植物といえば、花の美しさや緑の木陰など、私たちにとって心地よい面ばかりが注目されがちです。しかし、時に危険な秘密のほうが人を惹きつけるもの。ここでは身近に見られるガーデンプランツの中から、人を死に至らしめるほどの毒性を持つ植物を紹介します。妖しい魅力を放つ毒草の世界を堪能してください。

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禁帯出 ガーデン毒草図鑑

クリスマスローズ

Anton Hartinger著Atlas der Alenfloraより

 

名称:クリスマスローズ

英名・別名:ヘレボルス、ニゲル

学名:Helleborus

科:キンポウゲ科

有毒部位:全草 特に根茎

有毒成分:サポニン、ヘレブリン、プロトアネモニンなど

紀元前595年のギリシア。デルフォイの隣保同盟とキラとの間で、聖域の権益、つまり莫大な奉納品の権利を巡り第一次神聖戦争が勃発しました。古代ギリシアでは、これ以前にも都市国家間での争いはありましたが、この戦いはある点において特筆されるべき特徴を備えています。この戦争は、最終的にキラの陥落によって幕を下ろすのですが、キラの攻略にデルフォイ人が採った戦略が、水路に毒を流すというものでした。そう、第一次神聖戦争は、初めて化学兵器が武器として使用され、文献に記録された戦いなのです。以後、人類がどのように化学兵器を進化させてきたかは皆さまもご存知のところでしょう。

さて、ここで初めて戦争史に登場する人類初の化学兵器は、ある植物から抽出された植物毒でした。この毒は、第一次神聖戦争からおよそ260年後、アレクサンダー大王に死をもたらすために利用されたともいわれています。この毒を盛った植物はヘレボルス、日本ではクリスマスローズと呼ばれ、冬の庭に欠かせないガーデナーにおなじみの宿根草です。クリスマスローズという英名からは毒性の有無は分かりませんが、学名のヘレボルスという名は、ギリシア語の殺す(helein)と食べ物(bore)から来ているといわれ、かねてよりクリスマスローズの毒性が知られていたことがうかがえます。

クリスマスローズに含まれる毒性は強心配糖体であるサポニンやヘレブリンなどで、心臓の収縮に働きかけます。また、樹液には空気に触れてプロトアネモニンに変化する成分が含まれ、皮膚につくと炎症やただれを引き起こします。クリスマスローズの毒性はさほど強いものではありませんが、口にすると口内の炎症やめまい、吐き気、腹痛、下痢などの中毒症状を引き起こし、致死量を摂取した場合は死に至ります。ただ、葉をそのまま食べた場合はすぐに違和感を感じる味なので、致死量を摂取してしまう危険性は非常に低く神経質になりすぎなくても大丈夫。草つゆが皮膚に付つくと、炎症などを引き起こすため、ガーデニングでクリスマスローズに触る時はガーデングローブなどをはめるとよいでしょう。

クリスマスローズの一種、純白の花を咲かせるニゲルには、次のような伝承が伝えられています。イエス・キリストが誕生したときに、貧しい一人の少女がお祝いに駆けつけたが、贈り物がなく嘆いていたところ、地面に零れ落ちた涙からニゲルの花が咲き、それを摘んで贈り物にしたー。この話が生まれたのも、清楚なニゲルの花が聖母マリアに捧げるのにふさわしいという思いがあったためでしょう。殺人者としての名を持ちながら、聖母マリアに捧げる花として愛される。何とも矛盾をはらんだ美しい花だとは思いませんか?

クリスマスに咲くニゲルは白花種。ピンク色、クリーム色、エビ茶色など、さまざまな色があり、斑点やピコティなど模様も豊富。

 

ぎざぎざとした濃い緑色の葉は、子どもやペットが誤食すると中毒症状を引き起こすので注意。

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Credit

文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

参考文献/『邪悪な植物』エイミー・スチュワート著(山形浩生・守岡桜訳 朝日出版社刊)

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