11月中に作ってじっくり熟成! イギリス伝統のクリスマスプディングを楽しもう
イギリスならではのクリスマスのお菓子といえば、クリスマスプディング! そのずんぐりしたフォルムには、ドライフルーツがぎっしりと詰まっています。このプディングの美味しさは、じつは、1カ月ほど熟成させることで生まれます。熟成させるなんて、いったいどんなデザートなのでしょう。作り方を、イギリス菓子研究家でパティシエのTomoさんに教えていただきます。
目次
みんな大好きクリスマス
クリスマスは一年の中で、私が一番好きなイベントです。イギリスでは、家の中を飾り付け、家族で集まり、たくさんのご馳走を作っていただきます。ちょうど、日本で迎えるお正月と似たものがあります。クリスマスのご馳走の定番はローストターキー! 七面鳥の丸焼きです。嫌いな人もいますが、私は大好き。見た目は鶏と似ていますがだいぶ大きく、鶏肉よりややサッパリした風味です。日本だとなかなか手に入れるのは難しいですが、東京の外国人御用達のスーパーやインターネットなどで手に入れられますので、気になる方はぜひ試してみてください。
クリスマスの定番デザート
さて、イギリスのクリスマスのデザートというと、ポーチドペアーの回『クリスマスにぴったりの上品デザート、ポーチドペアー』でもご紹介しましたが、ドライフルーツたっぷりの、どっしりとしたクリスマスプディング、もしくは、クリスマスケーキが定番です。どちらもお酒の香る、どっしりと重いフルーツケーキ。とっても美味しいのですが、イギリスでも最近ではこういった重いケーキの人気はなくなってきているとも聞かれ、軽めのフルーツケーキやチョコレートケーキなど、ヘルシーなもののほうが喜ばれるようです。見た目が華やかなトライフル『イギリス生まれの真夏のスイーツ「サマートライフル」』も、クリスマスのデザートとして人気です。
こちらの、白いマジパンで全体を包まれているケーキが、イギリスの伝統的なクリスマスケーキです。ところで、クリスマスプディングとクリスマスケーキは何が違うのか。簡単にいうと、プディングにはドライフルーツの他にリンゴを入れて、蒸して作り、1カ月ほど熟成させます。一方のケーキは、マジパンとドライフルーツがたっぷりのケーキを焼いて、それをマジパンとアイシングでデコレーションします。こちらも、できれば数カ月前から作って、熟成させていくケーキです。
クリスマスプディングに使うリンゴは、加熱調理に向くクッキングアップル〈ブラムリーアップル〉が定番です。イギリスでよく使われるこの青いリンゴは、〈イブズ・プディング〉『秋のリンゴを楽しむイブズ・プディング』の回でもご紹介しましたね。
それからもう一つ、イギリスのクリスマスに欠かせないお菓子があります。それは、ミンスパイ。クリスマスプディングと同様の材料で作られる、〈ミンスミート〉という熟成させたドライフルーツのお酒漬けを、小さなタルトに詰めて焼いたもの、それがミンスパイです。
我が家ではクリスマスイブに、子ども達が寝る前に、サンタクロースのためのお菓子を準備します。ミンスパイにショートブレッド、ジンジャーブレッドクッキーをお皿に乗せ、紅茶かミルクを添えて、置いておくのです。サンタさんがあのお腹になるわけが、分かりますね!
ステアアップサンデーの伝統
私が初めて、スチームして作るクリスマスプディングのことを知ったのは、イギリスのホテルで働くようになってからのことでした。写真のマグカップに描かれているプディングは丸い形をしていますが、これは、昔は生地を布に包んで、茹で蒸していたから。今は〈プディングベイスン〉という型を使うので、上が平らな形が一般的です。
クリスマスプディングは家庭で作る場合、〈ステアアップサンデー(Stir up Sunday、混ぜる日曜日)〉に家族揃って作るのが伝統です。12月25日から遡って4週間前の日曜日からがアドベント期間になるのですが、その1週間前の日曜日がステアアップサンデーになります。
私の働いていたホテルではクリスマスプディングを11月から作り始めて熟成させていましたが、私はいつも、クリスマスプディングは11月中には作っておく! と頭に入れています。ステアアップサンデーの日にちを割り出すのはややこしいですし、夫がアメリカ人なので、この時期はサンクスギビング(感謝祭)のために七面鳥も焼かなくてはならず、少々忙しいからです。
でも、クリスマスプディングを12月に入ってから作ったこともあるので、それはそれで大丈夫です。ちなみに、クリスマスが終わったらすぐに次の年のプディングを作って、1年熟成させる人もいるそうですよ!
では、そのステアアップサンデーに家族揃ってどうするのか? もちろんクリスマスプディングを作るのですが、すべての材料をボウルに入れたら、一人ひとり、願い事をしながら、ぐるぐる、ぐるぐると混ぜます。
昔は、指輪や指貫、ボタンや6ペンス銀貨を中に入れて、食べた時に出てきたもので来年の運勢を占ったりもしていたそうです。英国の児童書のクマのパディントンでも、パディントンが銀貨を飲んでしまった! とみんなが大騒ぎをしたクリスマスのエピソードがありました。結局、飲み込んでなかったのですけれどね。
気長にゆっくり蒸すプディング
さて、クリスマスプディングはたくさんの材料が必要ですが、作り方は至って簡単です。どっさりと大量のドライフルーツに、オレンジピール、ブラムリーアップル、砂糖、パン粉、卵、ブランデーやラムなどのお酒、そして、スパイスに、スエット(牛脂)。それらをボウルに入れて混ぜるだけです。
材料も家庭によってそれぞれで、バリエーションがあります。お酒はブランデーだけなのか、ビールも入れるのか。ニンジンは、アーモンドは、ドライイチジクはどうするか、などなど。私は、アーモンドとイチジクを入れると、美味しくなる気がします。
ただ、型の大きさによりますが、それを3〜10時間蒸します。10時間⁉︎ びっくりですよね。今回のレシピでは、蒸す時間は3時間ですが、私が働いていたホテルで作っていたプディングはとても大きかったので、やはり合計10時間ほどは蒸していたと思います。11月に作って熟成させたら、食べる当日に、もう一度蒸します。
また、材料のスエット(牛脂)ですが、イギリスでは、細かくサラサラの状態のものが箱に入って売られていますが、あいにく日本では販売されていません。生の牛脂をその状態にするのも難しいし……ということで、今回はバターをチーズおろし器で削って代用する方法で作ります。冷凍したバターを削るという方法がよくありますが、冷凍したバターを削るのはかなり大変なので、私は今回、キンキンに冷やしたバターを使っています。それでも全く問題なく美味しくできるので、大丈夫です。
最後に、食べるときはブランデーバターかブランデーソースをかけていただきます。私は、ホテルで出していたのがブランデーソースだったので、いつもブランデーソースを作ります。これまで仕事場でも、帰国してから家で作るときも、いつも目分量で作っていたのですが(それがイギリス流!)今回、ソースのレシピを初めて作りました。目分量でも大丈夫、皆さんもそのくらいの大らかな気持ちで作っていただければと思います。
早めに作って熟成させるなど、手間は少しかかりますが、食べてみると本当に美味しいので、ぜひ作ってイギリスを感じていただきたいです! 我が家の娘たちも大好きで、このサイズがあっという間になくなってしまうほどです。日本のデパートで売られている煌びやかなクリスマスケーキに比べたら、何これ⁉︎ という見た目ですが、ずっしりとした重さの中に、美味しさも、ぎゅぎゅっと詰まっています。あ〜、香りだけでも伝わればいいのにな!
クリスマスプディングの作り方
【材料】
(600ml入るボウル一つ分。プディングベイスンがなければ、耐熱性のボウルで代用可)
- 無塩バター・・・・・・30g (最初に計量して、すぐに冷凍庫に入れておく)
- 薄力粉・・・・・・30g
- パン粉・・・・・・30g
- ミックススパイス・・・・・・小さじ1/3(*詳細は下記参照)
- ナツメグ・・・・・・小さじ1/3
- シナモン・・・・・・小さじ1/3
- マスカバド糖・・・・・・70g
(なければキビ糖でも大丈夫ですが、マスカバド糖のほうがコクが出るのでオススメ) - サルタナ・・・・・・50g
- レーズン・・・・・・25g
- カランツ・・・・・・50g
(サルタナ、レーズン、カランツは、製菓食材店で売っています。サルタナは少し酸味があって甘味がレーズンよりやや少なめ。カランツは粒が小さくて酸味が強く、味が濃い。揃わなければレーズンだけでも) - オレンジピール・・・・・・50g
- ドライアプリコット・・・・・・15g
- ドライイチジク・・・・・・15g
- アーモンド・・・・・・10g
- ブラムリーアップル(もしくは、紅玉など酸味のあるリンゴ。皮を剥いて)・・・・・・約150g
- オレンジの皮・・・・・・オレンジ1/2個分
- ブランデー・・・・・・25ml
- 卵・・・・・・1個
- オレンジジュース・・・・・・オレンジ1/2個分
【ミックススパイスについて】
英国で売られている一般的な製菓用ミックススパイス(Mixed Spice)は、日本では入手が困難。手に入るものの中では、米国製の「パンプキンパイ・スパイス」がいちばん近いように思います。ミックススパイスは、文字通りスパイスを混ぜて、自分で作ることもできます。おすすめの配合は次の通りですが、好きなようにアレンジしても結構です。
〈お手製ミックススパイス〉
- シナモン、コリアンダー……各大さじ1
- ジンジャー、クローブ……各小さじ1
- キャラウェイシード、ナツメグ……各小さじ1/2
【クリスマスプディングの作り方】
1. パン粉をサラサラの状態になるまでフードプロセッサーにかける(イギリスのパン粉は粉のようなものなのです)。
2. アプリコットとイチジク、リンゴをレーズンと同じくらいの大きさに刻む。アーモンドは細かく刻む。
3. ボウルにドライフルーツ類、リンゴ、アーモンドを入れる。
4. パン粉、薄力粉、砂糖、スパイス類を入れ、木べらで混ぜる。
5. チーズおろし器でキンキンに冷やしたバターを削る。チーズおろし器も冷やしておくとさらによし!
6. オレンジの皮を削り入れ、木べらで混ぜる。
7. ブランデー、卵、オレンジジュースを入れ、木べらで混ぜる。
8. 混ぜたらラップをして、冷蔵庫で一晩休ませる。
9. 翌朝、もう1度混ぜて、バターを塗った型に入れる。
10. オーブンペーパーを被せ、紐でしばる。もしくはアルミホイルでカバーしてもよい。
11. 鍋の底に耐熱の皿などを置き、鍋底がプディングに直接当たらないようにしてプディングを入れる。お湯はプディングの型の半分くらいまでくるようにし、3時間蒸す。
火加減は弱めの中火で、お湯がユラユラするくらい。グツグツ煮立たせるとプディング型が倒れることもあるので、倒れないくらいの火加減にします。また、火が弱すぎると蒸す時間が長くなります。
12. 鍋は蓋をする(今回は蓋が閉まらなかったので、アルミホイルを蓋代わりに利用)。蒸す時間が長いので、時々、お湯の量をチェックするのを忘れずに。お湯が減っていたら足すこと。
13. これが3時間蒸したもの。熱いので取り出す時に注意!
真ん中がグチュグチュしていなかったら大丈夫。冷めたら表面をオーブンペーパーで覆い、アルミホイルなどで蓋をして、クリスマスまで冷蔵庫で保管する。
ここからはクリスマス当日の作業です!
プディングは作った時と同じ要領で、食べる時刻の2時間前から蒸します。そして、食べる直前にブランデーソースを作ります。
ブランデーソースの作り方
【材料】
- 無塩バター・・・・・・50g
- 薄力粉・・・・・・50g
- 牛乳・・・・・・500ml
- 砂糖・・・・・・50g
- ブランデー・・・・・・適量
- バターを鍋に入れ火にかけ溶かす。
2. バターが溶けたら、小麦粉をふるい入れ、泡立て器でよく混ぜながら粉気がなくなるまでしっかりと弱火で火を入れる。ここでしっかり火を入れておかないと、粉っぽく仕上がってしまうので注意。
3. 火が入ったら、牛乳、砂糖を入れ、混ぜる。
4. ブランデーを好きなだけ入れる(私の好みは大さじ2くらい)。
5. とろみが出てくるまでしっかり混ぜながら火にかける。この時、常に弱火を保つ。
ホワイトソースを作る要領で、とろみが出たら完成。
アルコールが大丈夫な人はここでブランデーを入れれば、ほろ酔いソースの完成です。冷たくなるとブリンブリンに固まるので、サーブするときは温め直します。
寒いクリスマスに熱々のプディングとソースは本当に特別です。
ちなみに、伝統的なサーブの仕方はさらに特別。プディングをサーブするときにブランデーをかけて、火をつけるのです。プディングが青い炎に包まれ、さらに幻想的で特別なものとなるでしょう!
Credit
写真&文 / The Pudding Party Tomo - イギリス菓子研究家/パティシエ -
イギリスのプディングの美味しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと活動する、イギリス菓子研究家、パティシエ。ル・コルドン・ブルー横浜校にて菓子ディプロムを取得。英国コッツウォルズのスリーウェイズ・ハウス・ホテルにてイギリス伝統菓子作りの腕を磨く。
〈The Pudding Party Tomoとイギリス菓子作り〉 https://youtube.com/channel/UCV1hGcG5t0SELBBiuJ1GqBA
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