どの家庭の冷蔵庫にも常備されている、とっても身近な野菜「人参」。四季を通じて栽培できて、嬉しい栄養素もたっぷり含まれています。今回は、我が家の畑で採れた人参を使った、スパイス香る「キャロットケーキ」を神奈川県葉山で植物を身近に暮らしながらアンティークバイヤーとして活動中のルーシー恩田さんが教えてくれます。自分で育てた人参で作るキャロットケーキは絶品です。ぜひ栽培にも挑戦してみてください!
目次
緑黄色野菜の代表選手「人参」
人参といえば緑黄色野菜の代表! いつの時代もピーマンと肩を並べて、子どもの嫌いな野菜にランクインしてしまう不憫な人参。しかし、その鮮やかなオレンジ色は料理には欠かせない彩りです。
品種改良が進み、甘みが強く人参独特の香りが抑えられたものも出回っています。最近ではスーパーでも色とりどりな人参を見かけるようになりました。調理法や料理の色味に合わせて選ぶと、レパートリーの幅が広がります。

人参には「カロテン」や「カリウム」などの栄養素が豊富なので、肌の健康維持や高血圧予防、便秘の解消にも役立つ頼もしい野菜です。カロテンは皮に多く含まれているため、なるべく皮は剥かずに食べると、自然の恵みを無駄なく摂取することができます。

我が家の畑でも先日、「春まき」した人参の収穫をしました。たわしで泥を落として、皮は剥かずに調理。無農薬で育てた人参は味も香りも濃厚です。今回は、この人参でキャロットケーキを作ります!
人参の育て方
人参は春夏秋と、ほとんど一年中栽培が可能です。人参の種子は発芽率が低いので、発芽さえすれば、ほぼ成功! これから7〜8月にかけて「夏まき」をしておくと、11月頃には収穫が可能です。薬剤が必要な病気も少ないので、気軽に挑戦できる野菜です。

土作りの際はしっかりと深めに耕し、土の塊や石などの固いものは取り除いておきましょう。人参は、成長過程で根の先端が固いものに触れると、根が分かれて「又根」となってしまいます。
人参の種子は、発芽するときに光が必要な「好光性種子」です。覆土(播いた種子に土をかける作業)は薄くし、発芽するまでは土が乾かないようにしっかりと水やりしてください。
発芽して成長し始めたら間引きして、人参1本1本の間に15cm程のソーシャルディスタンスを! 間引きした人参の葉はとても柔らかく、かき揚げにすると美味しいです。

春から秋にかけて、人参の葉に遊びにくるカラフルな芋虫。キアゲハの幼虫です。人参やパセリ、ミツバなどセリ科の植物を好み、葉を食べ尽くしてしまいます。グリーンのボーダー柄にオレンジの水玉模様を纏い、なんともオシャレな「ファッショニスタ」ですが、畑の中では害虫です。可哀想だけれど、サッサと退治しましょう。心が痛む方はお家に連れて帰って、ぜひ夏休みの自由研究にしてください。
人参は庭やベランダなどで、深めのプランターを使って育てることも可能です。長根種と短根種の2種類があり、プランターの場合は、短根種を選ぶと育てやすいでしょう。一般にスーパーで売られているものは「5寸人参」といわれる短根種です。
キャロットケーキとは
キャロットケーキって、直訳すると「人参ケーキ」。ネーミングのキャッチーさに欠けてしまい、地味なイメージ。日本では、つい最近まで馴染みのあるケーキではありませんでした。「クリームなんちゃら」とか、「イチゴのなんちゃら」とかに比べたら、パンチが弱めですものねぇ。

キャロットケーキが日本で幅広く知られるようになったのは、10年程前から。イギリス人のローズ・カラリーニさんのお店「ローズベーカリー」が日本に出店した影響が大きいのでは?

「ローズベーカリー」のキャロットケーキは、背の高いマフィンのような形状で、1cm程もあるクリームがかかっていて、見るからに美味しそう&おしゃれ! キャロットケーキは、ヨーロッパや欧米ではとってもポピュラー。カフェやスーパーでも必ず見かけるケーキの一つです。本来家庭の味なので、作り手によって味や質感が違い、「食べ比べ」も楽しいケーキなのです。
歴史をさかのぼると、キャロットケーキのルーツはイギリスにあります。中世のヨーロッパでは砂糖は希少でとても高価だったため、甘みのある人参は、デザートとしても使われていたそうです(人参は野菜の中でも、甜菜に次いで糖分を多く含むとのこと。日本の人参とは少し違う風味です)。
18世紀や19世紀のイギリスでは、レシピ本にキャロットケーキの前身である「キャロットプディング」が頻繁に登場していました。
時は変わり、第二次世界大戦中のイギリス。戦時中で砂糖が入手困難だったため、国が「キャロットクリスマスプディング」など、人参を使ったさまざまなデザートレシピを普及させたことから、キャロット熱が再燃しました。

1970年頃には、アメリカでも人参を使ったヘルシーな「キャロットケーキ」の人気が爆発! 今のようなクリームが塗られた形状のケーキになったのもこの頃から。正直なところ、普通のケーキのようにお砂糖もオイルも使うし、美味しくてフォークが進んでしまい、決してヘルシーではないけれど。でも、何となく罪悪感は薄めです。多分。
キャロットケーキにはスパイスが欠かせない!
キャロットケーキには必ずといっていいほど、スパイスが使われています。
代表的なのはシナモン。他にもレシピによって、カルダモンやオールスパイス、ナツメグ、クローブなどが使われます。
スパイスと漢方には共通する植物がたくさんあります。少し種類は違いますが、カルダモンは小荳蒄(しょうずく)、オールスパイスは三香子(さんこうし)とも呼ばれます。日常的にスパイスを料理に使えば健康の維持に役立ち、何より料理の腕もグッと上がっていいことずくめ。私のキャロットケーキにはカルダモンとオールスパイスを使います。どちらも、肉料理やデザートにも使われる万能スパイスです。
カルダモン

レモンやユーカリを彷彿とさせるような、清涼感のある上品な香りが特徴。さまざまな効能を持っていることから「スパイスの女王」とも呼ばれ、中国やインドでは3,000年以上も前から香辛料や医療品として使用されています。
菌を抑える働きがあり、古くから口臭の改善のために使われてきました。疲労回復や消化を助ける効果があります。
オールスパイス

クローブ・シナモン・ナツメグの3種の香りを併せ持つオールスパイス。爽やかな香りと、ほのかに甘く苦い後味が特徴的です。ミックススパイスのような雰囲気の名前ですが、一人三役をこなす名役者!
消化促進、血行促進、鎮痛作用、免疫力アップなど、多くの効能のあるスパイス。
単品のクローブ、シナモン、ナツメグと併せて使うことで、それぞれのクセが取れて調和されます。
美味しく作るヒント
私のキャロットケーキの原型は母から受け継いだもの。そこへ私流のスパイスやフレーバーを加えたのが、このレシピです。料理って「言葉」と同じで、作る人話す人によってニュアンスが変わっていくもの。

そんな中、このレシピで変えたくないのが「サワークリーム」を使うこと。一般にキャロットケーキのアイシング部分には、「クリームチーズとバター」を使いますが、このレシピではアイシングに「クリームチーズとサワークリーム」を使います。サワークリームはスーパーの生クリームコーナーにありますので、ぜひ探してみてください。そして、レモンの代わりにライムの絞り汁を使うことで、さらに爽やかに! 濃厚なスパイスの香りとの相性もバツグンです。

最後に、美味しく作るコツは、人参を「グレーター」ですりおろすこと。
グレーターのGrateは「おろす」という意味です。レシピの中で「すりおろしてください」と指示されたら、日本人的には、パッと「大根おろし」を想像しちゃう。でも、諸外国にそんなものはございません! 大根おろしですりおろすと水分が出て「べちゃべちゃ」なケーキになってしまうので、やめておきましょう。グレーターを使うと、人参の中の水分が保たれ、しっとりとしたキャロットケーキに仕上がります。グレーターがなければ、細かい千切りでも大丈夫!
ルーシーのキャロットケーキ レシピ
私のレシピはハンドミキサーも粉ふるいも使いません。オイルを使うのでバターを練る手間もなく、混ぜて焼くだけ! 思い立ったが吉日、すぐに作れます。
「カルダモン」と「オールスパイス」を使い、スパイシー(辛いという意味ではないですよ)で、大人の色気たっぷりのキャロットケーキに仕上げます。もしスパイスが苦手なら、まずは少し分量を減らして作ってみてください。
キャロットケーキの材料

■ケーキ材料
- 人参 1本 (130g程) ※今回は小さな人参だったので2本
- パイナップル缶詰 110g (輪切り3枚程)
- サラダオイル 120ml
- 卵 2個
- サワークリーム 大さじ2
- グラニュー糖 90g
- 三温糖 90g
- 塩 小さじ1/2
- おろし生姜 小さじ1
- バニラエッセンス 適量
- 強力粉 60g
- 薄力粉 120g
- ベーキングパウダー、重曹 各小さじ1/2
- オールスパイス、カルダモン 各小さじ1弱
■アイシング材料
- クリームチーズ 100g
- サワークリーム 大さじ2
- 粉砂糖 80g
- ライム果汁 適量 (レモンでもOK) ※お好みでライムの皮のすりおろしを加えて。
■トッピング
- クルミやピスタチオなどのナッツ
- 紫人参 (グレーターですりおろす) ※色味が綺麗なのでお好みで!
- タイムやミントなど、彩り用ハーブ
キャロットケーキの作り方
- 人参をグレーターでおろし、パイナップルは水気を切り5mm角にカットする。
グレーターがなければ千切りでもOK! - ボウルにサラダオイル、卵、サワークリーム、グラニュー糖、三温糖、塩、おろし生姜、バニラエッセンスを入れ、よく混ぜてから、①を加えてさらに混ぜる。
- 別のボウルに強力粉、薄力粉、ベーキングパウダー、重曹、オールスパイス、カルダモンを入れ、よく混ぜる。
- ③と②をよく混ぜ合わせる。
- 焼き型に流し入れ、170℃に熱したオーブンで40分程焼く。竹串を刺してくっつかなければ完成!
※ケーキの厚さや、オーブンによって焼き時間が変わります。様子を見て焦げそうなら、アルミホイルでカバーしてください。
- ボウルにクリームチーズ、サワークリーム、粉砂糖、ライム果汁を入れて混ぜ、クリームを作る。
お好みで、クリームにライムの皮をすりおろして入れると、さらに爽やかに。 - ケーキがしっかりと冷めてから、⑥を塗る。トッピングにナッツやハーブをのせて完成。
一晩寝かせると「しっとり」しておいしさが倍増! スパイスの効いたキャロットケーキはチャイとの相性もバツグンです。日々のおやつにも、誕生日などのスペシャルな日にも活躍してくれることでしょう!

スパイスやハーブは「健康」の心強い味方。ぜひ毎日の食卓に取り入れてみてくださいね。まずはスパイスたっぷりのキャロットケーキからお試しあれ!
Credit
写真&文 / ルーシー恩田

ルーシー・おんだ/アンティークバイヤー/IFA認定アロマセラピスト/ITEC認定リフレクソロジスト。20代に訪れたタイ・チャン島でのファスティング(断食)経験から、心・体・生活環境などを全体的にとらえることにより、本来の自然治癒力を高め病気に負けない体づくりを学び啓発される。会社員としてデザインの仕事をしながら英国IFAアロマセラピストの資格を取得。退職後は更なる経験と知識の向上のためイギリスへ渡り、英国ITEC認定リフレクソロジストの資格を取得。現在は家業のイギリスアンティークの買付と販売をしながら、アロマセラピスト的な視点で自家栽培の野菜とハーブを使ったお料理教室やワークショップを開催している。
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