いつも庭を緑で美しくしておきたい。できればあまり手をかけずに。というわがままな願いを叶えてくれる植物があります。それが低木。シュラブとも呼ばれるコンパクトなサイズの樹木です。霧吹きをしたような細かな斑入り葉や大理石模様の葉など、美しくユニークなシュラブを数多く生み出す小関園芸を造園家の阿部容子さんが訪ねました。
目次
低木(シュラブ)の魅力
私が庭づくりをするとき、絶対に欠かせないのが低木(シュラブ)です。花好きさんが植栽計画を考えるときには、どうしても花ばかりを選びがちですが、花だけで庭を構成しようとすると、とてもたくさんの株数が必要になります。花がたくさんあれば、花がら摘みや切り戻しといったお手入れもそれだけ必要になり、メンテナンスに手がかかるもの。
シュラブはスーパーローメンテナンス
そこでおすすめしたいのが、シュラブです。シュラブは草花類と比較し緑の量感がたっぷりあり、花々をより美しく見せる緑のキャンバスとしても活躍してくれます。シュラブには常緑性と落葉性がありますが、落葉性であっても枝だけの期間は2〜3カ月。草花類と比較し圧倒的に見頃が長く、「いつも庭を緑で瑞々しく」という願いを叶えるには、シュラブが必須です。基本的に、手入れは年に1回程度の剪定のみ。ものによっては生育がとてもゆっくりなので、数年に一回の剪定で済む場合もあります。コンパクトなので剪定もしやすく、手入れも楽。シュラブはスーパーローメンテナンスな植物なのです。
シュラブには美しいカラーリーフがいっぱい!
シュラブには緑の葉だけでなく、赤紫色や斑入り、ライムイエローなどさまざまなカラーリーフがあり、花を咲かせるものも多数あります。シュラブだけで構成しても上の写真のように美しい花壇ができるほど。ほぼ一年中、この風景がデフォルトとして庭にあり、次々に花を植え替える必要はありません。これだけでも十分見応えのある風景ですが、例えば、このシュラブの手前に季節の草花を少量入れると、季節ごとの変化が楽しめる花壇になります。
美しいシュラブを生み出す「小関園芸」
というわけで、庭づくりではとても頼りにしているシュラブですが、シュラブの中でもとても美しいカラーリーフを作り出す人が、私が拠点とする岐阜県にいます。40年以上の歴史がある「小関園芸」の小関正司さんです。「小関園芸」はアメリカンブルーの新品種 ‘ブルーコーラル’や‘サマースノー’など、たくさんのオリジナル品種を生み出してきた植物の生産農家です。2代目を継ぐ正司さんは、もともとはパソコンのプログラマーをしていましたが、家業を継ぐべくアメリカで植物生産の研修を経て、20年以上前に就農。すぐにシュラブの葉の美しさに魅せられ、自身でも育種を手掛けるようになりました。
ほふく性で色変わりするヒペリカム‘ゴールドフォーム’
最初に育種に着手したのが、ヒペリカム‘ゴールドフォーム’。一般的なヒペリカムは樹高0.2〜1m程度の低木で、夏から秋にかけて黄色の花が咲き、その後には可愛らしい赤い実ができ、フラワーアレンジメントでもよく使われます。
一方、小関園芸オリジナルのヒペリカム ‘ゴールドフォーム’は、ほふく性で這うように広がり、さらに葉の色変わりが楽しめるというユニークな特徴を持った品種。春先のライムグリーンからイエロー、オレンジ、チョコレートと、晩秋まで葉色が変化するのです。半日陰でより美しさを発揮し、耐寒・耐暑性にも優れ、庭作りではとても重宝します。
繊細な斑入り葉のヒサカキ‘ミスティーホワイト’
「砂子斑(すなごふ)」と呼ばれ、まるで霧を吹いたかのような繊細な斑入り葉が美しいヒサカキ‘ミスティーホワイト’も小関園芸のオリジナル品種です。ヒサカキといえば、日本では古くから神棚に飾る習慣があり、日本の気候にとても適しています。白をベースに緑の極小砂子斑のミスティーホワイトは、とてもおしゃれな雰囲気。ヒサカキの「和」のイメージを覆し、モダンな住宅にもよく似合います。
コントラストが美しいヒサカキ‘残雪’
斑入り葉のヒサカキ‘残雪’。じつは、この‘残雪’の生産中に小関さんが枝変わりを発見し、数年かけて固定させたのが‘ミスティーホワイト’です。白と緑のコントラストが美しく、やはりおしゃれな雰囲気。ヒサカキは常緑なので、一年中庭に緑を提供してくれます。こうした斑入り葉の品種は日陰に強く、葉色が明るいため、暗くなりがちな日陰エリアで重宝します。
「小関園芸」が生産する美しいシュラブ類
「小関園芸」ではヒサカキなど日本の自生種から斑入り葉などを育種し、さまざまなカラーリーフのシュラブを生産・育種しています。自生種が元になっているので、丈夫で育てやすく、私は庭づくりでとても頼りにしているのですが、その生産の仕方はじつに丁寧で、すべてのポットの水やりを手で行っています。生産農家では頭上からスプリンクラーで一斉に水まきをするところが多いので、3寸ポットの小さなものから一つひとつ手で水やりをしていると聞いて、とても驚きました。その理由を、小関さんは次のように話します。
「シュラブは草花類と違って育つのがとても遅く、生育初期段階で最低3カ月はかかります。一年草のパンジーだったら、種を播いて開花している期間ですよね。でもシュラブはようやくそれらしい形になってくるのに1年以上かかることもあります。生育初期は葉があまりないため蒸散もしません。つまり水が乾きにくいんですが、少しの大きさの違いで、水を欲する量がひとつずつ違います。ですから、生育に合わせて、それぞれ異なる適量に水を調節する必要があるんですよ」(小関さん)
特に「小関園芸」が多く生産している斑入り葉は、生育が遅い特性があります。斑が白く抜けている部分は葉緑素が少なく、育ちにくいのです。まるで盆栽のように気をつかいながら水やりを1ポットずつ丁寧にやるのには、そうした理由もありますが、もう一つ大きな理由があります。それがオリジナル品種の育種です。
1/30万の可能性で生まれる新品種
「新品種の育種は、突然変異や枝変わりを見つけるところからスタートするのですが、その発生率は、例えば斑入りのものだったら1万ポットに1個ほど。最初から他と違う個性がはっきりと出ているわけではなく、なんか違うぞという可能性を感じるところからスタートするものもあるので、そういうのを見逃さないという目的もあって、手灌水にこだわっています。出荷前にも全てのポットをもう一度自分の目でチェックして、可能性があるものを拾うのが育種のスタート地点なんです」
しかし、他と異なる個性のものを見つけたとしても、全てが新品種として世に出るわけではありません。突然変異は生育特性上弱く、育種の過程でダメになってしまうものがほとんど。新品種としてデビューできるのは、1/30万ほどしかありません。私たちの手元に届く新品種は、膨大な手間と時間をかけて生まれた奇跡の植物なのです。
「生産効率は悪いですよね。うちは一つひとつに目が届きやすいように、ポットを置くスペースもゆったり確保しているので、なおさら。僕はITの世界から植物生産の世界に来たので、最初はなんて労力がかかって効率が悪いんだと思っていたんですけど、でも面白いんですよね。昨日までこの世になかった美しい植物をこの手で生み出す喜びは、全ての原動力です。まず単純に美しいなぁという感動があるし、何年もかけて性質を固定させ、新品種として初めて市場に持って行く時のワクワク感。『何、これ?!』って興味津々で聞かれた瞬間、心の中でガッツポーズですよ(笑)」
ガーデンですぐに使えるプロ仕様のシュラブを近日限定販売!
前述の通り、シュラブは生育がゆっくりで、斑入り葉などは特に生産に時間がかかるため、流通量は限られています。近年はカラーリーフが寄せ植えなどでも重宝され、小さなポットのものも流通していますが、3号ポットは庭植えで大きくなるまでに時間がかかりすぎます。造園家としては、庭植えですぐに効果を発揮して欲しいもの。そこで、造園設計の私たち「かたくり工房」特別発注で、「小関園芸」にシュラブの大苗生産を依頼。プロが庭づくりに使う大苗をガーデンストーリーショップで、一般の方にも近日販売できることになりました。生産に時間がかかるため、限定数で近日販売いたします。販売開始はガーデンストーリーのインスタグラムでご案内します。
1.ヒサカキ‘ミスティホワイト’
2.ヒサカキ‘残雪’
3.チリメンカズラ(白斑)
4.黄金ユキヤナギ(ユキヤナギ‘オーレア’)
5.西洋イボタ(プリペット)‘カスタードリップル’
6.チリメンカズラ‘オーレア’
シュラブは庭の骨格、背景、彩りとして活躍し、なおかつスーパーローメンテナンスな素材です。「いつもきれいな庭」を叶えるために、庭に取り入れてみませんか?
協力
小関園芸
Credit
文 / 阿部容子 - ガーデンデザイナー/造園家 -
あべ・ようこ/岐阜県可児郡「かたくり工房」に所属。モデルガーデンのガーデンカフェ「ガズー(Garzzz)」を拠点とし、公共、企業、個人の庭を全国各地でデザイン、施工。ぎふ国際バラコンクール審査員として岐阜県「花フェスタ記念公園」でも活動。アメリカ園芸療法協会会員として米国のカンファレンスで学んだ知識や技術を生かし、病院のガーデンも施工しています。
まとめ・写真 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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