ラヴィンツァラと真正ラベンダーでインフル&風邪対策!【おうちでアロマテラピー】

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インフルエンザや風邪が流行する冬の季節。免疫力を高めるラヴィンツァラの精油は、この心配な時期を乗り切るのにぴったりの、頼れる精油です。スーッとした、清涼感のあるラヴィンツァラの香りを中心にブレンドした、インフルエンザを寄せ付けない芳香浴のレシピをご紹介しましょう。花粉症の症状緩和にも役立ちますよ。寒い時期を健やかに過ごすための、お手軽な精油活用法も伝授します。
目次
マダガスカル生まれの精油

ラヴィンツァラという名前を、聞きなれない方も多いかもしれません。ラヴィンツァラ(学名Cinnamomum camphora ct.cineole)はクスノキ科の高木で、マダガスカルの熱帯雨林に生える固有種です。11月から1月にかけて花を咲かせ、実をつけます。「ラヴィンツァラ(Ravintsara)」とは、マダガスカル語で「よい葉」を意味し、現地の人々はその葉をお茶や湿布薬にして、健康維持や治療に役立ててきました。ラヴィンツァラの精油は主にマダガスカルの地で、水蒸気蒸留法によって枝と葉から採取されます。
少しややこしい話になりますが、植物としてのラヴィンツァラは、日本に生えるクスノキと同じ種に分類され、Cinnamomum camphoraという同じ学名を持ちます。しかし、その精油成分は大きく異なっていて、精油としては、まったくの別物になります。ラヴィンツァラの精油は、1,8-シネオールという成分を特に多く含んでいるため、Cinnamomum camphoraのケモタイプ(化学種)ct.cineoleとして区別されています。
*ケモタイプ(化学種)とは、同一学名の植物でありながら、土地や気候など生育条件の影響を受けて、含まれる成分の構成比率が著しく異なるもののことをいいます。野生に生育する植物に自然に起こり、その植物から抽出された精油をケモタイプと呼びます。
ラヴィンツァラの香りと作用

ラヴィンツァラの香りは、スーッとした清涼感のある、心や体に沁みとおるような香りです。ユーカリやティートゥリーなどのフトモモ科の香りに似ていますが、それらより穏やかで、香り全体の輪郭が柔らかく、甘さがあります。わずかに緑の葉も感じられるでしょう。包みこんでくれるようなホッとする香りで、気づいたらそばにいてくれる人のような優しさがあります。私たち日本人には馴染みやすい香りの精油といえるでしょう。
ラヴィンツァラの主成分は1,8-シネオールというもので、炎症を抑えて痰の排出を促し、免疫機能を活性化させる作用があります。また、その他の構成成分であるα-テルピネオールには、抗アレルギー作用や鎮咳作用などがあるので、ラヴィンツァラの精油は、風邪やインフルエンザ、花粉症の症状緩和に適しています。
優れた抗菌・抗ウィルス・抗炎症作用のあるラヴィンツァラには、心の不安を取り除いて鎮静させる作用もあります。また血流や体液の流れを促すので、肩こりや筋肉のこわばりを和らげます。
精油を選ぶ際の注意点

じつは、ラヴィンツァラは長い間、ラベンサラ(学名Ravensara aromatica)と混同されてきました。ラベンサラは同じくマダガスカルを起源とするクスノキ科の野生種ですが、ラヴィンツァラとは異なる植物です。
日本の書籍では、ラヴィンツァラの精油名は、以前の呼び名であったラベンサラや、ラヴェンサラなどの表記が使われていることがあります。また、商品としても、ラヴィンサラ、ラビンツァラ、ラビンサラなどの表記が使われています。一方、ラベンサラの精油も、ラバンサラという表記で販売されていることがあり、非常に混同しやすい状況です。そのため、精油を購入する時は、ラベルや箱、成分分析表などで、精油の学名が自分の望むものと合っているかどうかを確認することが大切です。
また、話はそれますが、最近まれに、ラベンサラのアニサータ種(学名Ravensara anisata)の精油を販売していることがあるようです。しかし、これは発がん性のある成分を含み、アロマテラピーでは一切使用しないものです。
精油を使用する際には、学名を確認し、安全性にも注意する。このことは、豊かなアロマ生活を楽しむための大切なステップです。
日本のクスノキ

さて、ラヴィンツァラと同じ学名Cinnamomum camphoraを持つ、日本のクスノキにも目を向けてみましょう。クスノキ科ニッケイ属の常緑高木、クスノキ(樟、別名クス)は、中国や台湾、ベトナムなどの暖地から、日本へ進出したといわれています。関東以南から九州にかけての照葉樹林帯に生え、人々の暮らしに古くから関わり、活用されてきました。クスノキの木材、クス材は、耐久性に優れて虫に強いという特質から、社寺建築や仏具、タンスなどに使われてきました。飛鳥時代に彫られた仏像の多くはクス材といわれ、昔の人は木材の持つ特性をよく知っていたことが窺えます。
日本各地の神社では、樹齢を重ねたクスノキが御神木として崇められていることが多々あります。有名なのは、名古屋の熱田神宮の境内にある、樹齢1,000年といわれる「大楠(おおくす)」です。また、日本一の巨木は、鹿児島県の蒲生八幡神社にある「蒲生のクス」。このクスノキは、高さ30m、推定樹齢1,600年といいますから、その大きな姿と時の流れに圧倒されてしまいます。

また、クスノキというと、ツンとする樟脳の匂いが思い浮かびます。クスノキの幹、根、葉を水蒸気蒸留し、冷却して取り出した結晶である樟脳は、衣類の防虫剤や香料として、それから、医療にも使われてきました。セルロイドの原料でもあったので、クスノキは有用樹木として明治時代に各地で盛んに植えられました。
クスノキには「楠」の漢字を当てられることが多いのですが、「楠」は中国では、同じクスノキ科の常緑高木であるタブノキのことを指します。クスノキの漢字は本来「樟」であると考えられ、そのため、クスノキの特徴的な成分であるカンファ―も「樟脳」と書かれるのでしょう。
マダガスカルのラヴィンツァラと、日本のクスノキ。精油の成分は違いますが、同じ樹木が異なる地で、それぞれ多岐にわたって利用されてきたことは興味深いですね。
インフルエンザ&風邪対策 芳香浴レシピ

ラヴィンツァラを中心にブレンドした、インフルエンザや風邪を寄せ付けず、また、その症状を和らげるための芳香浴ブレンドです。花粉症の、辛い鼻や喉の症状を緩和する作用もあります。
芳香浴レシピ (6~8畳用のディフューザーを使用の場合)
- ラヴィンツァラ(Cinnamomum camphora ct. cineole)
または、ラヴィンサラ、ラヴィンサラ・シネオール(Cinnamomum camphora)…2滴 - ユーカリ・ラディアータ(Eucalyptus radiata)…2滴
- 真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)…1滴
*上記の精油 使用の注意:
妊娠初期は使用を避ける。妊娠中期・後期の使用は可能だが、使用の際は体調に十分注意する。
敏感肌の方は注意して使用する。なお精油全般に関して、高濃度の使用に注意すること。
スーッと鼻に抜ける爽やかな香りのブレンドです。第一印象はクールですが、しばらくすると身体がほぐれ、一息ついて、明るい気分に。家族や気のおけない友人のように、気軽に付き合えて、時には優しさをくれる香りです。
ユーカリ・ラディアータは、ラヴィンツァラと同じく1, 8-シネオールが主成分。自律神経のバランスを整えてくれる真正ラベンダーと合わせ、3種の精油の相乗効果で炎症を抑え、過剰な粘液を排出し、免疫機能を高めます。うがいや手洗いのように、日常的に使うことで、一層の効果が期待できそうです。
また、こわばった筋肉をほぐし、ストレスのたまった心やふさいだ気持ちを解放して、安眠に導きます。本来身体の持つ自然治癒力を引き出しながら、優れた癒やし効果もある、頼もしいブレンドです。
心身ともに疲れがたまった時や、疲労で眠れない夜、気持ちがふさぐ日、心に安らぎを感じられない日にも試してみてください。首や肩がこる時、筋肉がこわばっていると感じる時にもおすすめです。
人が集まる場所、人の出入りのある玄関先のほか、緊張をほぐすので、一人の部屋や寝室にも適しています。
お手軽ラヴィンツァラinマグ

ラヴィンツァラ精油をより手軽に活用する方法をご紹介しましょう。風邪かな? と感じたら、ぜひ試してみてください。
精油:
- ラヴィンツァラ…1滴
- レモン…1滴
- マグカップにお湯を入れ、ラヴィンツァラ1滴と、レモン1滴を落とす。
- マグカップをみぞおちの前で持ち、目を閉じて大きく深呼吸する。
これだけのことですが、鼻がスッキリ! 呼吸が深くなり、視界もクリアになるのを感じることでしょう。誤飲を避けるため、使い終わったマグカップはすぐに片付けてください。
*ラヴィンツァラ精油 使用の注意:
妊娠初期は使用を避ける。妊娠中期・後期の使用は可能だが、使用の際は体調に十分注意する。
*レモン精油 使用の注意:
敏感肌の方は注意して使用する。
お手軽ラベンダーチーフ

もう一つ、ラベンダー精油の活用法をご紹介します。風邪やインフルエンザを患っている時や、疲れている時に、また、日常的な予防としてお試しください。就寝時にもおすすめです。
精油:真正ラベンダー…1滴
- 大判のハンカチやバンダナを三角に折って、三角の直角の角に真正ラベンダーを1滴落とす。
- カウボーイのように、三角部分を胸に垂らし、ゆったりと首の後ろで結ぶ。
簡単な方法ですが、動脈が集まる首や鎖骨周辺が布で温められることと、ラベンダー精油の効果で、とても癒やされます。体調の優れない時もこれならできるでしょう。
*真正ラベンダー精油 使用の注意:
妊娠初期は使用を避ける。高濃度で使用すると覚醒して眠れない。
ラヴィンツァラを使った芳香浴をご紹介しましたが、ラヴィンツァラは使うたびにリフレッシュできて、飽きのこない香りです。どこか草木の息吹も感じられて、春の足音が聞こえてきそう。精油の力をうまく使って、春まで健やかに過ごしましょう。
●『おうちでアロマテラピー』シリーズ、その他のブレンドはこちらからどうぞ。
*精油は信頼できるアロマテラピー専門店で、実際に手に取り、購入しましょう。肌に合わない、気分が優れない、などと感じた時は使用を止め、医師にご相談ください。
*精油はアロマテラピー専門店での購入が安心です。下記に取り扱い時の注意をまとめましたので、ぜひご一読ください。
〈精油を使用する際の注意〉
・ 原液を皮膚につけない。ついたらすぐ石鹸で洗い流す。
・飲用しない。目に入れない。
・火気に注意する。
・医師による治療や投薬を受けている場合は、必ず当該医療機関に相談する。
・3歳未満の乳幼児には芳香浴以外は行わない。また3歳以上であっても使用量を半分以下にし、十分注意を払う。
・高齢者、既往症のある方は半分以下の量を目安に。妊娠中は体調を考慮し、芳香浴以外のアロマテラピーを楽しむ場合は十分注意する。
〈精油の保管・保存について〉
・直射日光と湿気を避け、火気のない冷暗所に保管する。
・子どもやペットの手の届かないところへ保管し、誤飲に注意する。
・開封後1年以内を保存期間とし、柑橘系の精油は半年以下を目安にする。
・香りに異変を感じたら使わない。
〈精油の品質について〉
・次の内容を箱やラベル、使用説明書で確認できるものを選ぶ。ブランド名、品名、学名、抽出部分(位)、抽出方法、生産国(地)または原産国(地)、内容量、発売元または輸入元。
アドバイス/髙畠美穂
公益社団法人 日本アロマ環境協会認定アロマテラピーインストラクター。特定非営利活動法人 日本メディカルハーブ協会認定メディカルハーブコーディネーター。香りとクラシック音楽が大好き。
〈参考文献・ウェブサイト〉
和田文緒(2008)『アロマテラピーの教科書』新星出版社
社団法人日本アロマ環境協会 資格制度委員会(2008)『アロマテラピー用語辞典』
谷田貝光克(2011)『文化を育んできた木の香りーその機能と生活との関わり』フレグランスジャーナル社
バーグ文子(2013)『アロマティック・アルケミー エッセンシャルオイルのブレンド教本』フレグランスジャーナル社
木田順子(2014)『あたらしいアロマテラピー事典』高橋書店
バーグ文子(2016)『アロマテラピー精油事典』成美堂出版
西川栄明(2016)『樹木と木材の図鑑―日本の有用種101』創元社
Credit
文 / 萩尾昌美

はぎお・まさみ/ガーデン及びガーデニングを専門分野に、英日翻訳と執筆に携わる。世界の庭情報をお届けすべく、日々勉強中。20代の頃、ロンドンで働き、暮らすうちに、英国の田舎と庭めぐり、お茶の時間をこよなく愛するように。早稲田大学第一文学部卒。神奈川生まれ、2児の母。
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