春のお花屋さんでは、よく見かけるラナンキュラス。これまで地植えで栽培するのは難しく、ガーデンではなかなか活躍の機会がありませんでした。しかし、花弁がシルクのように艶めく新品種「ラックスシリーズ」の登場によって、ラナンキュラスは一躍、春の庭のメインポジションに躍り出ることに。植えっぱなしで毎年開花! 春の庭に革新をもたらしたラックスの作出者、宮崎県の「綾園芸」を訪ねました。
目次
花びらが幾重にも重なり、愛らしい春の花「ラナンキュラス」
春、まん丸い小さなつぼみが緩み始めると、内側からとめどなく溢れ出るように薄い花びらを幾重にも重ねるラナンキュラス。白やピンク、黄色、赤に加え、黒やグラデーション、覆輪、斑入り、ギザギザのフリルなど、新しい花色や花形が次々に生み出され、花屋さんの店先は年々、華やかになっていきます。しかし、これらは「切り花用」の品種。花屋さんで個性的なラナンキュラスを見るたびに、「これがガーデンにも植えられたらなぁ」と口惜しい気持ちになるガーデナーは少なくありません。
庭での栽培が難しい一般的なラナンキュラスの性質
というのも、一般的なラナンキュラスは地中海からイラン・イスラエル周辺の原種の遺伝子を持つアシアティクスという種類で、日本の夏の高温多湿や冬の寒風が苦手。ですから本来、ラナンキュラスはキンポウゲ科の球根植物で多年草ですが、日本では地植えで年を越すことは難しく、球根を掘り上げて乾燥させるなどの管理が必要です。バラによく似て華やかで愛らしいビジュアルなのに、これまであまりガーデンに普及してこなかったのは、そうした管理の難しさが大きな理由でした。
庭で栽培しやすい耐寒性を備えたラナンキュラスの登場
しかし、新品種の登場によって、ラナンキュラスは一躍、春のガーデンのメインポジションに躍り出ることになります。それがラナンキュラス・ラックス(ピカピカ)シリーズ。宮崎県の「綾園芸」草野修一氏が作出した庭植え可能な新しいラナンキュラスです。ワックスをかけたように花弁がピカピカと光ることから、ラナンキュラスとワックスを合わせて「ラックス」という名がつけられました。草野さんは、これまでにも切り花用にユニークなラナンキュラスを数多く作出し、国内外でたくさんの賞を受賞してきました。
「ラックスも最初はこれまで同様、切り花を想定していましたが、異種間交配でアシアティクス以外の血が入ったことによって、見た目だけでなく生育上の形質にも、これまでのラナンキュラスにはない“耐寒性”という性質が現れたんです。そのことに最初に気づいたのは、実は私ではなくラナンキュラスが大好きと言ってくださったガーデナーの方なんです」(草野さん)
ラックスが冬越した! と教えてくれたのは、静岡県の浜名湖ガーデンパークにいたガーデナーの佐原宏康さん。
「ある日、佐原さんから、『僕、ラナンキュラス大好きなんです、どうしてもガーデンパークに植えたいんです』と電話をいただいたんです。私はラナンは庭植えは難しいからと渋ったのですが、ぜひやらせてほしいとあんまりおっしゃるので、2010年に手元にあったラックスを浜松にお送りしたんです。そしたら、そこでの管理がとてもよかったおかげもあって、冬を越して2011年の春、立派に咲いてくれたんです。ガーデンでのラックスの可能性を大いに示していただいた瞬間でした。さらに、その後も夏から冬を越し、その次の年の春はさらに株が充実して立派になり、私自身、本当にびっくりしました。ひょっとしてこれは宿根するのか、と思って、あちこちで試験栽培してもらった結果、やはり確かに宿根するということが分かりました」(草野さん)
そして2015年のジャパンフラワーセレクションで、“ガーデニング部門”として初めてラナンキュラスが最優秀賞を受賞します。輝くような黄色の花のラックス ‘ピュタロス’という品種でした。宿根ラナンの登場は、春の景色を変える花として、ガーデン界に驚きと喜びを持って迎え入れられました。
ラナンキュラスの新シリーズ「ラックス」で春のガーデンをより華やかに
ラナンキュラス・ラックスの花期は、ちょうど桜と同じ頃。チューリップなどの球根花やパンジー・ビオラといった定番花にラナンキュラスが加わったことで、近年の春の庭の様相は一気に変わり始めています。ラックスは草丈50〜60㎝と背が高くなるわりに、株元の茎が太くしっかりしているので倒れにくく、スプレー咲きで次々に花が咲いて庭での存在感は抜群。加えて普通のラナンキュラスに比べ、風に揺れるような抜け感があり、ふわふわして優しい雰囲気なので、他の花と合わせやすいのもガーデンフラワーとして優秀な点です。花は一重から半八重で、咲き進むにつれてシルバーやゴールドのような輝きが強くなります。たくさん咲くので切り花としても楽しめ、つぼみのうちに切っても花瓶の中でしっかり咲いてくれます。
ラナンキュラス「ラックス」栽培のポイント
- ラックスは比較的耐寒性があるので、露地で多少の霜や雪で葉が凍っても越冬できます。
- 水はけのよいところに植えましょう。
- 寒風に直接当たるところは避けましょう。
- 半日以上、日が当たる場所を選びましょう。
- 乾きすぎに注意。植えつけ後、2週間は特に注意して、表土が乾いたらたっぷり水を与えます。
- 地植えの場合、植えっぱなしで健全に育てると、株は一年で2倍以上に成長します。
- 市販の株は5号鉢以下のものなので、すぐに2回りほど大きな鉢に植え替え、以降は2~3年ごとに植え替えましょう。
- 最初から地植えが心配な場合は、鉢植えで球根を増やしてから地植えにすることをおすすめします。
「ラックスが宿根するというのは本当に偶然のことで、花を育種していると、こういう予想がつかないことがたくさん起こるんですね。でも、20世紀は時代的に工業製品が生まれていろいろな商品が画一化され、花の育種においても効率性が求められ、いかに花が揃っているかということが重視されてきました。100万粒のタネを播いたら、100万すべてが同じ花を咲かせるということが課題。また、トラックにできるだけたくさん積みこめる“効率のよい花”をつくることが重要だったんですね」(草野さん)
個性的・多様性の品種が生まれる日本の育種
「ですから、ビジネスにおいての育種は “捨てること”とされてきました。効率の悪い規格外は捨てていかれるんですね。一方で、園芸の世界では育種はずっと“拾うこと”なんです。私はといえば、昔から結構、変わった形質のものを残して花を育種してきましたから、そういう意味では本当のビジネスマンではないかもしれません(笑)。でも、世界的にみても歴史的にみても、日本の育種というのは、もともと変わったものに価値を見出して残していく傾向にある文化なんです。ですから個性的・多様性という点から見たら、私は日本の育種は世界一だと思います」(草野さん)
今、SNSの普及で、世界中のユーザーがその日本独自の育種文化に目を向け始めています。その証拠にインスタグラムでは#Japaneserananculusとして世界各国のフローリストが綾園芸のラナンキュラスで作品をつくり投稿しているほか、世界的なフラワーデザイナーも宮崎のハウスに足を運び、自身の作品にラックスシリーズを用いました。
現在、ラナンキュラスのラックスシリーズは、多くの品種があり、紫がかる「アイオリア」や「ディーバ」、ピンク系の「テセウス」や「ヘラ」「リュキア」、鮮やかなオレンジ花の「ハデス」、オレンジからピンクのグラデーションが美しい「ムーサ」、ゴールドイエローの「アルテミス」、黄花に花芯がオレンジの「ミノアン」、淡いクリーム色の「ケラモス」など、24種ものカラーバリエーションが発表されています。
ラナンキュラス・ラックスシリーズの開花が春を知らせる宮崎県のガーデン
現在、ラックスシリーズは、宮崎県を代表する春の花として、「こどものくに」や「フローランテ宮崎」などの公園で開花が見られるほか、一部のネットショップや通販、園芸店などで花苗を購入することができます。
日本人の感性によって生まれた花が世界で注目されていると思うと、ちょっと嬉しいですね。あなたの庭でもラックスを育ててみませんか。年々株が大きくなって、春の庭を華やかに彩ってくれますよ。
綾園芸
http://www.ayaengei.com/index.html
こどものくに
http://www.kodomo-no-kuni.com
宮崎県宮崎市青島1-1-1
TEL/0985-65-1111
フローランテ宮崎
http://www.florante.or.jp
宮崎市山崎町浜山414-16
TEL/0985-23-1510
Credit
写真&文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
- リンク
記事をシェアする
新着記事
-
ガーデン
都立公園を新たな花の魅力で彩る「第3回 東京パークガーデンアワード」都立砧公園で始動
新しい発想を生かした花壇デザインを競うコンテストとして注目されている「東京パークガーデンアワード」。第3回コンテストが、都立砧公園(東京都世田谷区)を舞台に、いよいよスタートしました。2024年12月には、…
-
ガーデン&ショップ
都立公園を花の魅力で彩る画期的コンテスト「第3回 東京パークガーデンアワード 砧公園」全国から選ばれた…
2022年に代々木公園から始まった「東京パークガーデンアワード」。第2回の神代植物公園に続き、3回目となる今回は、東京都立砧公園(世田谷区)で開催されます。宿根草を活用して「持続可能なロングライフ・ローメ…
-
観葉・インドアグリーン
インテリアにぴったり! ミルクブッシュの育て方とお手入れ方法
サンゴのようなユニークな株姿が美しく、観葉植物として人気の高いミルクブッシュ。さまざまな園芸品種が見つかるのも魅力です。この記事では、インテリアグリーンにおすすめのミルクブッシュの基本情報や特徴、名…