“夏みかん”という名前から、「夏」のイメージが強い果物ですが、1〜3月にも収穫されています。特に3月は冬を越して、酸味の中に甘みが出てきた美味しい頃。今回は、そんな夏みかんを使った、アメリカンチャイニーズの定番「オレンジチキン」を、神奈川県葉山で旬の野菜を育て、植物を身近に暮らしながらアンティークバイヤーとして活動中のルーシー恩田さんに教えていただきます。隠し味には四川料理に欠かせないスパイス「花椒」を。柑橘のフレッシュな香りとエキゾチックなスパイスの奥深さに心躍る、早春のテーブルにピッタリなごちそうメニューです。
目次
葉山のシンボルツリー「夏みかん」
私にとって夏みかんの木は、幼少時代を思い出す光景です。カントリーサイドで暮らしたことがあれば見慣れた景色ですが、私の育った「葉山町」では、夏みかんの木には特別なストーリーがあります。
さかのぼること、昭和34年。御用邸の町、ここ「葉山」では、上皇上皇后両陛下の御成婚の際、記念として夏みかんの苗木が町民に配られたそう。今でもその夏みかんが多くの実をつけ、民家の庭先を鮮やかに彩っています。家の玄関先に置かれた段ボールに山ほどの夏みかんが積まれ、「ご自由にどうぞ!」と書かれている「嬉しいおすそ分け」も、葉山ではよく見かける光景です。
まだ酸味が強い、この時期の夏みかんは、ジャムなどのお菓子作りに最適です。夏みかんといえば、やっぱり「マーマレード」、クィーンオブジャム!
皮をむいて、実を取り出す。まぁまぁ億劫な作業ではありますが、年に1度のお楽しみ。たくさんの瓶を用意して挑みましょう。
でも、甘いものより、しょっぱいもの派の私は、どうにかして、夏みかんでお米がたべたい! 爽やかな風味の柑橘類は、お料理にも大活躍だものね♡ そんな私のおすすめは、みんな大好き!「オレンジチキン」です。
みんな大好き! オレンジチキン
カラッと揚げた鶏肉に、オレンジの爽やかな風味が香るソースを絡めて仕上げる、アメリカで定番の人気メニュー「オレンジチキン」。名前を聞くだけでヨダレが出ちゃう。
なんとなく、日本人の感覚からしたら、ポップな「酢豚」という感じかしら。酸味と甘み、辛みのコラボレーションで、食べれば食べるほどに食欲が出ちゃうぜ! そんな魔法の料理です。
「チャイニーズチキンサラダ」や「モンゴリアンビーフ」「フォーチュンクッキー」などと共に、アメリカで独自にアレンジされて、進化を遂げた「American Chinese Cuisine(アメリカ風中華料理)」なのです。
本場中国では、漢方薬としても使われる、乾燥させたオレンジの皮「陳皮」を使って作る「陳皮鶏」というものがありますが、オレンジチキンとはちょっと別物。オレンジチキンは、通常オレンジジュースを使って作ります。きっと「陳皮鶏」がモデルとなり、現在のオレンジチキンとしてアメリカで成長したのでしょう。多分。
このオレンジチキン、唐辛子を入れてピリ辛にするのもいいけれど、花椒を使えばもっと! もっと! デリシャス! 花椒と柑橘の組み合わせで「シャレた大人の遊び心」風味に。
痺れと爽やかさ、花椒(ホアジャオ)
今回ご紹介したいスパイスは「花椒(ホアジャオ)」。麻婆豆腐や担々麺など、四川料理に欠かせない独特な香りが特徴の香辛料です。花椒はミカン科サンショウ属の植物で、中国原産のスパイス。一度味わうとクセになる! しびれる辛味と爽やかな風味が魅力の花椒。あの痺れはギリギリ合法、中毒者は多数です。ここだけの話、私も花椒アディクトです。
日本語では「かしょう」、中国語では「ホアジャオ」と読みます。山椒と何が違うのでしょう? 花椒と山椒どちらもミカン科サンショウ属の植物ですが、似て非なるもの。原産国もそれぞれ。基本的には花椒は中国原産、山椒は日本原産です。
花椒が熟した実を乾燥させて作り、山椒は熟す前の果皮を粉末状にしたもの。
花椒は舌がしびれる辛みと独特な香り、山椒はどちらかというと辛みより香りを楽しむもの。花椒のほうが個性強め。パンチが効いています。
中国では、花椒は古くより漢方の生薬として使用されてきました。
花椒には消化を助ける「健胃作用」や、殺菌作用があり、消化不良、吐き気、下痢などに効果的。花椒特有の痺れるような感覚は、鎮痛や麻酔にも使用されてきたようです。昔は大量の花椒を局所麻酔として使っていたんだとか。美味しそうな香りがして、痛みも忘れられそう♡ なんなら、おかわりください! 白米もお願い!
花椒にはホルモンバランスを調整する作用もあり、授乳を終える頃に、煎じた花椒に砂糖を加えて飲めば、乳房の張りが和らぐともいわれています。ナイスタイミングで授乳中の方はお試しを。
万能「花椒塩」を作ろう!
唐揚げやチャーハン、炒め物など、日本の食卓でも大活躍で、一家に1瓶置いてほしいのが「花椒塩」。名前のとおり、花椒と塩が混ざっているもので、とてもシンプル。
スーパーでもスパイスコーナーに置いてあるのを見かけますが、自家製「花椒塩」は簡単に作れます。お手製のものは、香りが別次元! 鼻から吸い込んで脳内を駆け巡る2024年、脳内宇宙の旅。きっと驚くはず! シンプルに花椒塩の塩むすびも美味しいのです。
■ 材料
・塩 大さじ1
・花椒 小さじ1.5
※花椒と塩は【2:1】を目安に
■ 作り方
① 塩を弱火でパチパチと音がなるまで乾煎りする
② 冷たい状態のフライパンに花椒を入れ、弱火で香りが立つまで乾煎りして、ミルサーや乳鉢などで細かくする ※焦げないように注意!
③ 混ぜ合わせて完成!
※①の項目は省いてもよいです。塩を炒るのは、塩の甘みを引き出すのと、塩に花椒の香りを移しやすくする目的なので、お好みでどうぞ
※花椒の風味は飛びやすいので少量ずつ作り、密封容器で保存がおすすめです
※一番簡単に作るには、粉の花椒を買ってきて、ただ塩と混ぜるだけ!
夏みかんで作る、花椒香る葉山スタイル「オレンジチキン」
オレンジチキンは、アメリカ育ちの中華料理。陽気に楽しくやりましょう! 夏みかんの苦みが心地よい、とても爽やかなレシピ。砂糖はお好みで増やしてみてください。スライスした夏みかんが差し色でビューティフル! 一緒にパクッとしちゃいましょう。庭で採れたものや、近所で育ったものを料理に使えば、なんだかいつもよりスペシャル。テレビを見ていたら、偶然知っている場所が映ったときの感覚に似ているかもしれません。友達の友達はみんな友達! そんな感覚で作っていただきたい料理です。
■ 材料
・ 鶏胸肉 1枚 300gほど
(下味)
・ a) 花椒塩 小さじ1/2
・ a) おろしにんにく 小さじ1/2
・ a) 酒 小さじ1
(衣)
・ 薄力粉 大さじ2
・ 片栗粉 大さじ2
・ ベーキングパウダー 小さじ1
(タレ材料)
・ b) すりおろしにんにく 小さじ1
・ b) みじん切り生姜 小さじ1
・ b) 砂糖 大さじ2〜3 ※お好みで
・ b) ナツミカン 半個(100ccほど)
・ b) 酢 大さじ2
・ b) 醤油 大さじ2
・ 水溶き片栗粉 適量
・ 茹でたブロッコリー 適量
・ 白胡麻 適量
・ お好みで、飾りのネギやパクチー、ナツミカン
■ 作り方
① 鶏肉を食べやすい大きさに切ってボウルに入れ、a)の材料を鶏肉に揉み込み、下味をつける。
② 薄力粉、片栗粉、ベーキングパウダーをよく混ぜ、鶏肉にまぶして、170℃の油でカラッと揚げる。
③ ナツミカンを絞り、b)のタレの材料全てと一緒に小鍋で煮立てる。水溶き片栗粉でとろみをつけて、②の鶏肉とブロッコリーを絡める。
④ 飾りに胡麻やスライスしたナツミカン、パクチーを散らして完成。お好みで追加の花椒塩もどうぞ!
出来たてで、衣がサクッとしているのも美味しいし、タレがしみてしっとりとしたのも美味しいです。しっかりとした味付けなので、冷めても美味しく、お弁当にもよさそう。
オレンジチキンに合わせて、さっぱりとしたチャーハンと、鶏ガラスープを大鍋でドーンッ! と作って、ジャジャーンッ! とジャッキーチェンの映画を流しながら、なんちゃってチャイニーズナイトはいかが? みんなで美味しく、楽しく、食べチャイナ♡
Credit
写真&文 / ルーシー恩田
ルーシー・おんだ/アンティークバイヤー/IFA認定アロマセラピスト/ITEC認定リフレクソロジスト。20代に訪れたタイ・チャン島でのファスティング(断食)経験から、心・体・生活環境などを全体的にとらえることにより、本来の自然治癒力を高め病気に負けない体づくりを学び啓発される。会社員としてデザインの仕事をしながら英国IFAアロマセラピストの資格を取得。退職後は更なる経験と知識の向上のためイギリスへ渡り、英国ITEC認定リフレクソロジストの資格を取得。現在は家業のイギリスアンティークの買付と販売をしながら、アロマセラピスト的な視点で自家栽培の野菜とハーブを使ったお料理教室やワークショップを開催している。
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