野菜やハーブを狭小地でも育てられる画期的なプランター「ベジトラグ」。ベランダにベジトラグを置き、10種類以上のハーブや野菜を育ててレシピに挑戦するのは、フードスタイリストの黒瀬佐紀子さん。今回は、ミニキュウリ、トウガラシ、バジルの栽培にチャレンジ。栽培過程とオリジナル料理レシピを初公開! ミニキュウリの小さなフェンス仕立てや、採れすぎトウガラシを長く味わえる唐辛子麹、無塩バジルソースの創作など、ぜひ参考にしてください。
目次
ちっちゃくて可愛い! 初めてのミニキュウリ栽培
ベジトラグの右側約半分のスペースに「ミニキュウリ」を植えたのは7月上旬のこと。栽培初心者の私の相談に乗ってくれている友人農家さんが、「ミニキュウリは、それほど背が高くならない品種で、つるを伸ばしたい方向にコントロールしたり枝垂れさせたりできる」と、勧めてくださった野菜です。植えた時期は、ちょうど酷い暑さが続いていた頃。果たしてこんな小さな種子から芽が出てちゃんと育つのか…不安と期待とともに、栽培はスタートしました。
●ビーツとパクチーの栽培とレシピをご紹介している<夏編>はこちら。
5日ほど経った頃。ふとベジトラグを見ると双葉が出ているではありませんか! 苗を植えたほうは、つるがひょろりと伸びていました。こんなにも成長が早いことに、とてもびっくり。「ミニキュウリ」の育て方をいろいろ調べてみると、この後は次の2つの作業が必要と知りました。
- つるを誘引するための支柱を立てること。
- 日当たりと風通しをよくして成長を促すため、枝が混み合ったり葉が重ならないように整枝すること。
棒状やネット状、アーチ状など、支柱は形もサイズもさまざまありますが、ほかの野菜の妨げにならないよう、高さ75cm幅40cmほどのスチールワイヤーを2枚使って V字に立てることにしました。また整枝の作業は、下記の方法を参考に進めました。
- 株元から5節くらい(30cm高さ)までは、子づるや花は全てかき取る。
- 6〜10節くらいまでは葉を1枚残して、そこから先に伸びた部分は摘み取る。
- 11節くらいから上は子づるを2葉残して摘み取るのを基本に、混み合ったら整理してつるや葉を取り除いていく。
- ある程度の高さに成長したら、主枝の先端を摘み取って成長を止め、子づるや孫づるの発生を促し着花するようにする。
ミニキュウリの誘引・開花・着果
下から節の数を何度も数え、葉の枚数に気をつけながら枝を整えました。途中からは子づるなのか孫づるなのか分からなくなってしまったのですが…。とにかく混み合わないよう、葉が重ならないように摘み取っていきました。すると、花が次々に咲いて着果していくのです! 毎朝ベジトラグの様子を見るのが、さらに楽しみになりました。
植え付けて1カ月も経つと、支柱をゆうに超えて上に伸びた主枝。長く伸びた枝をぐいっと真横にねじ曲げて支柱に絡ませ、人生初の「誘引」を試みました。強引すぎたかな…なんていう心配をよそに、さらに成長は加速。無事、つるは曲げた方向に伸びていきました。こんなにも植物の生育は力強いのですね。
続く夏日に加え、西日が強く当たるベランダでは水分が足りるのか不安でしたが、ベジトラグはたっぷりとした土の量があって乾きにくいおかげでしょうか、朝晩の水やりだけで十分でした。
ミニキュウリの感動の収穫と調理
収穫したミニキュウリをさっそく半分に切ってみると、種子の部分が多くて水気が溢れ出てきました。一口かじると、う〜ん、とっても瑞々しい! 喉がすっきり、暑さもクールダウンする爽やかな味。季節の野菜は、その時期に身体が欲する要素を持っているなぁと実感しました。
水分たっぷりの爽やかさを活かして、和え物を作ることに。味が絡まりやすいよう手で割って、種子のでこぼこ面を出すようにし、塩昆布と生赤唐辛子を刻んでざっくりと和え、仕上げにオリーブオイルを少しかけて香りを添えました。さっぱりしていて食べやすく水気が身体にしみわたるような一皿でした。
トウガラシの葉はアブラムシの大好物⁈
ベジトラグでの野菜栽培は順調なことばかりではありませんでした。4月に植え付けたトウガラシに、暑くなってきた5月中旬、アブラムシがついてしまったのです。ここはプロの話を聞かねばと、農家さんに相談。有機農産物やオーガニック栽培に使えるという油性の殺虫剤を薄めて噴霧して、手でも取れるところは取り除き…を繰り返す対処法を試してみました。がしかし、残念ながらアブラムシは増える一方で、新芽の柔らかい部分に密集するようになりました。
でも、隣に植えたケールとローズマリーには1匹も虫がつかないのがなんとも不思議です。7月に入ると、トウガラシの葉はガタガタに変形して色も黒ずんでしまいました。薬剤をかけるのもかわいそうになり、そのまま放っておくことに。しばらく時に任せていると、そこに…!
なんと、救世主の2匹のテントウムシが出現! 瞬く間にアブラムシを一掃してくれました。右往左往した今までの私の苦労は何だったのか…。その後、葉の形もきれいにストレスなく育ち、花がたくさん咲くようになりました。一件落着。
7月下旬には着果し始め、10月中旬まで、次々とトウガラシが実をつけました。
植物が自身を守るために、トウガラシの実には辛味成分があるのかもしれません。着果してからは、アブラムシはもちろん他の害虫も一匹も寄せ付けず、株の成育は勢いを増していきました。
トウガラシは適切な日照のもと、熟すにつれ青から赤に着色するそうです。
ベジトラグの高さがある分、トウガラシの株はベランダの手すりを遥かに超えて伸び、日光を十分に受けて、実は順調に赤色へ変化していきました。
トウガラシの実の色による味の違い、味わいに合わせた調理法
野菜を栽培していて一番の楽しみは、「成長過程のさまざまな段階で食べられる」ところ。トウガラシも青色、赤色を食べ比べてみました。
どちらも乾燥トウガラシにはないフレッシュな野菜感でいっぱい!
緑は爽やかな辛さ、赤い実は旨みがしっかりしています。日々の料理に生トウガラシを加えてみたら、どんな風味になるのでしょう。採れたての緑や赤のトウガラシでスパイシー料理を試す数日を過ごしてみました。
緑色のトウガラシは、爽快な辛さがマリネなどの冷菜にぴったり。ホタテ、トマト、パプリカ、玉ねぎと青トウガラシのみじん切りを塩とカボス汁、オリーブオイルでマリネした「セビーチェ」を作ってみたところ、青トウガラシが後味にピリッと残って味を引き締めてくれました。
赤色のトウガラシは、しゃぶしゃぶやフォーに入れて加熱。すると、スープの中にじんわりと旨辛さが染み出しました。炒め物に使う時は、フライパンに油と共に先に入れて弱火にかけ、辛さと旨みを油に移すように使いました。
どれも辛いだけでない旨みがあって、病みつきの味!
赤トウガラシで唐辛子麹作りに挑戦!
一つの料理にトウガラシを入れるのは2本くらいが美味しい辛さの適量のようです。収穫量がとても多いので、赤トウガラシが消費しきれずにたまっていきました。乾燥させれば長く保存して使うことができるけれど、せっかくのフレッシュさを何とかキープするよい手立てはないかしら…。
生のまま発酵させて豆板醤のような辛味調味料はできないかと考えました。調べると、トウガラシと塩だけで発酵させることもできるようです。それなら、ここに麹を加えたら? 塩麹のような旨みと甘みもプラスされるかもしれない…とアイデアが浮かびました。塩麹の作り方を参考に、トウガラシを加えて作ってみることにしました。
唐辛子麹作りのチャレンジレシピ
ヘタを取り除いた赤トウガラシをフードプロセッサーで細かく砕きます。温めた水を麹と混ぜてほぐした中に、砕いたトウガラシを加えてよく混ぜます。清潔な保存瓶に入れて発酵を待ちました。
材料を混ぜて瓶に詰めた時は粒々感がありましたが、次第に全体がなじみ、2週間も経つと水分が少し浮き上がり、ドロっとした状態に。それを舐めてみると…辛い! うん、とても辛い! でも旨みもあるような。料理には、ほんのちょっぴり加えてみるのがよさそうです。シンプルな炒め物と、辛い肉味噌ディップを作ってみることにしました。
炒め物には、豚肉の下味に唐辛子麹を小さじ1ほど混ぜてみました。また肉味噌ディップは、油で唐辛子麹をニンニクやネギと共に炒めてから、肉を加えて炒め、豆板醤を使う要領で試してみました。少量で十分辛さが出るうえ、しっかりと旨みが加わりました! そしてこの唐辛子麹、日数が経つほど甘みが出てきてまろやかになっていくのです。今後も経過を見守るのが楽しみな調味料が出来上がりました。
成長が止まらない! バジルが元気な理由
こんなに元気に育つバジルを見るのは初めてです。昨年まではベランダに何鉢も植木鉢を直置きして育てていて、それなりに成長はしましたが、水やりは一日に何度もしないと葉がぐったりしてしまう苦労を思い出します。
ベジトラグの奥側の土量が多いエリアに植えたので、朝たっぷりの水をあげれば夏の暑い日も夕方までは十分に水分が保てました。また、ベジトラグの高さのおかげで、よく日に当たっていたのも成長が著しかった理由のようです。
葉を摘んでサラダに入れたり、炒め物に使ったりしていたのですが、成長が早くて消費が追いつきません。こんなことも初めての経験です。早い段階から白い花が咲いてきたので、農家さんに相談すると「花が咲くと栄養が花に取られて葉が固くなるので、一度根元で切って枝を詰めたほうがよい」とのこと。
切ったところからまた葉が伸びてくるという言葉を信じて、ワサワサと茂った茎は刈り取りました。
自家製バジルの楽しみ方いろいろ
白い花が咲いたバジルは、見た目にもとてもきれいで、捨ててしまうのはもったいない!観賞用として花瓶に挿して部屋に飾れるのも、身近に育てている者ならではの楽しみ方ですね。
花瓶に入れて2日ほど経つとすぐに根が出てきて、力強い生命力に驚きました。このまま観察してみることに…。
1カ月ほど経つと花瓶に根がぎっしり張って、取り出してみると30cm以上はあるでしょうか。バジルがすくすく育つには、ベジトラグの土量と深さが重要なカギとなることをここでも実感しました。葉が茂り、花をつけ始めたら根元から切り詰めることを、10月までになんと3回も行いました。
美味しいバジルソースの作り方を模索
収穫したたくさんのバジルを一度に使い切るには、やはりペースト状にしてソースにするしかないのだろう…と、初めて収穫した頃はジェノベーゼソースを作り、小瓶に入れて冷蔵保存をしていました。
「ジェノベーゼ」とは、バジルに松の実・ニンニク・チーズ・オリーブオイルなどを加えてすり潰し、塩味でととのえたイタリア生まれの調味料。サラダや肉のソースとして使うのですが、塩味をしっかり決めているので、どんな食材と合わせても味が一緒で変化がなく、毎日使うものではありませんでした。冷蔵可能な約1週間はすぐに過ぎ…慌てて冷凍庫に移して眠らせてしまっていました。
何とか工夫できないものかと調べていると、塩とチーズを入れない「無塩のジェノベーゼソース」というものを見つけました。なるほど! 塩味をつけない分、料理のアレンジが広がりそうです。早速、私のバジルソースを改良することにしました。新レシピはこのような感じ。
無塩バジルソースの作り方
- 収穫したバジルは洗わずに、茎から葉を摘み取る。各材料と調理器具は冷やしておく。
- ミキサーにピーナッツ、ニンニク、半量のオリーブオイルを入れ、ペースト状にする。
- バジルの葉と残りのオリーブオイルを3回ほどに分けて加え、その都度ミキサーで撹拌する。
バジルは熱に弱く変色しやすいため、各材料や器具を冷やしておくといいようです。味に変化をつけるため、松の実の代わりにピーナッツを使用しました。
出来上がったバジルソースは、氷水で冷やしながら混ぜ、保存袋に空気を抜くように平たく入れて、薄い板状にして冷凍しました。
なんて便利なのでしょう! 保存袋から使う分だけ折って簡単に取り出して解凍しやすいうえ、チーズを後から加えたり加えなかったり、塩以外の塩分としても使うことができてアレンジの幅はグッと広がりました。
いろいろ試した中で一番のおすすめは、豚しゃぶ用の「たれ」。家族にも友人にも大好評だったバジルだれの作り方を初公開!
バジルソースで豚しゃぶだれの作り方 (2〜3人分)
- 冷凍バジルソース60gを耐熱の器に入れて、電子レンジに軽くかけて解凍する。
- 温めた豆乳30g、白しょうゆ大さじ1、削ったパルメザンチーズ5gを1に加えてよく混ぜる。
バジルの爽やかさに、しょうゆとチーズの旨みとコクが加わり、野菜がもりもりいただけました!
少しずつ収穫した野菜を一度に料理に使うには
ベジトラグの栽培では、一度に多収穫もありますが、少しずついろいろな野菜が採れることもあるので、料理の工夫が必要でした。
大きく分けて、そのまま生で食べたいものは和え物などの冷菜に、加熱することによってより美味しさが引き出せるものは炒め物に加えるのが使いやすいです。
ミニキュウリ2本は、ホウレンソウのしらす和えにプラスしてみることに。キュウリの食べ応えを残すように一口大の乱切りにして、塩を軽く絡め下味をつけました。キュウリに軽い塩味がついていたほうが、ホウレンソウなどほかの具材と馴染むのでおすすめです。
炒め物では、それぞれの野菜の加熱時間によって加えていく順番がポイント。トウガラシは加熱することで旨みと辛さが出てくるので最初から、また油に辛味を移すため油と共に弱火で1分ほど炒めた後、肉や野菜を加えます。ケールが硬めの葉の場合は、水を少々入れて蓋をして蒸し煮するとよいでしょう。
バジルは全体を味付けした後、さっと加えて火を止めます。盛り付けた後に上に散らすくらいでも大丈夫。余熱で火が入って、見た目も香りも際立ちます。
冬のベジトラグ栽培に向けて
秋もそろそろ終わり、ベジトラグも冬支度です。友人農家さんに相談し、次なる挑戦に決めたのは、紫小松菜、カーボロネロ、アレッタ。どれもアブラナ科の野菜だそうですが、馴染みがない! さてさて、どのように育ててどんな料理にしたら美味しいのでしょうか。わくわくの冬リポートもどうぞお楽しみに。
Credit
記事協力 / 青山ガーデン
“庭の暮らしを豊かに、幸せに”をコンセプトに、一人ひとりに合わせて「集う」「眺める」「くつろぐ」「育てる」など様々なライフスタイルの提案を行う、ガーデニング&エクステリア専門のオンラインショップ。
家族や友人、子どもたちの笑顔があふれ、季節の移ろいを感じられる憧れの庭に必要な全てのモノが揃うお店です。
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写真&文 / 黒瀬佐紀子 - フードスタイリスト -
くろせ・さきこ/書籍『缶つま』(世界文化社)や雑誌、 TVなどで、手軽で美味しいレシピを提案。
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