英国の名園巡り 英国で最も美しい風景式庭園「ストアヘッド」

風景式庭園(ランドスケープ・ガーデン)という言葉を、聞いたことがありますか。一般的な庭のイメージとは違って、そこに花の咲く花壇はありません。あるのは、まさに風景画に描かれるような、水と緑の美しい眺めです。湖と緑の芝生、豊かに茂る木々と、それから、風景のアクセントとなる、いくつかの古風な建造物。18世紀にウィルトシャー州につくられたストアヘッドは、英国で独自に発展した風景式庭園の代表格。スケールの大きなガーデンの魅力をご紹介します。

120年前のこと、英国の慈善団体ナショナル・トラストは、開発で失われていく自然や、歴史ある建物や庭といった文化的遺産を守り、後世に残そうと、活動を始めました。多くのボランティアの力によって守り継がれる、その素晴らしい庭の数々を訪ねます。
風景画さながらの美しさ

ストアヘッドの門をくぐり、庭園に向かうと、そこには絵のように美しい景色が広がっています。ゆるやかにうねる緑の芝生の先で、風景の中心となるのは、穏やかに水を湛える湖。自然な佇まいを見せていますが、じつは、川をせき止めて人工的につくったものというから、驚いてしまいます。湖の周りには、針葉樹や広葉樹、さまざまな種類の大木が豊かに葉を茂らせ、その緑の中に建てられた古代神殿(パンテオン)が、景色に趣を与えています。
ストアヘッドを愛したホア一族

ストアヘッドの歴史は、1717年、銀行業で成功を収めたホア一族の2代目、ヘンリー・ホア1世が地所を買い取り、パッラーディオ様式の大邸宅を建てたことに始まります。
ストアヘッドの世界的名園を設計し、形にしたのは、その息子のヘンリー・ホア2世。彼は、1743年から30年余りをかけ、建築家のヘンリー・フリットクロフトとともに、湖を造成し、50人のガーデナーを使って植林するなど、ダイナミックな造園に情熱を注ぎました。
次に地所を継いだ、ホア2世の孫は、祖父が植えたモミの代わりにさまざまな広葉樹を植えるなどして、改良を試みます。こうして、ストアヘッドの屋敷と庭は、代々のホア一族によって愛されました。
永久の楽園と称される庭

17世紀まで、英国貴族の間では、フランスのベルサイユ宮殿に代表される、左右対称の整形式庭園が人気でした。しかし、18世紀に入ると、その幾何学的なデザインに堅苦しさを感じるようになったのか、より自然な趣のある風景式庭園を称賛する動きが起きます。ストアヘッドはその先駆的な存在で、1740年代に公開されると「生ける芸術作品」と絶賛を浴びました。

ヘンリー・ホア2世は、自らの土地に、自らの信条や願いを表現する景観を創ろうとする小さなグループ〈ジェントルマン階級のガーデナー〉の一員でした。彼は芸術に造詣が深く、イタリアへも旅しており、造園のインスピレーションを、17世紀フランス古典主義の巨匠、クロード・ロランやニコラ・プッサンの風景画から得たといわれます。ホア2世がここに創ろうとしたのは、画家たちの描いた理想的な風景、つまり、永久の楽園のような景色だったのです。
ストアヘッドの春夏秋冬

ストアヘッドの広大な庭に花壇はありませんが、湖の周辺では、早春のスノードロップから、春のラッパズイセン、初夏のブルーベルなど、季節の花々が咲き継ぎ、開放的な花景色が広がります。また、5月になると、木々の間でシャクナゲの類が鮮やかな色の塊となって、彩りを添えます。

メドウにワイルドフラワーが咲き乱れる夏は、芝生でのピクニックや、園内の散策を楽しむのに最高の季節。湖畔を一周すると、木々の間から次々と新しい景色が開けます。のんびりと思い思いのペースで巡るのもいいし、3月から10月にかけて行われている、ボランティアによるガイドツアーに参加するのもよいでしょう。庭園について深く知ることができる上に、絶景スポットにも案内してもらえます。

ストアヘッドでは秋の紅葉も見応えがあります。真っ赤に染まる北米原産のサトウカエデを皮切りに、日本のモミジやセイヨウシデ、セイヨウトチノキなど、多種多様な落葉樹が次々と紅葉して、庭園の景色を日々変えていきます。
そして、葉が落ちた頃にやってくる冬。静寂に包まれたモノトーンの世界も、格別の美しさを見せてくれます。

Information
〈The National Trust〉Stourhead ストアヘッド
ストアヘッドへは、ロンドンから車で約2時間半。電車では、ロンドン・ウォータールー(Waterloo)駅からギリンガム(Gillingham)駅まで約2時間、駅からタクシーで約15分。庭園は12月25日を除き通年開園。9~17時(4~10月は18時閉園)。
住所:near Mere, Wiltshire BA12 6QF
電話:+44 (0) 1747841152
https://www.nationaltrust.org.uk/stourhead
協力
英国ナショナル・トラスト(英語) https://www.nationaltrust.org.uk/
ナショナル・トラスト(日本語) http://www.ntejc.jp/
Credit
文 / 萩尾昌美

はぎお・まさみ/ガーデン及びガーデニングを専門分野に、英日翻訳と執筆に携わる。世界の庭情報をお届けすべく、日々勉強中。20代の頃、ロンドンで働き、暮らすうちに、英国の田舎と庭めぐり、お茶の時間をこよなく愛するように。早稲田大学第一文学部卒。神奈川生まれ、2児の母。
全国の花ファン・ガーデニング
ファンが集う会員制度です。
10月の無料オンラインサロン

園芸家 矢澤秀成さんとバーチャル軽井沢ガーデン散策
新着記事
-
育て方
秋はバラの苗木の買い時!注目の新品種&9月にやりたい秋バラのための必須ケア大公開PR
秋はバラが今年2回目の最盛期を迎える季節ももう直ぐです。秋のバラは色も濃厚で香りも豊か。でも、そんな秋のバラを咲かせるためには今すぐやらなければならないケアがあります。猛暑の日照りと高温多湿で葉が縮…
-
イベント・ニュース
秋のガーデンでハロウィンを楽しもう!「横浜イングリッシュガーデン」のオータム・フェス…PR
今年のハロウィン(Halloween)は10月31日(火)。秋の深まりとともにカラフルなハロウィン・ディスプレイが楽しい季節がやってきました。横浜イングリッシュガーデンでも園内をカボチャや鮮やかな装飾で彩る「オー…
-
レシピ・料理
【バジル大量消費】シナモンバジルの自家製ペーストで作る「ガパオ風ライス」
夏が終わっても、バジルはまだまだ収穫シーズン。株も大きくなり、収穫量も増えたはず。さまざまな調理法がありますが、今回はエスニックな食欲そそる「バジルペースト」を作り、「ガパオ風ライス」を作ります。ご…