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フレンチレストランのエッセンスを家庭料理に。シェフが教えるハーブの正しい使い方

フレンチレストランのエッセンスを家庭料理に。シェフが教えるハーブの正しい使い方

せっかくハーブを育てているのに、意外に「どうやって使ったらいいのかしら」と、使いこなせていないケースは少なくありません。そんな方にぜひお伝えしたいフレンチシェフのハーブ使い。ハーブ “In or Not”で魔法のように味が変化するプロの使い方をご紹介します。今回のハーブは、伝統的なフランス料理に欠かせないエストラゴンとパセリです。

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フランス料理に欠かせないハーブ「エストラゴン」

エストラゴン

エストラゴンはフランス料理で最もよく使われるハーブの一つです。タラゴンとかフレンチタラゴンとも呼ばれ、スパイスの瓶詰めを見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。スパイスといってもそれほど強い香りではなく、ほんのり甘やかな独特の香りをもち、牛乳やバターなどの乳製品との相性が抜群。タラゴンを入れることで、ミルク独特の「乳臭さ」が消え、上品な風味に仕上がります。フランス料理では生クリームやバターを使うことが多いので、エストラゴンの登場率も高いのです。

パイ包みを簡単にしたハーブのクルート

ハーブのクルート

リヨンに、シェフとして初めてレジオンドヌール勲章(*)を受賞したポール・ボギューズの店があります。三つ星の常連レストランですが、ここの看板料理に「ルウ・アン・クルート」というスズキのパイ包みがあります。パイ包みは日本ではあまり馴染みのない料理かもしれませんが、クラシックなフランス料理の定番。私がフランス料理の基礎を学んだリヨンの学校では、必ずこの料理を習います。ポール・ボギューズの日本支店で料理長を任されるようになってからも、お客様からリクエストされ何度も作った大人気の料理です。そんな三つ星レストランの料理のエッセンスを、ご家庭でできるように考えてみました。それがこの簡単クルート。クルートとはフランス語で「かぶせる」という意味です。

(*)レジオンドヌール勲章/ナポレオン・ボナパルトによって制定されたフランスの栄典。ポール・ボギューズ氏は現代フランス料理を築き上げた功績が高く評価され1975年に受勲。

ハーブの簡単クルートの作り方

パイ包みのパイの代わりに、アーモンドパウダーとバター、ハーブを混ぜ合わせた生地を作り、魚や肉の上にのせて焼きます。パイの「サクサク、パリパリ」という食感が、「ザクザク、ホロリ」に変わる感じでしょうか。やや食感が異なりますが、これはこれですごく美味しいのです。そしてなんといっても、パイ生地より断然簡単で失敗がなく、短時間でできるのがよいところ。エストラゴン、パセリ、チャイブ、フェンネルの4種のハーブを使います。全部揃わなくてもかまいませんが、何はなくともエストラゴンは必須です。

【材料】

  • 無塩バター 50g(室温で柔らかくする)
  • アーモンドパウダー 50g
  • 塩 2g
  • ハーブ(エストラゴン、パセリ、チャイブ、フェンネル)を刻んだもの 3g
  • 白身魚か肉(表面だけソテーする)
ハーブ

【作り方】

  1. 材料を全部合わせ、上の写真のように滑らかになるまでヘラで混ぜます。
    ハーブの簡単クルートの作り方
  2. オーブンシートに挟んで、厚みが1cm弱くらいになるよう平らにならし、冷凍庫で固めます。オーブンを230℃くらいに温めておきます。
    ハーブの簡単クルートの作り方
  3. 生地が固まったら包丁で切れ目を入れ、表面をソテーしておいた魚か肉の上にかぶせます。温めておいたオーブンに入れ、表面が色付くまで焼きます。オーブンによりますが、大体5〜10分程度。
    ハーブの簡単クルートの作り方 ハーブの簡単クルートの作り方
ハーブの簡単クルートの作り方

口に入れた瞬間は生地のザクザクという食感が楽しく、口の中でバターが溶けて食材と一体となり、喉を通った後にハーブの香りが鼻からほんのり抜けます。シンプルで素朴な見た目ながら、一品でとても印象深い料理です。ムニエルやローストビーフに飽きたら、ぜひクルートをお試しください。バターのコクが加わるので、肉なら赤身肉などあまり脂のない淡白なものが合います。魚は白身魚なら何でも合いますので、季節によって旬のものを合わせてみてくださいね。生地は冷凍庫で保存できるので、作っておくと急な来客時にも重宝します。

エストラゴンひとつまみで高級レストランの味に早変わり

エストラゴンのクリームシチュー

エストラゴンの魅力を最も簡単に知ることができるのはクリームシチュー。フランス料理では「フリカッセ」という生クリームを使ったシチューに似た料理がありますが、今回はエストラゴンの実力試しに、市販のルーを使ってクリームシチューを作ってみましょう。

クリームシチュー

ルーの箱の裏に書いてある通りにシチューを作ります。そして、最後の仕上げにエストラゴンを入れるとアラ不思議、高級レストランの味。エストラゴンを入れる前と後とで、ぜひ味比べをしてみてください。「こんな簡単なことで?!」と誰もが驚くくらい、面白いように味が変わります。ただし、ポイントが一つ。エストラゴンを入れるタイミングを間違わないでください。

料理に使うフレッシュハーブはグツグツ煮ないのがポイント

エストラゴンのクリームシチュー

エストラゴンを入れるタイミングは、調理の最後です。肉や野菜に火が通り、ルーが煮溶けてきて火を止める直前に、エストラゴンを入れます。入れたらすぐに火を止めましょう。それで十分クリームシチューにエストラゴンの風味が付きます。逆に、最初からエストラゴンを入れてグツグツ煮てしまうのは絶対にNG。エストラゴンに限らず、ハーブは「味」ではなく「風味づけ」「香りづけ」に用います。必要以上に加熱するとエグ味や苦味が出て、かえって料理を台無しにしてしまいます。ハーブにはさまざまな薬効がありますから、そのエグ味や苦味というのは漢方薬のそれに近いかもしれませんね。料理ではあくまでも風味をのせるだけ。しかし、それだけで料理を格段に美味しくしてくれるのが、ハーブのすごいところなのです。

エストラゴンのクリームシチュー

エストラゴンを入れる量は、2人分のシチューで枝先3〜4cmを1〜2本くらいです。季節によってもエストラゴンの香りの強さが変わりますので、指でこすって香りを確認して、最初は少なめの量から調整するといいですよ。

のせて焼くだけで何でも絶品! パセリのエスカルゴバター

パセリのエスカルゴバター

パセリもフランス料理ではよく登場するハーブで、主に臭み消しの役目を果たします。パリは内陸にあり、昔は食材の鮮度を保つのがどうしても難しかったため、鮮度が落ちても美味しく食べる方法としてソースの文化が発達しました。パセリをふんだんに使ったエスカルゴバターは、まさにそんなハーブバターソースです。フランスでは食用のカタツムリを食しますが、それに欠かせないのがエスカルゴバター。グルヌイユと呼ばれるカエル料理にも欠かせないソースです。カタツムリ?! カエル?! と思われるかもしれませんが、フランスではとても人気の料理です。でも、日本ではカタツムリもカエルも手に入りにくいので、貝類を使って作ってみましょう。

【材料】

<エスカルゴバター>

  • 無塩バター 225g
  • パセリ 50g
  • 玉ねぎ 20g
  • ニンニク 10g
  • 塩 2g

<エスカルゴの代わりの具材(人数分適量)>

  • 貝類(冷凍アサリなど何でもOK)
  • 竹の子の角切りを加えると歯触りが楽しくなります
パセリのエスカルゴバターの料理

【作り方】

<エスカルゴバター>

  1. バターを室温に戻します。
  2. パセリ、ニンニク、玉ねぎをみじん切りにします。
  3. エスカルゴバターの材料を全て混ぜ合わせます。
  4. ラップに包んで円筒状にし、冷凍保存します。使うときは包丁でカットして使います。

<具材を入れてからの工程>

オーブンを200℃に温めます。耐熱皿に具材を入れ、エスカルゴバターを厚み1cmくらいに切って具材の上にまんべんなくのせます。10〜15分焼いて完成です。このココット皿はじつは100円ショップ。一口サイズでお酒のおつまみにぴったりです。

エスカルゴバターの料理
これはサザエの殻を器にした一皿。貝の下には塩を置いて、安定させています。

ハーブが育つユンヌ・フルールの庭

ハーブガーデン
タイムやワイルドストロベリーが花壇の縁に茂る初夏の「ユンヌ・フルール」の庭。

19歳の頃、フランスのレストランで料理修行を始めた新米の私の仕事は、毎朝、料理に使うハーブを庭から摘んでくることでした。朝露のついたハーブを摘み取ると、とてもいい香りに包まれて、なんとも気分がよかったことを覚えています。いつか自分のレストランを持ったら、こんなふうに庭からハーブを摘んで料理を作りたいなぁと思ったものです。今、ひるがの高原に構えたレストラン「ユンヌ・フルール」で、その夢が叶いました。

庭
自分でつくっていた当時の庭。

じつは2016年にレストランをグランドオープンさせて以降、ずっと一人で庭を開拓してきました。週末のレストランのオープン日以外は、ただひたすらにシャベルで土を掘り返し、道をつけたり、雑草を抜いたり、花を植えたりしていました。ひるがの高原はゲレンデもある降雪地帯で、11月末には雪が積もり始め、多い年は3m近くになります。ですから寒さや雪の重みでダメになる植物も多く、なかなか庭づくりは進まず、ほとんどの時間を土と格闘することに費やしていました。そんなとき、お客さんの一人がガーデンデザイナーの阿部容子さんを紹介してくれたのです。阿部さんに19歳の頃の私のささやかな夢を話すと、「じゃあ、もう土と格闘するのはそろそろ終わりにして、料理に使えるハーブや果実をたくさん植えよう」と言ってくれました。

ユンヌ・フルールの庭

今年の春、庭は見違えるように美しくなりました。砂利の小径を挟んでテラス側には広い芝生のエリアを設け、もう一方はタイムやオレガノ、チャイブ、ワイルドストロベリー、カモミールなどのハーブや、料理に使えるルバーブやレッドカラントなどが植わった花壇になっています。雪解け水を循環させた小川の周辺には、クレソンも育っています。庭からハーブを摘んで料理ができるのは、本当に幸せ。

ユンヌ・フルールの庭
庭をつくってくれた阿部容子さん(左)と私(右)。

阿部さんは時折面白いハーブを持ってきてくれて、

「ひとみちゃん、ここにコーラプラント(アルテミシアというハーブ)を植えておくから、これで美味しい料理を作ってみてよ」

なんてお題を出してくれます。私はそれに応えて、レシピを考えるのが楽しくて仕方ありません。一緒に苗を植えたり、手入れを教わったりしながら、ようやくガーデニングらしいガーデニングができるようになりました。

でも、ただひたすら土と格闘した6年間も、私には大事な時間です。

「ユンヌ・フルール」以前、私は東京のレストランで働いていました。当時、30代で女性の私が、料理長を任されるのは異例のことだったと思います。政府要人や各界のお客様をもてなすレストランで料理長を務める日々は、とても刺激的で楽しく勉強になり、多くの貴重な出会いや体験をさせてくれたと本当に感謝しています。誰かの晴れの日の席もあれば、誰かを偲ぶ席もありましたが、どんな人も私の料理を食べてお腹がいっぱいになると、笑顔になってくれました。その笑顔が私の原動力でした。しかし、仕事に没頭するあまり、私は自分の身体や心の声に耳を傾けなさすぎました。

心も体も元気になれるレストランに

林の中のユンヌ・フルール
林の中に立つ「ユンヌ・フルール」。

身体をこわして東京を離れざるを得なくなり、料理ができなくなってしまった私は途方にくれました。料理は私のすべてであり、料理人であることが私のアイデンティティを支えてきたからです。しばらく静養をして、この先どうするのかということを考えられるようになった頃に、ひるがの高原に「ユンヌ・フルール」を持ちました。

ガーデン

レストランの営業は週末のみにして、ゆるゆると仕事を再開しましたが、とにかく庭はどうにかしなければなりませんでした。林に囲まれたこの場所では、誰も手を入れない庭は、自然に還ろうと次々に草が生えてくるのです。草を抜き、土を掘り返すと、不思議なことに深い安心感に包まれました。梢を渡る風の音や鳥のさえずり、土の匂い、草いきれ、日の光、季節や時間ごとに変わる空気。ひるがの高原の自然は、限りなく私を癒やしてくれました。この場所で、庭をつくり土に触れることは、私にとって、そして私の料理にも今やなくてはならないものです。この澄んだ空気の中で、私の身体の感覚は研ぎ澄まされ、今までとは料理が確実に変わっているのが実感できます。

ユンヌ・フルールの庭
阿部さんに教わりながら新しいハーブを植栽。

そして、阿部さんが私のガーデニングの手ほどきをしてくれるおかげで、私のハーブの知識もフランス料理に限らず広がりつつあります。もっとハーブの持つ効用を勉強して、食後にお客さん一人ひとりの体調にぴったり合うフレッシュハーブティーを出せたらというのが目下の目標です。私のご飯を食べて笑顔になって、心も身体も元気になって帰ってくれたら、こんなに嬉しいことはないなと思うのです。

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