吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶ“ナチュラリスティックな庭づくり”②〜植栽デザイン〜
2022年から東京都公園協会が実施しているガーデンコンテスト「東京パークガーデンアワード」とともに話題となっている吉谷桂子さんによるモデルガーデン「the cloud」。都立代々木公園を舞台に2022年冬に着手されたこの庭には、吉谷さんのこれまでの経験と実践、そしてセンスのすべてが注ぎ込まれています。持続可能な社会に相応しく『ロングライフ・ローメンテナンス』を目標に掲げながら、実験的要素が含まれた「the cloud」の庭づくりを、連載でご紹介。現代のガーデニングのヒントがたくさん! 第2回は『植栽デザイン』を解説します。
目次
役割が決まっていれば配置しやすい! 吉谷式デザインメソッド
■吉谷式メソッド1 自然な植栽に見せる■
ここの花壇は直線的ではありませんが、縁どりから60~90cmの幅、手前のボーダー(帯状)植栽エリア、それより花壇中央寄りの内側はマス(集合)植栽に分けられており、基本的にボーダーエリアには確実に元気に育つ植物、内側にトライアルな植物を植えています。
それは、もしトライアルで植えた植物が倒れたり調子が悪くなったりしても、外側の強健な植物が確実に茂ることでカバーしてくれるから。また、花がら摘みが必要なものは手前、不要なものは奥に配してとお手入れを楽にしたのもポイントです。苗は3ポットを基本のトライアングル(三角)で連続的に植え、連鎖性(つながり)を持たせることで、自然に見えながら散らかって見えないように整然とした秩序を保っていることが植栽デザインのポイントになります。
■吉谷式メソッド2 安定感を生み出す■
「ガーデンデザインは、劇場の舞台デザインがヒント」と、かつて広告美術などを手掛けていた吉谷さん。舞台では場面場面の展開があり、「床をダークで重い色に、天井は明るく軽い色にすることで軽重のバランスを取る。手前のものを大きく、奥を小さくすることで遠近感を出す」などを意識することで、景色に安定感が生まれます。これらが逆になると、景色が不自然でバランスも不安定に。ガーデンデザインも同様で、この基本を押さえて環境に合った植物を組み立てれば、景色が作りやすくなります。
【Keyword】
■下(花壇手前):Bold・がっつり・重め
風景の下方となる花壇の手前:丈夫でしっかりとした形・質感をもつ重い印象の植物を植える。
■上(花壇奥):Transparency・ライト・軽め
風景の上方となる花壇の奥:丈のある軽やかな植物を植える。
これは軽重のバランスと遠近感を具体的に表したもので、風景の下となる花壇の手前には、しっかりとした形・質感で重い印象かつ丈夫な植物を植えます。西日や乾燥に強い『がっつり重い印象』の肉厚な葉っぱの常緑植物がおすすめ。それに対し、風景の上側となる花壇の奥には、丈があっても軽やかな植物を植えます。『ふわふわとした印象』のグラス類などがおすすめです。
こうすることで、がっつりプランツがふんわりプランツの株元を西日から守ったり、支えたりするほか、手前がはっきり・後ろがふわふわとすることで視覚的な遠近感や豊かな表情を生み出し、絵画的ともいえるランドスケープが作りやすくなります。
【がっつり・重め代表】アガパンサス、ベルゲニア、オランダセダム(オオベンケイソウ)など比較的、多肉質な葉の宿根草
【ライト・軽め代表】グラス類、シュウメイギク、バーベナ・ボナリエンシスなど比較的、背が高くて風に揺れる細長い宿根草
■吉谷式メソッド3 植物を建築的、彫刻的に使いこなす■
植栽は、植物の異なる色・形・質感の組み合わせの連続です。隣り合う植物は似たもの同士にならないように注意し、互いに引き立て合うものを選びます。同じようなものを並べると、ガチャガチャ散らかったように見えてしまいます。
ふわふわしたものとカチッとしたもの、また、点・線・面とさまざまなフォルムの植物を組み合わせたりすることで、「絵画的」な風景が描けます。「Using plants as an architecture(植物を建築のように扱う)」というイギリスのガーデンデザイナーの言葉が大きなヒントです。
まずは、フォルム・役割を考える
・アクセントプランツ……目を引いてアクセントになる植物(エキナセア、大型花のルドベキアやアリウムなど)
・フィリングプランツ……細かい花穂や葉群、間をつなぐ植物(アスター、グラスの穂など)ディスカンプシアなどのグラス類、ニゲラなど)
*フィリングプランツは、アクセントプランツの間をつなぐだけでなくバックスクリーンにもなるが、背の高いグラス類は、その背景でスクリーンプランツとなる。
・スパイクプランツ……尖った花穂などが縦の線を描き、シャープな印象を与える植物(リアトリス、アスチルベなど)
・線を描くプランツ……ラインを描き、動きや伸びやかさを与える植物(グラス類など)
・点を描くプランツ……ドットを作りリズムを生む植物(アリウムの花穂、ストケシアなど)
・面を描くプランツ……葉の面積が広く、落ち着きをもたらす植物(ベルゲニアなど)
■吉谷式メソッド4 レイヤーで魅せる■
園路は風通しを確保するため、最低1.2~1.4mの幅が取られています。広すぎないほうが感覚的な親密さを感じられ、さらに目の高さに花があると五感に迫ってきます。植物が出しているエネルギーや香りなどが、見る人の感覚に訴えてくるのです。また、「the cloud」の花壇は雲形で入り組んでいるので、囲まれ感・包まれ感もたっぷり。没入感を楽しみながら落ち着きも感じられます。
そこで必要なのが「植栽をレイヤーで魅せる技」。手前とその後ろに来るものをどのように重ねるのか、植物が成長する前からデザインの計算をします。例えば、傘状に咲くアンジェリカや尖塔状のアスチルベの花穂を透かして見せるエアリーなグラスなど、横からの風景にも気を配っています。
「記念写真を撮るときに植物を背景にするのもいいけれど、植物越しに人物が写るようにアングルを選ぶと、草花と一体感のある写真が撮れます。あちこちに撮影映えスポットを設けているんですよ」と吉谷さん。
人と植物が重なる風景までも考えられています。
“美しい庭をデザインする”ために
美しいガーデンをつくるには、植物の生態や個性を識った上で、色・形・質感の違いや醸す印象を見極め、それをどう組み合わせて活かせるかを考えることが大切です。吉谷さんは、「the cloud」で使うプランツリストに、それぞれの特徴や役割も書き込み、偏りがないかなどを確認しながらデザインをしています。
「移ろう季節と気候が景色を変えていく。『庭をデザインするということは植物を絵の具にして絵画を描くこと』と、英国の作庭家、ガートルード・ジーキル氏は言っています。100年前のジーキルの時代には想像もできなかった気候変動の中で、この考えは普遍です」。
ぜひ、吉谷さんのメソッドを庭づくりの参考にしてください。次回のテーマは、丈夫で活躍してくれる『おすすめプランツ』です。
Credit
話 / 吉谷桂子 - ガーデンデザイナー -
東京生まれ。日本大学芸術学部デザイン科卒。(株)GKインダストリアルデザイン研究所勤務後、フリーランスのプロダクト、グラフィック・デザイナー、広告美術ディレクターを経て1992年に渡英。帰国後は7年間の英国在住経験を活かしてガーデンライフの提案を続け、ガーデンデザイナーとしてテレビや雑誌、ガーデンショ―と幅広く活躍している。現在デザインを担当するガーデンは、銀河庭園、はままつフラワーパーク、中之条ガーデンズなど。著書に「花に囲まれて暮らす家」(集英社)ほか。
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文 / 井上園子 - ライター/エディター -
いのうえ・そのこ/ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
写真 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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