合は株と株の間を5cmほど空け、プリムラの葉と葉がふれないように気をつけましょう。
Credit

監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・角山奈保子
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