富士山を借景に、森と湖が織りなす壮大な風景と鮮やかなバラが絡む建物。歩くたびに絵になる風景と出会える「河口湖 音楽と森の美術館」。音楽にまつわるバラがコレクションされている「河口湖 音楽と森の美術館」のバラ咲く季節を、バラ文化と育成方法研究家で「日本ローズライフコーディネーター協会」の代表を務める元木はるみさんに案内していただきます。
目次
約720品種、1,200株ものバラが育つ6月の庭

関東のバラから少し時間をおいて、2022年6月に満開を迎える「河口湖 音楽と森の美術館」を訪ねてきました。
訪れたのは6月3日。まだ七分咲きの頃でしたが、すでに一番花が終わった自宅の庭を離れて、初々しいバラたちとの再会は、まるで時が戻ったような感動を味わうひとときとなりました。

1999年、「オルゴールの森美術館」として開館され、2003年から、オールドローズを中心としたローズガーデンがつくられました。そして、近年、返り咲き性や四季咲き性のモダンローズの植栽を増やし、一年を通してバラが楽しめる庭園となりました。

23,176㎡の敷地に、四季折々の花々と共に、約720品種、1,200株ものバラが植栽されています。コンセプトは、「王侯貴族が愛した庭園」、まるで海外の風景のような非日常の世界観、雄大で美しい庭園を、さっそくご案内いたしましょう。
有料エリア入場前から始まる庭

写真左のエントランスをくぐると、緑豊かな手入れの行き届いたガーデンが待っています。連なるバラのアーチ(写真右)を抜けると、左側にチケットオフィス、そして、アーチから直進した先には、オールドローズや野生種などのローズガーデンが続きます。



なんとこの3枚の写真に写っているオールドローズ中心のバラが咲くエリアまでは、無料で見学できるということに、まず驚かされます。有料エリアは、チケットオフィスから入場して、その奥に広がるガーデンです。

有料エリアから富士山を望む絶景

バラの先に、まるで外国に来たかのような立派な建物と湖、そして雄大な富士山…目の前に広がる絶景に魅了されました。

ドア周りの壁を這う鮮やかなサーモンアプリコット色の大輪のバラは、‘エマニエル’(CL)です。イングリッシュローズの‘エマニュエル’(S)とは別品種とのこと。
こちらの‘エマニエル’は、花弁がしっかりと厚く、花もちに優れた品種のようです。

壁面の角には、優し気な花色でガーデンに誘うバラ‘サリー・ホームズ’(HMsk)(1976年 英 R.Holmes作出)が美しく咲き誇っていました。

トトロなどのグッズが販売されている「どんぐりのいえ」では、壁面を覆う赤いつるバラが覆っていました。雄大な富士山とのコントラストがとても美しく、晴れた日には、テラス席でこの素晴らしい景色を眺めながら、美味しいお食事やティータイムを楽しめます。

また、このエリアでは、ピアノやフルートなどの楽器演奏によるランチタイムコンサートも楽しむことができます(要開催日時確認)。
音楽にまつわるバラが咲くエリア

「ミュージアムショップ」では、富士山をモチーフにしたくまのぬいぐるみのオルゴールをはじめ、さまざまなオルゴールや、地元の甲州ワイン、チョコレートなどのお菓子、アクセサリーも販売されています。

「ミュージアムショップ」の2Fには、貴重なストラディヴァリウスが展示されています。こちらでは、ヴァイオリンの販売ショップや工房もあります(現在はお休み中)。

ミュージアムショップから見て、ちょうど正面に立つ「どんぐりのいえ」では、入り口ドア横の壁面に‘ジャクリーヌ・デュ・プレ’(1988年 英 ハークネス作出)が、赤いしべを見せながら、美しく咲いていました。
このバラは、実存したイギリス人女性チェロ奏者ジャクリーヌ・デュ・プレ(1945/1/26~1987/10/19)に捧げられたものです。彼女は、その実力から、ストラディヴァリが制作したチェロの中でも指折りの名器といわれる1713年製ストラディヴァリウス “ダヴィドフ”を贈られ、その後の生涯を通してダヴィドフを用いて演奏を行いました。しかし、多発性硬化症の病で42歳の若さでこの世を去りました。

また、「どんぐりのいえ」と「オルガンホール」を繋ぐ小道には、音楽に関係する名前が付けられたバラが植栽されています。
オーストリアの音楽家モーツァルト(1756/1/27~1791/12/5)に捧げられたバラ‘モーツァルト’(HMsk)(1937年 独 ランバート作出)や、モーツァルトの妻コンスタンチェ・モーツァルト(1762/1/5~1842/3/6)に捧げられた‘コンスタンチェ・モーツァルト’(S)(2012年 独 コルデス作出)が咲いていました。

整った花形で鮮やかな真紅のバラは、20世紀を代表するオペラ歌手マリア・カラス(1923/12/2~1977/9/16)に捧げられた‘マリア・カラス’(HT)(1965年 仏 メイアン作出)。

パープルの半八重花は、アメリカの作曲家、ジョージ・ガーシュウィンが1924年に作曲し、ファーディ・グローフェが編曲したピアノ独奏と管弦楽のための音楽作品に因んで命名された‘ラプソディ・イン・ブルー’(S)(1999年 英 ワーナー発表)。

純白の花びらが重なり、優雅な姿のこのバラは、フランスの作曲家、モーリス・ラヴェルが1928年に作曲したバレエ曲に因んで命名された‘ボレロ’(FL)(2004年 仏 メイアン作出)。
音楽とバラと雄大な景色のすべてがアート空間

コンサートホールのオルゴールサロンには、世界的にも貴重な年代物のオルゴールや、自動演奏楽器が展示されています。
実際にオルゴールや自動演奏楽器の演奏を見せていただきました。特にオルガンホールでの全長20mもの巨大な楽器であるダンスオルガンのコンサートは必見です(要開催日時確認)。

また、1時間毎に1回、カリオン広場で行われるカラクリ人形の指揮者の動きに合わせた噴水ショーも目に涼しい演出です。

約2時間の滞在でしたが、音楽という芸術にも触れることができ、雄大な景色を背景に、どこにレンズを向けても、美しい写真を撮ることができる庭園。そこに咲く美しい花々、美味しい食事、すっかり心が満たされた滞在となりました。
ぜひ、「河口湖 音楽と森の美術館」を訪ねてみてはいかがでしょうか。
Information
河口湖 音楽と森の美術館
住所:〒401-0304山梨県南都留郡富士河口湖町河口3077-20
TEL: 0555-20-4111
https://kawaguchikomusicforest.jp/
開館時間:午前10時~午後5時(最終入館午後4時)
休館日:火曜・水曜休館日あり(祝日除く)*季節によって変更あり。
駐車場:乗用車300台、大型バス20台
入館料:
一般料金大人1,800円、大高生1,300円、小中生1,000円
団体割引大人1,500円、大高生1,100円、小中生800円
年間パスポート:7,000円(1枚で2名様までご利用可能)購入特典は入館料無料(1年間有効)他。
Credit
写真&文 / 元木はるみ - 「日本ローズライフコーディネーター協会」代表 -

神奈川の庭でバラを育てながら、バラ文化と育成方法の研究を続ける。近著に『薔薇ごよみ365日 育てる、愛でる、語る』(誠文堂新光社)、『アフターガーデニングを楽しむバラ庭づくり』(家の光協会刊)、『ときめく薔薇図鑑』(山と渓谷社)著、『バラの物語 いにしえから続く花の女王の運命』、『ちいさな手のひら事典 バラ』(グラフィック社)監修など。TBSテレビ「マツコの知らない世界」で「美しく優雅~バラの世界」を紹介。
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