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ピィト・アゥドルフ氏デザインが提案する ‘生命の輝きを放つガーデン’を訪ねて5

ピィト・アゥドルフ氏デザインが提案する ‘生命の輝きを放つガーデン’を訪ねて5

オランダだけでなく世界で最も影響力のあるガーデンデザイナーの一人、ピィト・アゥドルフ氏(Piet Oudolf)。日本のガーデナーにとっても憧れの存在で、庭をじかに見てみたい! という人も多いはず。そんなピィト・アゥドルフ氏がデザインした庭が、2022年3月「新感覚フラワーパーク HANA・BIYORI」 (東京都・稲城市)内に誕生しました。その名も「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」。美しく成長している庭の、秋の様子をご紹介。また、ランドスケープデザイナーの永村裕子さんが、アゥドルフ氏の庭の一年を振り返ります。

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【「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」の植栽図】

【「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」の植栽図】

アゥドルフ氏のガーデンの
真骨頂が見られる季節・秋

昨年2021年12月に植えてから初めての秋を迎えた「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」。ガーデンのまわりのサクラがすっかり葉を落とし、生き生きと成長していた植物たちも落ち着きを見せ始めています。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYO

まわりの紅葉・黄葉する木々と同様、植栽も茶色い枯れ穂などがあちこちに点在し、カラフルな花はポイントで色を添えている程度。牧歌的でロマンチックな趣は、この時季にクライマックスを迎えます。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYO
ピンクのアネモネ‘クイーンシャーロット’が奔放に育ち、明るい彩りに。

秋の庭の見どころは、植物の‘終わり’と‘盛り’の対比が見せる「生命の営み」の美しさ。終わりを感じさせる枯れた穂や枝と、まだまだ咲き続ける花が見事に調和し、秋の爽やかなそよ風や澄んだ陽光が渾然一体となる、おおらかで自然な風景が広がっています。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの秋の庭
花壇のコーナーに軽やかに広がる、カラミンサ・ネペタとフェスツカ・マイレイ。
PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの秋の庭
ペルシカリア・アンプレクシカウリス‘アルバ’の花×アスチルベの枯れ穂が見せる、勢いのあるシーン。

常に自然からインスピレーションをもらいながら、植物それぞれに敬意を払って向き合うアゥドルフ氏。自然を眺めて感じたことを再創造してデザインしています。彼のデザインの大きな特徴である‘植物の色・葉色だけでなく、フォルムや構造、テクスチャーなどの個性を見極め、斬新なレイヤーで配置した組み合わせ’は、そういった自然へのまなざしから生まれるものでしょう。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの秋の庭
ミューレンベルギア・カピラリスの赤みを帯びた穂を背景に、エキナセア・テネシーエンシスのユニークな花と枯れ穂が強調されている。

昨年植栽を手伝った上野ファームの上野砂由紀さんは、「植栽プランをひと目見て、すぐに春~秋まで季節を追って美しく変化していくことがよく分かりました。さまざまな植物をいろいろな角度から引き立てる、たくさんのオーナメンタルグラスたちに、とてもワクワクしますね」。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの秋の庭
咲き終わったアスター‘レディインブラック’と、まだ瑞々しいアルソニア・フブリヒティのこんもりとした量感のある組み合わせ。

花後はすぐに次の植物に交換するのではなく 終わりに向かう‘味わい’‘おもしろさ’をも生かすのがアゥドルフ氏の信条。開花期以外の植物がつくる‘間や余白’が何ともいえない余韻を漂わせ、観る人の感情を揺さぶります。秋はそれを最も感じられる季節かもしれません。

ツルバキア・ビオラセア
ツルバキア・ビオラセアの細長い花茎の先につけたピンクの小花と瑞々しい緑葉が植栽のアクセントに。植えっぱなしでも毎年よく咲く強健種。

一度植えたら基本的に植え替えをしないアゥドルフ氏。今まで環境保護やサステナビリティについての主張を植栽に込めてきたわけではありませんが、結果として彼の提案するガーデンが今の時流に重なり、世界の庭園デザインのムーブメントとなっています。彼があるべき姿を早々と見抜き、それを当たり前のように自然に行っていたことが分かります。

リアトリス・スピカタ‘コボルト’
リアトリス・スピカタ‘コボルト’の枯れた穂が直線的なラインを描き、植栽のデザイン性を強めている。

この庭の設置の立て役者である
ランドスケープデザイナーの永村裕子さんが
アゥドルフ氏の庭の一年を振り返る

「日本の気候は、特に梅雨以降から長期にわたって蒸し暑く、欧米とはまったく異なります。その間ずっと心配で、気温や天気、雨後の水はけの様子、その他の気づきなどをスタッフの日報で教えてもらいながら、植物の生育を遠隔で見守りました。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの秋の庭
地上が枯れたリシマキアの退廃的な姿が芸術的。切り取らずにそのままにして独特な世界観を生み出している。

これからの心配は、暖地でのだらだらとした‘衰退の美モードの移行’。「なかなか凛とした冬景色になりません。緑の葉で花をぽつぽつつけたまま越冬するものと、夏に弱ってうどんこ病など不健康な状態で休眠に入ったものなどが混ざって景色がまとまらないんです。私の熊本の現場では、ドライフラワーの冬景色として残すものと、切り戻して緑のロゼット状で冬越しさせるものとを選別し、秋の景色を「強制終了」させます。そのほうが庭としての体裁が保てるのですが、本場をまねてすべて枯れた藪のような姿のままシーズン1を終えさせるか、いまだに逡巡しています」。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの秋の庭
ヘレニウムやアガスタシェ‘ブラックアダー’(左)、パルテニウムなどの枯れ穂のフォルムが、ふわりと広がるエグロスティスを背景に効果的に浮かび上がっている。(右)

「ナチュラリスティックを通すのも、勇気がいりますね。現場のみんなや日本全国のガーデナー仲間を頼って、最適解へ導けたらいいなと思います。今年は初年度にしては想像以上にアゥドルフ氏の作品らしい景色をところどころ見られるようになりました。次はもっと全体にムラなく展開できるように、みんなと考えながら取り組んでいこうと思います。日々の植物の手入れを前向きに頑張ってくれたスタッフ、各方面からのさまざまなサポートに感謝しています」

オーナメンタルグラス
パルテニウム・インテグリフォリウムなど似た姿の穂が連なり、シーンの印象をより深めている。

世界各地の庭のデザインを手掛けているアゥドルフ氏。いずれもオランダからは簡単に現地に赴くことができません。しかし、考え抜かれて選ばれた多年草によるガーデンは、一般の花壇のように植え替える必要は基本的にありません。庭を管理するスタッフたちと思いを共有しながら、ガーデンの維持と進化を図っています。もちろんここ「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」も永村さんやスタッフと連携を取りながら、多摩丘陵に広がるガーデンらしい世界を発信していきます。

秋の庭にさまざまな彩りを添える
個性的な多年草たち

エキナセアとアネモネ
左から/エキナセア‘フェイタルアトラクション’、ルドベキア‘リトルヘンリー’、アネモネ‘クイーンシャーロット’
フロックス、ツルバキア、ストケシア
左から/フロックス‘ブルーパラダイス’、ツルバキア・ビオラセア、ストケシア‘ブルースター’
ペロブスキア、スタキス、ベロニカ
左から/ペロブスキア‘レイシーブルー’、スタキス ‘ハメロ’、ベロニカ・ロンギフォリア‘フェアリーテイル’
サクシセラ、アスター
左から/サクシセラ‘フロステッドパールズ’、アスター‘リトルカーロウ’、アスター‘トワイライト’
ペルシカリア、エリンジウム、パルテニウム
左から/ペルシカリア・アンプレクシカウリス‘アルバ’、エリンジウム・ユッキフォリウム、パルテニウム・インテグリフォリウム
グラス類
左から/カラミンサ、リモニウム・ラティフォリウム、ミューレンベルギア・カピラリス
ランベ・マリティマ、エリンジウム、アキレア
左から/クランベ・マリティマ、エリンジウム・ブールガティ、アキレア‘ウォルターフンク’

「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」
以外の場所にも見どころがたくさん!

いつも季節の草花で華やかに彩られている園路脇の花壇は見応えたっぷり。ぜひ、花合わせの参考にしてください。こちらはHANA・BIYORIスタッフによる植栽です。

ダリアのレイズドベッド
艶やかな赤いダリアが主役のレイズドベッド。メインの建物前です。
ストックの花壇
入り口の園路脇の花壇では、春まで楽しめるストックがやさしい彩りでまとめられている。
PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの秋の庭
敷地奥のスペースでは、季節感のある植栽が、見応えたっぷりに広がっている。

世界的に多くのガーデンを手掛けているピィト・アゥドルフ氏のアジア初のガーデンとなった「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」。欧米とは異なる「高温多湿」といった問題に配慮して選ばれた植物は、今年の猛暑を乗り越え、春に向かおうとしています。アゥドルフ氏によって再構築された自然が織り成す芸術性あふれる風景を、ぜひ堪能してください。

【ガーデンデザイナー】

ピィト・アゥドルフ (Piet Oudolf)

ピィト・アゥドルフ (Piet Oudolf)

1944年オランダ・ハーレム生まれ。1982年、オランダ東部の小さな村フメロに移り、多年草ナーセリー(植物栽培園)を始める。彼の育てた植物でデザインする、時間とともに美しさを増すガーデンは、多くの人の感情やインスピレーションを揺さぶり、園芸・造園界に大きなムーブメントを起こす。オランダ国内のみならず、ヨーロッパ、アメリカでさまざまなプロジェクトを手掛ける。植物やガーデンデザイン、ランドスケープに関する著書も多数。2017年にはドキュメンタリー映画「FIVE SEASONS」が制作・公開された。

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