会津郷土料理研究家の本間のぞみさんが、会津の特産品「身知らず柿」を使った柿茶のつくり方を教えてくれます。砂糖を入れなくても自然の甘みが口いっぱいに広がって、ほかのお茶にはない格別のおいしさ。そのうえ、身体に嬉しい効果がいっぱい! 簡単にできるので、ぜひお家でつくってみてくださいね。「身知らず柿」の献上柿としての伝統を守り継ぐ、昼間は農家・夜はDJの若き生産者にもお話しをうかがってきました。
会津の『身知らず柿』
会津の実家には、「身知らず柿」というこの地方特有の柿の木が植えられています。「身の程を知らずに枝が折れそうなほどたくさんの実をつける」ことや「あまりの美味しさに我を忘れて食べ過ぎてしまう」ことが名前の由来となっているようで、手にとった時にずしんとくる重さと、口どけの良い食感、上品な甘みが特徴です。
私の実家の身知らず柿は、第二次世界大戦後、祖父が現在の家を購入した時にはすでに植えられていたので、樹齢100年以上経っています。祖父の前の家主は漢方医だったので、柿を使って漢方薬をつくっていたのかもしれません。祖父もその柿を大事に育て、そして現在は、父と母が大事に育て続けています。身知らず柿は渋柿のためすぐには食べられず、収穫後に焼酎で2週間程度‘さわす(渋抜きのことを会津ではこう言います)’ことによって渋が抜け、甘い柿になります。11月頃から収穫がはじまり、それが終わると今度は干し柿づくりがはじまります。干し柿は渋柿でつくります。皮をきれいに剥ぎ、熱湯や焼酎をかけるなどして殺菌し、風が通る寒い場所に紐で吊るします。磐梯山の頂上に雪が被ると、会津の人々は干し柿つくりをスタートします。干し柿はカビとの戦いと母は言います。日本百名山の一つで会津のシンボルでもある磐梯山に雪が被るのは、11月下旬のとても寒い時期。何カ月も寒風にさらされることで、干し柿はカビることなく、甘く熟成していきます。
私は小さいころから、家の柿を食べて育ちました。‘さわし’たての柿は食感がパリっとした歯ごたえで、子供の頃はその食感の柿だけを好んで食べていました。柔らかくなった柿や干し柿は、子供の私には甘みが強すぎて美味しく食べることができませんでした。しかしある日、チーズで調理された柿の美味しさに衝撃を覚え、それからは柔らかい柿も干し柿も大好きになりました。
(別の記事で柿のレシピをご紹介しています)
柿が赤くなると医者が青くなる
そんなことわざがあるほど、柿は昔から健康に良い果物として親しまれ、また一度実がなると、放っておいても長年実をつけ続けることから、家の軒先で柿の木を育てる家が多くありました。柿は高木に成長するため、昔はハシゴを使って収穫をしていましたが、近年は収穫しやすいよう剪定して低く仕立てたり、また鉢植えで楽しむ方法もあります。初心者の方は11月くらいから苗が販売されるので、まずは木の状態が安定して収穫がより早く期待できる大苗からチャレンジしてみてはいかがでしょう。柿は大きく分けて「渋柿」と「甘柿」の2種類に分けられます。もとはすべて渋柿だったのが、日本で栽培されるようになってから、突然変異で甘柿ができるようになったといいます。品種にもよりますが、渋柿の方が甘柿より糖度が高いものが多く、渋抜きや干し柿にすることで、より甘い柿を楽しむことができます。
栄養価の高い柿の効能はさまざまで、体の粘膜を強化してウイルスの侵入を防止するビタミンAとウイルスへの抵抗力を高めるビタミンCがミカンの2倍もあるため、風邪予防に効果的です。また、渋みの原因となるタンニンには血圧を下げる効果があり、高血圧や動脈硬化の予防にもつながります。さらにβカロチンやβクリストキサンチンなど抗酸化作用のある栄養素も多いため、アンチエイジングやガン予防にも効果があるといいます。他にもペクチンによる整腸作用やカリウムの利尿作用による二日酔い予防など、その効能は、まさに医者が逃げたくなるほど多岐にわたります。さらに実だけではなく、葉、ヘタ、皮、それぞれに特有の栄養があるため、余すところなく漢方薬や民間療法に使われているのです。
<柿の苗販売>
https://item.rakuten.co.jp/hana-online/c/0000000110/
栄養たっぷり!柿の皮茶
むいた皮は捨てないで!「皮目」と呼ばれる場所が、実は一番栄養が豊富です。乾燥させておけば、ほんのりとした自然の甘みが美味しい皮茶として楽しめます。またすりつぶして粉状にすると、お菓子や料理のトッピングにも使えます。
- カキの皮をむいて、皮を天日干しにして数日おくか、予熱なし100度のオーブンに60分~90分ほど入れて、カラカラになるまで乾かす。
- 包丁で細かく刻み、すり鉢に入れて細かくすりつぶす(ミルサーをお持ちの方はミルサーで砕くと早くできます)。
- ポットに入れて、お湯を注いで完成。
昼間は柿農家、夜はDJバーの店主
「身知らず柿」は会津を代表する特産品のひとつです。現在、その美味しさを広めようと、新たな研究や試みを行っている人々がいます。本田柿農園を営む本田大輔さんもその一人。大輔さんの住んでいる会津若松市・御山で作られる身知らず柿は、天皇家へ献上される「献上柿」としての古い歴史があり、そこでつくられた柿だけが、生産名に「御山」を名乗ることを許された特別な地域でもあります。
大輔さんが柿農家を継いだのは4年前、柿農家だった大輔さんの祖父が亡くなったのがきっかけでした。大輔さんの祖父・悟さんは83歳で亡くなる直前まで、柿づくりを続けていました。大輔さんのお父様は別の職業に就いていたため、現在は叔父の修二さんと大輔さんの2人で仕事を受け継いでいます。大輔さんの家は、先祖代々続く柿農家。大輔さんで何代目かを伺うと「身知らず柿が育てられるようになったのが江戸時代といわれているから、それくらい前かな?」と笑います。大輔さんも幼い頃から、柿の仕事を手伝うのが当たり前だったと言います。
そんな歴史ある仕事が途絶えてしまうのは考えられず、大輔さんが継ぐことを決心。現在、昼間は柿農家、夜は市内でDJカフェ&バーを営んでいます。大輔さんが柿農家を継いでからは、若い人にも身知らず柿の美味しさを知ってもらえる機会が増えました。以前は特定の市場に卸すのみでしたが、現在は市内で行われるマルシェに参加したり、販売からはじかれた柿をドライフルーツの加工会社に買い取ってもらい、「柿っぷす」という新たな商品も生まれました。
「今、地元のつながりがすごく面白くて、農家や林業、デザイナーにアーティストなど、さまざまな職業の人が店に集まってきます。自家栽培をしている仲間も多いので、家で採れたトマトとかキュウリとか、持ち寄り野菜が多いんです。うちの身知らず柿もおつまみに出してますよ(笑)。東北震災以降、色んな意味で会津への注目が高まったので、これをきっかけに会津の良さを知ってもらえるようなイベントをいろいろ開催しています」。
農業は「きつい、つらい」というイメージが未だに拭えない私にとって、人とつながることで農業をより面白く楽しみながら、人生をおおらかに生きている大輔さんの姿はとても新鮮で、魅力的に感じました。
本田柿農園(12月初旬まで身知らず柿の出荷を行っています)
お問い合わせ/090-2848-6359 FAX/0242–28-3692
メール/hondakakien@gmail.com
柿っぷす(通販)
http://sol.saleshop.jp/items/2532499
WOODBRAIN
mitakahitori.com
Credit
制作&レシピ/本間のぞみ
福島県会津若松市生まれ。会津郷土料理研究家。デザイン事務所のアシスタントを経てガーデニング雑誌編集部に入社。庭のある暮らしや食に関する記事をつくる中で、さまざまな食のプロに出会い魅了され、和菓子店、ベーグル店、ビストロなどで経験を積む。現在二人の子供を育てながら、地元の母が作った会津野菜や会津の食品を使ったレシピの提供、また不定期でoisixのグループ会社ふらりーとの社食弁当も提供中。
Photo/3and garden
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