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装飾的な花、オーナメンタルな姿を楽しみたい エリンジウム概要編【乙庭Styleの植物20】
ヨーロッパの有名庭園や、フラワーアレンジメントなどで昨今見かける宿根草のエリンジウム(Eryngium)。装飾的な花とオーナメンタルな姿で、庭植えにしたい人気の植物です。ここでは、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんに、エリンジウムの特徴と品種の選び方、育て方のコツを解説していただきます。
目次
装飾的な花、オーナメンタルな姿を楽しみたいエリンジウムの仲間
装飾的・神秘的な雰囲気の花で人気の高い植物、エリンジウムについて、日本の気候でも栽培できる原種・品種や栽培のコツなどを、今回から2回にわたりご紹介します。今回は前編の概要編。次回、後編は日本でも庭植えで楽しめる品種のご紹介です。
エリンジウムは、特にメタリックな装飾的造形や神秘的な銀青紫の花色が素晴らしい大輪種などがあり、ヨーロッパの有名庭園の宿根草植栽を洋書やネットで見て、庭植えしたいとお考えの方も多いと思います。
エリンジウムはフラワーアレンジメントでも人気の高い花材で、フラワーショップの店頭では輸入のエリンジウムの花に出合うこともありますが、庭植え用の苗は、流通量も育て方の情報も少ないです。導入するにしても、どんな品種を選んだらよいか迷ってしまうかもしれませんね。
エリンジウムの一部の種は、高温多湿の環境が苦手で、日本では夏越しが難しいものもあり、品種選びやそれぞれに応じた育て方のコツがあります。ちょっと導入のハードルが高い分、環境に合った種を選んで元気に育てられると、庭友達からリスペクトされる差別化アイテムになりますよ。
抜群の個性と存在感で宿根草植栽やドライガーデンの絶好の見どころとなるエリンジウム。まだまだ日本ではまとまった情報が少ない植物ですが、ぜひ、進取の気性のある園芸家の方々にとって導入の指針になれば幸いです。
エリンジウムのプロフィール
エリンジウム属は、セリ科の宿根草で、世界に100~200種ほどの原種があります。
セリ科というと、上写真のフェンネルに見られるような散開花序の花を連想する方も多いかもしれませんが、エリンジウムは球形または円柱状の頭状花序になるのも大きな特徴です。また、メタリックで装飾的な花弁のように見える部分は、ツボミを保護する役目を担う苞葉、つまり葉の一種なんですね。
上写真のエリンジウム・マリティマム (Eryngium maritimum)を例に取ってみましょう。青紫色の球状の花心のように見える部分が小さな花の集まりで、銀灰色の尖った花弁のような部分が苞葉となります。
エリンジウム属は、ヨーロッパの高山性のものから南米原産種まで、全世界的に分布し、生息地域もさまざま。性質や見た目、開花期、栽培の仕方も種類によって異なります。それだけ多様性に富んで、幅広く楽しめる植物ともいえます。
フラワーアレンジメントでも主役を張れる素晴らしい大輪花の代表的な原種、アルピヌム(Eryngium alpinum)は、本当に美しい花ではありますが、ヨーロッパの高地原産種で高温多湿環境には弱く、日本では夏越しが難しいものの一つです。
ですが、ちょっと目先を変えて、アルピヌムとより温暖な地域原産種との交雑種、ザベリィ(Eryngium x zabelii)系統の品種を選べば、アルピヌムの神秘的な花色や大輪花を継承しつつ耐暑性も改善されているので、日本でも庭植えで楽しめます。
また現在、世界を席巻する宿根草植栽家、ピート・アウドルフ(Piet Oudolf)氏が好んで使う素材の一つ、エリンジウム・ユッキフォリウム(Eryngium yuccifolium)などは、耐寒・耐暑性に優れ、夏の花だけでなく、ドライになって秋まで残る花殼のオーナメントや、グラスとブロメリアを足して2で割ったような独特な葉姿など、開花期以外も楽しめます。
エリンジウムは、どちらかというと乾燥地や冷涼地原産の原種も多く、日本で庭植えする場合、品種選びと、それぞれの性質に見合った植え場所選びが栽培のポイントになってきます。次項にてエリンジウムの育て方のコツについて解説します。
育て方のコツ1
原生地などの情報からタイプを把握する。
前述のように、エリンジウムは全世界のさまざまな環境の場所に分布しているので、種によって大きく性質が違います。日本の高温多湿環境では栽培しにくい原種もありますので、栽培以前のコツとして、性質を把握して、品種選びの段階で誤った選択をしないように注意が必要です。
本記事では、日本でも庭植えで栽培できる種に絞って解説し、次回記事にて詳しい品種をご紹介します。本記事では、これらの種を便宜上下記のような3つのタイプに大別して解説します。
タイプ1
やや高温多湿に弱く、冷涼な地域できれいに育つタイプ
エリンジウム・ギガンテウム(Eryngium giganteum)など、梅雨~夏にかけての高温多湿で弱ってしまいがちで、夏に冷涼な地域でのほうが栽培しやすいタイプです。温暖地では直射日光や水はけに注意が必要です。
タイプ2
カラッとした乾燥気味の環境を好むタイプ
南ヨーロッパ地中海沿岸地域原産のエリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)など、暖かいけれど降水量の少ない地域原産種に多く見られます。ある程度耐暑性はあるものの、蒸れたり水はけが悪いと弱りやすいので、水はけ・風通しよく管理することで維持しやすいタイプです。
タイプ3
高温多湿にも耐え、どちらかというと温暖地向けのタイプ
南米原産のエリンジウム・アガビフォリウム(Eryngium agavifolium)など、降雨量もあり暖かい地域を原産とする種。高温多湿に強く、日本の夏環境にも合い、概して育てやすいです。このタイプ、属する原種は、葉姿がアガベやディッキアなどのトロピカルオーナメンタルプランツに似たものも多く、日本でのドライガーデン素材としても珍奇で面白いでしょう。
育て方のコツ2
セリ科の植物は花後のケアが大切です。
エリンジウムに限らず、セリ科の植物に多く見られる特徴ですが、花後にたくさんタネを実らせてしまうと株が一気に弱り、宿根草とはいえども一・二年草のように枯れてしまいがちなものもあります。
特に、春~初夏咲きで、開花後に梅雨や真夏など植物にとって過酷な高温多湿環境がやってくるライフサイクルの種は注意が必要です。
前項のタイプ1と2の種類は、開花をある程度楽しんだら、なるべく早い段階で花茎を切り戻して株をリフレッシュさせるとよいでしょう。開花初期の段階で切り花にして部屋で活けて楽しめば、観賞と株の維持の面で一挙両得ですね。
一方、タイプ3に属する種は、夏に開花しても弱ることはあまりありません。
また、タイプ1と2の原種は、宿根草とはいっても比較的短命だったり、注意をしていても夏の過酷さで枯れてしまうこともあるので、タネ採り用に少しだけ花がらを残しておいて、種まきでバックアップをつくり、世代交代をしながら維持していってもよいでしょう。
エリンジウムやアンジェリカなども含め、セリ科植物の一部は、採取後の種子の劣化が早く、期間をおいてしまうと発芽率がとても低くなる傾向があります。新鮮な種子を採取したら、株の周囲にそのまま採り播きしたりすると、将来的に群落をつくることもできます。
「美など表面的なものにすぎないという者もいる。
しかし思考よりは表面的なものではない。美は驚異中の驚異だ。」(オスカー・ワイルド 詩人・作家 1854 – 1900)
Credit
Photo/1) Natalia van D / 2)Keith 316 /3)Julietphotography /4) Victoria Kurylo /5)J Need /6)vvoe /7)Karin de Jonge-Fotografie /8)RukiMedia /9)Renee Heetfeld /10)Anne Kramer /11)/VIIIPhotography /12)Mariola Anna S /13)Natalia van D /15)aprilante /16)Erik Agar /Shutterstock.com
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