日本原産のツバキは、その花の美しさから、海外でも人気の高い花木です。広く品種改良が進んだことで、国内で2,200種以上もの品種があるといわれるツバキ。神奈川県のベテランガーデナー、遠藤昭さんに、いま見直したいツバキの魅力と、和の展示ウラ話や海外作出の注目の品種を教えていただきます。
目次
日本を代表する花木の一つ
ツバキ
ツバキ(椿)といえば 学名にもCamellia japonicaとなっているように、明らかに日本原産であることが示される、まさしく日本を代表する世界に誇る花木だ。
その美しさから、万葉の時代より日本人に親しまれ、美術や詩歌の題材として多く取り上げられてきた。江戸時代からの園芸人気で品種改良が進み、その後も日本人の文化と深く関わってきたツバキは、国内で2,200種以上もの品種があるといわれている。
ひと昔前は庭木としても人気だったが、このところ洋風ガーデンでバラなどに押されたり、木につきやすいチャドクガが嫌われたりと、低迷しているようだ。しかし、ツバキは多少の日陰でも育ち、常緑で、花のない冬から春に美しい魅力的な花を咲かせることに加え、丈夫で育てやすく、品種も多いので見直したい庭木だ。
「落椿(おちつばき)」という俳句の季語があるが、ツバキは花弁がハラハラと散ることはなく、潔く花ごと落ちるので、武士道の美学に共通するともいわれる。ただし、病気の見舞いなどにはタブーなので注意しよう。緑の苔に落ちるツバキや、サクラの花びらと共に地表に描かれる自然の絵画は、ツバキならではの正しく「落椿」であり、他の花木には真似できない花後の美しさである。
ツバキの美しさに触れる全国の椿展
3月頃には、ツバキの展示会が全国各地で開かれる。その多くは「切り花」での展示であるところが、花木であるツバキならではの展示会の面白さだ。僕の職場である「川崎市緑化センター」も、毎年展示会を実施しているが、展示会の度に、ツバキの魅力をより引き出せるよう、いろいろな工夫をする。
このように、さまざまな展示方法が考案され、発展してきたのも、ツバキの持つ美しさ故なのだと思う。ツバキの美しさに、人の美的感性が刺激され、ツバキをより一層美しく見せようと働くのである。
表は美しく華やかなこの椿展だが、ツバキは切り花ではあまり日もちがしないので、裏方は毎朝、大量の花を切り取って、マジックで葉の裏に品種名を書き、名札をつけ…と、じつは大変なのだ。
あまり知られていない、ガーデニングに適した海外の品種
ツバキというと和のイメージが強いが、ツバキは海外でもガーデンプランツとして人気が高い。18世紀にヨーロッパに渡り、19世紀には冬から春を彩る園芸植物として大流行したツバキは、欧米でも”カメリア”という名で親しまれている。芸術の世界でも好んで取り上げられ、ジュゼッペ・ベルディのオペラ『椿姫』は特に有名である。春の寒い季節にも常緑で花を咲かせる椿は世界中で人気なのだ。
海外へと渡った日本のツバキは、その後、ヨーロッパやアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどの先進国でも品種改良が進んだ。各国で生み出されたツバキの品種を見比べてみると、それぞれの文化特性が花姿に反映されて面白い。このように現在のツバキには、海外から逆輸入された魅力的な品種も多いが、日本のガーデナーには意外と知られていないようだ。
そこで、ここでは海外で人気の主な品種を紹介しよう。
一押しのお気に入り! 黒椿の‘ナイトライダー’
ニュージーランドで作出された黒系の品種で、カッコイイ黒いツバキだ。名前はワイルド系だが、小輪で渋く紳士的な気品が漂う。
ツバキらしからぬ名前の‘青い珊瑚礁’
どうです? ツバキのイメージが変わりませんか?
ちなみにこれは外来種ではなく、鹿児島県種子島の山中で発見されたヤブツバキの園芸品種。紫がかる珍しい花色が、なんとも魅惑的だ。
巨大輪! ‘コーラル・ピンク・ロータス’
1955年にカリフォルニアで作出された、アメリカらしい巨大輪のツバキで、花径は20cmもある。大体、外来種は大輪で派手な色彩を持つものが多い。
常夏の島の名を持つ‘ハワイ’
カーネーション咲きで、1961年にアメリカで発表され、日本へは1964年にアメリカ・カリフォルニアのサクラメント市より、日本椿協会の展示会に送られてきたことで紹介された。上品で優雅なツバキだ。
ベルギー生まれの‘エンペラー・オブ・ルシア’
ベルギー生まれの‘エンペラー・オブ・ルシア’は、赤と白の混ざった花びらが幾重にも重なってとても華やかだ。エンペラーの貫禄がある大輪。
ニュージーランド生まれの‘バーバラ・クラーク’
‘バーバラ・クラーク’。ニュージーランドで1958年に作出されたセミダブル小輪のツバキで、樹形も小型。日本の狭い庭には似合いそうだ。
これもツバキ!? 驚きの超巨大輪
‘ショーガール’という艶やかな品種名。アメリカで作出された超巨大輪の、名前の通りに華々しい花だ。
ショーガールに似た印象の‘ドリームガール’。これもいかにもアメリカらしいツバキですね。この品種も迫力の大きさ!
‘ミセス・D.W.デービス’。アメリカ作出の超巨大輪が続くが、20cmほどもある大きさなのだ。やはり花にはお国柄が出るものだ。日本の‘侘助’とは対照的な花だ。
赤白の斑模様がおしゃれな‘アドルフ・オーデュソン’
‘アドルフ・オーデュソン’。フランスで作出された古い品種で、春の寒い季節にも常緑で花を咲かせるツバキはヨーロッパではかなり有名なようだ。この赤白の斑模様は、エキゾチックに映ったのではないだろうか? 早咲き品種だ。
‘デビー’。カーネーション咲きの豪華なツバキだ。ニュージーランドで作出。
‘ホプキンズ・ピンク’。牡丹咲きのアメリカの品種だが、珍しく小輪で可愛い。
以上、海外品種を紹介しきたが、和風の庭だけでなく、洋風のガーデンにも合いそうなツバキもたくさんあることがお分かりいただけたと思う。ツバキ=和の庭という先入観を捨てて、冬から春の庭を彩ってくれる、魅力的なツバキを庭に植えてみてはいかがだろうか?
魅惑的な日本の品種
これまでは海外生まれのツバキを中心に紹介したが、もちろん日本の伝統文化の結晶である、日本で生まれたツバキは負けてはいない。ここには載せきれないほどたくさんの魅力的な品種があるが、オススメのツバキ品種の花写真だけでも紹介したい。個性豊かな花の中から、好みの花を見つける助けにしてもらえればうれしい。
まだまだ、紹介しきれない魅力あふれるツバキがたくさんある。ぜひ、お近くのツバキの名所や展覧会で、生のツバキの魅力を堪能してはいかがだろうか? きっと、日本人ならではの感性と知的好奇心を刺激して、バラとはまた異なる、素敵な世界に誘ってくれるだろう。
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Credit
写真&文 / 遠藤 昭 - 「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー -
えんどう・あきら/30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)、『はじめてのオージープランツ図鑑』(青春出版)。
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