甘酸っぱい小粒イチゴを味わうイートンメス【The Pudding Party Tomoのイギリス菓子便り】
日本のイチゴの季節はもうすぐ終わりますが、この旬の終わりに出回る、小さな粒の甘酸っぱいイチゴを味わうのにぴったりなのが、イートンメスというイギリスのデザート。メレンゲのサクサクした楽しい食感と、イチゴ果汁のジュワーッという甘酸っぱい幸せが、口いっぱいに広がるお菓子です。イギリス菓子研究家でパティシエのTomoさんに教えていただきます。
目次
名門イートン校生まれのお菓子
イチゴを使ったイートンメスは、じつは、イギリスでは初夏を代表するお菓子です。というのも、露地栽培が主流のイギリスでは、イチゴの旬は初夏だから。イギリスのイチゴは夏の到来を告げるフルーツであって、酸味のある、力強くて野生的な味がします。そして、その味は、日本で今頃、旬の終わりに出てくる、小さな粒のイチゴの味によく似ています。というわけで、小粒のイチゴが出回るこの季節になると、私はイートンメスを作りたくなります。
イートンメスは、英国王室のウィリアム王子やヘンリー王子も通ったという、由緒正しき全寮制男子校、名門イートン校で発明された、といわれています。「メス(mess)」とは英語で、「ぐちゃぐちゃ、混乱している」という意味なので、「イートン校のぐちゃぐちゃ」というお菓子! その由来は諸説あるようですが、よく聞くのは、イートン校の男子生徒にお母さんが持たせたデザートが、開けてみたらぐちゃぐちゃになっていた、というもの。なんだか可愛いですね。
ぐちゃぐちゃのデザートってどんなもの? と思われるでしょうが、材料は、泡立てた生クリームと焼いたメレンゲ、そして、たくさんの甘酸っぱいイチゴです。それをただスプーンでぐちゃぐちゃに混ぜて、いただきます。そんなシンプルなデザートですが、一口食べたら、なんでこんなに美味しいんだ! と、きっと驚くはず。日本でも、ケーキといえばイチゴと生クリームが一番人気ですよね。イチゴと生クリームは不動の人気コンビ。そこに、ふわふわのスポンジではなく、カリカリのメレンゲを合わせるのが、イートンメスなのです。以前、この〈イギリス菓子便り〉で、メレンゲ主体のパブロヴァというお菓子をご紹介しましたが、それよりもっと簡単で、カジュアルな感じ。最終的に器の中で全部をかき混ぜるので、言ってしまえば、見た目を気にしなくてよいお菓子なのです。
ウィンブルドンテニスの名物デザート
イチゴといえば、例年6月に行われるウィンブルドンテニスの会場では、「ストロベリー&クリーム」という、イチゴに生クリームをかけたデザートが人気です。イギリスの生クリームはとっても濃厚で美味しいので、旬のイチゴと合わせれば、それだけで最高のデザート。初夏の風物詩となっています。このイチゴの生クリーム添えは、じつは、16世紀、ヘンリー8世の時代に活躍したウルジー枢機卿が振る舞ったのが最初といわれるほど、古い歴史のあるデザートなのですよ。
ウィンブルドンテニスの会期中、会場には毎日約3トンのイチゴが運び込まれます。イングランド南部のケント州の農場で早朝に摘まれたもので、そのすべてが当日に消費されるそう。会期を通じて消費されるイチゴの量は約38トン、192万粒! というから驚きですね。ストロベリー&クリームは、シャンパン、もしくは、ピムスという、イギリスならではのお酒を合わせて楽しむのが、ウィンブルドン流。試合観戦だけでなく、食事やお酒も大いに楽しむ。それが、ウィンブルドンテニスの楽しみ方です。
それではこのデザート、イートン校のぐちゃぐちゃを作っていきましょう!
イートンメスの作り方
材料(4~6人分)
- イチゴ……1パック
〈メレンゲ〉
- 卵白……1個分
- グラニュー糖……卵白の重さの2倍量
〈生クリーム〉
- 生クリーム……200ml
- グラニュー糖……大さじ2
作り方
- メレンゲを作る。
卵白をボウルに入れ、泡立てる。
このくらいふんわりしてきたら、メレンゲ用グラニュー糖の分量からスプーン1杯分くらいを加えてさらに泡立てる。 - 下写真のようになったら、残りの半量くらいのグラニュー糖を加えてしっかり混ぜ、再びツノが立つくらい泡立ったら、残っているグラニュー糖のすべてを加えて、しっかり混ぜる。
- 真っ白になり、ボウルをひっくり返しても落ちてこなくなったら完成!
- オーブンを110℃に予熱する。
メレンゲを絞り袋に入れ、オーブンペーパーを敷いた天板に適当に絞っていく。
ここでは絞り袋を使っていますが、メレンゲは後でぐちゃぐちゃにかき混ぜるので、ただスプーンで適当に落とすだけでも大丈夫。
焼いているときにオーブンペーパーが飛ばないように、メレンゲでペーパーの四隅を天板に貼り付けておくとよいでしょう。 - 110℃で1時間ほど焼き、そのままオーブンの中で冷ましておく。
- 焼き上がり!
私は中までカリッと焼き上げるのが好きですが、中心部分をネチっと仕上げるのが好きな人もいます。お好みの焼き加減を見つけてみてください。
湿気ですぐにダメになってしまうので、オーブンの中で冷ましたメレンゲは、取り出したら素早く密閉容器に入れましょう! - 生クリームにグラニュー糖を加えて泡立てる。イチゴと生クリーム、メレンゲを、好きな器に好きなように入れていく。
大皿に盛って取り分けるのもいいし、一つひとつ、グラスに入れても可愛い。今回はイチゴの柄のティーカップに盛り付けてみました。小さな娘たちにも食べやすくて好評! でも私は、できることなら大きなボウル一つ分くらい食べたい。それほど好きなお菓子です。盛り付けたらすぐ、メレンゲがサクサクのうちに召し上がってくださいね。
Credit
写真&文/The Pudding Party Tomo
イギリスのプディングの美味しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと活動する、イギリス菓子研究家、パティシエ。ル・コルドン・ブルー横浜校にて菓子ディプロムを取得。英国コッツウォルズのスリーウェイズ・ハウス・ホテルにてイギリス伝統菓子作りの腕を磨く。
〈The Pudding Party Tomoとイギリス菓子作り〉 https://youtube.com/channel/UCV1hGcG5t0SELBBiuJ1GqBA
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