自ら育てた庭の草花やガーデン風景を刺しゅうで表現し、多くのファンに支持されている刺しゅう作家の青木和子さん。2018年発刊の新しい著書は、散歩がテーマです。暑さで日中の庭作業はちょっとお休みしたいこの時期に、刺しゅうの楽しみを伝えてくれるオススメの一冊です。

イギリスの名園「ヒドコート・マナー・ガーデン」を訪れたとき、出口を出て右に歩いて行くと、イチゴ畑がありました。ふと足元に目をやると、日本でいつも見かけるハコベが群生していたのを見た青木さんは、どうしてここに日本と同じ雑草が生えているのか疑問に思い、図鑑で調べたことが、野の花に興味を深めていったきっかけだったといいます。
「生き伸びるために時を計り、まわりの虫たちを利用して、素早く次世代へと種を残していく野の花は、したたかでその姿にも無駄がありません」と、青木さんの言葉がはじめに書かれています。

散歩は、春から夏、秋と季節の流れに合わせて、その時期に出合う馴染みのある野の花たちがページをめくるたびに登場します。花びらや茎、葉、タネ、それらの特徴が、刺しゅう糸を刺して表現できることの驚きと、「そうそう、この草はこんな姿だったなぁ」と、かすかに記憶している映像と重なって、ちょっと忘れかけていた自分の散歩体験も思い出させてくれます。

『青木和子の刺しゅう 散歩の手帖』は、「たんぽぽの咲くころ」からスタートします。黄花を数本立ち上げたひと株のタンポポは、タネを飛ばし、やがて領域を広げていく。タンポポが咲く大地も、緑と黄緑、黄色の糸で表現されていて、風の動きまで見えるような刺しゅうです。

季節の野の草たちと一緒に、その時期見かける蜂や蝶、野鳥なども登場するのも、青木さんの刺しゅうの魅力です。近づいて花の表情を忠実に表現したり、少し遠くから見た大きな木々などの様子も刺されていたり、植物をコレクションした標本のような表現もあったりと、ページをめくるたびに、刺しゅうで表現できる幅の広さに驚かされます。

土手の散歩で出合うツクシとスギナ、ナノハナ、オオイヌノフグリの花活け、根まで表現されたスミレの傍には、アリの姿。雨の日とアジサイ、ヒマワリの隊列…春から夏へと季節が進みます。

刺しゅう図案を眺めているだけでも、草花のどんなところに、その特徴が潜んでいるのか、また、美しさのポイントや草花と親しむ手かがりが見えてきます。
『青木和子の刺しゅう 散歩の手帖』の「刺しゅうをするとき」の解説には、使用する糸の色番号や図案も細かく書かれ、さらには刺しゅうをする前には実物を見たり、写真などを確認しておくと、針に迷いがないなどのアドバイスも。初めて刺しゅうにチャレンジする人にも、分かりやすい手芸本です。

青木さんが提案する刺しゅうは、手芸を愛する人に加え、ガーデニングに親しみがある人たちにも人気です。たとえば、庭を眺める窓辺のカフェカーテンやテーブルクロス、ハンカチなどに刺して、身近に植物のある暮らしを楽しみましょう。

色幅が広く揃っている刺しゅう糸の中から、その草花を表すぴったりの色を見つけ出して、ひと針ひと針、野の花を再現していくゆっくりした時間は、植物と親しむ心地よいひとときになりますよ。

散歩が気持ちよい季節がまた巡ってきたら、外へ出てみましょう。刺しゅうをすることで、これまでと違った観察の目が育ち、世界がちょっと違って見えてくるかもしれません。
来たる2018年8月10日(金)19:30〜19:59 に放送予定のNHKBS プレミアム 「美の壺 File452 刺繍」でも、青木和子さんの刺しゅうのストーリーをご覧いただけます(再放送も予定)。
『青木和子の刺しゅう 散歩の手帖』
青木和子著 96ページ
発行・発売:文化出版局
定価:本体1,500円(税別)
Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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