ドイツ・マンハイムで開催中! ドイツ最大のガーデンショーをレポート! 1
近年の気候変動の実感と問題意識の高まりと共に、ヨーロッパでは最低限の水やりとローメンテナンスで維持する夏のガーデニングが注目されています。そうしたアイデアを見つけるには、実際にガーデンやガーデンショーを訪れるのもいい方法。ドイツ出身のガーデナー、エルフリーデ・フジ-ツェルナーさんが、ドイツで開催中のガーデンイベントBUNDESGARTENSCHAU(BUGA:連邦園芸博覧会)2023をレポートします。
目次
ドイツ最大のガーデンショー BUNDESGARTENSCHAU(BUGA)
現在、私はヨーロッパのガーデンを巡るツアーを一人開催中です。厳しい暑さが続く夏の間、ガーデニングでは乗り越えるべき困難がいろいろ発生しますが、実際にガーデンを訪れてみると、この気候変動に対応するためのさまざまなアイデアやシチュエーションがたくさん見つかります。
さて、ドイツではただいま、国内で最も大きなガーデンイベント、BUNDESGARTENSCHAU(BUGA)が開催中です。BUGAは、2年に1度、6カ月にわたり、ドイツのどこかの町で開催されるガーデンショー。オランダで10年に1度開催されるフロリアードにこそ及びませんが、こちらもかなり盛大なイベントです。2023年は4/14〜10/8の日程で、ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州のマンハイムで開催されていて、これまでに81万人以上が来場しました。
今回は、このガーデンショーをレポートしたいと思います。
BUGAを目指してマンハイムへ
私の生家はミュンヘン近郊のバイエルンにあり、今回の目的地であるマンハイムまではなかなかの距離があります。特に、鉄道を使えばなおさらです。ドイツの鉄道会社は日本ほど予定通りに運行しないこともあり、より大変ですが、それもまた旅の醍醐味ですよね。というわけで鉄道での行程を選び、ローカル線を乗り継いで到着した、人生で初めてのマンハイム。BUGAがなければ、生涯訪れることはなかったかもしれません。
天気にも恵まれた青い空が広がる日、26℃という過ごしやすい気候のもと、開場から30分ほど経った午前9時半ぐらいにエントランスに到着しました。ちょうど学校が数週間の夏季休暇に入る直前の時期だったため、集まっていた学生や幼稚園児のグループの数に圧倒されてしまいました。ちなみにBUGAは14歳以下の入場料は無料。若い世代に来てもらうためには、とてもいいアイデアです。
3歳から18歳ぐらいまでの子どもたちが数百人、教師やサポーターと共にBUGAにやってきていました。学期末の体験先としてBUGAを訪れ、熱心に生き生きとした体験をしているのは素晴らしいことですね。もっとも、遠足なので、どうしても行かなくてはならないのかもしれませんが。みんな飲み物やお菓子をいっぱいに詰めたバックパックを背負っていました。まだメインゲートに入る前から、小学4年生ぐらいの子どもたち30人ほどのグループが「Essen Essen Essen…」、つまり「食べたい!」と叫んでいるのを聞きました。日本では、これほど強く自分の要求を表明する姿は想像しづらいかもしれませんね。
入り口を入ってすぐに、芝生に広がる大きな木陰に幼稚園児たちが座り、朝食を楽しんでいる様子が見えました。ちょうどいいタイミングでBUGAを訪れたからこそ見ることができた、のどかなワンシーンです。私は子どもが大好き。ガーデナーとしても一人の母親としても、子どもたちを自然や緑と結びつけるのは、私のライフワークです。エントランスエリアにはたくさんの花壇があり、色とりどり、高さや葉の形もさまざまな宿根草が溢れんばかりに植えてあります。古い大きな木や広々とした緑の芝生が広がる背景と相まって、息を呑むほど美しい光景でした。
BUGAの2つのエリア ルイーゼンパークとスピネッリパーク
BUGA 2023の花々やガーデンのディスプレイは、大きく2つのエリア、ルイーゼンパーク(LUISEN PARK)とスピネッリパーク(SPINELLI PARK)に分かれ、さらにエリアごとにテーマが設定されています。広大な面積のこのガーデンショーでは、2つのエリアはおよそ2kmも離れているので、どちらから見るかで印象が変わってくるかもしれません。今回、私はルイーゼンパークのほうから会場に入りましたので、ここからはルイーゼンパークの様子をレポートします。
さまざまなエリアのあるルイーゼンパーク
私にとって、ルイーゼンパークからの入場は大正解でした。豊かな緑に、よく馴染んだ構造物や花々は、穏やかな気持ちにさせてくれます。このルイーゼンパークは、1975年にもBUGAの会場となった場所。BUGA 2023にあたり、中央エリアの一部を改修して、リニューアルして利用されています。
さまざまな宿根草が育つ花の玄関ホール
約1,400㎡の「花の玄関ホール」には、130種以上の宿根草とさまざまなグラス類が植えられています。宿根草ボーダーの植物の多くは、昆虫が好むもの。昆虫にとって優しく、限られた資源を保全することが意識された植栽になっています。
この美しいボーダーガーデンを通り過ぎると、続いて地中海ガーデンが現れます。
バカンス気分を味わえる地中海ガーデン
地中海ガーデンには、イタリアやスペインの雰囲気を強く感じさせる背の高いイトスギが。レンガの壁と温室の前に植えられた、この印象的な2〜3mほどの木により、ガーデンに構造的な美しさが加わります。
イトスギの間には、少しコンパクトな1~1.4mほどのキョウチクトウが、白やソフトピンク、赤の花を咲かせています。ガーデンのあちらこちらに植えられたシュロの木が広げる大きな葉が優しいアクセントに。木々の合間をつなぐ草花も、ラベンダーなど昆虫が好む花々が選ばれ、豊かに育ちます。
そして、ここで見逃せないのが暑さ対策。土壌からの過度な水分蒸発を防ぐマルチング材として、赤や茶色系統の砂利が利用されていました。グラベルガーデンは、夏にふさわしいガーデンスタイルの代表ですね。
地域の特色が見られる温室
地中海ガーデンに隣接する温室は、いくつかの気候ゾーンに分かれていて、それぞれ特色のある展示がされています。例えばその一つ、 “南アメリカ・ハウス”では、南アメリカ原産の植物たちが育つハウス内に熱帯のチョウが飛び交い、さらにマーモセットや爬虫類、カメなど、地域の小動物が数種飼育されています。ハウスの中では、植物はもちろん、こうした動物たちも間近で観察することができるのです。
温室の隣にはレストランがあり、白、黄、ピンク、赤など、色とりどりのが咲き誇る池に沿った公園の風景を眺めることができます。高さ217mのテレビタワーを見ながら、ゆったりとしたランチやディナーを楽しむのにもぴったりの場所です。今回訪れた7月は、ちょうどスイレンが満開を迎えていました。
ちなみに、ルイーゼンパークの中には何年も前に建てられた素敵な茶館があり、鯉が泳ぐ大きな池や美しいカメリアガーデンを眺めるオリエンタルで落ち着いた雰囲気の中で、ゆっくりとお茶をいただくこともできますよ。
植物以外にも見どころがたくさん
温室を出てさらに進むと、ガラスに囲まれたプールエリアがあります。ここはなんと、屋外でフンボルトペンギンを見ることができるスペース! 水に飛び込む瞬間や泳ぎ回っている可愛い姿が見られます。隣の湖に浮かぶ「ゴンドレッタ」と呼ばれる黄色いシェードがついたボートも、ペンギンのビュースポット。公園の小さな湖を周回する約1.8kmのコースを、およそ50分かけて航行します。パドルもないこの小さなかわいいボートは水中ロープでつながれていて、誰も何もしなくても魔法のように動き出すのです! 今回は時間の関係で乗船できませんでしたが、ボートに乗る子どもたちや大人たちは、見るからにリラックスして幸せそうで、とてもうらやましかったです。
ほかにもたくさんの鳥がいる広々としたエリアもあり、高さ16mまで飛ぶコウノトリをはじめ、数羽の鳥を見かけました。ファームエリアでは、ニワトリや羊、ポニーなどがいて、よく手入れされた屋外や屋内のスペースで触れ合うことができます。子ども連れの家族に人気のスポットで、長時間過ごす人もたくさん。美しい自然に囲まれ、動物たちとこれほど近くで触れ合えることはとても楽しく、興味深い体験になるはずです。
移動可能なレイズドベッドは人気アイテム
会場内を結ぶゴンドラ乗り場のすぐ近くには、背の高い木々や低木の間に「パークファーム」がありました。ここで目を引いたのは、移動可能なカラフルなレイズドベッド。コンパクトなパレットサイズで、上部に木製のケースが付いており、フォークリフトや専用のリフターで簡単に移動できます。こうしたレイズドベッドなら、どこにでも必要な場所に簡単に設置できますね。このアイテムは最近ドイツで人気があるようで、ホテルから公園までの道のりでも、道路脇や他の公園などにこうした植栽をたくさん見かけました。
友好都市との絆の証も
ルイーゼンパークの中には、マンハイムの友好都市の記念庭園もあり、およそ800㎡のエリアに個性豊かな12のガーデンが集まっています。こうした庭園は、友好都市との絆の証になりますね。
友好都市の庭では、それぞれの地域における典型的なライフスタイルを表した庭づくりを見ることができます。このエリアが完成したのは、2022年夏。マンハイムと姉妹都市の若い庭師、学生、見習いガーデナーが参加した国際サマーキャンプ中に行われました。このサマーキャンプの参加者が、たったひと夏の間にこれほどのガーデンを作り上げたのは驚くべきことです。植物がルイーゼンパークに馴染むまでに与えられた時間は、基本的にこの夏の間だけですが、ガーデンにはベンチや椅子など、座れる場所も用意され、公園全体には、くつろいだり、休憩したり、リラックスするための場所がたくさんある、素敵な空間が出来上がりました。きっとこの庭は今回のBUGAだけでなく、長い将来にわたって保存され、親密な絆の象徴となることでしょう。
このように、植物やガーデンは、ユニークかつ素晴らしい友好の証になります。自宅の庭で育つ植物を友人にプレゼントすれば、月日とともに成長する思い出になりますし、ガーデニングのアイデアや経験をシェアするのも素敵なコミュニケーションになりますね。
ルイーゼンパークではこのように、ガーデンに関するさまざまなアイデアや組み合わせの実践例を見ることができます。7月、8月と、ヨーロッパで夏のピークを迎えるこの時期は、ガーデンを訪れるのにぴったりの季節です。
BUGAのエリアは非常に広大なので、今回はご案内するのはここまで。もう一つのスピネッリパークは、ルイーゼンパークから7分ほどゴンドラに乗った場所にある、約60ヘクタールの庭園です。次回はこちらのガーデンをご紹介しましょう。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / Elfriede Fuji-Zellner - ガーデナー -
エルフリーデ・フジ・ツェルナー/南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。
Photo/ Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
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