しっとりどっしり、味わい深いジンジャーブレッドケーキ【The Pudding Party Tomoのイギリス菓子便り】
「イギリスとスパイス」というと、なんだかピンとこない人もいるでしょうが、じつはイギリスには、シナモンなどのスパイスをたっぷり使ったお菓子がたくさんあります。ジンジャー(ショウガ)のピリリとした風味が効いた、このジンジャーブレッドケーキもその一つ。地味だけれど味わい深い、とってもイギリスらしいお菓子を、イギリス菓子研究家でパティシエのTomoさんに教えていただきます。
目次
じつはスパイス好きなイギリス人
ジンジャーブレッドと聞くと、クリスマスのクッキーを思い浮かべる方が多いかもしれません。私も毎年クリスマスの時期になると焼きますが、ジンジャーを使った、クッキー以外のお菓子も大好きです。ちょっとピリッとくる、ジンジャーならではの風味を存分に楽しめるお菓子の一つが、このジンジャーブレッドケーキ。硬めに焼くジンジャークッキーとは違って、しっとり、そして、どっしりとした、いかにもイギリスらしいケーキで、見た目は素朴だけれど、スパイス使いの奥深さを感じる美味しさです。
イギリス人はスパイス好きな人が多い気がします。お菓子作りにはシナモンはもちろんのこと、ミックススパイス(mixed spice)もよく使われます。ミックススパイスとは、名前の通り、いろいろなスパイスを混ぜ合わせたもので、クリスマスプディングやジンジャーブレッド、りんごのケーキなど、さまざまなお菓子に使われています。イギリスで売られているミックススパイスの多くは、シナモン、コリアンダー、キャラウェイシード、ナツメグ、ジンジャー、クローブのブレンドですが、私はよく自分で適当にブレンドして使っています。それぞれの粉末状スパイスをただ混ぜればいいだけなので、難しいことはありません。私のブレンドは、シナモンを全体の半量、あとは、カルダモン、ナツメグ、クローブをそれぞれ少々、といった具合です。なお、日本でもミックススパイスという名の商品が売られていますが、それらはクミンなどもブレンドされた、中華料理やインド料理用のもので、イギリスの製菓用とは異なりますのでご注意ください。
今回注目するジンジャーも、イギリス人がよく使うスパイスの一つです。イギリス人はジンジャーの風味をお菓子や料理にうまく取り入れ、使いこなしていると思います。お菓子作りにはステムジンジャーという、ショウガのシロップ漬けもよく使われますが、これは瓶詰めのものがスーパーで一般的に売られています。例えば、フレッシュなルバーブやプラムなど、酸味のあるフルーツにこのステムジンジャーを加えてお菓子を焼いたり、ジャムを作る時に加えたり。ジンジャーの辛みのある風味によって味がしまり、美味しさがアップします。
ジンジャーブレッドケーキがくれたご縁
さて、私がイギリスに語学留学していた頃のこと。ある友達が、ステイしていたお家にたくさんの友人を招いて、私の誕生会を開いてくれました。その時、そのステイ先のママが私のために焼いてくれたバースデーケーキが、チョコレートとジンジャーのケーキでした。チョコレートケーキにステムジンジャーがたっぷりとのっていて、私にとっては初めて目にする、驚きの組み合わせ。ねっとりと甘くてピリリと辛いステムジンジャーは、ケーキ生地にももちろん入っていて、味のアクセントとなってとても美味しかったのを覚えています。
じつは、そのお宅に初めて遊びに行った時に、ママお手製のジンジャーブレッドケーキをいただいて、ひどく感動し、興奮したことがありました。そのときママはご不在でしたが、後で友達から私の喜びようを聞くと、そのレシピをプレゼントしてくれました。そんなことがあったので、ママは私の誕生会にもジンジャーのケーキを焼いてくれたのです。
そのときのレシピは、今も大切にしまってあります。ママとはいまだに交流していて、時折「これ、美味しかったわよ!」と、レシピを送ってくれたりします。とてもアクティブで明るいママで、昔、ティールームを開いていたことがあると話していました。お家で本当によくお菓子作りをされていて、私のイギリス菓子へのパッションは、彼女の影響もあります。
ジンジャーブレッドケーキとそんな幸せな出合い方をした私は、それからというもの、ティールームめぐりでジンジャーブレッドを見つけるたびに食べていました。中でも、ライという小さな村のパブで食べたものはとっても美味しくて、よく覚えています。私が働いていたホテルで出していたジンジャーブレッドも、パンチが効いていて気に入っていました。
イギリス菓子に欠かせない糖蜜
ジンジャーブレッドケーキにはさまざまなタイプがありますが、私が好きなのは、とってもしっとり、どっしりしていて、ジンジャーがしっかり効いているものです。これは昔ながらのタイプのジンジャーブレッドで、糖蜜(トリークル、treacle)が大量に入っています。
今回のレシピには、イギリスのブラックトリークル(black treacle/右の缶)という、どろりとしていて黒っぽい色の、少し苦味のある糖蜜と、ゴールデンシロップという、イギリスのお菓子作りに欠かせない、さらりとした黄金色の糖蜜の2つを使います。
イギリスのブラックトリークルは個人輸入しないと日本では手に入らないのですが、それに似た、アメリカのモラセス(molasses/左の瓶)は、輸入食品店やネット通販で購入できます。ゴールデンシロップも同様に、輸入食品店やネット通販で入手可能です。
砂糖はブラウンシュガーを使います。きび砂糖などでも代用できますが、私はマスコバド糖というものを使っています。よりコクがあって、美味しく仕上がるので、もし手に入るようならこちらをおすすめします。
今回ご紹介するレシピは、しっとりとした食感を出すために、何度も試作を重ねた末に完成したレシピです。焼く前は、大丈夫かな? と心配してしまうくらい、ダラダラの水のような生地ですが、それで大丈夫です。低めの温度でじっくり焼くのがポイントです。
このジンジャーブレッドケーキは、いつもご紹介しているイギリス菓子と同様、見た目の華やかさはありません。でも、食べたら味わい深くて、また食べたい! と思うお菓子ですよ。
ジンジャーブレッドケーキの作り方
材料(21cm x 8cm x 6cmの焼き型)
〈ケーキ〉
- バター……50g
- モラセス……100g
- ゴールデンシロップ……50g(蜂蜜で代用可)
- マスカバド糖……50g(きび砂糖で代用可)
- 牛乳……120ml
- 卵……1個
- 薄力粉……100g
- シナモン……小さじ1/2
- コリアンダー……少々
- ナツメグ……少々
- クローブ……少々
- ジンジャー……小さじ1
- 重曹……1g
〈アイシング〉
o 粉糖……50g
o レモン汁……小さじ2
作り方
1.オーブンを170℃に予熱する。
2.バター、モラセス、ゴールデンシロップ、マスカバド糖を鍋に入れ、弱火にかけて溶かす。溶けたらすぐ火から下ろして、冷ましておく。
3.2が人肌くらいに冷めたら、別のボウルに移して牛乳を入れ、混ぜる。
4.溶いた卵を入れて、混ぜる。
5.粉類(薄力粉、スパイス、重曹)をふるい入れ、さっくりと全体によく混ぜる。このとき、少し粉がダマのように残っていても大丈夫。
6.型に入れ、170℃のオーブンで約1時間焼く。
7.中心に串を刺してみて、何もついてこなければ完成。型に入れたまま、十分に冷ます。
8.アイシングを作る。粉糖とレモン汁をスプーンでよく混ぜる。
9.ケーキが冷めたら、アイシングをかけて完成。
完成といっても、じつはケーキの食べ頃は数日後! 待てない我が家ではあっという間に無くなりますが、数日間かけて、味わい深くなる様子を観察するのもおすすめです。秋から春にかけては、ラップをして常温で保存。2、3日後が食べ頃です。夏は冷蔵庫で保存しましょう。スパイスを使った焼き菓子は、時間をおくと味がなじんで美味しくなるので、ぜひお試しください。
紅茶と一緒にいただくと美味しい、味わい深いお菓子です。
気に入っていただけたら嬉しいです。
Credit
取材&文 / The Pudding Party Tomo - イギリス菓子研究家/パティシエ -
イギリスのプディングの美味しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと活動する、イギリス菓子研究家、パティシエ。ル・コルドン・ブルー横浜校にて菓子ディプロムを取得。英国コッツウォルズのスリーウェイズ・ハウス・ホテルにてイギリス伝統菓子作りの腕を磨く。
〈The Pudding Party Tomoとイギリス菓子作り〉 https://youtube.com/channel/UCV1hGcG5t0SELBBiuJ1GqBA
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