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ピィト・アゥドルフ氏デザインが提案する ‘生命の輝きを放つガーデン’を訪ねて 2

ピィト・アゥドルフ氏デザインが提案する ‘生命の輝きを放つガーデン’を訪ねて 2

オランダだけでなく世界中で最も影響力のあるガーデンデザイナーの一人といわれるピィト・アゥドルフ氏(Piet Oudolf)。日本のガーデナーにとっても憧れの存在で、庭をじかに見てみたい!という人も多いはず。そんなピィト・アゥドルフ氏がデザインした庭が、2022年3月、新感覚フラワーパーク 「HANA・BIYORI」 (東京都・稲城市)内に誕生しました。その名も「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」。これから美しく成長していく庭を、四季を追ってご紹介します。今回レポートするのは、球根が咲く春の風景です。

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【「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」の植栽図】

【「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」の植栽図】

宿根草が咲くまでの間を彩る
球根植物たちの華やかな競演

3月19日にオープンした、ガーデンデザイナー、ピィト・アゥドルフ氏デザインのガーデン。当時は芽を出したばかりの状態だった球根植物が、桜の開花と同時にピークを迎えました。生まれたばかりで彩りの寂しかった庭は、本格的な春の風景へとシフトしていきます。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYO

宿根草を落とし込んだ植栽計画図以外に、球根の植栽図を別に用意することが多いアゥドルフ氏。球根植栽で有名なジャクリーン・ファンデル・クルートさんとも組んで球根を植えることもあるのだとか。今回は、2020年にドイツでオープンした「Vitra Garden」のために起こした球根植栽図を参考に、永村さんが植栽計画を立てました。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの春の庭

ここでの球根の植栽計画は、純粋なアゥドルフ氏の植栽とは少し異なり、やや賑やかさを意識したセレクト。アジア初のプロジェクトということと、アゥドルフ氏のスタイルに馴染みのない一般客が大半を占めることを意識して、パッと目を引く種類を多めに採用しました。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの春の庭

今回の春の賑やかしとして植えたチューリップやエリシマムは永村さんの提案で、事前にアゥドルフ氏と何度も協議を重ねて採用を決定。アリウムとスイセンに関しては、Vitraで使用されたものをピックアップしました。アゥドルフ氏の作品としては、サクラ並木に囲まれる立地は今回が初めて。「この景色の特徴を生かして、ローカライズしたものを創るのも一つの答えだと思います」と永村さん。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの春の庭

セレクトは次の通り。

A)アゥドルフ氏の作品にも登場した品種の中で、夏越ししそうなスイセン。越年しなさそうでも試験的に入れてみたアリウムやカマッシア。

B) サクラの魅力を増幅するために、花壇を濃淡2色のサクラと一体化して隣の大きな温室の窓に映るようにするで、包まれるような感覚を演出するための、チューリップとラナンキュラス‘ラックス’。

C) 日本・アジア原産の球根として、バイモユリ、リーガルリリー、コオニユリ。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの春の庭

「サクラの開花タイミングと一致する球根植物にこだわっています。サクラの花後を引き継ぐチューリップを多用していますが、じつは、アゥドルフ氏の意向では、『本来は原種を植えたいところ。今回植えたような園芸品種のチューリップはオープニングの時だけ』ということで容認された植栽でした。しかし、サクラとの景色が好評だったため、アゥドルフ氏も喜んでくださり、今後のことは現場の声やお客様の声を生かしながら、アゥドルフ氏と検討を重ねていくことになりました」と永村さん。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの春の庭

来年さらに華やかにパワーアップするか、それとも本来の原種系にトーンダウンして本格派を目指すか、方向を決めるために考えを巡らせている、永村さんと植栽チーム。とはいえ、球根の予約発注は6月までに済ませる必要があるのだとか。植物を相手だと悠長にしていられない難しさがあります。プロたちの判断により描かれる来年の美しい風景も楽しみですね。

PIET OUDOLF GARDEN TOKYOの春の庭

アゥドルフ氏は数年後にどのような状態になるかを想定したデザインを提示し、考え方を共有するスタッフに管理を任せてしばらく見守る姿勢を貫いています。日々進化する庭。思いがけず枯れてしまうものもあるかもしれませんが、植物への愛とスタッフへの信頼が美しい風景を育んでいます。

春をあざやかに彩る
球根植物たち

チューリップとアネモネ
左から/チューリップ‘夢の紫’、チューリップ‘ジミー’、アネモネ。
スイセンとラナンキュラス
左から/スイセン‘タリア’、スイセン‘アクテア’、ラナンキュラス・ラックス‘エリス’。
バイモユリ、フリチラリア、プルモナリア
左から/バイモユリ、フリチラリア・インペリアス、プルモナリア‘シュリンプオンザバービー’。
エリゲロンとエリシマム
左から/エリゲロン・カルビンスキアヌス、エリシマム 。

「PIET OUDOLF GARDEN TOKYO」
以外の場所にも見どころがたくさん!

いつも季節の草花で華やかに彩られている園路脇の花壇は見応えたっぷり。ぜひ、花合わせの参考にしてください。こちらはHANA・BIYORIスタッフによる植栽です。

春の庭
前回ご紹介した春先の植栽は、ヒアシンスからチューリップにバトンタッチ。

何年も前から植わっている幾本ものサクラが一斉に花を咲かせる3月下旬から4月上旬。桃源郷のような美しい風景が広がり、お花見にうってつけの場所です。

桜
ピンクの濃淡が織り成す、HANA・BIYORIのサクラの園。息をのむような美しいシーンが広がる。足元ではユキヤナギやボケなどの低木が咲き、日本の春らしい風景が楽しめる。
サクラ‘タマヒザクラ’
HANA・BIYORIオリジナル品種のサクラ‘タマヒザクラ’。濃いピンクの花色が淡いトーンで彩られた風景を引き締めている。
シダレザクラ
小さく繊細な花をつけるシダレザクラ。枝垂れるさまがどこか幽玄な趣。
八重ザクラ
一重咲きのサクラが終わると八重ザクラがたわわに花を咲かせる。
ミツバツツジ
サクラとともにパープルピンクの花をつけるミツバツツジも鮮やか。

多年草のピークを迎えるまでの途中段階を、元気いっぱいに咲き継ぐ球根植物。この多年草とは異なる魅力を生かしながら、サクラが美しいHANA・BIYORIならではの風景が生み出されました。アゥドルフ氏によって再構築された自然が織り成す芸術性あふれる風景を、ぜひ堪能してください。

【ガーデンデザイナー】

ピィト・アゥドルフ (Piet Oudolf)

ピィト・アゥドルフ (Piet Oudolf)

1944年オランダ・ハーレム生まれ。1982年、オランダ東部の小さな村フメロに移り、多年草ナーセリー(植物栽培園)を始める。彼の育てた植物でデザインする、時間とともに美しさを増すガーデンは、多くの人の感情やインスピレーションを揺さぶり、園芸・造園界に大きなムーブメントを起こす。オランダ国内のみならず、ヨーロッパ、アメリカでさまざまなプロジェクトを手掛ける。植物やガーデンデザイン、ランドスケープに関する著書も多数。2017年にはドキュメンタリー映画「FIVE SEASONS」が制作・公開された。

Information

新感覚フラワーパーク HANA・BIYORI

東京都稲城市矢野口4015-1

TEL:044-966-8717

https://www.yomiuriland.com/hanabiyori/

営業時間:10:00~17:00 ※公式サイト要確認

定休日:不定休(HPをご確認下さい)

アクセス:京王「京王よみうりランド駅」より徒歩10分(無料シャトルバスあり)、小田急線「読売ランド駅」よりバスで約10分「よみうりランド」下車徒歩約8分

写真協力/永村裕子(※)

Credit

写真&文/井上園子
ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。

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