蝶のように優雅な姿のコチョウラン。冠婚葬祭などフォーマルなシーンでの定番花に、最近、ミディ系のコチョウランが多く登場するようになりました。小ぶりで使いやすく、カラフルな花色が揃うと人気を呼んでいます。「コチョウランは鉢植え、切り花のほか、ドライフラワーでも楽しめます。雑貨感覚にあしらえるんですよ」と話してくれたのは、東京・早稲田にあるアトリエ『ショコラ』の内海和佳子さん。早速、コチョウランのドライフラワーの作り方と、アレンジを教えていただきましょう。
目次
コチョウランのドライフラワー作りは比較的、難しい
ドライフラワーの作り方には、大きく分けて、ハンギング法、シリカゲル法、ドライ・イン・ウォーター法の3つがあります。
ハンギング法で作ったドライフラワーとしてよく見かける花材は、たとえばセンニチコウ、スターチスなど。これらはもともと花びらがカサカサした花です。プロテア、リューカデンドロンなどのワイルドフラワー、ユーカリなども、乾いた質感。ふわふわしていますが、ミモザも乾きやすく、ミモザのリースは掛けておくと、自然とドライフラワーになります。フランネルフラワ―も起毛した布のような質感ですが、ドライフラワーになります。
さて、コチョウランはどうでしょうか。高級な花のコチョウランをドライフラワーにしてしまうのは、ちょっと勇気がいりますね。コチョウランの花びらは、厚みがあってしっかりした質感です。満開のミディ系コチョウランを、ハンギング法でドライフラワーにしてみました。
次の様子は、風通しのいい場所で、コチョウランを逆さまに吊るし、写真は2日めの様子です。
吊るして2日めのコチョウランの花の状態は、干した時とあまり大差がありません。花びらに厚みがあって、しっかりしているので、もともと水もちがとてもよく、吸水しなくても2日間ぐらいはもつ花です。
写真は、吊るして4日めの様子。すぐには変化が現れませんでしたが、4日めになると色が黒ずんできて、花がぽろぽろ落ちてしまいました。水分が抜けると花茎が弱くなるようです。
実際に試した結果、ハンギング法、ドライ・イン・ウォーター法では、コチョウランのドライフラワーを作ることはできませんでした。しかし、シリカゲル法では、後述するように、ドライフラワーができあがりました。
ドライフラワーに適している、コチョウランの種類と選び方
コチョウランとは和名、胡蝶蘭のこと。学名はファレノプシス。「蛾に似ている」という意味です。冠婚葬祭に欠かせない花。ウエディングシーンを飾るフォーマルな花として、ウエディングブーケや会場装花として人気を誇ってきた花です。また、ランのなかでもとくに高級贈答品として、鉢花は群を抜いて人気が高い花です。細くしっかりとした茎に、大輪を並べて咲く姿は、確かに優雅で高級感がありますね。
同じランでもカトレアのようにひらひらと揺れるような質感ではなく、デンファレなどより厚みがあります。しっかりしていて、マットな質感の花びらは、まるで紙のよう。厚みがあるといっても、刷れたりすると跡が残るので、傷がつかないように丁寧に扱うように気を付けましょう。
そんな冠婚葬祭の花、高級贈答品の花のイメージといえば、大輪の白いコチョウランでしょう。じつは白のほかにピンク、紫、黄色、緑色など、多彩なカラーバリエーションが揃っています。白花も花びらは純白でも、リップがピンク、黄色、オレンジ色などのバリエーションがあります。白花でも中心の色によって、印象が異なりますね。
さらに最近人気が高まっているのが、花が小さいミディ系のコチョウラン。見栄えのいい大輪のコチョウランは商用や冠婚葬祭用に。ほかの花材に合わせやすいサイズ感のミディ系は、花束やアレンジメントで活躍。暮らし空間にもふさわしいサイズ感で、しかも大輪に比べて手に取りやすい価格です。
大輪が並ぶコチョウランでは、部屋に置き切れなくても、ミディ系のコチョウランならば、リビングテーブルや、チェストの上に置いたときにちょうどいいサイズ感です。
ドライフラワーにも、そんな扱いやすく、手ごろなミディ系がおすうめです。
コチョウランをドライフラワーに仕立てる作り方
コチョウランは、シリカゲル法でドライフラワー作りをします。コチョウランはどんな方法でも簡単に、ドライフラワーを作れる花ではありませんでした。
コチョウランの色をきれいに残す「シリカゲル法」
それでは、シリカゲル法を使って、コチョウランのドライフラワーを作りましょう。
必要なもの
・コチョウラン
・シリカゲル *粉末状のもの。ドライフラワー用が最適
・タッパー
・スプーン
・ハサミ
シリカゲル法のコツと注意点
シリカゲルはドライフラワー専用を用意。ドライフラワー用シリカゲルは、花びらと花びらの間に入りやすい粉末状です。花びらの隅々にまで入り込むため、水分が抜けたあとも花の形を保つことができます。一方、食品などについているシリカゲルはこれより大きな粒状のため、利用はおすすめできません、乾燥はしますが、花びらにシリカゲルの粒の跡が残ってしまうことがあります。
前述したように、シリカゲル法は色も形もあまり変化せず、生花の状態をある程度残しながらドライフラワーに仕上げることができます。美しいドライフラワーを作るためには、花びらの間にも隙間なくシリカゲルを入れ、最後はコチョウランをシリカゲルの中に埋め込むといいですね。シリカゲルから花びらが飛び出していると、そこだけドライフラワーにならないので注意しましょう。
何度も使ううちに、花の湿気を吸ったシリカゲルは水分の吸収力が落ちてきます。きれいなドライフラワーを作るには、早く乾燥させることがポイント。吸水力の高いシリカゲルを用意しましょう。湿気を吸ったシリカゲルを加熱すると、再生して吸水力を回復します。まめにメンテナンスをして、コンディションを整えておくといいですね。
シリカゲル法の手順
①大きなコチョウランの花がすっぽり入る深いタイプのタッパーを用意。まず、シリカゲルをタッパーの深さの1/3ぐらいまで入れます。コチョウランを置く場所に浅く穴を掘ってから、その穴の上にコチョウランをのせます。
②シリカゲルを少しずつコチョウランにかけていきます。コチョウランがきれいに咲いたそのままの状態で乾燥させるには、まんべんなくシリカゲルをかけるのがポイント。すべての花びらと花びらの間にシリカゲルを入れていきます。
③最後はすっぽりと、コチョウランが完全に隠れるまで、シリカゲルをかけます。このあとは蓋をして、しばらく置きます。
④蓋をして1週間ほど経ってから、コチョウランを取り出します。
⑤ドライフラワーになったコチョウランの花びらは、パリパリに乾いています。花びらが傷ついたり、折れたりしないように、取り出すときは丁寧にやさしく扱います。
※シリカゲルは一般的に青い色をしています。使っていくうちに水分の吸収力が落ちると、青から色が変わってきます。シリカゲルは加熱して再生すると繰り返し使えるのが利点。再生方法は、繰り返して使用したシリカゲルを鍋やフライパンに入れ、かき混ぜながら5~10分加熱するだけ。青い色が戻ってきたら再生したサインです。
花色が濃いコチョウランで、美しいドライフラワーを
ハンギング法、ドライ・イン・ウォーター法ともに、コチョウランのドライフラワー作りには向きません。シリカゲル法でドライフラワーにする場合にも、コチョウランの場合は花材の色が限られます。
色が濃いコチョウランの場合は、色が沈むものの生花に近い色が残ります。次のローレンス、ココ、スイートダイヤモンドのような濃色のコチョウランは、ドライフラワーにすることができます。
コチョウラン(ローレンス)
コチョウラン(ココ)
コチョウラン(スイートダイヤモンド)
ドライフラワーには向かない淡色
残念ながらシリカゲル法でもドライフラワーに向かない品種もありました。次のゴールデンストライプ、ブルートゥインクルのような淡い花色、白色のコチョウランは、花びらが黒ずんできれいなドライフラワーになりませんでした。
淡いライムイエローのタイダスマイルは、花びらが黒ずむことなく、ドライフラワーになりましたが、ライムイエローの花色は抜けて、出来上がったドライフラワーは生成り色でした。
シリカゲル法でも、必ずしもすべての品種が見栄えのいいドライフラワーになるとはいえないようです。
コチョウラン(ゴールデンストライプ)
コチョウラン(ブルートゥインクル)
コチョウラン(タイダスマイル)
コチョウランのドライフラワーをより楽しむために…
乾燥して色のきれいなドライフラワーができあがっても、時間がたつとドライフラワーは褪色していきます。日光が当たっても褪色が早まるので直射日光が当たらない場所に飾れば、きれいな色をより長く保つことができます。
キッチンや風呂場など、頻繁に水を使う場所や、湿気が多い場所は、ドライフラワーがその湿気を吸い込んでしまうため長もちしません。乾いた風が通る、風通しのいい場所を選んで飾りましょう。
鮮明な色に仕上がっても、しだいに褪色していくドライフラワー。色鮮やかなドライフラワーを楽しむ場合の観賞期間は、数か月間と考えてください。反対に生成り色や茶色っぽく褪色した色を、ドライフラワーらしいとするならば、半永久的に楽しめます。ドライになった色や質感、姿を楽しんだり、みずみずしく咲いていた花の余韻を楽しんだり。長く楽しめることがドライフラワーのよさですね。
コチョウランのドライフラワーを使った、簡単アレンジ
生花を飾るには必ず吸水が必要です。その吸水を気にすることなく楽しめるのが、ドライフラワーです。
コチョウランはもともととても水もちがいい花なので、例えばおもてなしのテーブルに、吸水せずにそのまま置くように飾っても、パーティの間、ずっとみずみずしいままです。コサージュにして、ドレスにつけたコチョウランが、翌日になってもいきいきとしていたという経験はありませんか?
そんな水もちがよく、長もちする花ですが、ドライフラワーにすれば、さらに自由な発想で花を飾ることができるわけです。コチョウランのドライフラワーを、インテリア雑貨として素敵に飾ってみましょう。
コチョウランをドライフラワーにすると茎が弱くなるので、茎は切り取り、ワイヤリングして茎を作ると飾る用途が広がります。
その1 コチチョウランのドライフラワーコサージュ
ワイヤリングしてフローラルテープで巻き、茎を作ったローレンス。コチョウランは5弁の花のように花形。その花形を引き立てるように丸い花とはまとめず、すっと先端が細くなる花材を合わせて、動きのあるフォルムにしました。茶色を含んだオレンジ色のローレンスは、中心のピンクが黒く変色して、全体がドライらしい色になっています。その茶色を生かすため、明るい色は使わず、緑色や青のドライフラワーを合わせています。
その2 手のひらサイズのナチュラルリース
ローレンスは紅葉のような花色なので、ナチュラルなつるのリースベースにアレンジしました。丸い花びらがきれいに見えるように、合わせたのは穂状の小さな花、小さな実もの。オレンジ色の花色と反対色の青っぽい実ものを使い、アクセントに白いモスを少し使っています。コチョウランはワイヤリングして、最後にリース台にあしらっています。
その3 標本風のボックスアレンジ
その2のアレンジをそのままボックスにあしらいました。フィンランドモスを敷き詰めたボックスは、植物標本のようなムードも。フィンランドモスが白いので、くすみ感のある花材の色をすっきり見せています。
その4 グラスに入れてハーバリウム風
ドライにしてとても軽くなったコチョウラン。ガラス瓶のなかに浮かぶようにあしらうと、ハーバリウムのような雰囲気にも。コチョウランの下にはスモークツリーをあしらっています。
その5 ガラスの器にあしらった、涼やかなアレンジ
花材:コチョウラン(タイダスマイル)、アジサイ、ラベンダー、クリスマスローズ、ユーカリ
タイダスマイルはライムイエローの淡い花色なので、ドライフラワーにすると色が抜けて、生成り色に。茶系やグレー系のドライフラワーに、このタイダスマイルを合わせると、疲れた眼をほっとさせるような彩り。ガラスの花器にあしらうと、涼やかです。
Credit
内海和佳子
『ショコラ』主宰。
生花店やフラワーデザイナーのアシスタントを経て、2003年に独立。ウエディングフラワーを中心に、テーブルコーディネイト、ディスプレイ、雑誌での花紹介など、幅広く活躍している。多くのかたがたに、花の楽しさ、結婚式の魅力を伝えたいと、自身で撮影までをも手掛けた著書「CINEMA WEDDING」(誠文堂新光社)を刊行。東京・早稲田のアトリエでは、期間限定で時折、花のレッスンも行う。
https://www.instagram.com/chocolat_flowers
撮影・内海和佳子 構成と文・瀧下昌代
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