少ない本数でも効果的に魅せるチューリップ。セレクトとコーディネートのコツ〜前編〜
誰にとっても身近な春の花、チューリップを、斬新で個性的な、唯一無二のガーデンをつくる素材として活用するポイントとは? 分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで、園芸家の太田敦雄さんが、新鮮なチューリップの使い方をご提案します。
目次
小さな庭でも効果的なチューリップのセレクトとコーディネート
チューリップは春の庭を象徴するような花。毎年ガーデンに植えて楽しんでいる方も多いことでしょう。しかし、個性的な庭づくりをしたいと思う場合、実はチューリップのように誰もが知っている、あるいは植えるような花ほど、他人とカブりやすく、効果的に魅せるのが難しいものなのです。
と同時に、気の利いた使い方ができれば、感度の高い園芸通の人たち(トレンドを発信するイノベーターや、時代の雰囲気を感知・先取りできる進取な感性の持ち主。どの分野でもおおむね全体の15%程度は存在するといわれています)のアンテナを刺激するようなデザインにすることも可能。高感度な人たちはインフルエンス力・発信力がありますので、そこから多数派の園芸ファンに情報が広がります。つまり、そのチューリップの使い方においては一気に第一人者になれる可能性も秘めているのです。
私も狭い自庭にチューリップを植える年は、ちょっと気合いを入れて、各々の個性が際立つように慎重に品種を選び、植え方も工夫します。そうすると、春の定番花であるチューリップも、まったく別の魅力的な表情を見せてくれます。
そんな観点から、今回から2回に分けて、チューリップを取り入れた、乙庭流のユニークな庭づくりのコツをご紹介。小さな庭でも実用的に使いやすい、各品種5~10球程度の少ない球数でも目を引き、植栽効果を上げるチューリップの品種選びや植え方について、私なりの手法をお伝えしたいと思います。小さな庭やベランダなど、限られたスペースでガーデニングを楽しんでいる方のヒントになれば幸いです。
チューリップは「色のカーペット」「色の川」を目指さない
チューリップは群像美を感じさせる植物の代表格。春の植物園で、カラフルなカーペットや流れる川のように植えられたチューリップの光景は夢のようですよね。チューリップの植栽といえば、下写真のようなイメージを思い浮かべる方も多いと思います。
しかし、この圧巻の色の世界観や風景は、視界いっぱいの広大さがあってこそのもの。ご家庭でこの雰囲気を再現しようとすると、毎年何百もの球根を植えなくてはなりませんし、相当広い庭でないと難しいです。それに加えて大輪系のチューリップは、きちんと肥培・掘り上げ管理しないと一年草扱いになるため、コストフルで手間も労力もかかります。いろんな意味でかなり大変なのです。
その割には、花を楽しめるのは春の3週間ほど。誰もが植える定番花でもあるので、関心を持って注目してもらいたい場合、費用対効果がよくないともいえます。見映えをよくするためには、より多くの球根を植えなくてはならず、さらに費用と労力をつぎ込むスパイラルに陥ってしまいがち。チューリップにこだわる強い動機がないならば、お財布にも身体にも負担をかけずに効果的に楽しむのもありではないでしょうか。
現代はコト消費やシェアリングの時代。視界一面に広がるチューリップのカーペットは植物園や大規模庭園に任せ、お出かけして見事な植栽を観ることにし、自庭では身軽に楽しむほうがよいかもしれませんね。
たくさん植えることよりも、強い印象を残すことを重視する
「ACID NATURE 乙庭」の店頭植栽は、アスファルト舗装上に鉢植えの植物を隙間なく置いて構成している寄せ置き植栽です。植栽面積も20㎡程度なので、決して広いわけではありません。当然、「色のカーペット」は広さ的に無理ですし、むしろ建て込んだ都市部の住宅の庭やベランダガーデンなどに近い状況・環境といえるでしょう。
上写真のように常設の多年草や樹木も多いので、休眠時に掘り上げる球根類や一年草扱いの植物は、季節のポイント的に、思い入れのある品種をこのスペースにほんの少し加えるだけです。チューリップも例外ではなく、植栽の際は数品種をおよそ5~7球ずつという程度ですが、その分、狭い場所・少ない本数だからこそできることに集中し、短い開花期間でも強い印象を残せるように植えています。
これは、黒軸と淡いラベンダー色の花とのコンビネーションが大人っぽいチューリップ‘シルバー・クラウド’(Tulipa ‘Silver Cloud’)の植栽例。たった4輪だけですが、背景にあるロータス‘ブリムストーン’(Lotus hirsutus ‘Brimstone’)のクリーム色のフワフワした新芽が、‘シルバー・クラウド’の黒軸と引き立て合い、風景を引き締めています。
見る者に強い印象を残すために有効なのは、「他では見たことがない」個性やインパクトを強調することなのですが、それこそが何をどうしたらよいか分からない一番のポイントかもしれませんね。
私の着眼点としては、まず考えの糸口として「多くの人は何をどう植えているか」を観察して、それとは真逆になるほど異なる方向性で、自分が面白いと思えるアイデアを探すことから始めます。そして、「変わった植栽だけど、これはこれで成立してるな」と、植物通にも思ってもらえそうな着地点を目指します。万人に好かれるのではなく、物議を醸すようなきわどい問いを発するのです。
上の写真は、ずんぐりとゴツいアガベ・オバティフォリア(Agave ovatifolia)など、常設のドライガーデン植栽に、季節の見どころとしてチューリップ‘ラ・ベルエポック’を加えた植栽例。チューリップは、日本よりも降水量の少ない西アジア~トルコ原産なので、北アメリカや地中海沿岸系の乾燥地系プランツとも、意外としっくり似合います。アガベの持つ凶暴な雰囲気とチューリップの丸みを帯びたフォルムとのコントラストも強烈で、ドラマティックな演出になります。
春のチューリップが美しいのはほぼ当たり前のことで、たくさん植えれば間違いなくキレイにはなるのですが、それはある意味、予定調和の美しさ。少ない本数でもコンセプトやインパクトを尖らせていくと、「発見」とか「驚き」という意味での、新しい美的世界観が拓けてきます。
みんながチューリップに「キレイね~」を求めるならば、キレイさとは違うところで勝負するようにすれば、一気にライバルが減って自身の存在感が際立ちます。たとえば「グロテスクな造形」とか「頽廃的な雰囲気」など、違う「美」のあり方を追求するイメージです。
誰もやらないことに着目していくのは、冒険のように感じられるかもしれませんが、花はそれ自体がすでに美しいのです。元気に咲きさえすれば失敗はない、そのくらいの気楽さで挑戦してみてください。趣味の園芸ですから、格式張らずに自由にやっていいんです。本当に失敗したと思ったら、SNSなどに投稿しなければいいだけの話。あくまで趣味ですから、自分が楽しむのが最優先でしょう。
では、以下で詳しく、少ない本数で効果が上がるチューリップ植栽法について解説していきましょう。
チューリップ植栽のポイント
キレイさで勝負しない品種選び「インパクトを重視する」
チューリップを植栽するにあたり、まず重要なのが品種選び。この時点でどんな花が咲くか決定してしまいますので、球根を買う際はじっくり考えてセレクトしましょう。
上写真のアプリコット色の整形花のように、誰が見ても美しいと思う品種は、裏を返せば誰もが競って植える品種でもあるので、魅せる部分においては競技人口が多い「激戦区」です。美人ばかりが揃うとかえって差がつきにくいもので、その中で抜きん出るのは、実は難しいのです。
人間も、会って3~5秒間の視覚情報で、第一印象の55%が決まってしまうといわれています。花もそれと同じで、第一印象で抜きん出ないとなかなか注目されません。数で勝負しない場合は、個性やインパクトで強くアピールしたいところ。なので、あえて美人揃いの「激戦区」から抜け出して、オリジナルの美観探しに注力すると効果的です。
同じアプリコット色の品種を選ぶにしても、チューリップらしい卵形の整形花ではなく、好き嫌いがはっきり分かれそうなパロット系品種を選べば、カブる確率がグッと減ります。また、黒花や多色咲き系の品種など、異彩を放つ品種から、自分の好みや植栽のテーマに沿うものを選んでみるのも面白いですね。
これらの品種は他所で見る機会も少ないので、自庭で愛でるのにもってこいですね。どうせなら自分好みにこだわって、趣味性の高い品種を楽しむのが吉でしょう。それがあなたらしさということです。
また、葉に豹紋あるいは爬虫類の革のような模様が入るグレイギィ系の品種などは、芽吹きの瞬間から目を引きます。花だけでなく葉も楽しめるので、観賞期間が長いのもありがたいですね。
上記のような品種は、どれもクセが強いように見えますが、「異彩」という面では他にはない際立ったキャラクターを持っています。このように、品種選びの視点をちょっと変えるだけで、うっとりするような美しさとはちょっと違った、「好奇心を大いに刺激する」新しい美観に出会えますよ。
では、これら個性的なチューリップをどんな植物と組み合わせてどう植えたらよいのか。コーディネートのコツについては、『少ない本数でも効果的に魅せるチューリップ。セレクトとコーディネートのコツ〜後編〜』を引き続きお読み下さい。
「ものごとを外見で判断しないのは底の浅い人間だけだよ。
世界の本当の神秘は目に見えないものではない」
(オスカー・ワイルド 詩人・作家 1854 – 1900)
Credit
写真 / 太田敦雄 - 「ACID NATURE 乙庭」代表 -
おおた・あつお/園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。
NHK『趣味の園芸』講師。(一社)ジャパンガーデンデザイナーズ協会(JAG)正会員デザイナー。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「太田敦雄」公式ブログ https://note.com/acid_nature_0220
プロフィール写真/田中雅也
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