秋のリンゴを楽しむイブズ・プディング【The Pudding Party Tomoのイギリス菓子便り】

秋といえば食欲の秋。読書も好きだけど、やっぱり食欲には勝てない! と笑う、イギリス菓子研究家でパティシエのTomoさん。イギリス生まれの料理用リンゴ〈ブラムリーアップル〉のお話を伺いながら、リンゴがたっぷりの温かいプディングを教えていただきます。
料理用リンゴ〈ブラムリーアップル〉

私の秋はリンゴで始まります。毎年インターネットで注文している〈ブラムリーアップル〉というイギリス生まれのクッキングアップル(料理用のリンゴ)が届くと、秋が来たなと思うのです。ブラムリーアップル(または、ブラムリー)の話をすると長くなりますが、少しご紹介したいと思います。
イギリスには、生食用のリンゴのほかに、加熱して使う料理用のリンゴというものが存在します。その代表がブラムリー。見た目は大きな青リンゴのような感じですが、一番の特徴は、生では食べられないくらいの強い酸味と、火にかけるとなめらかに煮溶ける、ということでしょう。イギリスでは、私が暮らしていた田舎の村の小さなお店でも手に入るくらい、一般的なリンゴです。

そのブラムリーを日本で手に入れることができるということを知ったのは、10年ほど前、私がイギリスから帰国してまもなくのことでした。友人が、長野県の小布施町で作られていると教えてくれたのです。今では日本でもだいぶ知られてきましたが、当時、ブラムリーの存在はほとんど知られていませんでした。
そんな頃に出会ったのが、ブラムリーを広めようとブログで発信する、ブラムリーファンクラブの皆さんです。ブラムリーとはどんなリンゴなのか、歴史や産地を紹介したり、イベントを開催したり、とにかく熱量がすごい方たちで、彼女たちの活動があったからこそ、こんなに広まったのではないかなと思っています。ご興味のある方は、ぜひブログをご覧になってくださいね。
ブラムリー誕生の物語

イギリスでブラムリーが生まれたのは200年ほど前のこと。1809年、ノッティンガムシャー州のサウスウェルという町で、メアリーアンという少女が庭にリンコの種を播いたことに端を発します。その実生の一つが、のちに素晴らしい実をつけ、そのことに気づいた地元ガーデナーのメリーウェザー氏が品種登録をしたことから、次第に広まっていきました。ブラムリーという名前は、その時に、このリンゴのある家を所有していたブラムリー氏に由来します。正式名称は〈Bramley’s Seedling(ブラムリー氏の実生)〉というのだそうです。
一人の少女が庭に播いた種から生まれたという、このブラムリー誕生の話を聞くだけでワクワクしてしまいます。ブラムリーは、庭用の植物として優れた品種に与えられる、英国王立園芸協会のガーデンメリット賞を受けた、とても育てやすいリンゴで、今ではイギリス中の庭で作られています。自分の庭にブラムリーがあるなんて、私には夢のような話ですが、日本では、気候の合う長野県や北海道で栽培されています。
料理のアクセントにも

ブラムリーファンクラブの方が、ブラムリーの魅力を教えてくれました。
「イギリスに200年の物語のあるリンゴ、ブラムリーは、日本のリンゴ産業にクッキングアップルという新たなジャンルを開きました。私たちは〈リンゴスイッチ〉と呼ぶのですが、ブラムリーを知ることで興味のスイッチが入り、日本で入手可能な珍しい品種を探したり、新たな調理方法を探したりと、皆がリンゴに夢中になってしまいます。ブラムリーは、人と人をつなぐ不思議なリンゴなのです」

ブラムリーは、クッキングアップルという名の通り、イギリスではスイーツのほかにも肉料理のソースなど、幅広い料理によく使われていますが、日本のブラムリーの産地でも、その酸味を生かした料理が開発されています。ブラムリーは、シェフが思わず研究したくなる、面白い素材のようです。
リンゴがとろけるイブズ・プディング

さて、今回はこのブラムリーを使ったイブズ・プディング〈Eve‘s pudding〉をご紹介したいと思います。アダムとイブの、イブの名前が付いているのは、リンゴを使う美味しいデザートだからでしょうか。温かくてほっこりとする、イギリスらしいプディングです。カリッとした表面の下は、ふわふわのスポンジ。スポンジの下のほうはリンゴで少しトロッとしていて、一番下には煮溶けたリンゴが待っています。一つで何層もの異なる食感が楽しめるプディングです。

19世紀、ヴィクトリア朝のデザートについて記した “A YEAR OF VICTORIAN PUDDINGS”という本にも、同じ名のプディングのレシピがあるのですが、この頃はオーブンがなかった時代で、今とはだいぶ様子が違います。「パン粉、スエット(牛脂)、カレンツ、卵、砂糖、ナツメグを混ぜ、プディング型に入れて2時間ボイルする。甘いソースと一緒に召し上がれ」とあり、蒸して作るクリスマスプディングに似ているのかな、と思います。
今回は、オーブンで焼く、現代版のイブズ・プディングを作ります。ブラムリーアップルがなければ、紅玉やグラニースミスなど、酸味のある品種のリンゴで代用するとよいでしょう。その場合は、リンゴを先に鍋で少し煮てから型に入れましょう。
イブズ・プディングの作り方

材料(容量1.5リットルの型)
- ブラムリーアップル……約450g
- きび砂糖(グラニュー糖でも可)……70g
〈ケーキ生地〉
- 無塩バター……100g
- きび砂糖(グラニュー糖でも可)……100g
- 卵……2個
- 薄力粉……100g
- ベーキングパウダー……小さじ1
- レモンの皮……1個分
〈仕上げのオプション〉
- アーモンドスライス……適量
- グラニュー糖……適量
作り方
- 型にバターを薄く塗り、オーブンは180℃に予熱しておく。
- リンゴの皮をむき、スライスする。
- スライスしたリンゴを型に入れ、70gのきび砂糖を入れ、全体にまぶしておく。
- 常温に戻したバターを柔らかくし、木べらを使って100gの砂糖をしっかりと混ぜる。
- 溶いた卵を少しずつ入れ、その都度、しっかり混ぜていく。
- 薄力粉とベーキングパウダーを振るい入れ、さっくりと混ぜる。
- レモンの皮をすりおろして入れ、さっくりと混ぜる。
- ③のリンゴの上に、できたケーキ生地をのせて平らにならす。
- お好みでアーモンドスライスを上に散らし、予熱したオーブンで約40分焼く。
- 焼き上がり。お好みでグラニュー糖を適量ふりかける。

私はたっぷり生クリームをかけていただくのが好きです。ギリシャヨーグルトを添えるのも、さっぱりとしておすすめです。

Credit

写真&文/The Pudding Party Tomo
イギリスのプディングの美味しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと活動する、イギリス菓子研究家、パティシエ。ル・コルドン・ブルー横浜校にて菓子ディプロムを取得。英国コッツウォルズのスリーウェイズ・ハウス・ホテルにてイギリス伝統菓子作りの腕を磨く。
〈The Pudding Party Tomoとイギリス菓子作り〉 https://youtube.com/channel/UCV1hGcG5t0SELBBiuJ1GqBA
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