涼しげな雰囲気が美しい睡蓮は、熱帯から温帯にかけての広い範囲に生息しています。水面に浮かぶ円形の葉と白やピンクの花が神秘的な人気の高い植物で、家庭で育てて楽しむのもおすすめです。この記事では、睡蓮の見た目の特徴から、育てる上での注意点、香る品種や開花時間が異なる品種などについても詳しくご紹介します。
目次
睡蓮の基本情報
植物名:スイレン(睡蓮)
学名:Nymphaea colorata
英名:waterlily
和名:睡蓮
科名:スイレン科
属名:スイレン属
原産地
熱帯性睡蓮:熱帯アフリカ、南米、オーストラリア、熱帯アジアなどの熱帯、亜熱帯地域
温帯性睡蓮:ヨーロッパ、アメリカの温帯地域
分類:多年生水生植物
「睡蓮」とは、スイレン科スイレン属(Nymphaea属)の植物の総称です。スイレン属の学名である「Nymphaea」は、水の精のnymph(ニンフ)に由来しています。水に浮かぶ涼しげな姿が美しい多年草の水生植物(水草)です。池や沼、緩やかな河川など生育していて、水中の地下茎から長い葉柄を伸ばし、水面に葉や花を浮かべます。
睡蓮の花や葉の特徴
園芸分類:水生植物
開花時期:熱帯性睡蓮:7〜10月/温帯性睡蓮:5〜10月
耐寒性:熱帯性睡蓮 弱い/温帯性睡蓮 強い
耐暑性:熱帯性睡蓮 強い/温帯性睡蓮 普通
花色:ピンク、白、黄色など
睡蓮は、その見た目の特徴からも人々に愛される植物です。葉は円形で、切れ込みがあり、ツヤがあります。また、花は水面上に咲き、花托がなく、細長い花びらが特徴です。
睡蓮とハスは似ていますが、違う仲間の植物です。睡蓮の葉が水面に浮かぶのに対し、ハスの葉は水面の上に出て展開します。
睡蓮の花言葉と名前の由来
睡蓮の花言葉は「清純な心」「純情」「甘美」「優しさ」「信頼」などで、色によって異なります。また、古代エジプトにおいては太陽のシンボルとされていたことから、「信仰」という花言葉もあります。
さらに、ギリシャ神話に由来する花言葉として「滅亡」も挙げられます。
学名の由来にもなっているニンフは、プリアポスの言い寄りから逃れるために、水場に入って睡蓮に姿を変えたといわれています。
睡蓮になったニンフは、しばしばギリシャ神話やヨーロッパの伝説で水場に人を引き込む魔物のように描かれることがあります。ヘラクレスの愛人であるヒュラスが水を汲みに水場に近づいた際に、ヒュラスを気に入ったニンフが彼を水場に引き込んでしまったという話のように近づいた人に死をもたらすというイメージから、いつからか「滅亡」という花言葉が与えられたのかもしれませんね。
日本語の「睡蓮」は、睡蓮の花が朝から昼に開き、夕方には眠るように閉じてしまうことから、「眠るハス」ということでこの名がつけられたともいわれています。
睡蓮とハス(蓮)の違いは?
睡蓮とハスは、過去には同じスイレン科に分類されていましたが、遺伝子解析や花粉構造の研究により、ハスはハス科に分類されるようになりました。
ハスの地下茎には穴があり、この地下茎が「レンコン」として食べる部分になります。睡蓮は球根を持ちます。
上の写真のように睡蓮とハスは似ていますが、見た目でかりやすい違いとしては、睡蓮の葉は艶やかで切れ込みがある円形ですが、ハスには切れ込みがありません。さらに、ハスには浮き葉(水面上にある葉)と立ち葉(水面の上まで伸びて生えている葉)がありますが、睡蓮は浮き葉のみです。
ハスの開花のピークは7~8月中旬頃で、睡蓮より短めです。
日本で睡蓮の咲く時期と見頃
睡蓮には温帯性睡蓮と熱帯性睡蓮があり、それぞれ開花時期が異なります。温帯性睡蓮の開花時期は5月から10月で、熱帯性睡蓮の開花時期は7月から10月です。
どちらも含めると、睡蓮の見頃は6月から9月頃とされています。
また、植え付け時期は3月から7月中旬です。
睡蓮には温帯性と熱帯性の2種類がある
前の解説でも少し触れましたが、睡蓮は温帯性と熱帯性に分けられます。ここでは、それぞれの睡蓮について詳しくご紹介します。
温帯性睡蓮
温帯性睡蓮は、世界の温帯地域に生息しており、越冬が可能です。また、温帯性睡蓮は熱帯性睡蓮よりも花形が豊富なのが特徴です。開花時期は5月中旬から10月。花は昼咲き性で、昼過ぎには閉じてしまうので、開花の様子は午前中しか見られません。フランスの印象派の画家、クロード・モネが愛し、「睡蓮」というタイトルで何枚もの絵を残しましたが、そこに描かれているのは主に温帯性睡蓮だといわれています。
熱帯性睡蓮
熱帯性睡蓮は、主に熱帯アフリカに生息しており、南米、オーストラリア、熱帯アジアなどの地域にも分布しています。開花時期は7月から10月中旬。水温が15℃を下回ると枯れてしまうので、育てる際は加温をするなど注意が必要です。青色や紫色などのブルー系があり、多彩な花色が特徴です。
代表的な睡蓮の品種
睡蓮には非常にさまざまな色や花形、芳香があり、また夜咲きの品種もあります。
ここでは代表的な睡蓮の品種について、種類ごとにご紹介します。
ティナ
ティナ(Nymphaea ‘Tina’)は、熱帯性睡蓮の一種です。紫色の大きく美しい花を咲かせ、人気の高い品種です。繁殖力が強いのも特徴です。
ブルーロータス
ブルーロータス(Nymphaea nouchali var. caerulea)は、熱帯性睡蓮の一種で、春から7月頃に青い花を咲かせることで知られています。
ヨザキスイレン
ヨザキスイレン(別名エジプトスイレン)は熱帯性睡蓮の一種で、1~3月に花径15〜25cmの大きな白い花を咲かせます。花は夜19時頃に咲き始め、朝9時になると閉じ、これを4〜5日繰り返すという個性的な特徴があります。濃厚で甘いフローラルな香りもあり、「ロータスアブソリュート」などの名がついたアロマオイルにもなっています。
ムラサキシキブ
熱帯性睡蓮には、葉の中央部にムカゴと呼ばれる小さな球根状の芽を付ける種類(ムカゴ種)があります。ムラサキシキブはそのムカゴ種に分類されます。
つぼみも紫色で、花が咲くと、花弁は白で縁取りは紫色というコントラストが美しい品種です。開花時期は7月から10月。
ペンシルベニア
ペンシルベニアは、「ブルー・ビューティー」という別名を持つ熱帯性睡蓮。100年以上の歴史を持つ古い品種です。熱帯性睡蓮ならではのブルー系の花が可憐で美しく、高い人気を誇ります。繁殖力も旺盛で、花付きがよいので、初心者にもおすすめです。
レッドフレア
レッドフレアは熱帯性睡蓮の一種。こちらも夜咲き系で、中でも最も赤が濃い品種です。
花弁を大きく開く大輪種で、夜咲き種らしい独特の花形も特徴です。葉は銅色で、シックな色の対比バランスがとても美しいです。
ホワイトパール
ホワイトパールは熱帯性睡蓮の一種。大輪品種で、純白の花を咲かせます。黄色の蕊(しべ)とのコントラストが美しく、清楚さを感じさせる品種です。
アルバート・グリーンバーグ
アルバート・グリーンバーグは熱帯性睡蓮の一種。花色は中央が薄い黄色で外へいくほどピンクが濃くなる、グラデーションが美しい花が楽しめます。個体によって、黄色やピンクの濃淡が異なります。葉に紫褐色がかる斑が入るのも特徴です。
オールモスト・ブラック
オールモスト・ブラックは熱帯性睡蓮の一種。直訳すると「ほとんど黒色」という名の通り、シックで暗めの赤色の花が目をひきます。花の中心部にいくほど黒味が強くなる珍しい品種です。開花時期は5月から9月です。
アーカンシェル
アーカンシェルは温帯性睡蓮の一種。緑の葉に白や桃色などの斑が入るのが特徴的な品種です。「アーカンシェル」はフランス語で、その意味は英語でいうと「Arch in the sky」、つまり虹のこと。さまざまな色の斑入りの葉から、この名がついたといわれています。開花時期は5月から9月。ほぼ白に近い薄い桃色の細い花を咲かせます。
ピーチ・グロウ
ピーチ・グロウは温帯性睡蓮の一種。花色は、淡いクリームの花弁にほんのりと淡いピンクがのっていて、名前のとおり桃のような色合いが愛らしい品種です。花弁が多く、開花時期や肥料によって黄色みが濃くなったり、ピンクが濃くなったりという変化があります。
ジェームズ・ブライドン
ジェームズ・ブライドンは温帯性睡蓮の一種。比較的小型の家庭栽培に向く品種です。花弁の幅が広くふっくらしていて、上向きに美しく整った赤や濃いピンク色の花を咲かせます。
開花時期は6月から9月ですが、暑さには少し弱いため、真夏には開花が止まります。
ダーウィン
ダーウィンは温帯性睡蓮の一種。花色はピンクで、中央にいくほど濃く、外側は白に近いというグラデーションがかかった色合いです。花弁数がとても多く、華やかさを放つ品種です。
ヒツジグサ
ヒツジグサは日本に唯一自生するスイレン属の植物で、日本全国に分布しています。冷涼な気候を好み、6~11月に花径3~4cmの小さな花を咲かせます。
ヒツジグサという名前は、羊の刻(午後2~4時)に花を咲かせることからつけられたという説もありますが、実際にヒツジグサが開花するのは、およそ朝10時頃です。
家庭での睡蓮の育て方
美しい花が魅力的な睡蓮は、ご自宅でも育てて楽しむことができます。
ここからは、睡蓮の家での育て方とコツについて解説します。
睡蓮鉢と内鉢を用意
睡蓮を育てるには、株を植え付ける内鉢と、水をためる睡蓮鉢が必要です。
睡蓮鉢は、鉢底に穴のない円形で口径が広いものが一般的です。睡蓮は根の張りが強いため、プラスチックなどではなく、丈夫な陶製の鉢がおすすめです。内鉢と睡蓮鉢のサイズを合わせて購入しましょう。水鉢の大きさは、品種や株の大きさによっても異なりますが、口径30cm以上、水面から土までの深さが10cm以上になるものがよいでしょう。
品種選び
睡蓮の苗は、栽培に適した時期にホームセンターやネット通販で販売されています。
品種選びには、いくつかのポイントがあります。まず、種類によって葉や花のサイズが異なるため、鉢の大きさを踏まえて検討する必要があります。
また、種類によって開花時期や開花する時間も異なるため、自分の生活に合ったものを選ぶとよいでしょう。
土選び
睡蓮は肥沃で粘り気の強い土を好みます。腐葉土を底に敷き、赤玉土の小粒を水で練って植え込むか、用意できる場合は、田んぼの土を使って植え込みます。
植え付けの方法
睡蓮の植え付け時期は3~7月です。
内鉢に用土を入れ、苗を植え付けますが、その際、土をしっかり固めて水に浮かないようにすることが重要です。
次に、水を入れた睡蓮鉢に内鉢を沈めます。用土の表面から水面までの高さは5~20cmとなるよう、品種に合わせて調節します。
水やり
睡蓮は水中で生育するので、こまめに水やりをする必要はありませんが、夏の開花時などは蒸発して水が減りやすいので、水切れを起こさないように水を足してあげましょう。
置き場所と管理
睡蓮を植え付けたら、日当たりのよい場所に置いて管理します。特に熱帯睡蓮の場合は生育に適した水温が25℃以上と高く、15℃を下回ると生育が鈍るので、日当たりのよい暖かい場所で育てましょう。
剪定については、花がらや黄色くなった葉は放置しておくと、水腐りの原因になるので、こまめに根本から切って取り除き、水が汚れないようにしましょう。また時々、鉢の水の1/3~1/2程度を溢れさせながら入れ替えるエアレーションをすると、空気を含んだ新鮮な水を鉢内に送り込むことができます。
睡蓮を栽培する場合、ボウフラ(蚊の幼虫)などの発生を予防するために、一緒にメダカを飼うのもおすすめ。水鉢の中を小さなメダカが動き回っているのを見るのは可愛らしいものです。ただし、水温上昇や農薬に気をつけるなど、メダカの生育にも適した環境を必ず用意してあげましょう。
冬越し
熱帯睡蓮と温帯睡蓮では耐寒性の強さが違うため、冬越しの方法も異なります。
温帯睡蓮は耐寒性が強く、水面が凍る程度なら耐えられるので、屋外での冬越しもOK。株が凍りつかないように深めの水位で管理します。3~4月頃に掘り起こして新しい土に植え替えましょう。
一方熱帯睡蓮は、冬は室内に取り込んだほうが無難。水温が5℃を下回らないように注意し、温度変化の少ない場所で管理します。休眠中は日光を必要としないため、発泡スチロールなどの容器に入れて蓋をしてしまうのも一手。熱帯魚用の水槽ヒーターなどがある場合は、加温して休眠させずに育ててもよいでしょう。
睡蓮を家で栽培してみよう
水辺に幻想的な雰囲気を作り出す睡蓮は、品種もさまざまで選ぶ楽しみがあります。メダカなどを飼育するビオトープに植えても涼しげな風景を作ることができます。
水やりなどの手間も少なく、美しい咲きたての花を身近に鑑賞できる喜びがあります。ぜひご自宅で睡蓮の栽培にチャレンジしてはいかがでしょうか。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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