冬が長く、野外の庭を楽しめる季節が短い北欧では、美しい景観も美味しい食もまるごと楽しみたいという願いからか、心地よい庭に敏感。ここは、もとは王族の避暑地からスタートした庭園ですが、現代に引き継がれ、花と野菜と食と景色を楽しめる場所として人々が集い、ピースフルな空気感に溢れています。訪れる人みなが庭の楽しみと癒やしを分かち合う「ローゼンダール庭園(Rosendals trädgård)」の今を、フランス在住の庭園文化研究家、遠藤浩子さんがレポートします。
目次
自然豊かな市民の憩いの場所
スウェーデンの首都、ストックホルムを構成する14の島々のひとつ、ユーゴルデン島は、中心から自転車やトラムで10〜15分程度とアクセス抜群の立地でありながら、水に囲まれた豊かな森の自然に触れられる市民の憩いの場所です。5月下旬、スズランの群生を足元に見ながらこの森の中を進んでいくと、北欧のドリーム・ガーデン、広い林檎園や温室、ポタジェ(菜園)が並ぶローゼンダールトレードゴード(トレードゴードは庭園の意)が見えてきます。



歴史ある開かれた王立庭園

19世紀までは王族の狩猟の獲物のための保護地区だったがゆえに自然がそのまま残されたこの場所に、1810年、スウェーデン王となった仏人ベルナデットが夏の離宮とイギリス風景式庭園をつくったのがローゼンダール庭園の始まりでした。森に囲まれたこの庭園は当初より市民に開放され、王族の避暑地であるとともに、市民の散策の場所にもなりました。開かれた市民のための庭という伝統は、現在に続くローゼンダール庭園の進化のバックボーンになります。

この開かれた庭園をさらに拡張したのは、園芸愛好家だったベルナデットの息子オスカー1世とその妻ジョゼフィーヌ王妃でした。1860年には園芸協会によって、スウェーデンで初めてのガーデナー養成学校がローゼンダールに開校し、700人のガーデナーを養成します。それは、ガーデナーの養成にとどまらず、スウェーデン全体にガーデニングを普及するムーブメントの発端となり、ローゼンダール庭園は、スウェーデンの人々にとって憧れのモデル・ガーデンの役割を果たしていきます。

森の中の林檎園

ローゼンダールを訪れた際に、ひときわ印象的なのが、自然溢れる立地環境です。現在では王立公園として管理されている、苔や野生のブルーベリーがグラウンドカバーになった素晴らしい自然の森の中では、シカがゆったりと佇んでいたり、水辺をさまざまな水鳥たちが行き来するなど、その景観は都市にいることを完全に忘れてしまうほど。鳥の歌を聞きながらゆるゆると散策を続けていくと、19世紀のオランジュリーの建物や広大なポタジェ(菜園)、ベーカリーやカフェ、レストランなどの入ったおしゃれな温室、そして林檎園が見えてきます。


150年前に植えられたという400本の立派な老樹が並ぶ広い林檎園は、ローゼンダール庭園がつくられた19世紀から残る歴史的な場所。収穫されたリンゴの出来のよいものは、販売用にショップへ、またレストランとベーカリーに届けられ、それ以外のものはリンゴジュースなどに加工されるそうで、1世紀半を経たリンゴの木々は現在も活躍中です。

そこかしこに設置された椅子やテーブル、ベンチでは、リンゴの木の傍で、ゆったり読書をする人、見つめ合う若いカップル、賑やかな家族連れなど、さまざまな人が思い思いの時間を過ごしています。ピースフルな空気感が溢れるこの場所には、ただいつまでもここでこのまま過ごしたい、そんな気持ちになる、マジカルな時間が流れています。

この林檎園は、歴史的であるとともに庭園全体のコアになっている場所で、林檎園を囲むように、ベーカリー、レストラン、ガーデニングショップなどの入った温室と野外テラス、子どもの遊び場があり、オランジュリーの前には小さなブドウ畑とバラ園、そして広大なポタジェが作られています。
理想の庭のかたちとは? ビオディナミ農法のポタジェ

ところで、ローゼンダールでも、20世紀初頭には庭師養成の学校が廃止され、庭園が忘れられつつある存在となった時期がありました。その後1980年代、ここで未来のための新しいパーフェクト・ガーデンをイメージしようという動きが生まれ、再びローゼンダール庭園が活性化した頃に取り入れられたのが、大地と自然のリズムを尊重するビオディナミ農法でした。

ワインのためのブドウ生産などでもよく利用されるビオディナミ農法は、ごく簡単にいえば月のリズムに基づいた自然農法。ポタジェの一角のコンポストは、土壌づくりから始まる栽培サイクルのカギとなる重要な要素です。

花咲き乱れる美しいポタジェで採れた野菜は、採れたてが園内のレストランとベーカリーに届けられます。毎日のレストランのメニューと皿数を決めるのは、ポタジェの収穫。良質な季節の恵みをダイレクトに味わえるよう、調理はシンプルを心がけているのだそう。見ただけでも、食べたらさらに、幸せそのものを味わえそう。

温室内のテーブル席、野外のテラス席、はたまた前出の林檎園で。と、園内の好きな場所を選んで、オーガニックのランチやお茶を楽しめます。
冬が長い北欧では野外で過ごす季節が短いだけに、美しい景観も美味しい自然の食べ物もぜんぶ合わせて、心地よい庭の楽しみ方に敏感なのかもしれません。

分かち合う庭、ナチュラルでシンプルな幸せ空間

大地と自然のリズムにしっかりと繋がった、美しいばかりでないエディブルな庭、ローゼンダール庭園は、誰もに開かれたみんなのための庭です。数十年前、2人の若い庭師ラース・クレンツ(Lars Krentz)とパル・ボルグ(Pal Bolg)が、19世紀につくられた歴史的庭園を土台に、未来の庭はこうであったらいいだろうとイメージしてつくり始めたこの庭は、訪れる人々すべてに庭の楽しみと癒やしを分かちつつ、現在も進化を続けています。

Information
ローゼンダールトレードゴード公式HP https://www.rosendalstradgard.se/
Credit
写真&文 / 遠藤浩子 - フランス在住/庭園文化研究家 -

えんどう・ひろこ/東京出身。慶應義塾大学卒業後、エコール・デュ・ルーヴルで美術史を学ぶ。長年の美術展プロデュース業の後、庭園の世界に魅せられてヴェルサイユ国立高等造園学校及びパリ第一大学歴史文化財庭園修士コースを修了。美と歴史、そして自然豊かなビオ大国フランスから、ガーデン案内&ガーデニング事情をお届けします。田舎で計画中のナチュラリスティック・ガーデン便りもそのうちに。
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