冬の貴婦人と呼ばれる花を知っていますか? それがクリスマスローズです。うつむいて咲く姿が可憐な花。最近では公園や街路樹の足元、ビルやマンションの植え込みなどにも咲いています。サクラなどの落葉樹の下で群生しているクリスマスローズも見かけます。宿根草ですから、おそらく植え込んで何年も経っているのでしょう。そんな風景が見られるのも、クリスマスローズがとても丈夫だから。ひと重咲きの一般的なクリスマスローズは、繁殖力が旺盛です。クリスマスローズには、斑入りや斑点模様、ニュアンスカラーなど独特な花色が多くあります。咲き進むと緑色を帯びて、花色はしだいにくすんできます。そんなアンティークな色合いが人気で、クリスマスローズは、ドライフラワーにしたいという人が多い花のひとつでもあります。千葉・船橋の花店『セラヴィ』の宮﨑慎子さんに、クリスマスローズをドライフラワーで楽しむ方法を教えてもらいましょう。
*正式名称はヘレボルスですが、本記事では通称の「クリスマスローズ」と表記します。また、花びらに見えるところはガクで、正式にはガク片といいますが、本記事では「花びら」とわかりやすく表記します。
目次
クリスマスローズのドライフラワー作りは難しくありません
クリスマスローズは、花、葉、茎ともに、さほど水分が多くはありません。乾燥しやすく、ドライフラワーに向いています。1本に数輪の花がついていますが、花と花の間隔があるので、風がよく通ります。「ドライフラワーにするなら、鉢植えを切って使うといいですよ」と、宮﨑さんが教えてくれました。「セラヴィでは、ドライになる植物を使ったショップディスプレイを、ここ数年承っています。生花からドライまで、すべてが魅力的な植物を選び出し、アレンジしてきました。クリスマスローズも素敵なドライになる花のひとつです」。
クリスマスローズは切り花と鉢物が出回っています。出回りは、切り花が11~4月ごろまで。鉢物は、12~3月ごろまでです。地植えや鉢植えの開花期は品種によって異なりますが、だいたい12~4月。花もちがとてもよく、1輪が1か月くらい咲き続けます。
前述しましたが、クリスマスローズの名で通るこの植物の正式名称はヘレボルスです。もともとクリスマスローズの愛称で呼ばれたのは、原種のヘレボルス・ニゲルのことでした。クリスマスのころに咲く、純白のひと重咲きで、金色のおしべ、めしべが美しい花です。それが、日本ではいつの間にか、ニゲルに限らず、ヘレボルス全体をクリスマスローズと呼ぶようになりました。
ドライフラワーに適している、クリスマスローズの選び方
ひと重咲きでも、八重咲きでも、どんな花色でも、クリスマスローズはドライフラワーになります。ドライにする方法によって、きれいに花色を残すことも、よりくすんだアンティークな色調にすることもできます。クリスマスローズは、咲き進むと、花の様子が変化していきます。その状態によって、仕上がり方が変わるので、ドライフラワーを作る前に、開花の状態をよく見てください。特に、地植えや鉢植えのクリスマスローズは、表情を変えながら、約1か月間も咲き続けます。どのタイミングでドライに仕立てるか、考えるのも楽しいひとときです。
繊細な表情は、咲き始めたフレッシュな花で演出
透明感がある花びらに、中心にはおしべ、めしべがついています。この状態に向くのは、シリカゲル法です。しべを生かして、繊細な花の様子をそのままの色形でドライフラワーにすることができます。吊るして乾燥させるハンギング法でも、咲き始めの新鮮な花を使うと、花色を比較的クリアに残せます。
おしべ、めしべが落ちた花はよりアンティークっぽく
咲いたクリスマスローズは日が経つにつれ、おしべ、めしべが落ちて、中心に種のもとができ始めます。花色はくすみ感が増し、アンティークな色合いが強くなります。また、花びらが大きく、堅くしっかりした質感になります。アンティークな色合いにしたい、量感を出したいときには、咲き進んだ花をドライにするといいでしょう。
切り花で楽しんでから、ドライフラワーにすることも
写真は、おしべ、めしべが落ちて、花びらが堅くなったクリスマスローズを、鉢植えから摘み取ったもの。もともとはニュアンスのあるピンク系の花色でしたが、咲いてから3週間以上経つと、このような緑色に近い花色になりました。花びらはしっかりと堅くなっています。この状態でもまだ日もちするので、しばらく切り花でいけてから、ドライフラワーに仕立てるのも一案です。いけている間も花は褪色して緑色が強くなるため、その表情を眺めるのもいいですね。クリスマスローズは宿根草ですから、いちど苗を植えると、毎年花を咲かせ、株が大きく育ちます。鉢植えで育てながらアレンジとドライフラワーを同時に楽しむのも、クリスマスローズならではです。
クリスマスローズをドライフラワーに仕立てる、3つの作り方
ドライフラワーの作り方には、大きく分けて、ハンギング法、シリカゲル法、ドライ・イン・ウォーター法の3つがあります。このうち、ドライ・イン・ウォーター法は、水分を多く含む花には向きません。花の形が崩れる原因になるからです。クリスマスローズは、水分が少ない花なので、どの方法でも作ることができます。
クリスマスローズを吊るして乾燥させる「ハンギング法」
ドライフラワーの作り方で、もっとも定番が、このハンギング法です。花を下に向けて吊るすだけ、初心者にも嬉しい方法です。ハンギングを行うのに最適なのは、からっとした晴天が続く日。長雨の時は湿気が多くなるので、避けてください。
ハンギング法で必要なもの
・クリスマスローズ
・輪ゴム
・麻紐 *紐のなかでも花を傷めないのでおすすめ
・ハサミ
ハンギング法のコツと注意点
ハンギング法は、直射日光が当たらず、風通しがよく、湿度変化が少ないところで乾燥させるのがベストです。風がよく当たらない箇所があれば、向きを変えて、まんべんなく風を通しましょう。キッチンでは調理や湯わかしで蒸気があがります。お風呂場や洗面所の近くも湿度が高い場所。湿度が低い場所を選びましょう。
また、ハンギング法で作ったドライフラワーは、咲いていた花よりかなりボリュームが落ちてしまいます。クリスマスローズは、葉もきれいなドライになるので、花茎についた葉をあまり落とさず、つけたまま乾燥させるとボリュームが残ります。
ハンギング法の手順_1本ずつの場合
①茎は乾燥していくうちに、かなり緩みます。そのため、茎の先に麻紐を直接巻くと、するりと抜けてしまうことがあります。そのため、最初に輪ゴムを茎に巻きつけてください。
②麻紐は、茎に巻いた輪ゴムに引っかけましょう、そのあと、茎の先に麻紐を巻きつけます。
③写真のように、クリスマスローズを逆さまにして干します。乾燥が早いと、その分、クリスマスローズの色がきれいに残るので、風通しがいい日陰に、1本ずつ吊るしましょう。意外なことに、日射しによって高温になった自動車の中は、ハンギング法の場所に向いています。車内は乾燥しているため、通常のハンギング法で作るより短時間でカラカラに花が乾き、色鮮やかなドライフラワーが作れます。試してみて。
クリスマスローズの切り花が水落ちしてしまい、湯あげを施しても元気にならないときは、ドライフラワーにしてみてください。もういちど、クリスマスローズが楽しめますよ。
ハンギング法の手順_ハンガーに吊るす場合
地植えや鉢植えで、次から次へと花を咲かせるクリスマスローズ。切り取って、いっぺんにたくさんのドライフラワーを作りたいときは、物干しハンガーが重宝します。茎にゴムを巻いたり、麻紐で下げたりする手間が省けます。
①咲いている花をドライ用にカットするタイミングは、おしべやめしべが落ちて、花びらがしっかりしてきたころ。そのまま切らずに花を咲かせておくと、株は種を作ることに栄養を使いますが、切れば新芽に栄養が回ります。
②クリスマスローズは、花茎と葉が別々に株元から出るため、花茎だけを切り取ります。この時季は株元からは新しい葉が出始めています。種を取りたい場合は、花びらがしっかりしたものは切り取らずに残しておくといいですね。
③干すときは、茎の先を物干しハンガーのクリップに留め、逆さまにしましょう。茎に葉がたくさんついている場合は、間引くと通気がよくなり、早く乾燥します。
④写真はひと鉢分をドライフラワーにしたもの。量感あるドライフラワーの花束ができあがりました。
クリスマスローズを水にいけて作る「ドライ・イン・ウォーター法」
水が入った器に花をいけたままにしておく、ドライフラワーの作り方です。しばらくして器の水がなくなったころ、クリスマスローズはドライフラワーになっています。ただし、この方法の場合、花が下を向いたドライフラワーができあがります。もともとクリスマスローズは下を向いて咲くうえ、花首が弱いということが、その理由です。
ドライ・イン・ウォーター法で必要なもの
・クリスマスローズ
・フラワーベース *水が入れられる容器であれば何でもOK
・ハサミ
ドライ・イン・ウォーター法のコツと注意点
器に水を入れ、クリスマスローズをいけておくだけ。その際、ひとつ大きなポイントがあります。器の中の水は必ず、浅めにしてください。ドライフラワーにするのが目的なので、器の中の水を替える必要はありません。最初に入れた水が干上がった頃には、うつむく花が可憐なクリスマスローズのドライフラワーが完成しています。
クリスマスローズのニュアンス色を残す「シリカゲル法」
湿気を嫌うお菓子や海苔などのパッケージに入っているシリカゲル。水晶や石英の成分と同じ、二酸化ケイ素で作られています。二酸化ケイ素には、表面に微細な穴が空いており、水分をはじめとするさまざまな物質を吸着する作用があります。この働きを利用し、ドライフラワー専用の乾燥材として、シリカゲルは、ネットや100均ショップなどで販売されています。
シリカゲルを使って、ドライフラワーを作るメリットは、クリスマスローズの微妙な色合いを残せることにあります。蒸し暑い梅雨時や夏でも、シリカゲルを使えば、ニュアンス色クリスマスローズのドライフラワーを作ることができるのです。
シリカゲル法で必要なもの
・クリスマスローズ
・シリカゲル *粉末状のもの。ドライフラワー用が最適
・タッパー
・スプーン
・ハサミ
シリカゲル法のコツと注意点
シリカゲルを用意するときは、ドライフラワー用を選びましょう。ドライフラワー用シリカゲルは、花びらの間に入りやすいよう粉末状になっています。そのため、花弁の隅々にまで入り込み、花の形を保つことができます。一方、食品などについているものは粒状のため、利用はおすすめできません、乾燥はしても、花びらにシリカゲルの粒の跡が残ることがあります。
また、シリカゲル法なら、咲き始めの繊細なおしべ、めしべをそのままの形で残すことができます。作るときは、おしべ、めしべの形が変わらないように意識しながらシリカゲルをかけましょう。花びらの間にも隙間なく、シリカゲルをかけることを忘れずに。
シリカゲル法の手順
①タッパーにシリカゲルを入れます。シリカゲルの量は、タッパーの深さの1/3ぐらいまで。クリスマスローズを置く場所に浅く穴を作っておきます。
②クリスマスローズを穴の中央に置きます。花同士がくっつかないように、間隔をあけて並べると、早く乾燥します。
③クリスマスローズの上から少しずつ、シリカゲルをかけます。クリスマスローズをそのままに形でドライフラワーにしたいので、めしべのまわりや花びらの間にも、まんべんなくシリカゲルをかけて、埋めていきます。
④すっぽりとクリスマスローズが完全に隠れるまで、シリカゲルをかぶせます。
⑤蓋をして、タッパーを密閉しましょう。そのまま約1週間置きます。1週間経ったら、シリカゲルの中からクリスマスローズを取り出します。
写真上はシリカゲルに入れる前のクリスマスローズ。下は1週間シリカゲルの中に入れていたクリスマスローズです。花色はやや赤みが薄くなっていますが、生花とほとんど変わりないドライフラワーができあがりました。深さのある器で作れば、茎がついたクリスマスローズのドライフラワーを作ることができます。
クリスマスローズのドライフラワーをより楽しむために…
どんな作り方をしても、ドライフラワーは完成したあとも少しずつ乾燥が進み、徐々に色が褪せていきます。日光が当たっても褪色が早まるので、直射日光が当たらない場所に飾って、きれいな色を楽しみましょう。キッチンや洗面所など、頻繁に水を使う場所、湿気が多い場所は、ドライフラワーが湿気を吸い込んでしまい、長もちしません。風通しのいい場所を選んで飾ります。
クリスマスローズのドライフラワーを使った、簡単アレンジ
ドライフラワーを作ったら、部屋に飾ってみましょう。完成したものをあれこれいじると花の形が崩れやすいので、シンプルにいけるのが基本です。ここでは、宮﨑さんが作ったクリスマスローズのドライフラワーで、ばかりです。クリスマスローズのナチュラルなテイストはドライフラワーにぴったり。季節の思い出を切り取ったようなアレンジです。
その1 クリスマスローズのリース
クリスマスローズのドライフラワーで作ったリースです。蔓ものをリースベースに、フレッシュなクリスマスローズをあしらい、そのまま吊るして乾燥させました。赤紫色と黄色の反対色のコンビが、リースを印象的に見せています。まん中にキャンドルを灯しても素敵です。
その2 クリスマスローズのミニアレンジ
クリスマスローズに合わせたのは、小枝と蔓もののグリーン、黒いアイアンの小物。ドライフラワーの色の美しさが引き立つように、周りには明るい色のものは置きません。
その3 クリスマスローズの花束
ドライにしたクリスマスローズを花束にして、トレイの上に。周りにはチューリップの花びらのドライを散らしました。鮮やかに咲いていたころを想像させるふたつの花。去りゆく季節の色を伝えてくれます。
Credit
宮﨑慎子
『セラヴィ(C′est la vie.)』オーナー。
花屋店長を経て単身渡仏。花の経験を積み、2009年千葉・船橋にアトリエ兼ショップをオープン。元温室だった店内には、植物との暮らしを感じさせる独特な世界が広がる。自ら畑で育てた植物を使い、花のある暮らしを提案する一方、種類にとらわれることなく植物全般を使って、イベント装飾、ブライダル、ガーデンデザインや植栽など、植物に関わる空間プロデュースを手掛け、高評を得ている。
https://www.n-cestlavie.info/
撮影・石原秀樹、瀧下昌代 構成と文・瀧下昌代
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