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東京2020オリンピック・パラリンピックを花々で飾ろう! 夏花勉強会レポート

東京2020オリンピック・パラリンピックを花々で飾ろう! 夏花勉強会レポート

来年に迫った東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて、会場となる東京の街を花々で飾るおもてなしが、花業界の人々の中で企画されています。開催を一年後に控えた2019年7月29日、猛暑の中でも屋外でたくさんの花が咲く東京都の夢の島公園にて行われた、「夏花勉強会」の模様をレポートします。

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夏花壇を彩るニューフェイスの花々

夏花

みなさんは夏の花壇というと、どんな花を思い浮かべるでしょうか? ヒマワリやペチュニアなど、夏に咲く定番花にもいろいろありますが、他のシーズンと比べてバリエーションが少ないと感じる方も多いのではないでしょうか。じつは、ガーデニングが下火となりがちな夏の季節を花々で彩るべく活動している「夏花勉強会」の研究により、そんなイメージを払拭するバリエーション豊富な夏花たちが元気に咲いている場所があります。

勉強会の会場となったのは、東京都にある夢の島公園。この公園は、2020年に行われる東京オリンピック・パラリンピックで、アーチェリー競技の会場に決定していることもあって、夏花を実際に植栽した花壇の見学会と、夏花についての講演の会場に選ばれました。

「夏花勉強会」とは

夢の島公園

「夏花勉強会」は、厳しい暑さが予想される2020年の東京オリンピック・パラリンピックの夏に、花々で彩るおもてなしを成功させることを目標に、過酷な日本の夏にも負けずに咲く「夏花」についての知識を共有する、有志による勉強会です。

お花がかり株式会社の竹谷仁志さんを中心に、花業界やガーデニング業界の有志により、この活動がスタートしたのは2009年。当初は2016年のオリンピック招致に向けて、東京の花を使っての活動をしていましたが、2020年に東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった2013年からは、夏に行われる大会期間を花々で彩り、「花を使ったおもてなし」をすべく活動しています。

夢の島公園に「アーチェリー」をイメージした夏花花壇が出現

夢の島公園 夏花花壇

会場となった夢の島公園には、実際に夏花を植栽したモデル花壇とともに、各種苗会社がプッシュする夏花を植栽した企業花壇もつくられ、夏場の生育状況などを確認することができました。それでは、夏花花壇をご紹介しましょう。

夢の島公園 夏花花壇

こちらは、花々のグラデーションが元気をくれる、お花がかりの竹谷さんが中心になってつくった夏花大花壇。夢の島公園が東京2020オリンピック・パラリンピックでアーチェリーの会場となることに合わせ、アーチェリーの的をモチーフとした花壇です。彩り豊かな花壇の中の小道を歩む人をアーチェリーの矢に見立て、花壇を見る人自体がデザインの一部となるようにしたという竹谷さん。会場ごとに行われる競技種目は異なりますが、花壇制作アイデアの一つとして参考になりそうです。

夢の島公園花壇
アーチェリーの的をイメージしたエリア。カラフルな花々が同心円状に植栽されています。

この花壇に取り入れられた花材はもちろん、すべてが暑さに強い夏花。ジニアやマリーゴールドなど、品種が豊富な花も、それぞれの花ごとにラベルが付いているため、どの品種がどのような姿になるのか、実際に目で見て確認することができます。長雨の影響で傷んでしまった花もあったようですが、真夏の太陽にも負けずにカラフルな花が生き生きとしていました。

アゲラタム
青色が涼しげなアゲラタム。
夏花花壇
猛暑にも花が絶えず、順調に育つ種類はこんなに豊富。

涼しい日陰を提供するグリーンカーテン

グリーンカーテン

棚やネットに誘引することで、過ごしやすい日陰をつくってくれるつる植物は、夏のおもてなし花壇のキーアイテムにもなりそう。あらかじめつるを伸ばして箱詰めした苗の流通も可能なつる植物の候補として、5種がセレクトされていました。どれも可愛らしい花も楽しめる、夏に丈夫なものばかり。

グリーンカーテン
グリーンカーテン
花咲くグリーンカーテンをつくる、アサリナやミナ・ロバータ(千葉県農林総合研究センター)。

はっきりした色合いの夏花花壇

夏花花壇

先の夏花大花壇がさまざまな色彩を調和させたデザインだとしたら、こちらは花ごとの色や形を強調したデザイン。花をブロック状に塊で植え込み、それぞれの周囲を目を引く黒のトウガラシ‘ブラックパール’で縁取っています。

夏花花壇
花壇の深さは枕木の厚み分だけでもOKということも驚き。花壇設置の可能性が広がります。

品種ごとに植えられた企業花壇

企業花壇では、各種苗会社おすすめの夏花が植えられ、その生育状況を実際に見て確認することができます。いくつかの花苗をピックアップしてご紹介します。

センニチコウ’ネオン’シリーズ
丸い花が可愛いセンニチコウ’ネオン’シリーズ(サカタのタネ)。
スーパーチュニアのビスタ ミニ‘ブルースター’
涼やかな色合いのペチュニア‘スーパーチュニア・ビスタ・ミニブルースター’(ハクサン)。
タイタンビカス
大輪の花が存在感抜群のタイタンビカス(赤塚植物園)。
ペチュニア‘マドンナの宝石’
優しい色合いの花をふんわりと咲かせるペチュニア‘マドンナの宝石’(村岡オーガニック)。
Truebloom‘レッドキャプテン’
真夏でもたくさんの花をつける驚くほど丈夫なバラ、Truebloomの‘レッドキャプテン’(高松商事)。
サンビリーバブル‘ブラウンアイガール’
次々と花咲く可愛い小輪ヒマワリ、‘サンビリーバブル・ブラウンアイガール’(ハルディン)。

夏に花を咲かせることを徹底的に研究
約250種を有望種として選定

勉強会では、夏花に関する講演会も行われました。この日は、「夏花勉強会」の中心メンバーでもあるお花がかりの竹谷さんがスピーチ。テーマは「夏花について」です。東京2020オリンピック・パラリンピックを機に、日本の夏を花の季節にすべく、花業界に何ができるのかを考えます。

夏花

オリンピックの開催にあたり、開催都市を彩る花は欠かせない存在です。例えば、北京オリンピックで使われた花苗のポット数は、8~10億ともいわれ、これは日本全体の花苗市場で1年間に生産される苗数とほぼ同じ。ちなみに、そのほとんどの花は春と秋に出荷され、夏にはほとんどつくられていません。

日本でいえば、1964年秋に行われた東京オリンピックの際にも、開催が決まった直後から研究者や種苗メーカーがオリンピックを花で飾る呼びかけをし、さまざまな業界が一丸となって東京で秋に咲く花の研究試験を行った結果、開会式やマラソンコースなどオリンピック期間中の各所を花で飾ることができたという事実があります。じつはそれまで、花といえば春のお花見を指すことが多く、秋の花というのはあまり一般的ではなかったそう。オリンピックに向けたこうした先人の努力が実を結び、大会期間中を美しい花々で彩ったにとどまらず、現在では秋は春にも引けを取らないガーデニングシーズンとして全国で認知されたのです。

コスモス
現在では、秋も春に劣らない花の季節。

このような先人の功績を知り、真夏に行われる2020年の東京オリンピック・パラリンピックの期間中を花で彩る活動を考え始めたという竹谷さん。開催が決まった2013年秋に、2009年からオリンピック招致について共に活動していた花仲間に声をかけ、真夏に咲く花の発見、育成に取り組んできました。六本木ヒルズやサンシャインシティなどの都心部で、それらの花の夏場の生育状況試験を始めたのが2014年のことです。

しかし、東京の夏は植物にとって非常に過酷な環境。実際にテストをしてみると、暑さ以外にもたくさんの問題が発覚しました。

夜の都心部
都心部ならではの問題も。Luciano Mortula – LGM/Shutterstock.com

日中の気温は言うに及ばず、夜温も25℃を下回らない日が続きます。一般に植物は25℃以下で休息できるといわれますが、熱帯夜が続く東京の夏では十分に休むことができず、ストレスで花を閉じてしまうことも。また、ビルに囲まれた都心部では、一日中日が当たる場所は稀な一方、夜でも照明により明るい状態が続き、特に短日植物は花芽をつけないこともあります。また人工地盤や、強烈なビル風、ゲリラ豪雨も問題になります。これらに加えて、コガネムシやハトなどによる食害も課題に。特にコガネムシは食欲旺盛で、せっかく咲いた花も一晩で丸坊主にされてしまうこともあったといいます。

最初の年は、種苗メーカーからおすすめとして集まった夏花のうち、半分以上が落第点。それほど東京の夏は厳しい環境なのです。それでもめげずに試験を続けた結果は夏に強い花を選定して取りまとめた『夏花による緑化マニュアル』に掲載しています。

キキョウ
マニュアルには掲載していませんが、キキョウも元から日本にある夏に強い花の一つ。

夏に強い花が分かってきたところで、いろいろな形でそれを周知しようと取り組みも行っています。日比谷公園の花壇で、花火をテーマにおもてなしガーデンをつくったり、隅田川テラスに夏花を使って植栽したり、展示会で夏花を紹介したり。2018年からは、今回の勉強会の会場である夢の島公園でも活動を始めています。

『夏花による緑化マニュアル』で夏の花壇をつくろう

『夏花による緑化マニュアル』

『夏花による緑化マニュアル』は、夏花勉強会により選定された、暑さや乾燥などの過酷な気候にも耐えて生育よく花を咲かせる夏花から、およそ70品目を掲載した、夏花に関する情報が盛りだくさんのマニュアルです。この制作を主導している、東京都農林総合研究センターの岡澤立夫さんによると、マニュアルを制作する契機となったのは、夏は花の利用が少なく、夏に花を使うための情報も少ないという現状。そうした中で、耐乾性・耐陰性があり、夏に咲く花を網羅したマニュアルの必要性を感じ、夏花の選定がスタートとしたと言います。

夏花として選定された花の一部
夏花として選定された花の一部。講演スライドより。

1964年の東京オリンピックの際にも、秋花壇について同様の取り組みが行われていたという記録があったことも励みとなりました。

選定にあたっては、民間企業である竹谷さんのプロジェクトや、都内生産者、東京都の事業と連携。また、東京都の研究センター以外にも、千葉県、埼玉県の研究センターとも協力して行われました。選定では、7~9月にかけて2~3回審査を行い、夏の暑さに耐えられるかを調べて点数化。また、乾燥に対する試験も実施し、耐乾性も併せて調査しました。4~5年かけて調査した品種数は約1,200種。そのうちの約250種が夏花として認定されました。つまり、夏に強いと思われていたものの1/5ほどしか基準を満たさなかったということです。

また、岡澤さんは作業効率についての試験も実施。植え込みには普通3.5号ポット苗が使用されますが、3.5号、4号、5号ポットによる1㎡当たりの作業効率を比較したところ、4号ポットを使用することで作業時間は3.5号ポットの約4割減となり、最も効率よく植えられることが分かりました。この結果を利用することで、植栽もより効率よく進められそうです。

さて、『夏花による緑化マニュアル』は、植栽デザイナーが利用しやすいよう、花色で植物を分類。花壇苗やグラウンドカバーなどの用途ごとに、約70種の植物が掲載されています。マニュアルは公益財団法人東京都農林水産振興財団のホームページよりダウンロードすることができます。

・『夏花による緑化マニュアル』ダウンロードはこちら

このマニュアルは花業界向けですが、一般向けの夏花リーフレットも制作。こちらも、東京都農林水産振興財団のホームページに掲載されているほか、全国の花屋にて配布される予定です。

・リーフレットのダウンロードはこちら

オリンピックに向けて、マニュアルやリーフレットも活用しながら、花やガーデンに関わるみんなで協力して夏花を盛り上げていきたいですね。

Credit


写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

取材協力/夏花勉強会

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