1枚の紙をくるりと巻いたような個性的な形の花。カラーは、太く肉厚な茎の先に、1輪ずつ大きな花を咲かせます。水分たっぷりでみずみずしいカラーの花は、ドライフラワーにして楽しむことができます。東京・用賀の花店『ブロッサム』の嶋 友紀さんに、カラーのドライフラワーの作り方、飾り方を伺いました。
目次
カラーのドライフラワー作りは難しくありません
1枚の紙をくるりと巻いたような花が、個性的なカラー。花として楽しんでいる部分は「仏炎苞(ぶつえんほう)」と呼ばれる、葉が変化したものです。じつは、この中にある細い棒状の「花序(かじょ)」が本来のカラーの花。ここではわかりやすいように、この仏炎苞を「花」と呼ぶことにします。
カラーは、花自体が水をたっぷり含んでいるため、1日給水しなくても、花はほとんど変化がありません。茎は太く、さらにたっぷり水を含んだ多肉質。張りがあります。水があがっていなかったり、鮮度が落ちたりすると、茎は柔らかくなり、張りがなくなります。
カラーは花も茎も水分が多く、ドライフラワーにしやすい花材とはいえません。そんなカラーを、なぜわざわざドライにするのか…それには理由があります。
夏の暑い日に、カラーを飾ったことはありませんか? カラーは暑さや蒸れをとても嫌います。閉め切った暑い部屋に飾ると、特に水分が多い茎は傷んで溶け出したり、途中で折れてしまったり。茎は蒸れると予想以上にダメージを受けます。ところが、花は1日放置しても変化がないくらいですから、茎が傷んでしまっても、しばらくはきれいなまま。つまり、茎が傷んでも、花は十分に楽しめるのです。
茎がダメになっても楽しめる花を生かせる手はないものか…。そこで、カラーのドライフラワーの登場です。カラーは、専用の乾燥剤を使う「シリカゲル法」で、簡単にドライフラワーにすることができます。
上の写真↑が、シリカゲル法で作ったカラーのドライフラワー。中心の花序までしっかり乾燥しています。
ドライフラワーに適した、カラーの種類と選び方
カラーの種類には湿地性、畑地性のふたつのタイプがあります。一見して同じように見えますが、湿地性は花がやや大きく、白、ピンクが中心。畑で育つ畑地性は小ぶりで、赤、紫、ピンク、白、黄、緑、オレンジ色と、カラフルな花色が揃っています。
カラーは肉厚で水を多く含んでいるため、一般的な花をシリカゲルでドライフラワーにする場合と比べ、2倍ぐらい時間がかかると思っていいでしょう。自然に水分を蒸発させるハンギング法とは異なり、シリカゲル法は花材の水分をシリカゲルが急激に吸い取り、花色をきれいに残します。
しかし、長い時間がかかってしまうと、花は変色しがちです。たとえば、白いカラーは生成り色になります。つまり、白や色が薄いカラーより、濃い色のカラーのほうがドライフラワーにしたときに色がきれいに残ります。
従って、畑地性に多い、赤、紫、濃ピンク、オレンジ色、濃い黄色などが、ドライフラワーに向いています。ただし、どの花色もドライフラワーにすると、薄く茶色を含むことになります。濃色の花色の品種をピックアップしてみましょう。
カントール
赤黒い花色は、ドライフラワーにしたときも色がきれいに残ります。
キャプテンプロミス
きれいな赤紫色。濃い花色なのでドライフラワー向き。
キャプテンロマンス
くすみ感のあるピンク。花びらの端の方が濃くなるグラデーション。
ホットチョコレート
花だけでなく、茎まで黒に近い赤黒さが独特です。
キャプテントリニティ
花の端が濃いオレンジ色に染まる、ニュアンスカラーが特徴。
キャプテンサファリ
ややオレンジを含む黄色には、ニュアンスがあります。
カラーをドライフラワーに仕立てる、ふたつの作り方
ドライフラワーの作り方には、大きく分けて、ハンギング法、シリカゲル法、ドライ・イン・ウォーター法の3つがあります。
カラーを吊るして乾燥させる「ハンギング法」
ドライフラワーの作り方で、もっとも定番が、このハンギング法です。直射日光が当たらない、風通しのよい場所を選んで、花を下に向けて吊るすだけ。初心者にも簡単にできる方法です。からっとした晴天が続く日は、ドライフラワー日和。長雨の時は湿気が多くなるので、避けてください。
ただし、このハンギング法は、水分を多く含む花には向きません。蒸発するのに時間がかかるため大きく変色したり、蒸発する水分が多いので花の形が大きく崩れたりしがちです。
この方法で実際にカラーをドライフラワーにしたものが、下の写真↓です。3本のカラーのうち、上から下へ乾燥が進んだ順番に並べています。上とまん中は生乾きの状態で、花色は残っています。いちばん下はカラーが完全にドライフラワーになった状態。褪色して茶色になった花は、ボリュームが落ちて、一見してカラーかどうかわからないほど変形しています。まるで枯れ葉のようなな姿ですね。
カラーの美しい花色と形を残す「シリカゲル法」
シリカゲルは、湿気を嫌う菓子類や乾物などといっしょにパッケージにされ、広く使われています。成分は水晶や石英の成分と同じ、二酸化ケイ素です。二酸化ケイ素は、表面に微細な穴がたくさん空いているため、水分をはじめとするさまざまな物質を吸着します。この働きを利用し、シリカゲルはドライフラワー専用の乾燥材として出回っています。ネットショップや100均ショップなどで、手軽に購入できます。
シリカゲルを使ってドライフラワーを作るメリットは、花色をきれいに残せること。蒸し暑い梅雨時や夏でも、シリカゲルを使えば、きれいな色のドライフラワーにすることができます。
シリカゲル法で必要なもの
・カラー
・シリカゲル *粉末状のもの。ドライフラワー用が最適
・タッパー
・スプーン
・ハサミ
シリカゲル法のコツと注意点
ドライフラワー専用のシリカゲルを用意します。ドライフラワー用シリカゲルは、細かい粉末状のため、花の隅々に行きわたります。そのため、花は水分が抜けたあとも、元の形状を保つことができます。食品などに小袋のシリカゲルがついてきますが、こちらは大きな粒状のため、利用はおすすめできません、乾燥はしますが、花びらにシリカゲルの粒の跡が残ってしまうことがあります。
前述したように、シリカゲル法は色も形もあまり変化せず、生花の状態を残しながらドライフラワーに仕上げることができます。美しいドライフラワーを作るためには、花の間にも隙間なくシリカゲルを入れ、最後はシリカゲルの中にカラーを埋め込むといいですね。シリカゲルから花びらが飛び出していると、そこだけドライフラワーにならないので注意しましょう。
シリカゲル法の手順
①大きなカラーの花がすっぽり入る深いタイプのタッパーを用意。まず、シリカゲルをタッパーの深さの1/3ぐらいまで入れます。カラーを置く場所に浅く穴を掘ってから、その穴の上にカラーをのせます。
②シリカゲルを少しずつカラーにかけていきます。カラーがきれいに咲いたそのままの状態で乾燥させるには、花の中までまんべんなくシリカゲルを入れるのがポイント。空間がないようにシリカゲルを入れていきます。
③最後はすっぽりと、カラーが完全に隠れるまで、シリカゲルをかけます。このあとは蓋をして、しばらく置きます。
④蓋をして1週間ほど経ってから、カラーを取り出します。
⑤ドライフラワーになったカラーの花びらは、パリパリに乾いています。花びらが傷ついたり、折れたりしないように、取り出すときは丁寧にやさしく扱いましょう。
シリカゲルの再生方法
きれいなドライフラワーを作るには、早く乾燥させることがポイントです。ところが何度も繰り返して使ううちに、花の湿気をたっぷり吸ったシリカゲルは、水分の吸収力が落ちてきます。特に水分が多いカラーのような花をドライにした場合は、シリカゲルが多くの水分を吸収。使用後は、吸水力が悪くなるかもしれません。しかし、吸水力が落ちたシリカゲルは、簡単に再生することができるのです。
その再生方法を紹介しておきましょう。使う前のシリカゲルは一般に青または水色ですが、水分を吸収すると、しだいにピンクに変色します。再生の時期はこの色の変化が目安。まず、フライパンや鍋を用意します。水分を吸収してピンクになったシリカゲルを入れ、中火で5~10分熱してください。青い色が戻ってきたら、再生のサインです。まめにメンテナンスをして、コンディションを整えておくといいですね。ただし、テフロン加工のフライパンや鍋は、キズがつくことがあるので注意しましょう。
「ドライ・イン・ウォーター法」はカラーには不向き
器に水を入れ、花をいけておくだけの方法です。ドライフラワーにするのが目的なので、器の中の水を替えず、しだいにドライになっていくのを待ちます。花材によってはこれもひとつの方法ですが、水分をたっぷり含んだカラーには向きません。
カラーのドライフラワーをより楽しむために…
時間をかけて乾燥させたカラーのドライフラワーは、時間が経つと自然と褪色します。日光が当たっても褪色が早まるので、直射日光が当たらない場所に飾って、きれいな色をより長く楽しみましょう。また、キッチンや風呂場など、頻繁に水を使う場所の近くや、湿気が多い場所は、ドライフラワーが水分を吸い込んで長もちしません。風通しのよい場所を選んで飾ります。
鮮明な色に仕上がっても、しだいに褪色していくドライフラワー。色鮮やかなドライフラワーを楽しむ場合の観賞期間は、数か月と考えてください。反対に生成り色や茶色っぽく褪色した色を、ドライフラワーらしいとするなら、半永久的に楽しめます。長く楽しめることがドライフラワーのよさですね。
カラーは紙をくるりと巻いたような形。細かい花びらよりも折れたり、割れたりしやすいので、花の部分にはなるべく触れず、丁寧に扱いましょう。
カラーのドライフラワーを使った、簡単アレンジ
ドライフラワーができあがったら、部屋に飾ったり、コサージュを作ったり。ドライフラワーは吸水する必要がありませんから、生花以上に自由な発想であしらうことができます。
大人っぽいシンプルなフォルム、個性的なカラーは、ドライになるとさらに独特なムード。その持ち味を生かして、手作りのインテリア雑貨としてさまざまにあしらえます。
シリカゲル法で花だけをドライフラワーにした場合は、ワイヤリングして花茎をつけると用途が大きく広がります。
その1 印象的な形を生かした、おしゃれなテーブルフラワー
おしゃれ上手な友人を招いたときには、こんなテーブルフラワーはいかがでしょう? 黒いアイアンの丸いプレートにあしらったのは、茎が繊細なエミューファン。くるっと丸め、グリーンをもう1種、質感と形が異なるエアプランツを。そこにドライのカラーをのせるだけです。ドライのカラーはたった1輪ですが、シックでおしゃれな赤黒いカラーのグラデーションが効いています。動きのあるグリーンと、乾いたカラーを対比させているのもポイント。
エアプランツは通気がよく乾きやすい環境が好きですが、水分も必要。ドライフラワーといつも一緒に飾ることはできませんが、このときだけのあしらいならばOKです。
その2 カラー、バラの実、サンキライのドライ3種
バラの実とサンキライの蔓をラフに巻いて作ったドライのリースに、カラーのドライフラワーを合わせました。カラーは縁が淡い黄色いで、中が紫色のピカソ。よく乾いて、全体に褪色した色合いは、サンキライの葉とよくなじんでいます。まるで秋の彩りの色のようですが、独特な花の形が存在感を主張しています。
すっきりとした形が人気の生花のカラー(ピカソ)。しばらく楽しんで茎が傷んだら、ドライフラワーにしてみてください。
その3 炎のような赤いカラーを、キャンドルアレンジに
小さな実ものをあしらったのは、定番のキャンドルアレンジ。そこでひとひねり、ゆらゆら揺れる炎のようなカラーのドライフラワーを、アクセントに入れてみました。
その4 長さを生かせば、ナチュラルに決まります
まるで生花のカラーとユーカリをさっとあしらったよう。丈を生かしたナチュラルなアレンジに見えますが、じつは花材はどちらもドライ。カラーは茎がないので、ワイヤリングして茎を作りました。ワイヤーで作った茎を自在に曲げて、アレンジできます。
花の下に残った短い茎にワイヤーを刺します。フローラルテープをワイヤーに巻いて、カラーの茎を作りました。
その5 すらりとした花形で魅せる、シンプルスワッグ
スワッグといえば、グリーンをたっぷりあしらうイメージがありますが、ここではあえて花材は控えめに。カラーのスタイリッシュなイメージを表現し、長い茎のカラーをあしらっています。のびやかな花の持ち味を生かした、スワッグです。
その6 花、グリーン、実もの。それぞれの形を愛でて
特別なテクニックがなくても、スワッグには、花材のおもしろさを表現できる魅力があります。ベルのような実をつけたユーカリと、細かい葉のユーカリ。2種のシルバーグリーンが、カラーのシックな色を引き立ててくれました。
その7 大きな面の花と、繊細なグリーンを対比させます
アンティークのような独特なムードを漂わせるカラーのピカソを、ドライフラワーにして、ワイヤリングしました。茎をつけてガラスの花器に投げ入れたアレンジです。細いエミューファンを、リースにしてあしらうと、それだけで繊細な雰囲気が生まれます。ピカソはドライにすると、黄葉のようなムードにも。
その8 簡単です。ドライフラワーをかごに入れるだけ!
作っておいたドライフラワーと実ものを、ワイヤーバスケットの中へ。特に意図的になにか手を加えなくても、花材同士がマッチして、アンティークっぽい雰囲気に。
その9 シックな彩りでアクセントに。大きめコサージュ
生花のカラーは、スタイリッシュなコサージュになりますが、ドライフラワーすると、ひと味違った雰囲気のおしゃれなコサージュに。
その4で紹介したワイヤリングの方法で、カラーに茎を作りました。花の長さに合わせて茎は長めにし、グリーンを合わせます。ナチュラルな麻布のリボンを選ぶと、洗練された印象に。
Credit
嶋友紀
『ブロッサム(BLOSSOM)』オーナー。
1輪の花との出合いをきっかけに植物に魅了され、2000年、会社勤務から花の世界へ。人気花店、市場の仲卸で経験を積み、2011年、東京・用賀にショップをオープン。日々の暮らしを豊かにする花を提案し、ヨーロッパスタイル、トロピカル、和テイストの花などをオーダーメイドで応えている。さりげない1本、葉や枝ものをたっぷり、といった植物そのままの魅力を生かした作風に定評がある。
https://www.blossom-jp.com
https://www.instagram.com/blossom_shima/
構成と撮影と文・瀧下昌代
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