初夏の庭の主役は、何と言ってもつるバラとクレマチス。庭の入り口やガーデンシェッドの壁面、縦格子に、つるバラと開花時期が同じフロリダ系のクレマチスを誘引しているという、神奈川県で小さな庭づくりを楽しむ前田満見さん。今回は、庭の景色がぐっと華やぐつるバラとクレマチスのコラボレーションについて、組み合わせた理由や栽培体験談を交えながら、その魅力を前田さんに教えていただきます。
目次
オールドローズと万重咲きのクレマチス
クレマチスは、数ある系統によって性質や花の形に相違があり、つるバラと同じくらい多品種です。中でも、フロリダ系のクレマチスは、つるバラと開花時期がぴったり。共に中輪花なのでバランスも良く、花後に半分ほど切り戻すと2番花が楽しめるのも嬉しいところです。
お隣との境に設置している縦格子には、オールドローズ‘カーディナル・ドゥ・リシュリュー’にクレマチス‘獅子丸’を合わせました。 ‘リシュリュー’は、赤紫から灰色を帯びた青紫に移ろうシックな色合い。重厚な花弁が重なるカップ咲きの容姿と相まって、どこか和の雰囲気が漂います。赤紫の万重咲きの‘獅子丸’も、そんな‘リシュリュー’と良く似ています。
敢えて同色を選んだのは、こげ茶色の縦格子と赤紫の色合いに艶やかな和の風情を感じたからです。縦格子も、日本古来より受け継がれてきた伝統ある建具。‘リシュリュー’と‘獅子丸’が醸し出す佇まいに良く馴染みます。
また嬉しいことに、‘リシュリュ−’は、トゲが無く枝もしなやか。誘引しやすくあまり伸長しないので手入れが楽です。‘獅子丸’は、何と言っても花付きと花持ちが良く、咲き始めから終わりまで様々な表情を見せてくれます。特に、外弁が散って花芯だけになったポンポン咲きの菊の花のような姿が大好きです。
さらに、花後に切り戻すと2番花〜3番花も楽しめます。花の大きさはひと回り小さくなりますが、それもまた良し。とにかく驚くほど伸長して晩秋まで咲き続けます。
初夏の訪れと共に真っ先に咲き始める‘リシュリュー’と‘獅子丸’。何処から見てもパッと目を引く優美な色合いが、新緑の庭に程よい格調を与えてくれます。
エレガントなつるバラとバイカラーのクレマチス
藤色のロゼット咲きの中輪花が房咲きに咲き誇るエレガントなつるバラ‘レイニーブルー’。4年前、このバラに出会った瞬間ひと目惚れしました。その時は、植える場所も決めていませんでしたが、「庭に迎えたい!」という欲求を我慢するこができませんでした。
1年目は鉢植えで管理し、2年目に何とか地植えに。地植えにしたことですくすくと成長してくれると思いきや、病害虫に苛まれつるの伸長もいまひとつ。花もわずかしか咲きませんでした。後に調べてみると、この‘レイニーブルー’は、どうやら少し気難しい美人さんだったようで…。
それでも、何とかご機嫌を伺いながら手入れして3年目。ようやく株一杯の花を見ることができました。その嬉しさといったら! きっと、こんな経験をしたガーデナーの方がたくさんいるのではないでしょうか。「手間暇のかかる子ほど愛おしい」とは、まさにこの事。満開の姿は、その何倍もの感動と喜びを与えてくれます。
そんな‘レイニーブルー’に合わせているのが、クレマチス‘ビエネッタ’。白い外弁と赤紫の大きな花芯の対比が美しい万重咲きのクレマチスです。‘レイニーブルー’の淡い藤色は、どんな色でも調和するのであれもこれもと迷いましたが、個性的なバイカラーを選びました。お洒落な‘ビエネッタ’と エレガントな‘レイニーブルー’は、何処となく洗練された女性のイメージ。目にする度にうっとり見惚れてしまいます。
また、‘レイニーブルー’と ‘ビエネッタ’も、切り戻すと2番花も楽しめます。花は小ぶりながら共に初秋らしい濃い目の色合いに。初夏とはひと味違う楚々とした風情も素敵です。 さて、今年の‘レイニーブルー’のご機嫌はいかがでしょうか。去年は、帰省中にバラゾウムシの被害に遭い、悲しいかな初夏のつぼみは、ほぼ全滅……。今年こそはと並並ならぬ手入れとパトロールを強化して開花を待ち望んでいます。
絵になる景色を描く
つるバラと2種のクレマチス
ガーデンシェッドの小窓に誘引しているつるバラ‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’は、房咲きの中輪花。アプリコットからオフホワイトに変化する暖か味のある優しい色合いが魅力です。朝は、鮮やかなアプリコット。午後にはオフホワイトにみるみる変化して、そのグラデーションの美しさに目を奪われます。残念ながら一季咲きなので、その姿を堪能できるのは年に一度だけ。それでも、十分過ぎるほどのときめきを与えてくれます。
そんな‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’には、ディープパープルのクレマチス‘ビクター・ヒューゴ’とソフトパープルの‘流星’を合わせました。この色の組み合わせは、緩やかな補色。互いを引き立て合うメリハリの効いた色合いです。
ご存知の通り、ここ数年大人気の‘流星’は、‘ビクター・ヒューゴ’の枝変わり。色は違いますが花姿が良く似ています。やや細弁の整った花弁に黒の花芯が何ともシック。特に‘流星’は、他にはない灰色帯びたソフトパープルに花芯が際立ち、その美しさといったら……。誰もが虜になるはずですね。
心ときめくつるバラと魅惑のクレマチスの共演は、わが家の庭で一番絵になる景色。小窓を彩る溢れんばかりの3種の花々が、日めくりでアートを楽しませてくれます。
庭へと誘う
白いつるバラと万重咲きのクレマチス
北東の庭の入り口は、午前中しか陽が当たらない半日陰。陽当たりを好むつるバラとクレマチスにとって決して良い条件ではありません。それでも、つるバラ‘キフツゲート’とクレマチス‘白万重’は、毎年、健やかに花を咲かせてくれます。
‘キフツゲート’は、一重咲きの白い小輪花。雄しべが黄色の可憐な花ですが、見た目とは裏腹に、とても強健で樹勢が強いので年に数回の剪定が欠かせません。どうやら半日陰でも何も問題なさそうです。
‘白万重’は、やはり日照不足からか3年ほど花数も少なく、本来の姿を発揮できない様子でしたが、それ以降はこの場所に少しずつ適応してくれたようで、今では生育旺盛な‘キフツゲート’とコラボレーションできるほど逞しくなりました。そのうえ、万重咲き特有の花持ちの良さはもちろん、清楚な白い花が表情を変えながら移ろう姿の何と美しいこと。花弁が散って黄緑色の花芯が残った姿にさえ魅せられます。
そして、このホワイト&ホワイトの組み合わせは、わたしが一番好きな色合わせ。その美しさがより際立つのが半日陰のこの場所です。そう、庭の入り口は、さまざまなリーフや四季折々の白い花々が咲くホワイトガーデン。初夏には、‘キフツゲート’と‘白万重’、溢れんばかりの白い小花の‘スイートジャスミン’が咲き揃い、心が洗われるような清々しさに。辺りに漂う甘い香りに包まれて、数え切れないほどの白い花々が庭へと誘います
誘引次第で景色が一変するつるバラとクレマチスの圧巻のデザイン力。やっぱり、これほどに心華やぐ感動を与えてくれる優美な共演は他にはありませんね。
Credit
写真&文 / 前田満見
まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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