寒い時期にうつむいて咲き、冬の貴婦人とも呼ばれるクリスマスローズ。ロマンティックな名前ですよね。この名前は、もともとは白いひと重咲きの原種、ヘレボルス・ニゲルの愛称でした。クリスマスの頃に咲く、バラのように美しい花という意味で、クリスマスローズの愛称で呼ばれるようになったそう。日本では春先から咲き始める仲間も含めて、クリスマスローズと呼んでいます。正式名称は、ヘレボルスです。草丈が短く、うつむいて咲く姿は、ほかの花にはない風情があります。季節感を運んでくれる可憐な花は人気を得て、ここ数年で切り花の出回る時期が長くなりました。早くは11月から出回り始め、4月まで花屋さんの店先に並びます。「クリスマスローズの切り花のバリエーションは、増えてきています。もちろん、鉢植えから切って使うこともできるので、しっかり水あげをして、長く楽しんでください」。そう語るのは、千葉・船橋の花店『セラヴィ』の宮﨑慎子さん。古い温室を利用したショップは、シーズンになると、エントランスにもクリスマスローズが咲いています。
*正式名称はヘレボルスですが、本記事では通称の「クリスマスローズ」と表記します。また、花びらに見えるところはガクで、正式にはガク片といいますが、本記事では「花びら」とわかりやすく表記します。
目次
クリスマスローズを美しく飾るために、準備したいこと
飾る前の準備として、クリスマスローズは必ず湯あげをしましょう。花屋さんで購入して花器に入れて飾る場合も、鉢植えや庭から摘んでいける場合も、ひと手間かけるだけで、長く楽しむことができます。
クリスマスローズが長もちするための準備「湯あげ」
クリスマスローズを少しでも長もちさせたいとき、「湯あげ」が有効です。方法は次のふたつ。いずれの場合も水がよくあがったことを確認してから、花器に飾ってください。
その1 40℃の湯に浸けます
容器に約40℃の湯を用意。茎の先を湯に浸け、しばらくそのままにしておきます。これは、クリスマスローズ独特の湯あげ方法です。
その2 熱湯に浸けます
一般的な湯あげ同様に、熱湯に茎の先を浸ける方法です。蒸気で花が傷まないように新聞紙で保護します。
クリスマスローズを長もちさせるために、気をつけたいこと
花を長もちさせる基本は、毎日の水替えと切り戻しです。クリスマスローズの場合は、さらに選ぶ花でも楽しめる期間が違ってきます。ぜひ、知っておきましょう。
クリスマスローズは摘む時期によって、花もちが違います

真冬から春にかけ、寒い時期に咲くクリスマスローズ。庭や鉢植えで咲かせると、1か月ぐらい咲き続けて、しだいに花の表情が変わっていきます。うつむく花の中心をのぞいてみてください。ひと重咲きも、八重咲きも、中心に華奢なめしべや、たくさんのおしべが見えます。この写真のような状態は、花が新しい証拠。クリスマスローズがいちばんきれいなときといえるでしょう。

一方、上の写真は、華奢なおしべやめしべが落ちた状態。中心のめしべがやや膨らんでいるクリスマスローズもあります。いける時に選んでほしいのは、この状態になった花。花もちが格段に違います。一般的に咲いたばかりの新鮮な花が長もちすると思いがちですが、クリスマスローズに限っては、盛りを過ぎて、おしべ、めしべが落ちていることが長もちのサイン。触ってみると花びらが堅くなっています。
クリスマスローズには、長もちする品種があります
花もちのよさは種類によっても異なります。上の写真のヘレボルス・フェチダスは、とても長もちするタイプ。丈が長く、茎が枝分かれして、小輪をたくさんつけます。花も緑色なので、グリーン花材のように使えて、ベル形の小輪がかわいらしいクリスマスローズです。見かけたらぜひ、手に取ってみてください。
花を飾ったあとの日々のお手入れ「水替え」「切り戻し」
クリスマスローズを長く楽しむため、飾ったあとにできることが、「水替え」と「切り戻し」です。水替えをして、器にいけ直す前に、水が花までよく上がるよう、茎の切り戻しをするのです。切り戻しとは、茎や枝の切り口を新しく切り直すこと。このとき、「水切り」をするとさらに効果的です。水切りは、名前のとおり、水の中で茎をカットします。水中で茎を切ると、水の通り道である導管内に空気が入らないため、水がスムーズに、花や葉まで上がるのです。さらに、切り口の乾燥を防ぐこともできます。
水切りは簡単です。大きめのボウルなどの器に水をたっぷり入れ、その中に茎を入れて、ハサミで茎先をカットするだけ。水を替えるたびに茎の先を1~2cm切ると、新しい導管の断面が常に水に接し、水があがりやすくなり、長もちすることにつながります。
ときには大きく飾ったので、水替えのたびにいけ直すことは避けたいということがあります。そんなときは、切り花の鮮度保持剤を入れましょう。水替えの頻度を減らすことができます。
クリスマスローズを飾るときに、必要なアイテムってあるの?
花をいけるとき、多くの人は「花瓶がないとダメ!」と思うようです。花束をいただいたのはいいけれど、花瓶がなくて困った、という話もよく聞きます。実際は、“水が漏れない器”さえあれば、花瓶がなくても花はいけられるのです。たとえば、どの家のキッチンにもあるガラスのコップ。これと花を切るハサミさえあれば、花を飾ることができます。
ハサミだけは必ず、花切りバサミを用意してください。普通のハサミで花の茎を切ると、先ほどお話した、水の通り道である“導管”がつぶれてしまう可能性が大だからです。こうした理由から、花の茎をつぶさずにカットできるよう工夫された、花切りバサミが必要になります。花切りバサミを使っても、切れ味が悪かったり汚れていたりしたのでは、花のもちが悪くなるので注意しましょう。花切りバサミは使うたびに洗って汚れを落とし、しっかり水分を拭いておきます。
クリスマスローズあしらいに重宝する便利グッズがあります
クリスマスローズは茎がまっすぐで、下の方には葉がないので、何本かを器に入れたとき、それぞれが絡み合うなどして留まるところがありません。なかなか思ったように、花の位置を決めにくいのです。そこで、美しくいけるためには、花留めになる便利グッズを用意するといいでしょう。宮﨑さんがよく使うのは、写真の中央から時計回りに、ガラスの花瓶の中に丸めたセロファン、大小のガラス器、市販のガラス製の花留め、蔓を丸めたもの。大小のガラス器は、大きなガラス器の中に小さなガラス器を入れ、その間に茎を挟むようにして使います。吸水性スポンジ、剣山なども便利ですね。
たとえば、花瓶に丸めたセロファンを入れてから、クリスマスローズをいけると、茎が花瓶のなかで動くことがなく、見せたい位置で留まってくれます。
手軽に気軽にフラワーアレンジ。クリスマスローズの飾り方アイデア
冬から春に向かう季節にだけ咲き、うつむいて咲く可憐な姿が人気のクリスマスローズ。花束やアレンジにちょっと加えるだけで、特別なムードを運んでくれます。ここでは、身近な器に数輪飾る、手軽でおしゃれな飾り方を紹介しましょう。
その1 背の高いガラス器に1~2本ずつ
花材:クリスマスローズ
高さのあるガラス瓶に、1~2本ずつクリスマスローズを飾りました。クリスマスローズはくすんだ花色が多いので、ガラスの器を選ぶと、イメージが明るく。背の高い器を使うと、1輪の花以上の存在感が味わえますよ。
その2 白1輪を青いガラス器で魅せます
花材:クリスマスローズ
クリスマスローズと色ガラスは好相性。ブルーのポケットボトルに、白のクリスマスローズをいけてみませんか。まるで小さな明かりを灯したよう。繊細な表情のクリスマスローズが、いつもの空間を素敵に演出してくれます。
その3 庭から摘んだばかりのようにたっぷり
花材:クリスマスローズ
クリスマスローズを手の中で束ね、そのままピッチャーへ。気取らないキッチン用品が、花をいけただけで、おしゃれなムードになりました。うつむいたり、横を向いたり…気ままに咲く姿は、ガーデンからいま、摘んできたばかりのよう。
その4 キッチングッズの1輪挿しです
花材:クリスマスローズ
クリスマスローズは草丈が短いため、1本だけで飾るのなら、キッチングッズを活用する飾り方がおすすめです。カットを施したガラス製のドレッシング入れに挿したのは、黄色の花。クリスマスローズには珍しい澄んだ色が人気です。
その5 どっしりしたケトルでシックに決めて
花材:クリスマスローズ
こちらはキッチンにあるケトルへ。適当な大きさの花器がないときに、ぜひ活用してみて。濃色のタイプなら、クリスマスローズの色や形がしっかりわかります。ただし、キンポウゲ科は毒性をもつ植物が多く、クリスマスローズもそのひとつ。キッチングッズを花器として使ったあとは、よく洗って汚れを落としましょう。
その6 ガラスの小物入れで浮き花スタイル
花材:クリスマスローズ
水落ちしてしまったり、花が終わりに近づいて元気がなくなったりしたクリスマスローズも、じつはもう少し楽しめます! 短く切って、こんなふうに器に浮かべてみてください。とても簡単で、しゃれたインテリアに。
その7 大小のガラス器をふたつ活用します
花材:クリスマスローズ
3の項で紹介した、宮﨑さんの便利グッズ活用術です。大小の浅い器を重ねて使ってみましょう。器と器の間に茎を挟んで、花留めに。小さな器には、1輪浮かべます。いつものアレンジとはちょっと違う、お楽しみ。
その8 うつむく花姿を小さな器で魅せます
花材;クリスマスローズ
前述したように、くすんだ花色が多いクリスマスローズは、ガラス器と相性抜群です。小さな器があったら、1本をポンと飾ってみて。こちらはガラス製の小さなジョウロ。華奢な雰囲気がクリスマスローズにぴったり。
クリスマスローズを美しく飾るには、こんなコツもあります

鉢植えでは横を向いて咲くタイプも出回るようになりましたが、一般的に、クリスマスローズは、うつむいて咲く姿がトレードマーク。控えめな雰囲気が人気の理由のひとつです。その魅力を最大限生かすあしらい方のコツを、ここでは紹介します。
その1 目の高さより上に飾ります
やや下向きに咲くクリスマスローズは、吊るしたり、棚の上に飾ったりして、見上げる位置に飾ってみましょう。飾る高さによって、いつもとは違う表情を見ることができます。
その2 花顔を寄せ合って正面向きにも
写真のように、花と花を寄せてみてください。密にいけることで、花同士がクッションになるため、うつむく姿だけでなく、正面を向いたクリスマスローズの表情も楽しめます。
その3 市販の花留めを活用して自在に
吸水性スポンジや剣山を使って飾れば、茎に角度をつけやすいので、下を向かず、正面を向けて飾ることができます。
クリスマスローズを飾るときの注意点は、花合わせです
くすみ感のある花色が多い、クリスマスローズの花。この花のかわいさを愛でるときは、色鮮やかな花を合わせることは避けましょう。クリスマスローズの可憐な表情を台無しにしてしまいます。クリスマスローズを主役にするときは、白をはじめとした淡い色など、主役よりトーンが弱い花を選んで。
また、クリスマスローズは、飾っているうちに、おしべ、めしべがぱらぱらと落ちることも。食卓などに飾るときは、トレイにのせるといった配慮が必要です。
Credit

宮﨑慎子
『セラヴィ(C′est la vie.)』オーナー。
花屋店長を経て単身渡仏。花の経験を積み、2009年千葉・船橋にアトリエ兼ショップをオープン。元温室だった店内には、植物との暮らしを感じさせる独特な世界が広がる。自ら畑で育てた植物を使い、花のある暮らしを提案する一方、種類にとらわれることなく植物全般を使って、イベント装飾、ブライダル、ガーデンデザインや植栽など、植物に関わる空間プロデュースを手掛け、高評を得ている。
https://www.n-cestlavie.info/
構成と撮影と文・瀧下昌代
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