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フランス「ヴェルサイユ宮殿」デザイン編【世界のガーデンを探る旅6】

フランス「ヴェルサイユ宮殿」デザイン編【世界のガーデンを探る旅6】

Photo/Bartlomiej Rybacki/Shutterstock.com

日本庭園やイングリッシュガーデン、整形式庭園など、世界にはいろいろなガーデンスタイルがあります。歴史からガーデンの発祥を探る旅。第6回は、世界的にも有名なフランス「ヴェルサイユ宮殿」のガーデンをご案内します。

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絶対王政の象徴
ヴェルサイユ宮殿

Photo/Gilmanshin/Shutterstock.com

メソポタミアから始まった西洋の庭の流れは、イタリア・ルネサンスを経てフランス王朝へと受け継がれていきます。それまでは地中海が世界のすべてでしたが、バスコ・ダ・ガマやコロンブスなどの登場によって、大きな世界が認知され、植民地支配による莫大な富がフランスへと流れ込みました。ここに世界の富の中心がイタリアからフランスへと移り、絶対王政の象徴としてのヴェルサイユ宮殿がつくられたのです。

今回取り上げる「ヴェルサイユ宮殿」の庭は、後につくられる数々の庭へあまりにも大きな影響を与えた重要な存在。まずは、ヴェルサイユ宮殿の庭について、詳しくご紹介したいと思います。

フランス式庭園の誕生

Photo/S-F/Shutterstock.com

フランスの王ルイ13世の狩猟場であったヴェルサイユの丘の上に建てられたヴェルサイユ宮殿。バロック建築の代表作とされるこの美しい建物は、太陽王ルイ14世の命で建築家ル・ヴォーとマンサールが設計し、建造に5年の歳月をかけて1665年に完成しました。

その後50年に渡ってさまざまに手が加えられ、全長550m、部屋数700室を超える豪華で重厚な宮殿が完成したのです。フランス式庭園の最高傑作といわれる庭園は、1667〜1670年に、アンドレ・ル・ノートルによってつくられました。ル・ノートルは、ルイ14世の依頼を受けてイタリアに旅し、かの地でいろいろな庭園を見て回ったといいます。イタリアの旅先で受けたインスピレーションを、彼なりにフランス風にアレンジし、重厚なヴェルサイユ宮殿の建物に負けない1,000ヘクタールもの庭園をつくり出したのです。

ヴェルサイユ宮殿とその庭園は、左右対称の配置になっています。宮殿正面広場には花や緑はまったく見られず、石の重厚感に圧倒されながら、バロック、ロココ調の宮殿に入ります。宮殿の中は外観とは打って変わって豪華絢爛。太陽王ルイ14世の名にふさわしい、きらびやかさを今も放っています。

宮殿を通り抜けると、目の前にはラトナの泉と見渡す限りのシンメトリックな庭園を見下ろすことができます。1919年に、ここでドイツと連合国によって締結されたヴェルサイユ条約により、第一次世界大戦が終わりました。

ル・ノートルがつくったフランス式庭園の特徴は、中心を通る軸線に対して左右対称に幾何学模様をデザインし、いろいろな要素を完璧なまでに配置しているところにあります。この庭園の誕生によって、自然をも支配する絶対君主の存在を人々に示しました。

もともと宮殿は、周囲を見下ろす丘の上に建てられたため、近くに水源がありませんでした。そこで、10㎞も離れたセーヌ川に「マルリーのポンプ」と呼ばれる揚水機をつくって、庭園内の噴水に使う水を水路で運び込んだのです。

宮殿を出て、左右に高く茂る緑の生け垣と真っ白な大理石の彫刻を見ながら丘を下っていくと、楕円形の「太陽神アポロンの噴水」にたどり着きます。ギリシャ神話の神アポロンが、4頭の馬が引く戦車に乗って海から出てくる様子を黄金色の彫像で表現しています。その場所から見上げる宮殿の威容は、まさに自然をも支配したいと願ったルイ14世の心意気を感じさせます。

毛氈花壇とボックスウッド

宮殿を出て左へ行くと、ペルシャ絨毯を思わせる毛氈花壇が広がる南の花壇があります。円錐形に刈り込まれた濃緑のイチイが効果的なアクセントとなり、低く刈り込まれたボックスウッドにより緑の幾何学模様が浮かび上がっています。緑の縁取りの中には、フランス独特の色合いの花々が咲き、訪れる人を引き込んでしまいます。

ルーフガーデンから見下ろすオランジェリー

ヴェルサイユの庭
Photo/3and garden

緑と花の毛氈花壇を楽しみながら進むと、花壇の先に不思議な空間が広がります。と同時に自分がいた場所が、いつの間にかルーフガーデンでになっていることに驚かされます。石の手すり越しに見下ろすと20mほど下には、丸い池を配したフォーマルガーデンの緑とベージュ色の庭が広がっています。ここはオランジェリーに囲まれた春から秋までがシーズンの庭です。よく見てください。ほとんどの植物は緑の木箱に植えられていることにお気付きでしょうか? 植えられている植物は、オレンジの木や月桂樹、それに南の植物のヤシなどです。

これらの木々は、左側に建つ高い窓が配された部屋「オランジェリー」で冬越しをします。オレンジは、もともとインドのアッサム地方が原産地なので、フランスの寒さに弱く、また当時はまだガラスで囲まれた温室はなかったため、オレンジなどの木々は建物の中で加温して冬越しさせました。イタリア・ルネサンスで始まったオランジェリーも、庭とともに着実にフランスへと受け継がれていきます。当時の貴族の人々は、オレンジの実を楽しむだけでなく、冬にはオランジェリーでその香りも楽しんだことでしょう。

トピアリーの道とラトナの噴水

Photo/Felix Lipov/Shutterstock.com

宮殿の裏から右、北の花壇へ行くと、ゆるいスロープの両側に、さまざまに刈り込まれたトピアリーが並ぶ園路があり、下ったその先には「ラトナの噴水」があります。ここでは4〜10月の毎週日曜日に音と水の祭典が開かれています。

Photo/ Avillfoto/Shutterstock.com

ヴェルサイユ宮殿の庭は、基本は左右対称で東西に中心線が走っています。基本的な配置は左右対象ですが、それぞれのパートは必ずしも左右対称ではありません。場所ごとにデザインと工夫が施され、考えられるほぼすべてのタイプの庭がヴェルサイユ宮殿にはあり、そのアイデアの豊かさに驚かされます。ル・ノートルが残したこの庭が、現在までのフランス式庭園のすべてのモデルになっているといっても過言ではないでしょう。

このあと大航海時代に入り、フランス王朝の没落とともに世界の富と文化の中心がドーバー海峡を渡っていきます。イギリスでも最初はフランス式庭園が多くつくられますが、その話はまだまだ先のこと。次回『フランス「ヴェルサイユ宮殿」の花壇編【世界のガーデンを探る旅7】』では、ヴェルサイユ宮殿の花壇や、パリの庭の話をしましょう。

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