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サクラやモミジなどと並び、日本人の原風景に印象強く刷り込まれている植物の一つ、アジサイ。花のイメージが強いアジサイですが、葉や茎も見どころがあり、長期間楽しめる品種があります。ここではガーデニングの植物選びにオススメのアジサイ6種と栽培のコツを、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップ「ACID NATURE 乙庭」のオーナーで、園芸家の太田敦雄さんにご案内いただきます。

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葉や茎も美しく長期間楽しめる魅惑のアジサイ

晩春のバラシーズンが終わった初夏から梅雨の風物といえば、アジサイの花を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

アジサイ
Anakumka/Shutterstock.com

アジサイの仲間には、現代の壮麗な西洋アジサイの品種改良の礎となったガクアジサイ (Hydrangea macrophylla f. normalis) や、ヤマアジサイ (Hydrangea serrata) など、日本原産種も多く、古くは万葉集の和歌にも詠まれ、サクラやモミジなどと並び、日本人の原風景に印象強く刷り込まれている植物の一つといえるでしょう

ヤマアジサイ
日本原産のヤマアジサイの品種、’黒姫’ 。High Mountain/Shutterstock.com

また、アジサイの花は、土壌の酸性度や咲き進み具合などの環境によって、花色が移ろいます。アジサイの花が見せる定めなく移り変わる諸相は、歌人 正岡子規が「紫陽花や はなだにかはる きのふけふ」と詠んだように、物事の曖昧さや微妙さの中に美的な趣を、移り変わっていく世の無常さに人生の機微を見出す日本人の精神性とも相通じるものがありますよね。

ガクアジサイ
ガクアジサイの斑入り品種、ハイドランジア ‘レモンウェーブ’。

日本の気候にも合い、流麗でバラエティーに富んだ花で人気の高いアジサイ。今回はそこからさらに一歩踏み込み、カラーリーフやカラーステムなど、花以外の見どころにも着目して、花と葉や茎とのコンビネーションや開花期以外の変容や多様性も楽しめる魅惑の品種をご紹介します。

花の少ない時期も見どころの多い庭づくりのヒントになれば幸いです。

アジサイ
ハイドランジア ‘ミスサオリ’ とシダやホスタなどを組み合わせた植栽例。

セレクト1
ハイドランジア・クエルシフォリア(=カシワバアジサイ)‘リトルハニー’

ハイドランジア・クエルシフォリア(=カシワバアジサイ)‘リトルハニー’

ゴワゴワした葉のテクスチャーや円錐状の白~白緑色の壮麗な花序が特徴的な、「カシワバアジサイ」の名でも知られる北米南東部原産種、クエルシフォリアの矮性黄金葉品種です。

アジサイ
特に発色のよい春の若葉。

春のまばゆいばかりの芽吹きから、カシワバアジサイ特有の秋の皮革製品のような照り感のある紅葉まで、葉の美しさを存分に楽しめる品種です。

カシワバアジサイ
カシワバアジサイの鮮やかな秋の紅葉。Tikta Alik/Shutterstock.com

通常種のカシワバアジサイよりもコンパクトに育ち、樹形のまとまりもよいのが特徴です。直射日光に当たると葉焼けしやすいので、強い日射しを避けられる場所に植えるとよいでしょう。

【DATA】
■ 学 名:Hydrangea quercifolia ‘Little Honey’
■ アジサイ科
■ 主な花期:晩春~初夏
■ 樹 高:1m程度
■ 耐寒性:普通
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:半日陰~日陰(強い日陰だと花数が減る)

セレクト2
ハイドランジア ‘レモンウェーブ’

「三光斑」と呼ばれる、緑地の葉に白と黄色の濃淡不規則な外斑が入るカラーリーフがアーティスティックな、ガクアジサイのカラーリーフ品種です。

ハイドランジア ‘レモンウェーブ’

ガクアジサイ特有の外側だけに装飾花がつく花容や、(日本での弱酸性土壌環境では)薄青紫の花色も楚々として美しく、やや派手な斑入り葉とのバランスもよいのが魅力です。ガクアジサイやホンアジサイの血を受け継ぐ西洋アジサイなどマクロフィラ系の品種は、真夏~初秋にかけて翌年に咲く花芽が形成されます。そのため、秋以降に剪定を行うと花芽がなくなって開花しないことがあります。本種は比較的コンパクトで樹形もまとまりやすいため、さほど剪定の必要はありませんが、剪定する場合は、花後、夏の早めの時期に行うとよいでしょう。

【DATA】
■ 学 名:Hydrangea macrophylla ‘Lemon Wave’
■ アジサイ科
■ 主な花期:晩春~初夏
■ 樹 高:1.2~1.5m程度
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:強
■ 日 照:半日陰~日陰

セレクト3
ハイドランジア ‘ミスサオリ’

深緑~黒紫の濃厚な葉色と、八重咲きで白地に濃ピンクの覆輪が入る花も美しい、壮麗で見どころの多い魅惑的な品種です。

ハイドランジア ‘ミスサオリ’ 
Debu55y/Shutterstock.com

本種 ‘ミスサオリ’は、日本人育種家の作出による素晴らしい品種で、2014年チェルシーフラワーショーのプランツオブザイヤー賞をはじめ、ヨーロッパの数々のフラワーアワードを受賞しています。特に春の芽吹き時に濃く現れる照りのある黒みの葉色が、カラーリーフプランツとしても、とても植栽映えします。

ハイドランジア ‘ミスサオリ’ 
‘ミスサオリ’ の黒み葉にトラデスカンティアの黄金葉品種などを合わせて。

ヨーロッパで作られた西洋アジサイよりもさらに派手さを感じさせるほど装飾的な花も、ダークで渋い葉色との対比で、悪目立ちせず、シックな雰囲気を漂わせます。青葉や黄金葉のホスタ、シダ類などととてもよく似合う低木素材です。強い日陰だと葉の黒みが出にくいので、明るめの半日陰に植えるとよいでしょう。

【DATA】
■ 学 名:Hydrangea macrophylla ‘Miss Saori’
■ アジサイ科
■ 主な花期:晩春~初夏
■ 樹 高:1m程度
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:強
■ 日 照:半日陰~日陰

セレクト4
ハイドランジア ‘ゼブラ’

アジサイの品種改良の中でも新トレンドともいえる、花茎の色に着目して改良された新感覚の黒軸品種です。

ハイドランジア ‘ゼブラ’ 

淡白緑~純白へと移ろっていく清楚な花色と黒みの強い茎によるモノトーンに近い対比が、とても大人っぽくシックな雰囲気を漂わせます。西洋アジサイらしい壮麗な球状の花序もゴージャス。抑制の効いた色みと華やかな花容とのバランスが絶妙で、とてもおしゃれな品格があります。

ハイドランジア ‘ゼブラ’ 
黄金葉の低木と合わせると本種の黒軸が引き立ちます。

アジサイに限らず、ガーデニングにおいて葉の色にも着目して植栽をコーディネートするアプローチはほぼ一般化してきていますが、茎の色みをデザインに盛り込む審美眼は、新感覚かつ通っぽいトレンドといえます。ぜひ先取りしていきたいものですね。

【DATA】
■ 学 名:Hydrangea macrophylla ‘Zebra’
■ アジサイ科
■ 主な花期:晩春~初夏
■ 樹 高:1m程度
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:強
■ 日 照:半日陰~日陰

セレクト5
ハイドランジア・アスペラ(=ヒマラヤタマアジサイ) ‘紅旗’

ヒマラヤタマアジサイの名でも知られるヒマラヤ~中国・台湾辺りを原産とするアスペラ種の銅葉品種です。

ハイドランジア・アスペラ(=ヒマラヤタマアジサイ) ‘紅旗’ 

アスペラ種の葉は、表面に短い繊毛が生え、マットな質感を呈します。厚みと照りがある西洋アジサイの葉とは一見して違った個性を持った葉です。

ハイドランジア・アスペラ(=ヒマラヤタマアジサイ) ‘紅旗’ 
Foxxy63/Shutterstock.com

また、ガクアジサイをさらにボリュームアップしたような、薄紫色に盛り上がった両性花とその周縁にまばらに咲く淡い白紫色の装飾花からなる大きな花序も見応えがあります。他のアジサイよりは少し遅れて咲き始めます。

ハイドランジア・アスペラ(=ヒマラヤタマアジサイ) ‘紅旗’ 

本種 ‘紅旗’は、特に枝先の若葉に赤紫が現れ、花と葉色とのコントラストも楽しめる品種です。日本原産のアジサイに比べて少し寒さに弱く、日本の寒冷地での栽培にはあまり向きません。エキゾチックな雰囲気もありますので、チユウキンレン(地湧金蓮)など亜熱帯の異国情緒を感じさせるような植物と組み合わせても面白いでしょう。

【DATA】
■ 学 名:Hydrangea aspera ‘Koki’
■ アジサイ科
■ 主な花期:初夏~夏
■ 樹 高:1.5〜2m程度
■ 耐寒性:普通
■ 耐暑性:強
■ 日 照:半日陰~日陰

セレクト6
ハイドランジア・ペティオラリス(=ツルアジサイ)‘シルバーライニング’

「ツルアジサイ」という和名でも知られる、日本の北海道~九州にかけての山地原産種、ペティオラリスの美しい白覆輪葉品種です。

ハイドランジア・ペティオラリス(=ツルアジサイ) ‘シルバーライニング’

ペティオラリス種は幹や枝から気根を出して、支持体に絡みつきながら這い上がる性質を持っています。ブッシュ状低木が多いアジサイの中でも異色のつる状樹形に育つ種です。

アジサイ ペティオラリス
緑葉の原種、ペティオラリス。COULANGES/Shutterstock.com

生育はやや緩慢ですが、最終的には大きく育つので、植栽奥にある構造物や高木に付着させて、背景の緑化などに使っても有効です。

つるアジサイ
Flegere/Shutterstock.com

ガクアジサイに似た白緑色の花も爽やかです。本種 ‘シルバーライニング’ は、初夏の花だけでなく、白覆輪の葉も美しく春~秋まで楽しめます。

つるアジサイの植栽
本種 ‘シルバーライニング’ と、キブシの仲間、スタキウルス・ユンナネンシスの銀葉タイプ(写真上)の組み合わせ例。

秋の黄葉も美しく、初夏の花も含め、移ろいゆく季節感の演出にもオススメです。直射日光に当たると葉焼けしやすいので、半日陰~日陰に植えるとよいでしょう。

ペティオラリスの紅葉
ペティオラリス種の鮮やかな秋の黄葉。photowind/Shutterstock.com

【DATA】
■ 学 名:Hydrangea petiolaris ‘Silver Lining’
■ アジサイ科
■ 主な花期:初夏~夏
■ 樹 高 :5〜10m程度(気根を出して支持体に付着して這い上る)
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:普通
■ 日 照 :半日陰~日陰

アジサイ植栽

世は定めなきこそいみじけれ」
(吉田兼好 歌人・随筆家 1283年頃 – 1352年以降 推定)

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