近しい人にも会いづらい日々が続きますが、こんな時は、ご機嫌伺いの手紙にお気に入りの香りを添えて、会えないあの人に届けてみませんか。手紙に香りを添える伝統的な文香(ふみこう)は、お香を和紙で包んだものですが、お香の代わりにアロマテラピーのエッセンシャルオイルを使って、手軽に作ってみましょう。癒やしの香りが心をつなぐ、アロマ文香&しおりのブレンドレシピをご紹介します。

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香りに親しんだ、古の暮らし

文香

平安時代の昔から、香りは暮らしの中で愛されてきました。平安貴族は、空薫物(そらだきもの)といって、来客のために隠れたところで香をたいて、どこからともなく香りを薫らせたといいますし、また、衣装には人それぞれの感性による香がたきこめられて、その香りによって、姿が見えなくとも誰がいるのかを知ったといいます。かの時代、貴族たちは香りをクリエイティブに楽しんでいたのですね。

その頃に生まれた、端午の節句の薬玉(くすだま)は、よもぎや菖蒲を編んだもので、不浄邪気を祓うために、すだれや柱に掛けられました。また、訶梨勒(かりろく)は、南方から伝わった薬効のあるカリロクの果実を魔除けに飾ったことに始まったもので、後に、この実をかたどったものを袋に入れて、邪気祓いとして柱に飾るようになりました。

これらは、現代に伝わる掛香(かけこう)の原型で、他にも、置き香や匂い袋など、加熱して楽しむ香とはまた違った魅力を持つ、香の形があります。香りの袋を飾ったり、身に付けたり、贈ったり。その楽しみは、今も暮らしの中に息づいています。今回は、そんなお香の文化から生まれた文香を、アロマテラピーにアレンジしてみましょう。

香り遊びを楽しんで

アロマ文香

香りとの触れ合いは癒やしの時間。ぜひ、アロマ文香&しおり作りを楽しんでください。

文香やしおりに使う精油は、香りの留まりやすさを考えて、サンダルウッドやフランキンセンス、パチュリといった、木や樹脂などの、重めの香りに多いベースノートと、イランイランやネロリといった、花の香りに多いミドルノートを中心に使うと、作りやすくなります。

柑橘や草、葉などのトップノートは、最初に香りが立ちますが、揮発が速いため、時間が経つと香りのよさがなくなってしまいます。トップノートは自分用に、例えば、しおりに使って、清々しい香りに包まれながら、読書を楽しんでみてはいかがでしょうか。

今回ご紹介するアロマ文香やしおりは、精油を垂らすだけの簡単なクラフトです。遊べる試香紙(ムエット)としても使ってほしいと思います。ここにご紹介する4種のブレンドレシピは、どれも心身のリラックスを促すもので、そのまま芳香浴レシピとしても使えます。自分が気に入った香りをあの人に贈ってもよし、あの人のイメージで香りを選んでもよし。いろいろと香りで遊んで、慣れてきたら、精油の1種類を変えたり、滴数を変えたりして、アレンジに挑戦してください。

大まかに覚えておくと便利な香りの使い方はありますが、あまりこだわらず、手持ちの精油を使って自由に香りをブレンドし、楽しんでみてください。使う人一人ひとりにあった香りをブレンドできるところが、アロマテラピーの魅力です。

アロマ文香に向くサンダルウッド精油

サンダルウッド精油
AmyLv /Shutterstock.com

ベースノートの香りの中でも、サンダルウッド(学名 Santalum album、和名ビャクダン、白檀)は、アロマ文香作りに向いています。ビャクダンの名で香木としてお香に使われているので、日本人にたいへん馴染み深く、穏やかで心安らぐ香りです。

サンダルウッドの森
南インド、ケーララ州のサンダルウッドの森。DSLucas/Shutterstock.com

サンダルウッドは、熱帯アジアを原産とするビャクダン科の常緑高木で、始めは自生するけれど、後から寄生根を出して他の木に寄生するという、半寄生植物です。インドでは神聖な霊木として、昔から珍重されてきました。

香木のビャクダンは、仏教の伝来に伴って、中国を経て日本に渡来したと思われます。日本では仏教の儀礼に欠かせない香りとして、焼香や線香の材料に使われ、また、常温でも芳香を放ち、さまざまな薬効もあることから、匂い袋や塗香(ずこう、塗るお香)の主原料として活用されています。木質が堅牢で緻密なので、上質な仏教彫刻や数珠の材料としても珍重されてきました。

サンダルウッドの花と葉
サンダルウッドの花と葉。IamBijayaKumar/Shutterstock.com

サンダルウッドの精油は、木部(心材)から水蒸気蒸留法で抽出されます。南インドの、マイスール(マイソール)地方のサンダルウッドからは、貴重な高品質の精油がとれるといわれますが、現在では野生絶滅の危険性が高い「危急種」として、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに載っています。そのため、手に入りづらくなったインド産(Santalum album)に代わり、香りと成分に違いがありますが、同じビャクダン属に分類されるオーストラリア産(Santalum spicatum)や、ニューカレドニア産(Santalum austrocaledonicum)の精油が使われることが多くなりました。

サンダルウッドの精油は、欧米の香水のベースノートとして欠かせないもの。アロマテラピーで使われる植物には、他にも絶滅が危ぶまれるものがありますが、一滴の精油を大切に使いたいものですね。

アロマ文香の作り方

アロマ文香の作り方

〈用意するもの〉

千代紙(10x10cmまたは 7.5x7.5cm)、化粧用コットン、各ブレンドの精油

〈つくり方〉

  1. 千代紙を折る。たとう折り(祝儀袋の折り方)や、折り紙のたとう包みが最適。
    ※文香にふさわしい、素敵な折り紙はいろいろあるので、工夫してみてください。
  2. 化粧用コットンを1/6サイズに切る(縦長に1/3、それを横に半分)。1枚に各ブレンドレシピにある精油を垂らす。この時、1滴、1滴、しずくの位置をずらすとよい(1か所に重なると精油が染みだすのでご注意を)。
  3. まっさらなコットン1枚を上に重ね、これを①の千代紙で包む(コットンの大きさや枚数は、適宜、調整してください)。

静けさの中の華やぎ ゼラニウムブレンド

ゼラニウム精油
AmyLv/Shutterstock.com

精油:

  • ゼラニウム(Pelargonium graveolens)…1滴
  • 真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)…1滴
  • サンダルウッド(Santalum album)…1滴

サンダルウッドの和の静けさ、芯の強さの中に、ゼラニウムの花の華やかさを、ふわりと感じる印象です。

インド産サンダルウッド精油の主成分であるα-サンタロールやβ-サンタロールは、心臓の働きを高め、血流を促します。不安な気持ちを落ち着け、心身の熱を持った状態を冷ますサンダルウッドと、女性の心強い味方、ゼラニウムを合わせて、ストレスから開放してくれる、清涼感のある香りに仕上げました。

●ゼラニウムについて、詳しくはこちらをご覧下さい。

秘めた情熱を伝える イランイランブレンド

イランイラン
chatchawin jampapha/Shutterstock.com

精油:

  • イランイラン(Cananga odorata)…1滴
  • 真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)…1滴
  • サンダルウッド(Santalum album)…2滴

南国の花、イランイランの情熱的な香りを、包容力のあるサンダルウッドが支える、大人の魅力たっぷりの香りです。秘めた情熱を思わせる香りは、時間が経つにつれて、温かさを持ったオリエンタルな香りに変わっていきます。男性にもどうぞ。

●イランイランについて詳しくは、こちらをご覧ください。

アロマしおりの作り方

アロマしおりの作り方
洋封筒の絵柄部分を切り取り、しおりに。透ける和紙を重ねました。

〈用意するもの〉

洋封筒くらいの厚さの紙(ケント紙、画用紙など)、お好みで和紙、化粧用コットン、各ブレンドの精油

〈つくり方〉

  1. 適度な厚みのある紙を、しおりに適当な、好みの幅と長さの長方形で用意し、縦半分に折る(例えば、横4x縦11cmのしおりを作る場合、原紙サイズは横8x縦11cm)。袋状になるよう、脇と底の部分を紙用ボンドなどでのり付けし、しっかり乾かす。絵柄のある紙を使って、薄く透ける和紙をかけてもよい。
  2. 化粧用コットンを縦に1/3に切って、1枚の上に各ブレンドの精油を垂らす。この時、1滴、1滴、しずくの位置をずらすとよい(1か所に重なると精油が染みだし、本に染みが付くことがあるのでご注意を)。
  3. まっさらなコットン1枚を上に重ね、それを①の袋に差し入れる(コットンの大きさや枚数は、適宜、調整してください)。
  4. 上部に穴をあけて、リボンや紐を通す。

うっとりする花の甘さ リンデンブレンド

リンデンフラワー
芳しい房状の小さな花、リンデンフラワー。Peter Turner Photography/Shutterstock.com

精油:

  • リンデン(Tilia x europaea)…2滴
  • 真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)…1滴
  • フランキンセンス(Boswellia carterii)…1滴

甘いリンデンと静かなフランキンセンスを、ラベンダーが繋げるブレンドです。だんだんに香りが溶け合い、手紙が届く頃には、舶来ものの石鹸のような印象に。あどけない明るさと繊細な優しさがミックスされた、柔らかい香りです。洋風な香りなので、しおりに仕立ててもよいでしょう。

リンデン(セイヨウボダイジュ)の並木
リンデンの並木。PJ photography/Shutterstock.com

リンデン(和名、セイヨウボダイジュ)は欧州では街路樹として親しまれている樹木で、シューベルトの歌曲にも歌われています。

花から抽出されるリンデン精油にあまり馴染みがないかもしれませんが、その香りにはジャスミンやローズにも負けない、濃厚な甘さがあって、古きよき英国の、淑女のクローゼットを思わせます。印象深いノートは時間がたつと、ノスタルジックな気分を誘う、パウダリーな香りになっていきます。

リンデンのハーブティーは、リラックス効果があって眠りを誘うものとして、古くから愛されています。リンデン精油にも、血圧降下や、抑うつ、鎮静などの作用があって、不眠の改善を助けます。日中の忙しさに影響され、興奮して眠れない夜に、このリンデンブレンドを枕元に置いてもよいでしょう。

爽やかで穏やか ネロリブレンド

ネロリの花
Olga Larionova/Shutterstock.com

精油:

  • ネロリ(Citrus aurantium)…1滴
  • 真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)…1滴
  • サンダルウッド(Santalum album)…2滴

ほろ苦く、柑橘の爽やかさもありながら、華やかさを持つネロリ。ビターオレンジの花から抽出されるこの香りは、サンダルウッドとの相性も良好です。鬱々と落ち込んだ気持ちが穏やかに引き上げられて、安心できるような、男性にも好まれるユニセックスな香り。白い花をつけたビターオレンジの木が、風にそよぎつつ、すっくと立っているような、爽やかであり、穏やかでもある印象です。

●ネロリについて、詳しくはこちらをご覧ください。

文香

*『おうちでアロマテラピー』シリーズ、その他のブレンドはこちらからどうぞ。

*精油は信頼できるアロマテラピー専門店で、実際に手に取り、購入しましょう。肌に合わない、気分が優れない、などと感じた時は使用を止め、医師にご相談ください。

*精油はアロマテラピー専門店での購入が安心です。下記に取り扱い時の注意をまとめましたので、ぜひご一読ください。

〈精油を使用する際の注意〉

・ 原液を皮膚につけない。ついたらすぐ石鹸で洗い流す。
・飲用しない。目に入れない。
・火気に注意する。
・医師による治療や投薬を受けている場合は、必ず当該医療機関に相談する。
・3歳未満の乳幼児には芳香浴以外は行わない。また3歳以上であっても使用量を半分以下にし、十分注意を払う。
・高齢者、既往症のある方は半分以下の量を目安に。妊娠中は体調を考慮し、芳香浴以外のアロマテラピーを楽しむ場合は十分注意する。

〈精油の保管・保存について〉

・直射日光と湿気を避け、火気のない冷暗所に保管する。
・子どもやペットの手の届かないところへ保管し、誤飲に注意する。
・開封後1年以内を保存期間とし、柑橘系の精油は半年以下を目安にする。
・香りに異変を感じたら使わない。

〈精油の品質について〉

・次の内容を箱やラベル、使用説明書で確認できるものを選ぶ。ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(地)または原産国(地)、内容量、発売元または輸入元。

Credit

アドバイス/髙畠美穂
公益社団法人 日本アロマ環境協会認定アロマテラピーインストラクター。特定非営利活動法人 日本メディカルハーブ協会認定メディカルハーブコーディネーター。香りとクラシック音楽が大好き。

文・写真/萩尾昌美

参考文献:
松榮堂(監修)、コロナ・ブックス編集部(編者)(2005)『日本の香り』平凡社
和田文緒(2008)『アロマテラピーの教科書』新星出版社
大槻真一郎 尾﨑由紀子(2009)『ハーブ学名語源辞典』東京堂出版
バーグ文子(2013)『アロマティック・アルケミー エッセンシャルオイルのブレンド教本』フレグランスジャーナル社
木田順子(2014)『あたらしいアロマテラピー事典』高橋書店
バーグ文子(2016)『アロマテラピー精油事典』成美堂出版
石川眞理子(2017)『暮らしの小さな紙雑貨 実用おりがみ』メイツ出版
山田眞裕(2019)『香木三昧-大自然の叡智にあそぶ』淡交社
山田松香木店(2019)『和の香りを楽しむ「お香」入門』東京美術

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