二十四節気の「白露」と「秋分」を迎える9月は、残暑の中にも秋の気配を感じられる季節。「わが家の庭も、酷暑を耐えた秋の草花が息を吹き返したように次々と咲き始めます」と話すのは、神奈川県横浜で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さん。庭の草花を気に入りの器にあしらって、室内に季節の移ろいをしつらえる様子を見せていただきます。
目次
秋草に似合う器選び

花あしらいに欠かせない器は、全体のバランスや雰囲気を左右する大事なもの。花材の形状や色合い、量感、さらに季節感に合ったものを選ぶようにしています。
ホトトギスやシュウメイギク、セイヨウフジバカマなど、この時季に咲く楚々とした草花には、古瀬戸や古伊万里、李朝、フランスアンティークなどの素朴で温かみのある器を。蚤の市や骨董店で出会ったこれらの古い器は、所々にわずかなソリやカケがあるものの、経年が醸し出す趣深い風合いが、春から秋へ季節を紡いだ草花の風情によく似合います。

また、手仕事の温もりを感じる作家さんの器も気に入りの一つ。作り手の拘りが滲む個性的な器に活けると、楚々とした花も何となく垢抜けた雰囲気になります。
古いものから新しいものまで、縁あって手に入れた和洋折衷の器たち。並べてみるといつの間にこんなに増えたのかしらと呆れてしまいますが、草花の秋の装いをどの器に合わせようかとイメージするだけで、何だかワクワクしてきます。
移ろう季節を愛でながら

酷暑の夏庭に、絶えず彩りを添えてくれたアサガオとヘリオプシスは、秋へとバトンを繋いでくれる頼もしい花。暑気を癒やす朝の空気に咲くアサガオも、残暑の陽光を浴びるヘリオプシスも、この時季はどこかホッとした表情をしています。そんな花々に「ありがとう」の気持ちを込めて器にあしらいます。

つるの細いアサガオは、一輪挿しの掛花入れに。口が狭いので活けやすく、しなやかなつるの動きも生かせます。いくつかつぼみの膨らんだつるを挿しておけば、毎朝、室内でもアサガオの花を愛でることができます。

ヘリオプシスは、銅葉のアメリカテマリシモツケ‘ディアボロ’と西洋カマツカのライムグリーンの実を添えて、大らかなフランスアンティークの焦げ茶色のピッチャーに。こんなふうに、夏の花も温かみのある器に銅葉や実ものとともに活けると、初秋の風情を味わうことができます。
そういえば、夏のイメージのアサガオも季語は秋。室内に飾ると暑苦しい空気が徐々に和らいで、心なしか心地よい秋風が……。
さあ、そろそろ室内も秋の模様替えの頃合いですね。

秋を告げる庭の草花で花あしらい

毎年、秋の訪れを真っ先に告げてくれるシュウメイギクは、20年近く庭を見守り続けてきた古株です。ヒメシャラとヤマボウシの木漏れ日の下、可憐な花を湛え風にゆらゆらとなびく姿は、わが家の秋の風物詩。自然と心が安らぎます。

そんなシュウメイギクは、花付きがよく花期も長いので、花あしらいに最適です。茎が真っ直ぐで挿しやすく、中輪の柔和な花はどんな花材とも好相性。丈の長さを生かして大きめの器に活けると華やかに、小花や実物を添えて籠やピッチャーに活けると愛らしい花あしらいになります。

室内の何処に飾っても違和感なく、その場の空気をパッと秋色に変えてくれるシュウメイギク。そのたおやかな佇まいにうっとりします。

9月半ばを過ぎると、夏草の陰から白花ホトトギスとセイヨウフジバカマも咲き始め、日増しに本格的な秋の装いに。色なき風と戯れる楚々とした野趣あふれる姿に心癒やされます。こんな風情の花をあしらうときは、あえて花は足さずにカラーリーフやグラスなどの葉物を添えます。そうすると一輪一輪が引き立ち、小花でも立派な主役になります。また、清楚で控えめな花だからこそ器選びも丁寧に。

それにしても、器に挿して間近で見れば見るほど、ホトトギスもセイヨウフジバカマも何と繊細で美しいのでしょう。庭で見る姿とは違う凛とした佇まいに目を奪われます。

野草で秋の暮らしに彩りを

秋の訪れは、道端や空き地に咲く野草にも感じることができます。
例えば、フサフサの穂を揺らすエノコログサやススキ。艶やかな実を付けたヘクソカズラやカラスウリ。そして、ひときわ目を引く鮮やかなヨウシュヤマゴボウ。普段は見過ごしてしまう野草たちも、まるで「わたしを見て!」と言わんばかりに、それぞれがとびきりお洒落をしています。

そんな野草たちは、恒例行事のお月見や秋分の花あしらいにとても重宝します。
お月見には、邪気を払うススキやエノコログサ、また月と人の繋がりが強くなるといわれるつる性のカラスウリを。秋分を迎える頃には、色彩豊かなヨウシュヤマゴボウを好んであしらいます。できるだけ器はシンプルに、「花は野にあるように」とイメージしながら活けるだけで、意外と様になります。

こんなふうに、身近な野草をあしらうだけで、秋の行事も日々の暮らしも彩り豊かになるなんて嬉しい限り。耳をすませば、室内から虫の音も聞こえてきそうです。

秋の恵みをあしらって

実りの秋は、食欲をそそる果実が盛りだくさん。なかでも、わたしは栗が大好物で、ちょっと手間のかかる栗ご飯や渋皮煮は、この時季のご馳走です。ほくほくしたやさしい甘味はもちろん、栗のフォルムと色合いが大好きなので、毬栗や野生のドングリも籠やお皿に入れてインテリアとしても楽しんでいます。

じつは去年、花屋さんで‘サレヤロマン’という観賞用の栗を初めて目にしました。何と、丈夫な長い枝にピンポン玉ほどの青栗が鈴なりに実っているではありませんか! まさか、器に挿して楽しめるこんな可愛らしい栗があったなんて……。思いがけない出会いに心がときめきました。

帰宅後は、早速に購入した‘サレヤロマン’を同系色の黄瀬戸の古い器に。窓辺に飾ると、穏やかな陽射しにくすみ緑が映えてとっても綺麗。まるで、おしくらまんじゅうをしているような小さな青栗の姿に、ほっこりします。
大好きな栗を器に挿して楽しめる‘サレヤロマン’。また一つ、初秋の花あしらいの楽しみが増えました。
Credit
写真&文 / 前田満見

まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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