キイチゴ属のブラックベリーは、比較的温暖な地域でも育てることができます。生命力旺盛で放任してもよく育ち、一度植え付ければ毎年初夏の開花と夏の収穫を楽しめ、ガーデニングの初心者にもおすすめの果樹。この記事では、ブラックベリーの特性や育て方、収穫や保存の仕方、お菓子づくりのレシピなど、幅広くご紹介していきます。
目次
ブラックベリーとは?
ブラックベリーは、バラ科キイチゴ属の果樹で、原産地は北アメリカです。仲間には、ラズベリー、デューベリーなどがあり、おおむね冷涼な気候を好むのですが、ブラックベリーは比較的温暖な地域でも夏越しできます。つる性、または半つる性で、地際から数本の枝を立ち上げる株立ち状になり、つるを伸ばして生育するのが特徴です。樹高は1.5〜3mほどになるので、フェンスやオベリスクなどを利用し、枝を誘引して仕立てるとよいでしょう。落葉性のため、冬は葉を落として越冬します。
ブラックベリーの特徴
ブラックベリーは、トゲあり、トゲなしの品種があります。近年はトゲなしの品種が主流で比較的管理がしやすくなっています。生育旺盛なので、広い庭なら地植えで自由に育ててもかまいませんが、スペースが限られている場合やベランダでは、コンテナ栽培が向いています。手軽に始められる家庭果樹の代表です。4月下旬〜6月が開花期で、野バラによく似た小さな一重咲きの花が多数咲くので、花姿を楽しむこともできます。花色は淡いピンク、白です。6月下旬〜8月中旬に2〜3cmほどの大きさの実をつけます。実の色は緑から赤、そして完熟の証の黒へと変わります。品種によって酸味の強弱があり、それぞれ風味が異なります。
ブラックベリーの育て方
ブラックベリーは植え付け後にしっかり根付けば、毎年初夏に開花して夏の収穫が楽しめる、初心者でも失敗なく育てることができる果樹です。ここでは、植え付けのポイントから、水やりや肥料、病害虫対策などの日頃の管理、剪定のポイントなどを詳しくご紹介していきます。
栽培環境
日当たりがよく、風通しのよい場所を好みます。半日陰にも耐えますが、花つきや実つきが悪くなります。ブラックベリーは授粉樹が不要で自家結実するため、1本植えておけば花も収穫も楽しめる、育てやすい果樹の一つです。
植え付け
ブラックベリーの植え付け適期は、休眠期の11月〜3月上旬です。
【地植え】
植え付けの2〜3週間前に、直径、深さともに50cm程度の穴を掘り、掘り上げた土に腐葉土や堆肥、緩効性肥料などをよく混ぜ込んで、再び植え穴に戻しておきます。粘土質や砂質、水はけの悪い土壌であれば、腐葉土や堆肥を多めに入れるとよいでしょう。肥料などを混ぜ込んだ後にしばらく時間をおくことで、分解が進んで熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。
土作りをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘って植え付けます。最後にたっぷりと水を与えます。
【鉢植え】
果樹用にブレンドされた培養土を利用すると手軽です。
鉢で栽培する場合は、8〜10号鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから培養土を半分くらいまで入れます。苗をポットから取り出して鉢に仮置きし、高さを決めます。水やりの際にすぐあふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えましょう。
水やり
【地植え】
植え付け後にしっかり根づいて茎葉をぐんぐん伸ばすようになるまでは、乾いたら水やりをします。根づいた後は、地植えの場合は下から水が上がってくるので、ほとんど不要です。ただし、真夏に晴天が続いて乾燥しすぎる場合は水やりをして補いましょう。真夏は昼間に水やりするとすぐお湯状になり、株が弱ってしまうので、朝か夕方の涼しい時間帯に与えることが大切です。
【鉢植え】
日頃から水やりを忘れずに管理します。土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。茎葉がだらんと下がってきたら、水を欲しがっているサインです。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチすることが、枯らさないポイント。特に真夏は高温によって乾燥しやすくなるため、朝夕2回の水やりを欠かさないように注意します。真夏は気温が上がっている昼間に水やりすると、すぐにお湯状になり、株が弱ってしまうので、朝夕の涼しい時間帯に行うことが大切です。冬は休眠し、表土も乾きにくくなるので控えめに与えるとよいでしょう。与える際は水が凍らないよう、気温が十分に上がった日中に行います。
肥料
地植え、鉢植えともに開花が終わった2月、6月、9月に緩効性化成肥料を与え、土によくなじませます。
2月の施肥は、休眠から目覚めて生育が始まる前に与えて新芽を吹き出させるエネルギーとするためのものです。6月の施肥は、果実を充実させるためですから、リン酸分などが配合されたものを使うとよいでしょう。9月の施肥は、果実をたくさん実らせてエネルギーを消耗した株に、再び体力をつけるために与えるものです。
病害虫
害虫
バラゾウムシ、コガネムシ、カイガラムシがつくことがあります。
バラゾウムシは、黒くて小さな虫(体長2〜3mm)で、主に新芽や新葉、つぼみにつきます。つぼみを食べられると咲かなくなり、果実の量も減ってしまうので要注意。バラゾウムシは、ゾウの鼻のような長い口を持っていることからその名前がつけられました。長い口で新芽やつぼみに穴をあけ、そこからエキスを吸汁します。穴のあいた部分から先は水分が行き渡らなくなり、枯れ込んでしまいます。ブラックベリーの収穫を目的に育てているなら、薬剤はあまり使いたくないので、こまめにパトロールして、見つけ次第捕殺するとよいでしょう。
コガネムシは、2cmほどの甲虫です。成虫は葉を食害するので、見つけ次第捕殺しましょう。また、厄介なのが地中に潜む幼虫で、特に鉢栽培の場合は根を食い荒らされた結果、枯死してしまうことがあるので注意。地上部はなんら問題ないのに、次第に葉が黄色くなって少しずつ落葉するようなら、地中に幼虫が潜んでいる可能性があります。根を食い荒らされると、株元を持って引き上げると簡単に抜けてしまいます。その場合は、根をよく洗い、新しい鉢と用土に植え替えて養生してみてください。
また、幹や枝にカイガラムシがつくことがあります。カイガラムシは、貝殻のような殻を被っているように見える虫で、枝や幹などについて吸汁し、だんだんと木を弱らせていきます。見た目も悪いので、見つけ次第退治を。薬剤の効果があまり期待できないので、ハブラシなどでこすり落として駆除するとよいでしょう。
病気
病気の心配はほとんどありません。
収穫
ブラックベリーの収穫期は、6月下旬〜8月中旬です。
完熟していないうちに摘み取ると、とても酸っぱいので、必ず完熟果を収穫しましょう。赤い実が黒く変わり、触ってみてポロリと簡単に取れるようなら完熟のサインです。触っても実が離れずに茎にしっかりついている場合は、収穫を見送りましょう。逆に遅くなると実が地面に落ちてしまうので、タイミングを逃さずに収穫します。
剪定
ブラックベリーは、収穫後の7月上旬の夏剪定と、休眠期の12〜2月の冬剪定を行います。
夏剪定は、果実がついて収穫を終えた枝を地際から切り取ります。
冬剪定は、前年に伸びた枝を樹高の半分くらいまで切り戻します。
よく分からなかったら、そのままにしておいてもかまいません。ブラックベリーは手をかけなくても旺盛に育つので、植え付け後数年育ててみて、枝が込んできたら、冬剪定の適期に新しい枝を4〜5本残し、他の古い枝を地際で刈り取るとよいでしょう。
植え替え
11〜3月までが定植、植え替え、移植の適期です。鉢植え、コンテナ植えは2〜3年に1度、根詰まりを防ぐために植え替えましょう。根詰まりしてくると、実付きが悪くなってきます。
ブラックベリーの食べ方
ブラックベリーは、生のままで食べることができます。ヨーグルトやプリンに添えても美味しいですよ! ラズベリーやデューベリーなどのキイチゴ類や、他のフルーツと一緒にサイダーで割って、フルーツポンチ風にすると、彩りがきれいでSNS映えしそう!
風味がよいので、ジャムやお菓子などに利用するとさらに美味しくなります。たくさん使いたい場合は、収穫のたびに冷凍庫で保存し、必要な量になるまでためていくとよいでしょう。収穫が梅雨の時期と重なるため、長雨が続く時は完熟果が地面に落ちてしまうことがあります。生食ではなく、ジャムやお菓子などの加工食づくりが目当てなら、長雨が続く場合は完熟を待たずに早めに摘み取ってもよいでしょう。ここでは、サマープディングとブラックベリー・フールの作り方をご紹介します。
サマープディング from イギリス
サマープディングは、イギリスの初夏の伝統的なお菓子。レッドカラントやラズベリー、サワーチェリー、イチゴ、ブルーベリーなど初夏に採れるベリーをたっぷり使って作ります。見た目はゴージャスですが、混ぜない、焼かない、とっても簡単なレシピです。ちょっと上質な食パンを使うと美味しくできますよ。
サマープディングの作り方(500㎖のボウル1個分)
【材料】ベリー類計500g(赤くて酸味の強い果実を多めに、ブルーベリーは少なめにすると味も色もGood)、レモン汁1/2個分、グラニュー糖80g、食パン8枚位
- 食パンの耳を切り、ボウルの底と口の大きさに合わせて円形に切ります。口の方は半円形を2枚でつなぎ合わせる形でOK。残りのパンは半分に切っておきます。パンはそのまま少し乾燥させておきます。
- 鍋にベリー類とグラニュー糖、レモン汁を入れて煮立たせ、果実とシロップに分けます。
- バットにシロップを入れ、食パンを浸けてシロップを吸わせます。片面に色がつけばOK。
- ボウルの底に円形のパンを敷き、さらにボウルの側面に半分に切ったパンを隙間なく敷き詰めていきます。このとき、色がついたほうが外側に向くようにします。
- 内側に果実を詰め込み、シロップをかけます。半円形のパン2枚でフタをし、再びシロップをかけます。ラップで覆い、上から重しをして冷蔵庫で一晩ねかせます。
- ラップをとってボウルの口に大きめの皿を当て、ひっくり返したら完成。お好みでベリーの実やミントなどで飾り付けを。
ブラックベリー・フール from イギリス
「フール」は泡立てた生クリームにベリーやフルーツを合わせたイギリスの伝統的なスイーツです。シンプルなレシピですが、ふわふわと甘酸っぱく、古くから愛されるデザートです。合わせる果実は何でもよいのですが、生クリームが甘い分、酸味の強いものがよく合います。ブラックベリーなど果汁の美しいベリーを使うと見た目も華やかです。
ブラックベリー・フールの作り方(4人分)
【材料】生クリーム(乳脂肪分48%)200㎖、生クリーム用の砂糖大さじ2〜3、ブラックベリー150g、ブラックベリー用の砂糖大さじ1〜2
- 生クリームは冷蔵庫でよく冷やしておきます。
- ブラックベリーと砂糖を鍋に入れ、弱火にかけます。果汁が滲み出てきたら火を止め、シロップと果実に分けて冷ましておきます。
- 生クリームと砂糖をボウルに入れ、8分立てに泡立てます。
- ③にブラックベリーのシロップを入れ、マーブル模様になるくらいに軽く混ぜます。
- 器によそって、ブラックベリーの実を飾れば完成。
自宅でブラックベリーを育ててみよう
ブラックベリーは強健な性質で、メンテナンスの手間がほとんどかからない果樹です。一度根づけば毎年たわわに果実を実らせて、収穫の喜びをもたらしてくれます。お子さんのいる家庭では、開花や果実の収穫、生食やジャム・お菓子作りなどの体験を通して、食育にもつながることでしょう。ぜひブラックベリーをガーデンに迎え入れて、開花と収穫を楽しんではいかがでしょうか。
(参考文献)
『決定版 はじめてでも簡単 おいしい家庭果樹づくり』 著者/大森直樹 発行/講談社 2010年11月28日第1刷発行
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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