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カメラマンが訪ねた感動の花の庭。「東京競馬場」のナチュラリスティックガーデン

カメラマンが訪ねた感動の花の庭。「東京競馬場」のナチュラリスティックガーデン

これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第39回は、夕日に輝くミューレンベルギアと真っ赤なアマランサスが印象的な、今注目が集まる「東京競馬場」。この美しさを伝えるためにプロとして挑んだガーデンフォトの数々を、どうぞご覧ください。

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今、最も関心のあるガーデンデザイン

東京競馬場
長い花壇の一番西側、コニファーを背に、右半分は日陰、左半分は逆光という環境下で、ミューレンベルギア・カピラリスとアマランサスが全く違う表情を見せる。

2019年1月に横浜でPiet Oudolf氏の映画「Five Seasons」を鑑賞して以来、僕にとってナチュラリスティックガーデンが一番興味のあるガーデンの形になりました。映画を見る前にも、長野県須坂市の園芸店「ガーデン・ソイル」の田口勇さんにPiet Oudolfの本を見せてもらい、それまで全然知らなかった美しい世界があることを知りました。それからは、北海道の大森ガーデンや上野ファーム、十勝千年の森などでグラス類と宿根草のガーデンを撮りまくり、秋には山梨・清里のポール・スミザーさんが手がけた「萌木の村」で紅葉したグラスと宿根草のシードヘッドを夢中で撮ったりしていました。ただ、その時はまだはっきりした「ナチュラリスティック」という認識はなく、今までの花中心のガーデンから新しい形のものが生まれてきたんだろうというくらいにしか思っていませんでした。

皆が関心を寄せる「ナチュラリスティック」

東京競馬場
手前で黄色く紅葉する株は、アムソニア・フブリヒティ。花期は短いが株の姿を楽しむ植物。隣のミューレンベルギアの後ろは羽衣フジバカマで、晩秋に寒暖差が大きくなるとこげ茶色に変化し、ガーデンのアクセントになる。羽衣フジバカマの後方の白い穂はミスカンサス‘モーニングライト’。さらに後方のルドベキア・マキシマは、縦の白い線がアクセントになっている。

「Five Seasons」を観て以降、「ナチュラリスティック」という概念を意識しだすと、SNSのあちこちで自然志向、消毒をしないバラ、化学肥料を使わない庭の話などが目につくようになりました。Facebookでは平工詠子さんのグラスを多用した美しい庭の写真を見せていただき、知り合いのガーデナー、さつきさんのFacebookで服部牧場を見たときには、今最も撮影したいテーマはこれだ! と確信しました。

綺麗な光に浮かび上がる庭をベストなタイミングで撮りたい

東京競馬場
このエリアには、ミューレンベルギア・カピラリスをはじめ、センニチコウ‘ファイヤーワークス’、アマランサスのスムースベルベットや黒葉のミレット、小型のグラスのペニセタム‘JSジョメニク’、ルドベキア・マキシマなどが茂っている。線路手前のグリーンは、ユーフォルビア・ウルフェニー。

いつも言っていることですが、僕が撮影のときに一番に思うのは「綺麗な光で撮る」ことで、その意味でも「ナチュラリスティックガーデン」の撮影は、まさに僕にぴったりのテーマ。朝日や夕日に浮かび上がるグラスや宿根草の花壇を撮影しているときは、まさに至福の時間です

そして2022年10月上旬に、以前僕に服部牧場を教えてくれたガーデナー、さつきさんのFacebookに登場していたのが、今回ご紹介する「東京競馬場」でした。この東京競馬場の庭の手入れに、服部牧場の平栗智子さんが行っていることは知っていましたが、頭の中で競馬場とグラスの庭がうまく結び付かなかったことから、さつきさんにそうコメントすると「今井さん、本当に綺麗ですからぜひ行ってください」と返信がありました。

東京競馬場
花壇の中央付近に立ち、レンズを西に向けた完全に逆光の写真。こげ茶色の葉を持ち、コーン状の実が立ち上がるミレットと、穂を立ち上げるペニセタム‘レッドボタン’、さらに後ろのミューレンベルギア・カピラリスが西日を受けて輝く。

その1週間後に秋の服部牧場へ撮影に行くと、今度は平栗さんが「東京競馬場、今が一番綺麗だから、今井さんに撮ってほしいと思っていたんですよ」と。平栗さんが競馬場の手入れに行く日程まで教えてくれたので、2人のガーデナーさんがそこまですすめてくれるならばと、天気のよい日の午後に伺う約束をしました。

美しく捉えるにはどうするか、しばし悩む

東京競馬場
「この写真、まるで花火大会の最後の乱れ打ちのよう」と植栽を担当した平栗智子さん。確かに賑やかで楽しい景色だ。

撮影日となった2022年11月18日は、夕方までずっと晴れの予報。グラスの撮影には最適の天候でした。競馬場の入り口に迎えにきてくれた平栗さんが運転するモスグリーンのしゃれた車に先導してもらい、場内を走ってトンネルを抜け、内馬場(コースの内側)に到着。すると、そこは広い芝生のエリアで、子どもたちのためのいろいろな遊具が並んでいました。その外側には、子ども用のミニ新幹線のレールが敷いてあり、競走馬が走るコースとの間が、グラスと宿根草の花壇になっていました。

東京競馬場

まだ少し日差しが強いので、花壇の周りを下見しながら「これは大変だ」というのが第一印象でした。なぜなら、写真を撮影するときに、プロカメラマンとアマチュアカメラマンとの一番の違いは、写真の中に無駄なものが写り込んでいるか、いないか。プロのカメラマンは、シャッターを切る前にファインダーの隅々まで見て余計なものが入っていないことを確認し、初めてシャッターを切るものです。

日が沈むまでたった15分の撮影に挑む

東京競馬場
この写真も花壇中ほどからレンズを西へ向けたカット。プレーリーブルース(中央の大きな白い穂)から後方のミューレンベルギアまで続くグラスが美しく、特に赤いアマランサスがよいコントラストを見せている。

ところが、目の前には緑の芝生にピンクに染まったミューレンベルギアと真っ赤なアマランサス。これだけなら言うことのない景観ですが、その後ろには馬場のコースを縁取る白い柵があり、手前にはコンクリートで舗装された帯の上を線路が通っています。これらの構造物を全部入れずに構図を決めるのは不可能だし、2人が口を揃えて言うように、グラス類は本当に綺麗です。

東京競馬場
コニファーによる日陰のグリーンバックで、植物の美しさが際立つ1枚。

太陽がだんだん低くなってくるなか、「どこをどう撮ればいいのだろう」「気になる構造物が少しでも入らないアングルは?」と気持ちは焦るばかりで、一向に撮影が始められませんでした。そして、あっちへ行ったり、線路に降りたりしながらアングルを探しているときに気がついたのです、「線路をガーデンの園路に見立てればいい」のだと。夕日に輝くグラスの花壇と線路をファインダーの中に収めてみると、金色に輝くグラス類が圧倒的に綺麗で、線路すら気にならないと思いました。

東京競馬場
ガーデンの一番東側のエリア。何株も植えられているミューレンベルギア・カピラリスが、沈む夕日の最後の光を受けて赤く輝き幻想的だ。

「夕陽に輝くグラス類を綺麗に撮る」「線路などの構造物は、なるべくグラス類の邪魔にならないように入れる」と決めて、そこから日が暮れるまでのわずか15分ほどでしょうか、沈みそうな夕日の位置を確認しながら、長い花壇の周りをあちらに行ったりこちらに来たり。夢中でシャッターを切って、気が付けば夕日は西側の高い木々の向こうに消えていました。

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