高価な食用スパイスが採れる球根「サフラン」の育て方
パエリアやブイヤベースを仕上げるのに必須の香辛料「サフラン」。オレンジ色をした細い糸状のサフラン、実は秋咲きのクロッカスから採取されていることをご存じでしょうか? 現在の主な生産国はイランですが、ギリシャやモロッコ、インド、スペイン、そして日本でも栽培され、世界中の人に利用されている薬効効果もある香辛料です。ごく少量ならば、自宅でも秋に採取ができるサフランについてご紹介します。
目次
香辛料サフランとは
庭に咲く花に詳しい人にとって、クロッカスと聞くと、早春に低く花咲く球根花を思い浮かべることでしょう。そのクロッカスのグループの中でも秋に咲く種類の一つ、学名Crocus sativus(クロッカス・サティウス)が、これからご紹介するサフランが採取できる花を咲かせます。サフランは、淡い紫色の花が開いた中心にある3本の花柱(雌しべ)を採取して乾燥させたものの名称ですが、日本では、サフランを採取する球根花自体をサフランと呼んでいます。
世界一高価な香辛料
紀元前より前から栽培され、薬味や香料のほか、薬品や染料にも活用されてきたサフランは、1輪から3本しか採れないため、1オンス(約30g)のサフランを得るためには、4,300輪もの花が必要になります。さらには、現在でも人の手によって一輪一輪の花の中から花柱を抜き取る作業が行われることからも、世界一高価な香辛料であることは、今も変わりがありません。
サフランの日本での生産地は大分県竹田市で、生産の最盛期だった1970年頃は農家数は約360戸、生産量は約500㎏もありました。現在も戸数が減りながらも、引き続き生産が行われています。イランやスペインなどの海外では、戸外の畑で花を咲かせて採取していますが、大分県の産地では、日本独自の室内栽培をしているため、異物混入や病気の発生も少なく、品質がよいと評価されています。近年は中国産のサフランも輸入されていますが、乾燥技術の差により、日本産と比べて黒みを帯び、光沢に欠けるといわれています。
高級なサフランと代用品のターメリック
サフランの語源は、アラビア語で黄色を意味する「ザファラン」といわれ、古くは衣料を染めたり、料理の色や香りづけに用いられていました。カレーの黄色も元々はサフランで色づけされていたのですが、安価な代用品としてショウガ科のウコン(英名:ターメリック)が用いられるようになったのです。
サフランに含まれる色素成分クロシンは水に溶けやすい性質で、水やぬるま湯などの水分に浸すだけで色が抽出されます。この作用を生かしてサフランライスやパエリアが鮮やかな黄色に色づき、食欲をそそる料理に仕上がります。ちなみに、ターメリックも鮮やかな黄色をつける香辛料ですが、色素成分のクルクミンは油に溶けやすい性質で、カレーの色づけとしても必須のスパイスの一つです。
サフランの薬効効果
古くは、リウマチ、痛風、天然痘に効く薬とされ、のちには船酔い防止、安産のまじないにも用いられたサフラン。現在は、サフランが持つ効果をより明確に生かせる方法がないかと、世界中で広く研究されています。
サフランの主成分には、カロテノイド色素のクロシンや芳香性のあるサフラナール、辛み成分にあたるピクロクロシンなどで、それらの成分が現代社会に見られる症状を改善する可能性を秘めているとして、幅広く検証が進められています。効果が期待されている症状は、睡眠の質の向上や入眠効果、ストレスや疲労感の軽減、うつ症状の改善、PMS(月経前症候群)の緩和などで、薬に代わる天然素材の予防薬としてサフランは注目されています。
サフランのお茶でリラックス
ヨーロッパでは、サフランはハーブティーとしても親しまれています。サフランを入れたコップにお湯を注ぎ、色が出たら飲み頃。独特な苦みと風味があり、香りは女性ホルモンの分泌を高める効果があるなど、心休まるティータイムが楽しめます。お好みでハチミツを加えてもよいでしょう。
世界一高価なスパイスを身近に育てて、採れたてを旬のメニューに加えてみましょう。
*サフランは着色や風味づけなど食事から摂取する量では安全ですが、一度に多く(5g以上)摂取すると副作用が出るので過剰摂取はしないでください。また、植物に過敏症がある人はアレルギー症状に注意が必要です。子宮を刺激する成分も含まれるため、妊娠時の飲用は避けてください。
サフランは簡単に育ちます
球根花のサフランは、夏~秋に出回る秋植え球根です。お店によって7月下旬頃から購入することができます。価格の目安は、1球あたり80〜100円(9月中旬になるとセール品が見つかることも)。植えつけの適期は、9月上旬〜10月中旬で、10〜12月に開花します。
小さなタマネギ型の球根は直径4㎝前後で、根もあまり広がらないので小さなカゴやバスケットに植えても花が咲き、サフランを採取することができます。庭がなくても、ベランダやテラス、玄関アプローチなどの棚や花台など、小さなスペースで育てることができるのが嬉しいですね。
バスケットに植物を植える時の方法は、『いくつ知ってる? 押さえておきたい基本の植木鉢の種類とその特徴』をご覧ください。
サフランの球根は、土に植えつけなくても開花するほど生命力があり、丈夫です。気軽に栽培をスタートできる育てやすいサフランは、「ガーデニングをしたことがない!」という人の、ガーデニングデビューにもオススメの植物です。
サフランを採取する方法
サフランを採取する農家では、まず花を摘み、その日のうちに雌しべを取りますが、花も楽しみたいガーデニングでは、花ごと摘み取らず、開花中に赤い雌しべ部分の先端を持って引き抜いて採取しましょう。花が開いたらあまり時間をおかず、1輪1輪、順に採取するのがポイント。写真は10月下旬の採取の様子です。
左が1日乾燥させたサフラン。右は採取したてのサフラン。オレンジが赤へと変化して、乾かすだけで香辛料のサフランになりました。
6球×80円=480円+税でスプーン1杯分が採取できました。サフランは、球根のサイズによっては1球当たり2〜3輪咲くので、1輪で3本のサフランが採取できた場合、18輪咲けば54本ものサフランが採取できます。ドライになったら密閉できる容器に入れて、料理にお茶に、ぜひ活用しましょう!
サフランを採取した後も、ぜひ繊細な花の美しさを身近で楽しんでください。開花中は食卓や室内に飾ってもいいですね。花はかすかに甘い香りがします。
花が終わった後は、そのまま細い緑の葉になるべく日が当たるようにして、水切れをしないように育てていきましょう。上の写真は、根の状態を確認するために掘り上げた翌年の2月上旬。太くしっかりした根がたくさん生え、球根の外側に小さな球根が増えていました(通常は開花後に植え替える必要はありません)。
花後、そのまま育てていると上部が自然に枯れてきます(写真は4月上旬)。このようになったら球根は休眠時期に入るので、水やりはストップして掘り上げてネットなど蒸れない袋に入れたら、直射日光が当たらない涼しい場所で保管しておきましょう。そして、再び生育期となる9月上旬頃から植え込むと芽が出始めます。2年目の球根は小さく、花を咲かせる力がない場合もあるので、毎年必ず咲かせるためには、新しい球根を追加しながら、2年目の球根を育てるのも方法です。
収穫したサフランを料理に使う
サフランを使った代表的なレシピの一つ、パエリア。エビやムール貝の鮮やかな色に、さらに明るさをプラスする黄色に染まったご飯のコンビネーションでテーブルが華やかに。血流を改善し、体を温めてアンチエイジングに役立ち、疲労回復が期待できる料理です。
材料(4人分)
水350㏄、サフラン小さじ1/2、米2合、有頭エビ6尾、ムール貝6個、タマネギ1/2個、パプリカ1/2個、ニンニク1片、レモン1/2個、オリーブオイル適宜、コンソメ1個、塩小さじ1、イタリアンパセリ(お好みで)適量
作り方
- 水にサフランを入れて30分おく。
- 平鍋にオリーブオイルを入れ、ニンニクを入れて香りがたったら、タマネギのみじん切りを入れて透明になる程度まで炒める。
- 洗った米を入れて3分程度炒めたら、サフランの色がついた水をサフランごと入れる。
- コンソメ、塩を入れて鍋の中の具材を平らにならしたら、有頭エビ、ムール貝を並べて蓋をして15分弱く沸騰させる。
- 火を止めて間にパプリカを乗せ、再び蓋をして15分蒸らしたら完成。最後にイタリアンパセリなどを散らすと鮮やかな仕上がりに。食べる直前にレモンを全体にふりかけると味に深みが出ます。
サフランをトッピングしたパンプキン・キャロットスープは暖色系のスープで目にもあたたか。エディブルフラワーのパンジーも浮かべて、秋冬にいただきたい旬のスープです。
収穫したサフランは、風味がなくならないうちに使い切って、また翌年サフラン栽培に挑戦するのをオススメします。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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