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古くから物語に描かれ続ける毒草 マンドレイク

古くから物語に描かれ続ける毒草 マンドレイク

植物といえば、花の美しさや緑の木陰など、私たちにとって心地よい面ばかりが注目されがちです。しかし、時に危険な秘密のほうが人を惹きつけるもの。ここでは幻覚作用から猛毒を持つものまで、人を死に至らしめるほどの毒性を持つ植物を紹介します。妖しい魅力を放つ毒草の世界をご堪能ください。

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マンドレイク

Mandragora officinarum [as Mandragora officinalis]. Herbier général de l’amateur, vol. 8 (1817-1827) [P. Bessa] from the Swallowtail Garden Seeds collection of botanical photographs and illustrations.
植物データ
名称:マンドレイク
英名・別名:マンドラゴラ、恋茄子
学名:Mandragora officinarum
科:ナス科
有毒部位:根、果実
有毒成分:トロピン、ヒヨスチアミン、スコポラミンなどのアルカロイド

Photo/KBel/Shutterstock.com

中の薬液をすっかりお飲みになるがよい。とたちまちそなたの血管中を、冷たい眠いものが駆けめぐってな、平常の脈搏は動かなくなって、止まってしまう。
(『ロミオとジュリエット』中野好夫訳 新潮文庫)

16世紀に劇作家・シェークスピアの手により書かれたとされる戯曲『ロミオとジュリエット』。今なお傑作と名高い悲恋劇です。皆さんもご存じの通り、敵対する両家のロミオとジュリエットが恋に落ちたことから始まる物語ですが、その中でジュリエットが意に染まぬ結婚から逃れるために、死を偽装するシーンがあります。結果的に、これが悲劇的な結末への引き金を引くことになりますが、さてジュリエットに仮死状態をもたらした眠り薬が、上記のもの。薬草や毒草に詳しい僧(修道士)ロレンスから手に入れたものです。この眠り薬に用いられた毒草が、今回ご紹介するマンドレイク(マンドラゴラ)です。

マンドレイクはナス科の多年草。ベラドンナなど、ナス科の仲間には悪名高い毒草が数種類ありますが、マンドレイクの毒性はそれらに比べて特別高いわけではありません。しかしながら、マンドレイクは、この植物にしかない伝承に彩られた毒草であり、古くからさまざまな物語に多く登場します。この伝承の中のマンドレイクのほうが有名になってしまったため、創作上の毒草と思われることもありますが、実際に存在する植物です。

Abbildung der Mandragora, via Wikimedia Commons.

薄紫色の釣鐘状の花を咲かせ、トマトに似た弱い毒のある実をつけるマンドレイクですが、この植物の真髄は、何といっても根にあります。マンドレイクの根は、細根が複雑に絡み合った形をしていて、しばしば人の姿に見立てられてきました。マンドレイクには性別もあり、咲く時期や色により、男女が分かれるとされていたそうです。

マンドレイクの根。二股に分かれた形が人の姿に見立てられた。Photo/vainillaychile/Shutterstock.com

伝承に登場するマンドレイクは、引き抜く際に叫び声をあげるとされ、この声を聴いたものは錯乱する、または絶命するといわれています。しかしながら、マンドレイクは錬金術や呪術にも使われ、媚薬や不老不死の薬の原料となる高価な薬草であるとされていたため、この根はとても価値の高いものでした。そこで、自分によくなついた犬をマンドレイクにつなぎ、遠くから呼び寄せることでマンドレイクを掘り出すという方法をとっていました。犬はマンドレイクの悲鳴で命を落としますが、その犠牲で根を手に入れることができるというわけです。

前述の『ロミオとジュリエット』でも、ジュリエットが語る墓地の描写に、マンドレイクの叫び声が登場します。また、最近では『ハリー・ポッター』シリーズでも、ホグワーツ魔法学校の授業の中で、薬草の一つとして叫ぶマンドレイクが取り扱われる描写がありました。実際のマンドレイクはもちろん叫ぶことはありませんが、細根が絡み合っているため、引き抜く際はこの根がちぎれて音が鳴るといいます。

Mandrake (Mandragora officinarum) from Tacuinum Sanitatis manuscript (ca. 1390), via Wikimedia Commons.

マンドレイクには、アトロピンやヒヨスチアミンなど、アルカロイド系の有毒成分が多数含まれており、摂取すると幻覚作用を引き起こし、神経系を鈍らせて昏睡を招きます。薬草や毒草としての歴史は非常に古く、旧約聖書や古代ギリシアの書物にも記述があり、ツタンカーメンの墓には栽培の様子が描かれているそうです。また、紀元前200年頃、北アフリカのカルタゴを巡る戦いで、ハンニバル将軍の率いるカルタゴ軍が、マンドレイクを利用して戦いに勝利を収めたという伝承があります。この戦いで、カルタゴ軍は、マンドレイク入りのワインの宴席を用意して一度兵を引き、街に入ってきた敵軍がそれを戦勝祝いに飲んだところで引き返して勝利を挙げたとされています。

古くから人々に利用され、さまざまな伝承に登場し、今なお物語の中に登場し続けるマンドレイク。毒草であるからこそ、このような危険な魅力が私たちの興味を引き続けるのかもしれません。日本ではなかなか見る機会のないマンドレイクですが、植物園などで栽培されている場合があります。広島植物公園では、2017年の12月に希少な2株の開花展示が行われました。また、国立科学博物館筑波実験植物園でも過去に開花し、2018年3月には、大阪府「咲くやこの花館」で開花中のニュースも。日本の植物園を訪れて、実際に咲くマンドレイクを見るドキドキの体験をしてみませんか? 引き抜かず、見ているだけなら安全ですよ。

マンドレイクの実とロゼット状に生育する葉。根ほど有名ではないが、実にも毒性がある。Photo/Heike Rau/Shutterstock.com

Credit

文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

参考文献:
『邪悪な植物』(エイミー・スチュワート著、朝日出版社刊)
ハーブのホームページ https://www.myherb.jp/index.html

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